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2020年2月29日土曜日

2020.02.29 第24回コンセール・マロニエ21 本選

栃木県総合文化センター リハーサル室

● 昨年の10月12日に開催予定が,台風19号によって今日に延期された。ここでまたコロナ・ウィルスで中止なんてことになったら,目もあてられない。
 コンクールなんだから観客を入れないで実施するのはありだと思われるが,予定どおりの開催となった。ありがたい。
 10月12日はぼくも24時間職場に詰めることになったので,延期自体がありがたい。おかげで聴くことができる。

● ぼくはこのコンクールを普通の演奏会として聴いている。ここでしか聴けない曲目ばかりだ。東京に住んでいるなら格別,栃木ではこれを代替できる演奏会はない。かなり貴重な機会なのだ。
 しかも演奏するのはファイナルまで残った人たちなのだから,演奏に文句があろうはずがない。こちらとすればこの催事に便乗して,気持ちよく聴かせてもらうだけだ。

● このコンセール・マロニエにはもうひとつ楽しみがある。それは何かといえば,プログラム冊子に掲載されている審査員長の沼野雄司さんの挨拶文を読むことだ。
 毎回,コンクールの意義についての考察が披露されており,そうだったのかと思うことが多い。今回は,「コンクールは,他者との触れ合いの場であるがゆえに,意義を持つ」とある。「たったひとり,舞台の上で自分の音楽を奏でて,価値観の異なる審査員を説得しなければいけない。いわばコンクールのステージは,徒手空拳で立ち向かう「外国」のようなものです」と。
 この文章を読めただけで,今日ここに来た甲斐があったと,ぼくは思う。コンクールが増えすぎたので,コンクール慣れしてしまって,「外国」にならない場合が増えたかもしれない,というのは,また別の話だ。

● さて,第24回の今回は金管。順に聴いていくことにしよう。
 1人目は田村相円さん。チューバ。国立音大の4年生。ペンデレツキ「無伴奏チューバのためのカプリッチョ」とボザ「コンチェルティーノ」。後者のピアノ伴奏は大川香織さん。
 悠揚迫らざる大人(たいじん)の趣あり。大人の風格にチューバという楽器はまったく違和感がない。

● 2人目は武藤向日葵さん。トランペット。昭和音大の2年生。今回の最年少出場者。アルチェニアン「トランペット協奏曲」。ピアノ伴奏は神永睦子さん。
 小さい頃は名前で苦労したのではないかと,余計なことを思ってしまった。が,おそらく名前のとおり,向日性の性格かと思う。かなり陽性。抑えようとしても,ポロッポロッと陽性が現れでる的な。

● 3人目は芝宏輔さん。チューバ。藝大の卒業生。ペンデレツキ「無伴奏チューバのためのカプリッチョ」とヤコブセン「チューバ・ブッフォ」。ピアノ伴奏は再び大川香織さん。
 チューバにピアノ伴奏の取り合わせは面白い。つまり,ピアノは音の粒がはっきりしていて,粒が粒である時間がけっこう長い(ように感じる)。対して,チューバの音は発せられるとすぐに空気に溶け始める。音の寿命が短いというより,輪郭を保っている時間がピアノに比べればだいぶ短い(ように思われる)。
 芝さんのチューバはクリアでメリハリがあって,その短さに対抗している感があった。が,ぼくは大川さんのピアノに気が行ってしまって。美しくも勝ち気そうな大川さんがピアノから生みだす音の粒たち。見事な伴奏だったと思う。

● 4人目は山川栄太郎さん。トランペット。尚美学園を卒業。タンベルク「トランペット協奏曲」。ピアノ伴奏は下田望さん。なんと,譜めくりを武藤さんが務めた。
 こういうこと,あるんだ。知り合いだったりするんだろうかね。そういう世界なんだろうかな。

● 5人目は岩倉宗二郎さん。今回,唯一のトロンボーン。武蔵野音大を卒業。ヨルゲンセン「組曲」。ピアノ伴奏は城綾乃さん。
 出てきた瞬間にあだ名を付けたよ。ムーミン,だ。たぶん,リアルでもそのあだ名で呼ばれたことがあるに違いない。
 いや,ムーミン,すごいよ。いっぱいいっぱいの表情ながら2割の余力を残していたのではないか。

● 6人目は西本葵さん。これまた,今回唯一のホルン。R.シュトラウス「ホルン協奏曲第2番」。ピアノ伴奏は野代奈緒さん。
 西本さんは東京音大なんだけど,東京音大と武蔵野音大ってのは好一対で,東京音大が山手,武蔵野音大は下町というイメージがある。申しわけない(どちらに対して?)。
 西本さんもそのイメージを裏切らない。お金持ちの家で育ったお嬢様という印象。モデルも務まる。
 演奏も素晴らしい。曲もいいので,曲に引っぱられて感想を作ってしまっているかもしれないのだが,そうだとしても演奏も相当にいい。

● 7人目は石丸菜菜さん。男なのに名前が菜菜とはこれいかに。石丸さんも名前で苦労したかなぁ,幼少時代は。
 チューバ。藝大を卒業。ペンデレツキ「無伴奏チューバのためのカプリッチョ」とヤコブセン「チューバ・ブッフォ」。ピアノ伴奏は城綾乃さん。
 「無伴奏チューバのためのカプリッチョ」は3回聴くことができた。「チューバ・ブッフォ」は2回。この曲を生で聴く機会はおそらくないだろうと思っている。ひょっとすると,このコンセール・マロニエ21の次の金管部門のときに聴けるかもしれないけれど。

● すでに結果は出ているはずだ。総合文化センターのサイトで見ることができる。ぼくはあえて見ないことにしているが。
 にしても。新しい才能が次々に出てくるものだ。その分,古い才能が出ていくかというと,そういうわけにはいかないので,新旧の才能が滞留してしまう。
 厳しい状況でしょう。聴き手にとってはありがたい状況であるのかもしれないのだが。

● リニューアルなった栃木県総合文化センターに入ること自体,今日が初めて。
 ギャラリー棟のロビー。最も大きな変化点は,椅子とテーブルが増えたことだ。快適性が向上した。
 カウンターの長いテーブルと,4人がけ用の四角いテーブル。お喋りする人は四角いテーブルを,何か食べたりちょっとした作業をしたい人は,左側のカウンター席を使えばいい。パソコンや書籍を置いて使うのにちょうどいい高さだ。自販機でコーヒーを買えば,スタバの代わりにもなるかも。

2018年10月19日金曜日

2018.10.13 第23回コンセール・マロニエ21 本選

栃木県総合文化センター メインホール

● このコンセール・マロニエ21,ここのところ,声楽とピアノが続いたような気がする。数年前に2部門開催から1部門開催になった。そのあたりも関係しているのかもしれない。
 今回は弦楽器部門。ここは異論もあるだろうけど,聴いていて楽しいのは第1に弦,第2に木管。というわけなので,いそいそと出かけていった。

● コンクールが始まる前に,配られたパンフレット冊子に目を通す。審査員長の沼野雄司さんの挨拶文を読む愉しみがある。時候の挨拶ではなく,営業方針が書かれているのだ。
 審査員長の立場でこんなことを言うと妙に思われるかもしれませんが,コンクールの成績など,音楽家にとって本来はどうでもいいことです。
 小気味いいではないか。コンクールでの優勝や入賞は,履歴書に箔を付ける効果はあるのかもしれないけれども,その程度の効果しかないように思われる。

● N響や読響が団員を採用するときに,そうした履歴書だけを見て,採否を決めることはないだろう。実際に演奏を聴いて,面接をするはずだ。一緒に演奏できる人かどうかを判断したいわけだから,当然のことだ(いったん採用すれば首にはできないのだろうから,なおさら)。履歴書(コンクールの受賞歴)などさほどに(あるいは,まったく)問題にはされないだろう。
 ということで,こういうものは素人にしかアピールしないんでしょう。聴衆の多くは素人だから,集客力が多少は違ってくる?

● パンフレット冊子に載っている出場者プロフィールにもこれまでの受賞歴が記載されている。東京音楽コンクール,全日本学生音楽コンクール,チェコ音楽コンクール,KOBE国際音楽コンクール,秋吉台音楽コンクール,岐阜国際音楽コンクールなど。
 それらのコンクールで1位とか最優秀賞を取っている。もうそれで充分じゃないかと思ってしまうのは,事情を知らない素人ゆえなんでしょうね。っていうか,コンセール・マロニエはかなりプレステージの高いコンクールのようだ。

● 審査員は2階席に陣取っている。お辞儀をするときに,その2階席を見る人と聴衆のいる1階席を見る人の,二通りに分かれる。どちらがいいという問題ではない。
 素人意見としては,審査員席を見る見ないにかかわらず,審査員の存在に負けているようでは話にならないと思う。おまえに俺の演奏がわかるのかというくらいの構えが必要ではないか(実際,審査員を超える才能の持ち主がいるはずなのだ)。
 ま,そうは言っても,なかなかに困難なのではあろうけれど。が,それも才能の一部のように思える。

● さて。演奏が始まった。聴くだけの聴衆にとっては好ましい緊張感が,客席にも漂うのだ。
 トップバッターは藤原秀章さん(チェロ)。藝大院(修士)の2年生。エルガーのチェロ協奏曲の第1,4楽章を演奏。ピアノ伴奏は吉武優さん。
 こういう曲を聴けるのが,このコンセール・マロニエの余慶というべきで,この先この曲を生で聴く機会が訪れるかどうか。
 初音を鳴らすときの切っ先の鋭さと角度の的確さ,わずかのズレもないタイミング。そんなのは初歩以前の問題ですよ,と言われるのかもしれないけれど。

● 藤井将矢さん(コントラバス)。新日フィルのコントラバス奏者。すでにプロとして立っている人か。
 演奏したのは,ロータ「ディヴェルティメント・コンチェルタンテ」の第1,3,4楽章。伴奏は秋元孝介さん。
 この曲はさらに聴く機会はないだろう。後にも先にも今日だけではないか。CDも持っていない。聴くだけならYouTubeで聴けるはずだが。
 コントラバスの柔らかさは格別。眠りに誘う効果も高いんだけどね。

● 堀内星良さん(ヴァイオリン)。メンデルスゾーンのホ短調協奏曲の第1,3楽章。伴奏は山崎早登美さん。
 高校生のとき,メンデルスゾーンが一番だと言う友人がいた。メンデルスゾーンのどこがいいのかといった突っこんだ話はしなかったのだが(突っこめるほどぼくは聴いていなかった),たぶん,彼の頭にあったのはこのホ短調協奏曲の第1楽章ではなかったか。
 初めて生で聴いたときのことははっきりと憶えている。那須野が原ハーモニーホールの小ホールで,田口美里さんのヴァイオリンだった。鳥肌が立った。鳥肌が立つという言い方は比喩的なものだと思っていた。そうじゃなくて本当に鳥肌が立つことを,そのときに知った。
 それから幾星霜。あの頃には戻れない。ということを,堀内さんの演奏を聴きながら思っていた。

● 水野優也さん(チェロ)。桐朋の3年生。チャイコフスキー「ロココ風の主題による変奏曲」。伴奏は五十嵐薫子さん。
 で,五十嵐さんのピアノに驚いた。年齢よりも若く見える顔立ちなのだろう,天才少女現るの感があった。天才の発揮を封印して,懸命に伴奏に徹そうとしている気配を感じたのだけど,そこまで言うと少々思い入れがすぎることになるか。
 水野さんの演奏はといえば,コンクールなのに楽しんでいるという印象。曲調の然らしめるところもあるのかもしれない。淡々と,しかし,気持ちをこめてしんでいる。

● 三国レイチェル由依さん(ヴィオラ)。藝大の2年生。今回の出場者の中で最も若い。ウォルトンのヴィオラ協奏曲。第1,2楽章。伴奏は高木美来さん。
 演奏から感じたのは清潔ということ。若さゆえだろうか。透き通っている感じ。
 努力にはすべき時があるのだろう。その時期を外してしまうと,努力が努力にならないという。25歳を過ぎてからいくら練習しても,技術が上向くことはおそらくないだろう。彼女はその“時”をまだ持っている。

●  齋藤碧さん(ヴァイオリン)。藝大の3年生。シベリウスのヴァイオリン協奏曲第1楽章。伴奏は林絵里さん。
 とんてもない才能を与えられた人がいる。これほどの才能を持ってしまうと,“選ばれし者の恍惚と悲惨”を一身に引き受けて生きていくしかない。他の人生はない。それが幸せなのかどうか,答えのない問いを詮索したくなるんだけども,大きなお世話というものだろう。
 齋藤さんの演奏を聴いていて感じたのは,そういうこと。

● 中村元優さん(コントラバス)。藝大院(修士)。トマジのコントラバス協奏曲。伴奏は笹原拓人さん。
 軽妙な演奏だと思った。そういうふうに演奏すべき曲なのだろうか。スイスイスイと進んでいった。

● この本選は,回を追うごとに観客が増えている。今回は弦だったゆえに尚更か。小学生の男の子が一人で聴いていた。ヴァイオリンを習っているんだろうかな。
 これほどの演奏をまとめて聴けることはそうそうない。しかも無料。聴かないと損。観客が増えるのはだから,理にかなっている。

● けれども,数が多くなると,中には変なのが出てくるのもやむを得ない。演奏中に水(かどうかはわからないけど)を飲む人がいた。飲むだけ飲むと,ボトルの蓋をカチッという音を発して締めてくれる。
 年寄りにもいるんだよね。ペットボトルの水を飲んたり,プログラム冊子を隣の椅子に音をたてて置く爺さんとかね。唾棄すべき田舎者がどうしても出てしまう。

● でも,演奏中にケータイの着信音が鳴るという現象はなくなりましたね。さすがにコンセール・マロニエでそれに出くわしたことはないけれども,普通のコンサートではわりかしあった。
 が,これがなくなった。年寄りもケータイやスマホの取扱いに慣れてきたってことですかねぇ。

2017年10月17日火曜日

2017.10.14 第22回コンセール・マロニエ21 本選

栃木県総合文化センター メインホール

● コンサートにはわりと出かけているけれども,1年で最も楽しみなのがこのコンクールだったりする。普段なかなか聴く機会のない曲を聴けるし。
 特有の緊張感があって,こちらにも真剣に聴く構えができる。もっとも,奏者はこういう場には慣れているんでしょうね。評価されることに慣れている。だから,ガチガチに緊張しているという風はまったく見受けられない。

● 今年はピアノ部門。ピアノってあまり上手じゃない演奏だと,ちょっとでお腹いっぱいになってしまうんだけど,コンセール・マロニエのファイナルに残るような人たちの演奏ならば,間違ってもそんなことはない。
 今回もショパン,シューマン,ベートーヴェンのソナタや,ラヴェルやリストなど,たっぷり聴いて,なお聴き飽きることはなかった。

● トップバッターは香月すみれさん。桐朋の2年生。ショパン「スケルツォ 第4番」とリスト「死の舞踏」を演奏。
 当然といえば当然なのだろうが,ていねいに演奏している。彼女がこれまでピアノに費やしてきた時間と労力,お金,そのために犠牲にしてきたであろう諸々のものたちの大きさ。そういうものを想像すると,気が遠くなる思いがするが,ステージ上の彼女は淡々と気を込めている。

● 梨本卓幹さん。藝大の4年生。今回のファイナリスト6人のうちの唯一の男性。ショパンの「ピアノ・ソナタ第3番」。
 前回から1部門ごとの開催になり(それ以前は2部門ごと),その分,一人あたりの持ち時間が増えたようだ。審査するだけならこれほどの時間は要らないだろうと思うんだけど,長く弾かせないと見えてこないものがあるんだろうか。しかし,こちらとすれば,おかげでソナタ全部の演奏を聴くことができるわけだ。
 少し集中を欠いたところがあったろうか。あるいは客席に集中を妨げるものがあったろうか。
 そんな印象を受けた。彼とすれば,少々不本意な出来だったかもしれない。

● 坂本リサさん。藝大の4年生。福岡県出身。
 ひょっとして福岡顔っていうのがある? 乃木坂46の橋本環奈が福岡県出身だったと思うんだけど,顔の枠(?)から受ける感じが似ている。ま,演奏にはまったく関係のない話なんですが。
 入念に椅子の高さを調節して,演奏したのはシューマン「ピアノ・ソナタ第1番」。
 曲への思いを表情に出して演奏するタイプ。いい悪いの問題はないと思うが,好き嫌いの問題はあって,ぼくはこういうのがあまり好きじゃない,と自分では思っていた。
 が,これが似合う人っていうのはいるね。彼女はそっち側の人。あ,これもいいかも,とか思ったんでした。

● 石川美羽さん。藝大附属高校の3年生。6人のうち,最も若い17歳。演奏したのは,ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第18番」とラヴェルの「ラ・ヴァルス」。
 曲調のまったく違うこの2曲を弾きわける技量の見事さ。いたって伸びやかで,屈託のない演奏だと,ぼくには映った。
 あざとさというものが皆無。スクスクとした,あるいはハキハキとした演奏。素直さが持つ強さとでもいうべきものが,ステージから発散された。

● 内田野乃夏さん。桐朋の2年生。演奏したのは,シューマン「クライスレリアーナ」。
 彼女からも素性の良さを感じた。今日に至るまでにもちろんいろんなことがあったんだろうけど,そうしたいろんなことが,今の彼女に痕跡を残していない。一心にピアノに向かって過ごしてきて,今に至る。そういう印象になる。
 といえば,彼女とすれば反論したいことが山ほどあるに違いない。そうした事柄もすべて呑みこんだような演奏だった。ケレン味や企みなどというものは1パーセントもなし。

● 田母神夕南さん。東京音楽大学大学院に在学。ストラヴィンスキー(アゴスティ編)「火の鳥」より“凶悪な踊り” “子守歌” “フィナーレ”。それと,リスト「ノルマの回想」。
 今回の最年長。それでも23歳ですか。ダイナミックな演奏の迫力には気圧された。こんなの初めて見た。23歳とは思えない存在感。
 ダイナミックって,ややもすると表層に流れるというか,ダイナミックだけが他から浮いてしまうことがある。彼女の演奏にはそういうことがなくて,ダイナミックが地に足をつけている。大変なものだと感じ入った。

栃木県総合文化センター
● 6人のファイナリストのプロフィールを見ると,全員が3~5歳の間にピアノを始めているんですよね。それくらいで始めないと,なかなかここまでは来れないってことなんでしょうね。
 しかも,当然,これから先がある。大変な世界に進んじゃった人たちですよね。

● 奏者と奏者が発する音は切り離して,音だけを聴くべきなのかもしれない。ところが,素人はなかなかそれができない。奏者の動きや表情に引きずられて,その結果としての印象を作ってしまう。
 しかし,聴き方としては正しくなくても,そうして聴く方が楽しい。ぼくは楽しい方を選びたい。

● 今回で理解不能だったのは客席の設定。前4列を着席禁止にした。これはいい。
 が,その後ろの3列を “ご招待者席” として,同じように着席できないようにしていた。コンクールにどうしてこれほどの “ご招待者席” が必要なのかと思った。空席はいくらでもあるんだから,わざわざ “ご招待者席” を作らなくても,と。
 どうも,誰も招待していないのに “ご招待者席” を設けたらしい。結果,最もいい席が誰も座れない状態で封印されてしまった。

● このコンクールを聴きに来る人が年々増えていることは間違いない。以前は本当にガラガラだった。客席にはチラホラとしか人がいなかった。
 今でも,空席の方がずっと多いんだけど,それでも観客がいると言っていい状態にまでなっている。今回はピアノを習っているらしい少女たちがまとまった人数で聴きに来ていたようだ。

2016年10月31日月曜日

2016.10.29 第21回コンセール・マロニエ21 本選

栃木県総合文化センター メインホール

● コンセール・マロニエ21のやり方が今回から大きく変わった。前回までは,声楽,ピアノ,弦,木管,金管の5部門を,2部門ずつ開催してきた。
 したがって,本選は正午から始まって,終了は18時を過ぎるというロングランだった。

● 今回から1部門開催になった。奏者の持ち時間を増やしてきたようではあるけれど,13時に始まって15時30分に終了した。時間も半分になった。
 その代わり,表彰式までステージでやるようにした。従来は会場内のレストランでやっていたようなのだが。

● プログラム冊子に載せている審査員長の沼尾雄司さんの「ご挨拶」の文章を読めたことが,今回の一番目の収穫だ。
 芸術を採点し,順位をつけることなど本来できません。そこには様々な尺度があり,ひとつのひとつの基準を設定することは不可能です。もしもひとつの基準だけになってしまったら,それはもはや芸術ではない何か別のものだと言わざるをえないでしょう。
 ではなぜ,コンクールが存在するのか。参加者にとっての意義,審査員や聴き手にとっての意義を述べている。
 聴き手や審査員にとっても,コンクールは自らの音楽経験を振り返る,大変よい機会になります。まだ世の中には出ていない若い演奏家たちと出会い,一体,自分が彼らの「何を」「どのように」評価し得るのだろうと問うてみることは,間違いなく聴き手を成長させるものでしょう。
● とはいえ,世間は実も蓋もないところがあって,1位者に仕事をさせたがる。彼には仕事の依頼が殺到し,2位以下の者には依頼が来ない。
 コンセール・マロニエがそこまでの影響を持つコンクールかというのは別にして(っていうか,1位になってもなかなか仕事が来ないというのが,実際のところなのかもしれない。現実はかなり厳しい),それでも結果の数字が一人歩きを始めることは,ごく普通にある。

● 次なる収穫は,コンクールでしか聴けない曲を聴けるということだろうか。特に金管部門に顕著だけれど,普通のコンサートではまず舞台にかからない曲を聴くことができる。
 ぼく一個にとっては,演奏者が世に出ているかいないかはどうでもいいことだ。コンクールのファイナルに残るほどの人たちの演奏だ。まずもって不満のあろうはずがない。
 おそらくだけれど,四半世紀単位で過去を振り返ると,このクラスの演奏水準は相当に切りあがっているのではないかと思う。今の普通は昔の普通ではない。

● ともあれ。今回は声楽。トップバッターは陳金鑫さん(バリトン)。中国の黒竜江省の出身で,現在は藝大の院で学んでいる。歌ったのは次の3曲。ピアノ伴奏は奥千歌子さん。
 R.シュトラウス 「8つの歌」より“8.万霊節”
 ジョルダーノ 歌劇「アンドレア・シュニエ」より“祖国の敵”
 グルック ああ私のやさしい熱情が

● あたりまえのことを感じた。歌うのは日本人である必要はないのだ。音楽に国境はないという事実。
 同時に,それはヨーロッパ生まれのヨーロッパ育ちの音楽だという事実も。ヨーロッパの普遍性のようなものも,癪だけれども思わないわけにはいかない。

● 陳さん,漢民族ではなく,モンゴル系の人ではないか。だからということではないのだけれども,懐かしい声だ。そう,懐かしい。かつてどこかで聴いたことがあるような。
 素朴さを感じた。素朴である分,間口が広い。聴衆を選ばない。

● 次は和田しほりさん(ソプラノ)。2年前のこのコンクールに出ていた。歌ったのは次の3曲。ピアノ伴奏は矢崎貴子さん。
 R.シュトラウス 「6つの歌」より“3.美しい,けれど冷たいのだ天の星たちは”
 レオンカヴァッロ 歌劇「道化師」より“鳥の歌”
 ドニゼッティ 歌劇「アンナ・ボレーナ」より“わたしの生まれたお城”

● 「道化師」も「アンナ・ボレーナ」も,オペラとしてはわりとマイナーなのではないか。そうしたオペラのアリアもまた,生で聴ける機会はそうそうないとしたものだ。
 このあたりが聴き手にとってのコンクールの功徳であるわけだ。

● ところで,その聴衆なんだけど,回を追うごとに増えているように思う。ガラガラという範疇での話だけれど,前はほんとにパラパラだった。それが,けっこう入るようになっている。
 理由はわからない。コンクールのお得さがだんだん認知されてきたんだろうか。

● 佐藤亜理沙さん(ソプラノ)。藝大の院生。
 ドボルザーク 「ジプシーの歌」より
  “1.私の愛の歌が再び響く”
  “2.ああ,私のトライアングルは何て美しく響くの”
  “3.あたりの森は静まり返り”
  “4.老いた母が教えたまいし歌”
  “5.弦の調子に合わせて”
  “6.幅広い袖とゆったりとしたズボン”
  “7.鷹に金の鳥籠を与えても”
 プッチーニ 歌劇「マノン・レスコー」より“ひとり淋しく捨てられて”
 「ジプシーの歌」をこれだけ聴ける機会も,たぶんこの先ないのじゃないかと思う。ピアノ伴奏は木邨清華さん。

● 佐藤さんに限らないのだけれども,声楽の人たちって登場するときからにこやかだ。声楽家特有のサービス精神が若い頃から身についてる。
 そこから出発した方が声が出やすいんだろうか。

● ヴィタリ・ユシュマノフさん(バリトン)。ロシアはサンクトペテルブルクの出。すでにCDもリリースしているなど,実績のある人ですね。
 ジョルダーノ 歌劇「アンドレア・シュニエ」より“祖国の敵”
 トスティ 「アマランタの4つの歌」より“1.私をひとりにしてくれ!息をつかせてくれ”
 ヴェルディ 歌劇「ドン・カルロ」より“私の最後の日が参りました”

● この人の凄さは,ピアノの伴奏でアリアを歌っているのに,オペラ全体の場面,つまり舞台の設えや登場人物の配置など,を彷彿とさせるところだ。役になりきることが上手いというか,スッと没入できるゆえかもしれないと思った。
 山田剛史さんのピアノもそれを助けていたかもしれない。攻めの伴奏という感じでね。

● 飯塚茉莉子さん(ソプラノ)。ピアノ伴奏は原田園美さん。
 R.シュトラウス 「4つの歌」より“2.チェチリーエ”
 ドニゼッティ 歌劇「アンナ・ボレーナ」より“わたしの生まれたお城~邪悪な夫婦よ”

● 安心して聴いていられる。安定感がある。すでに相当な場数を踏んでいるのだろう。

● 上田純子さん(ソプラノ)。今回,唯一の地元出身者。ピアノ伴奏は矢崎貴子さん。
 ラフマニノフ 「6つの歌」より“4.歌わないでおくれ,美しい人よ”
 モーツァルト 歌劇「イドメネオ」より“お父様,お兄様たち,さようなら”
 グノー 歌劇「ファウスト」より“宝石の歌”

● カルメンのミカエラ役が似合いそうな人。これは見た目の印象。
 細密な声質の持ち主。細密な声質というのも妙な言い方だけれども,声が粒の集合だとすると,その粒が小さく,その代わり数が多いという感じ。

● 山下裕賀さん(メゾ・ソプラノ)。ピアノ伴奏は奥千歌子さん。
 ブラームス 「ダウマーによるリートと歌」より“8.風もそよがぬ生ぬるい空気”
 ブラームス 「5つの詩」より“5.エオリアンハープに寄す”
 ドニゼッティ 歌劇「ラ・ファヴォリータ」より“ああ,私のフェルナンド”

● 圧倒的な声量と音圧が客席を圧倒した。スター誕生。歌うために生まれてきた人なんだなと思った。

● 以上で終了。このあとすぐに表彰式があるとのアナウンスがあったけれども,表彰式は見ないで会場をあとにした。結果(順位)は知らない方が,このブログを書きやすいので。
 この種のコンクールって運もあるね。今回の入賞者はかなり水準が高かったのじゃないか。

2015年10月26日月曜日

2015.10.24 第20回コンセール・マロニエ21 本選

栃木県総合文化センター メインホール

● 客席にいると,ステージに対して,批評家や評論家,審査員になりがちだ。ちゃんとした評論家や審査員なら,それに相応しい技能や資質を備えているはずだが,観客の多くは,ぼくをはじめとしてだけれども,そうではない(ように思える)。
 ビールを呑みながらテレビでプロ野球を観戦して,監督の采配にあれこれ言っているお父さんと同じ水準かと思われる。その水準での評論モドキや審査モドキだ。

● プロ野球でも球団がファンサービスに努めるように,プロ・アマ問わず演奏する側は客席にいろんなサービスをする。ぼくはあまり好きじゃないんだけど,演奏前に行う指揮者トークとかね。
 何といっても需要が伸び悩んでいる。霞を食べて生きていくわけにはいかないんだから,需要喚起・集客に努めなければならない(一方で,フライング拍手に対する啓発とかもしなきゃいけないんだから大変ですな)。要するに,観客を甘やかせてあげないといけない。

● 客席にいればお客さんだ。お客は強いものだ。何を言っても,相手方が強く反論してくることはない。安全地帯に身を置いていられる。安心してなんでも言える。
 だからこそ,客席側としても,評論家モドキや審査員モドキに墜ちることを回避する努力をすべきなのだと思う。
 プロ野球の監督なんかとても務まらないのに,現役監督の采配の結果が出たあとに,だから言わんこっちゃないっていうような,後出しジャンケン的なみっともない所業は慎まなければならない。

● 評論家や審査員の立場に自らを置くことには快感がある。上から目線で語る快感を味わえる。地面すれすれの実力しかないのに,他者を批判すると,その他者の高みまで昇ったような錯覚に浸ることができる。
 簡単にその錯覚に行かないようにしたいと思う。大人だろ,おれたち。

● というようなことを時々考える。
 今回はコンクールだ。れっきとした審査員がいるわけだ。彼らはぼくら観客とは違って,それぞれ専門家だ。
 その専門家と観客では鑑賞眼はもちろん違うとして,それ以外に見方そのものが違うはずだ。審査と楽しみでは,自ずと聴き方が変わる。
 だから,公表された審査結果に対してオヤッと思うこともあるんだけれども,これはそのような理由によるもの。

● 問題は,こうしたコンクールだと,ぼくらまでいっそう審査員の目線になりがちなこと。こういうときにこそ,審査員の目線から離れて,若き演奏者が紡ぎだす音楽を楽しみたい。
 どこまでそれに徹することができるか。大げさにいえば,それが自分との勝負だと思っている。ま,勝負っていうと,その時点で固くなりすぎていると思うけど。

● 開演は正午。今回はピアノと金管。このコンクールはピアノ,声楽,弦,管を2つずつ開催している。管は木管と金管を相互にやっているので,木管と金管は4年に一度ということになる。
 このコンクールを聴くのはこれが6回目になるんだけど,前回の金管は聴き逃している。
 会場はメインホール。審査する側ではメインホールでの響きを確認したいんだろうから,会場をサブホールに変えることは考慮の外であるはずだ。

● 終演は午後5時。無料でタップリ聴ける。しかも,普段は聴く機会がない曲を聴ける。考えようによってはかなり美味しいわけで,そのせいかどうかは知らないけれども,年々,観客が増えているように思う。
 以前はほんとにチラホラとしかいなかった。ここ2年ほどはガラガラではあるんだけどチラホラではない。

● まず,ピアノ部門。出場者は5人。
 トップバッターは久保亮太さん。シューマン「ピアノ・ソナタ第1番」の第1楽章と,ラヴェルの「クープランの墓」より“1.プレリュード”“5.メヌエット”“6.トッカータ”。シューマンからラヴェルに移ったときの印象が鮮烈。当然,これは曲調によるもの。ラヴェルの絵画的なっていうか,ラヴェルだとすぐにわかるポンポンと弾むようなっていうか,シューマンとの対比がくっきりしてて,それも選曲の理由かと思った。が,これは穿ちすぎというものでしょうね。
 まだ18歳。曲と対話しているというか戯れているというか,誤解を恐れずにいうと楽しそうに弾いていたのが印象的。

● 次は木邨清華さん。藝大の4年生。曲はプーランクの「ナゼルの夜会」。こういう曲を聴けるんだから,このコンクールは観客的にも美味しいわけだ。
 ピアノだから,奏者を側面から見ることになる。そのラインが美しい人だった。見栄えがする人だと思った。

● 中島英寿さん。桐朋の2年生。ベートーヴェンの「プロメテウスの創造物」の主題による15の変奏曲とフーガ。それとバルトークの「戸外にて」から“4.夜の音楽”“5.狩”。
 ベートーヴェンさん,こんなんでいかがでしょう,よろしいでしょうか,と言っているかのような演奏。
 これまでの3人もそうだったし,これから登場する人たちもすべてそうだったんだけど,コンクールで緊張しているといった様子はうかがえない。普段どおりというか落ち着いているというか。むしろリラックス。
 たいしたものだと思うが,いまさら平常心を失うのは困難なほどに,こうした場数は踏んできているんでしょうね。評価される場に慣れているようだった。

● 中村淑美さん。東京音大の4年生。曲はラフマニノフのピアノ・ソナタ第2番。この曲をそっくり聴けるというわけだ。
 スッとやってきて,サラッと弾いて,いかがでしたかという風情でサッと去って行く。ファインプレーをファインプレーに見せない技術の持ち主。

● 最後が井村理子さん。出場者の中では最年長。シューベルトのピアノ・ソナタ第19番の1,2,4楽章を演奏した。
 技術はもちろん,表現力というんだろうか,演技力といってもいいのかもしれない,客席への差しだし方まで一点の隙もないほどに考えているという感じ。群を抜いていたように思う。
 が,このコンクールは彼女にはそぐわないようにも思えた。ここの1位を狙いに来るような人ではないのじゃないか。

● 次は金管部門。ファイナルに残ったのは8人。ホルン2,トランペット3,チューバ3。
 まず,ホルンで森井明希さん。東京音楽大学3年。演奏したのはF.シュトラウスの「ファンタジー」。
 この曲もそうだけれども,以後に出てくる曲はすべて今回初めて聴くものだった。そりゃそうだ。金管がメインの曲を普通のコンサートで聴くことはまずもってないわけだから。それぞれの楽器分野では超有名な曲なんだろうけど,ぼくにはまったく不知の世界。
 森井さん,ドレスではなく練習着(?)で登場した。ぜんぜんOKだと思う。ただ,ドレス効果というのはあるんだね。愛くるしいお嬢さんという印象だったけど,これがドレスだったらきちっとレディに見えたはずでね。

● トランペットの椎原正樹さん。桐朋の2年生。ピアノ伴奏は岩瀬成美さん。ひょっとして桐朋の同級生だったりするんだろうか。
 トランペットって金管における百獣の王,ライオンのようなものなんですか。まっすぐに音が届いてくる。

● 続いてトランペット。刑部望さん。男性。今年,早稲田の文学部を卒業したらしい。一方で,桐朋のカレッジディプロマコースにも在籍中。
 演奏したのは,J.ギイ・ロパルツ「アンダンテとアレグロ」,V.ブラント「コンサートピース」。はぁ,こういう曲もあったんですかって思う程度の聴き手なんだな,こちらは。
 ピアノ伴奏は刑部佳子さん。ひょっとして彼のお母さんなのかもしれない。

● チューバの西部圭亮さん。東京学芸大音楽科の2年生。ヤン・クーツィール「チューバとピアノ小協奏曲」。ピアノは渡辺悠莉子さん。
 チューバという楽器。ドがつくほどの迫力があるということはわかった。が,それしかわからなかった。
 西部さんは,とにかくイケメンで,それが際立っていたものだから,そっちのほうに気が行っちゃってましたね。羨ましいなぁ,と。これをあと10年20年と保てたら,すごいことになるんじゃないか。

● ホルンの江村考広さん。クロール「ラウダーツィオ」,グリエール「ロマンス」,フランセ「ディヴェルティメント」。
 ホルンは難しい楽器だと推測はつく。名手はその難しい楽器を使って安定した音を出すのだ。そのあたりまではわかるんだけど。

● トランペットの鶴田麻記さん。藝大の3年生。テレマン「トランペット協奏曲」とジョリヴェ「トランペットとピアノのためのコンチェルティーノ」。ピアノ伴奏は下田望さん。
 彼女,子供の頃はヒダリマキッと呼ばれてからかわれたんじゃないかと,まったく関係のないことを思った。マキって名前の子がいて,ぼく自身,そう呼んでからかっていたからな。ある程度の年齢になってからならいいけれど,あんまり小さい頃からそう言われたんじゃ傷つくよなぁ。
 素直な演奏だと思った。トランペットと仲がいいといいますか。

● チューバの田村優弥さん。今回の出場者の中で唯一の地元出身者。現在は藝大の院に在籍しているけれど,作新学院吹奏楽部の出身で,今月12日の作新学院吹奏楽部の定演にゲスト出演していた。
 そのときに彼が語ったところによると,陽西中でチューバを始め,高校は作新に行くと決めていたらしい。作新で吹奏楽をやりたい,と。
 藝大は入るのも大変だけれども,入ったあとも大変で,藝大といえどもプロとして立っていけるのはごく一部だから,という話をされていた。そうなのだろうなと納得。
 演奏したのは,ペンデレツキ「無伴奏チューバのためのカプリッチョ」とウジェーヌ・ボザ「チューバのためのコンチェルティーノ」。
 後者のピアノ伴奏は大川香織さん。

● 最後は,小沼悠貴さん。国立音大を卒業して,自衛隊の音楽隊の隊員になっている。演奏した曲は田村さんと同じ,ボザの「チューバのためのコンチェルティーノ」。
 ピアノは松岡亜希子さん。

● すでに審査結果は出ていて,主催者のホームページに公表されているはずだ。ぼくも予想を述べたくなるが,やめておく。こんな聴き手が審査の真似事をするのは厳禁だ。
 出場者はよくわかるのだろう。あ,こいつは自分より巧いや,とか,自分のほうが少しいいかな,とか。

● が,ぼく的に最も印象に残った奏者は,ピアノでは中島英寿さん,金管では鶴田麻記さんだった。
 この程度は申しあげても許されるのではないかと思う。

2014年10月26日日曜日

2014.10.25 第19回コンセール・マロニエ21 本選

栃木県総合文化センター メインホール

● コンクールではあるんだけど,ぼくとすれば普通のコンサートでは聴けない曲を聴くことのできる貴重な機会。楽しませてもらおうと思って来ている。
 本選に残るほどの人ならば,腕はまず間違いないわけだしね。

● 今年度のコンセール・マロニエは弦と声楽。
 まず弦。8人。うち,コントラバスが5人。「コンクールのチャンスが比較的少ない楽器」なので応募が多いらしい。

● トップバッターは,そのコントラバスから大川瑳武さん。外見はそうは見えないんだけど,藝大附属高校の3年。クーセヴィツキーのコントラバス協奏曲。ピアノ伴奏は尾城杏奈さん。
 コントラバスというと,弦楽器のベースで,悠揚迫らぬ大人の風格という印象なんだけど,けっこう高い音も出るんだね。

● ヴィオラの飯野和英さん。藝大院を修了している。ポーション「パッサカリア」を独奏で。次にボーエン「ラプソディー」。ピアノ伴奏は秋山友貴さん。
 難しい曲なんじゃないですか。多彩な技巧が繰りだされる。
 が,演奏中に弦が切れるというハプニングが発生してしまった。これって,審査にどの程度影響するんだろう。集中も切れてしまうでしょうね。

● コントラバスの金子さくらさん。東京音楽大学大学院2年。ボッテジーニの「エレジー」と「グランドアレグロ」。ピアノ伴奏は山崎早登美さん。
 コントラバスだから,当然,楽器を抱きかかえるようにして演奏しますよね。ぼく,コントラバスになりたいと思った。さぞや幸せなことだろう。

● 続いて,コントラバス。篠崎和紀さん。藝大を卒業。演奏したのは,クーセヴィツキーのコントラバス協奏曲。
 同じ曲なんだけど,大川さんとは違った味わい。軽くてなめらかな感じを受けた。
 たぶん,ピアノ伴奏者の違いもあるでしょうね。そのピアノは平野享子さん。

● ヴァイオリンの中村里奈さん。藝大の4年生。イザイの無伴奏ソナタと,ヴィエニャフスキの「創作主題による華麗なる変奏曲」。ピアノ伴奏は佐久間晃子さん。
 この人,何者?っていう感じ。巧すぎないか。客席をパッと掴むというか自分に集中させるというか,その術まで知っているようだ。

● チェロの佐山裕樹さん。桐朋高校の3年。チャイコフスキーの「ロココ風の主題による変奏曲」。ピアノは和田晶子さん。
 うっとりした。曲なのか演奏なのか。演奏なんだろうな。技術的なものだけじゃないんでしょうね,ここまでの演奏ができるって。よくわからないけど。
 まだ17歳でしょ。その間,チェロに込めてきた時間と労力を想像すると,敬意というか敬服の気持ちが自ずと湧いてくる。普通はなかなかできないことをやってきた人なんだと思う。

● コントラバスの片岡夢児さん。東京藝術大学大学院3年。ボッテジーニのコントラバス協奏曲第2番。ピアノは再び,平野享子さん。
 手練れという印象。大きな楽器が身体の一部になっている。抜群の安定感。平野さんのピアノも聴きごたえがあった。

● 最後もコントラバスで白井菜々子さん。東京音楽大学3年。ウィーン国立音楽大学に留学していたので,年齢はもうちょっと上になるんだと思うけど。
 ボッテジーニの「ボレロ」と「カプリッチオ・ディ・ブラブーラ」。ピアノは再びの山崎早登美さん。
 すでに充分巧いんだけど,さらにかなりのノビシロがあると感じた。清新な印象を受けた。
 ま,ぼくがこういうことを言っていいのかと思うんですけどね。おまえに何がわかるんだよって,自分でも突っこみたいからね。

● 次は声楽。6人。ソプラノが大半を占めるのかと思いきや,ソプラノは半分の3人。あとは,アルトとテノールとバリトンがひとりずつ。
 正直,あれですよ,ソプラノを延々と聴くのはちょっと辛いもんね。助かったっていう感じ,ありましたね。

● トップはソプラノの杉原藍さん。藝大院2年。ピアノは鳥羽山沙紀さん。声楽の人はさすがに表情豊かで,これができないと話にならないんでしょうねぇ。
 特にコケティッシュな役柄を演じるときの役作りというか,表情の作り方は,上手なものだと思う。っていうか,これが下手な女の人って見たことがないんで,たぶんコケティッシュだけは自然にできるんだろうな。
 女性の本質はコケティッシュにあるんじゃないかと,バカなことを考えながら聴いていた。

● テノールの髙畠伸吾さん。武蔵野音大の博士前期課程を修了。ピアノは菊地沙織さん。
 ひきつづきバカなことを考えている。イタリア人と日本人はだいぶ違うんだろうけど,違うのは男であって,女は,わが大和撫子もイタリア女もさほどに違わないのじゃないか。女は人種国籍を問わず,女の本性に添ってあまり作為せずに生きているように思える。
 文化だの地政学的要因だの歴史なのっていう,くだらぬことに大きく規制を受けているのは,主には男の方じゃないか。
 なので,イタリアのオペラを演じる場合,男性の歌い手の方が役作りに手こずるんじゃないかなぁ,ってことなんですけどね。

● アルトの藤田槙葉さん。藝大卒業。ピアノは森田花央里さん。
 藤田さんが歌ったのはシリアスな場面のアリアで,コケティッシュなところはなし。そうした曲を選ぶのも,人がらというか性格なのかなぁ。

● ソプラノの和田しほりさん。桐朋の大学院3年。ピアノは矢崎貴子さん。
 ずいぶん場数を踏んでいるんでしょうね。堂々たる歌いっぷり。

● バリトンの高橋洋介さん。藝大院修了。ピアノは谷池重紬子さん。
 ルックスがいい。イケメンだ。しかも実力充分。オペラでもいろんな役がやれそうだ。

● ソプラノの藤谷佳奈枝さん。イタリアのパルマ音楽院に在籍している。ピアノは結城奈央さん。
 すでに風格というか貫禄すら感じさせる。圧倒的な声量と説得力。統制がとれた歌唱。これがソプラノよ,ちゃんと聴くのよ,と言われたような気がした。
 こういうコンクールって,巡りあわせや運ってあるんだろうな。一昨年と比べると,声楽部門の出場者の水準がかなり高かった(と思われる)。高水準での争いになったのではないかと思う。

● どういうわけか観客が多かった。昨年比で10倍くらいに増えていた。
 PRの効果? だとしたら,どんなPRをしたのかね。

2013年10月27日日曜日

2013.10.26 第18回コンセール・マロニエ21 本選

栃木県総合文化センター メインホール

● 今年度のコンセール・マロニエはピアノと木管。ピアノは「任意の独奏曲」だけれども,木管は課題曲が指定されている。
 で,木管部門の本選に残ったのは,オーボエ2人とフルート4人。なので,課題曲であるモーツァルトのオーボエ協奏曲を2回,同じくモーツァルトのフルート協奏曲の1番か2番を4回,聴くことになる(4人とも1番を選択したので,1番を4回)。

● 本選の課題曲はモーツァルトになることが多いらしく,第14回のときはクラリネット協奏曲を何回か聴くことになった。それがこの曲に親しむきっかけになった。
 さすがはモーツァルトで,続けて何度か聴いても,飽きない。腹にもたれることがない。いかなぼくでも,オーボエ協奏曲もフルート協奏曲も何度かは聴いているけれど,今回,2回とか4回聴くことになるのは,むしろ望むところ。

● ピアノは様々な演奏されることになるらしい。チラシに曲名が載っていた。聴いたことのない曲もある。っていうか,ベートーヴェンの「6つのバガテル」なんて,曲名じたいを初めて聞いた。
 とはいえ,ピアノ曲をこれだけまとめて聴ける機会もそうそうないわけだから,今回は事前にひと通り聴いておくことにした。ただね,CDをスマホに転送して,イヤホンで聴くという聴き方になるのでね。気を入れて聴くという具合にはいかない。
 デジタル携帯プレーヤーが登場して久しい。これのおかげで,聴く時間は格段に増えたんだけれども,部屋でオーディオから流れてくる曲に耳をすますという聴き方とは違ってくる。それでも享受できるメリットの方がずっと大きいと思うけど。

● でも,半ば予想していたことではあるんだけども,そんなことをしても無意味でしたね。スマホで聴くのとステージから届く演奏は,まったくの別物。前もって聴いておきましたよ程度では何の足しにもならないしね。
 現に目の前にある演奏は,ともかく初めて聴くものなのだから。

● ともあれ。開演は午前11時半。休憩を3回はさんで,終演は午後5時半という長丁場。審査員の先生方も楽ではないでしょうね。

● まず,ピアノ部門。トップバッターは高橋ドレミさん。東京音楽大学を昨年卒業。プログラムに載ってる写真と印象が違ったのは,今日はメガネをかけていたから。まだちょっとあどけなさが残るお嬢さん。弾いたのはシューマンの「フモレスケ」。渾身の演奏だった。
 古典派とかロマン派とかいう時代区分にどれほどの意味があるのかは知らないけれども,この曲はいかにもロマン派のものという感じは,ぼくにも理解できる。
 フモレスケとは「喜び,悲しみ,笑い,涙など,様々な感情が交差したような状態を言」うらしい。聴く人それぞれに,自由な想像が可能だろう。
 たださ,それも生で聴くからなんだよねぇ。CDで聴いてもダメなんですよ。オーケストラに比べれば,ソロの場合は生とCDの差は小さいと思うんだけど,ぼくのオーディオ環境の劣悪さゆえでしょうね。ある程度のボリュームで聴きたいでしょ。それができない環境なんだよねぇ。

● 次は和田萌子さん。芸大院を修了しているから,20代の半ばか。それにしては顔立ちに幼さを残しているように見えたんだけど,たぶん髪型のせいだな。
 グラズノフのピアノ・ソナタ第1番を演奏。体は細いんだけども,演奏はパワフル。ぼく的には今回最も印象に残ったのは,この曲だった。演奏のゆえか,曲そのものに惹かれたのか。

● 田中香織さん。桐朋からウィーン国立音楽大学大学院卒業。演奏したのは,ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第30番の第1,2楽章。ショパンの即興曲第3番。シマノフスキ「メトープ」の第1曲と第3曲。
 たぶん,今回の出場者の中で技術点が最も高かったのは彼女ではあるまいか。安定感も申し分なし。問題は「コンセール・マロニエ」との親和性がどうかってことなんだけど。完成されている印象を受けたんで。

● 菊池広輔さん。東京音楽大学大学院2年。この部門で唯一の地元出身者。ラヴェル「夜のガスパール」を演奏。傍目にも難しそうな曲で,これを緊張感を切らさずに演奏しきるのは大変そうだ。
 第1曲「オンディーヌ」はたしかに水のイメージっていうか,ぼくの脳内に浮かんだのは,夜の中禅寺湖ですね。月明かりを反射してキラキラしている中禅寺湖の湖面。夜の中禅寺湖なんか見たことはないんだけどね。

● 青木ゆりさん。桐朋学園大学4年で,今回の出場者の中では最年少になる。ベートーヴェンの「6つのバガテル」とベルクの「ピアノ・ソナタ ロ短調」。たとえば「6つのバガテル」を弾くときには,演奏者はどんな風景を見ているのだろう。
 自信たっぷりに見えた。ボーイッシュな風貌で,もの怖じせず溌剌と。

● 見崎清水さん。芸大院3年。演奏したのはショパンのピアノ・ソナタ第2番。ていねいに慈しむようにして演奏していた感じ。それがショパンを弾くときの常道なんでしょうけどね。
 4年前のこの「コンセール・マロニエ」で第3位。

● 最後は,松岡優明さん。東京音楽大学大学院を修了。ラヴェルの「プレリュード」と「夜のガスパール」。
 彼もまたたしかな技術の持ち主で,音の粒だちがいいというか,表現技法に秀でているというか。文句のつけようがない。

● というわけだった。ぼく的に予想を書きたいところだけれども,昨年それをやってはずしているので,今回は自重しよう。
 こうしたコンクールの審査というのも,絶対ではないだろうね。審査員の能力にあまるということも,ひょっとしたらあるかもしれないし,典型的な官能検査だから審査じたいにゆらぎがあるはずだ。いくつかのチェックポイントはあるのかもしれないけれども,つまりは総合印象で選ぶしかないだろうから,どうしたって個人差もでる。

● 次は木管部門。
 まずはフルートの満丸彬人さん。芸大院の1年。男のフルートもいいもんだなぁ。柔らかさって男にも合うね。まだまだノビシロを蓄えていると思えた。
 ピアノ伴奏は與口理恵さん。このピアノ伴奏の人たちはプロの方々なんですか。巧すぎる。
 モーツァルトのフルート協奏曲,何だかおざなりに作った感じがするねぇ。最晩年のクラリネット協奏曲に出てくる旋律があったりして,クラリネット協奏曲のための踏み石にも思えてくる。
 それでも聴くに耐えちゃうのは,やっぱりモーツァルトってことなんですけどねぇ。

● オーボエの古山真里江さん。芸大を今年卒業。オーボエを吹くために生まれてきたような人なんですかねぇ。
 オーケストラでオーボエを聴くときは,あたりまえのように音を出していると受けとめていたんだけど,これ,けっこうしんどい楽器だったんですねぇ。って,今さらだけど。
 ピアノ伴奏は宇根美沙恵さん。伴奏の妙にも注目。

● 川口晃さん。フルート。芸大院1年。まだ若いのに大人の風貌。器用な人だなぁと思った。どんな超絶技巧でも苦もなくやってみせてくれる感じ。
 ピアノ伴奏は再び與口理恵さん。

● 岡本裕子さん。フルート。東京音大を一昨年,卒業。ブルーのドレスで,艶やかさが際だっていた。派手ではなく,ね。コンクールではなく,自分のリサイタルのような感じでやってたのも,ぼく的には好印象。
 唯一残念だったのはプログラムに載っている写真で,これは差し替えの要あり。実物の方が美人だから。
 ピアノ伴奏は久下未来さん。

● 山本楓さん。オーボエ。芸大3年。この部門唯一の地元出身者で,栃木にはあるまじき美人。ということになれば,心情的に彼女を応援したくなるのが客席の自然というもので,このときだけは居眠りをしている人はいなかったようだ。
 全出場者の中で,彼女が最も緊張感を漂わせていたかもしれない。終わったときにはホッとした表情を見せた。
 ピアノ伴奏は,じつに羽石道代さん。

● 浅田結希さん。フルート。芸大院修了。ハラハラするところが皆無。抜群の安定感。完成の域に到達しているんじゃなかろうか。「コンセール・マロニエ」の舞台には収まりきらない人かも。
 ピアノ伴奏は小澤佳永さん。

● これもぼく的予想は出ている。んだけど,会場をあとにしたときと,今とでちょっと変わってしまった。
 変わってしまったのは,あれですよ,プログラムに載っているプロフィールをよく見て,年齢やら受賞歴やらを知ると,それに自分の印象が影響されちゃったからですよ。ということはつまり,わかっちゃいないね,ってことなんですよね。

● 来年は弦と声楽。このコンクールのファイナルは,ぼく的にはとても美味しい。聴いたことのない曲を若々しい演奏で聴けて,しかもホールはガラガラだからゆったりできる。
 べつに人に勧めるつもりはないけれど,うーん,美味しいよ。


(追記 2013.10.27)
 今,課題曲を(スマホで)聴いてみると,聴こえ方がだいぶ違う。生で聴いたことの効果ですね。
 っていうか,数日前に聴いたのは,聴いたつもりなだけで,実際は聴いてなかったのかもしれないな。

2012年10月28日日曜日

2012.10.27 第17回コンセール・マロニエ21 本選


栃木県総合文化センター メインホール

● 昨年は行けなかったが,今年はコンセール・マロニエ21のファイナルを聴きに行くことができた。開演は12時半。終演は17時15分。
 観客はメインホールにしてはあまりに少ないのだが,主催者はこのイベントの会場をメインホールから動かすことはない。案内は今回もプロのアナウンサーに来てもらったようだ。

● とはいえ,2年前に比べると,多少は(観客が)増えていた。2年前は雨だったのに対して,今回は秋晴れだったせいもあるかも。
 ただね,増えればそれでいいかといえば,そういうものでもなくてね。演奏中に席を立つ人もいたし,演奏が始まっても私語をやめない人もいたのでね。2年前にはこれはなかったから。
 どういうわけか,そういう人って前の方に座るんですな。であるからして,後部座席に座った方がいいかもしれない。
 以上は,自分を勘定に入れない話ですけど。

● コンクールとはいえ,栃木でこれだけの水準の演奏を聴ける機会ってそんなにない。しかも,たっぷり半日。会場はまず文句のない総合文化センター。それでもってガラガラに空いているわけだから。聴く側の環境とすれば申し分ない。
 けれども演奏する側にとっては緊張の舞台のはず。と思いきや,さほどの緊張感は伝わってこないのだった。わりとリラックスしてる感じ。ま,こちらはお気楽極まる客席側の人間だ。出場者とは賭けているものがまるで違う。要は,こちらの感度が鈍いだけなのかもしれないんだけど。

● 今年度は弦と声楽。弦では7人,声楽では6人がファイナルに残った。
 弦の内訳は,チェロが3人,ヴィオラが2人,コントラバスとヴァイオリンが1人。ヴァイオリンが1人というのは少ないか。全員が男性。
 弦部門の演奏曲は「演奏時間が15分以上20分程度の自由曲」となっている。

● トップバッターはヴィオラの松井直之さん。国立音大を卒業。ウォルトンのヴィオラ協奏曲を演奏。
 ピアノ伴奏は草冬香さん。彼女が可愛らしい人で,一生懸命にヴィオラに合わせようとしていた。文字どおり女房役に徹しようってね。
 自分が鑑賞者として欠陥商品であるのを,こういうときに自覚する。伴奏者が可愛らしいってことに気が行ってしまうってのがねぇ。

● ウォルトンのヴィオラ協奏曲を聴ける機会なんてまずないし,CDは持っていてもやはりそうそうは聴かないから,ピアノ伴奏といえども生で聴けるのはありがたい。
 せつなそうな表情で演奏する。松井さんに限らず,皆さんそうだ。集中を高めようとすれば,自ずとそうなるのでしょうね。

● このコンクールは「新進音楽科に発表の機会を提供し,今後の活躍を奨励する」ために開催される。したがって,参加資格には年齢制限がある。16歳以上32歳未満ということになっている。
 松井さんはギリギリでセーフなのだけれど,30歳を過ぎている出場者が第1位を取るのはほとんどないのではないかと思う。審査員の先生に訊けば,そんなことはない,問題は演奏の中身だ,と仰るに決まっている(と思う)が,審査の基準に将来性ってのも入っているだろう。どうしたって年長者には不利に作用する。
 松井さんは新進というよりは,すでに演奏家として完成の域に達しつつあるという感じ。文句なしに巧いんだけど,読響に属するプロ奏者だし,すでに最優秀の受賞歴がいくつもあるわけで,今さらこのコンクールに出てくるような人ではないと思った。

● 山澤慧さん。チェロ。芸大院を修了。演奏したのはカサドの無伴奏チェロ組曲。
 今回の出場者の中で唯一,緊張していることが客席からわかった人。この程度には緊張していた方が印象点が良くなるんじゃないですかねぇ。けれども,演奏を始めてしまえば,集中が緊張を蹴散らすわけでね。
 チェロの音色の多彩さを知ることができましたね。意外に高音も出せる楽器なのだっていう初歩的なことも含めて。ありがたかったです。当然,奏法も色々あるわけですね。

● ヴァイオリンの戸原直さん。芸大の2年生。イザイの無伴奏ヴァイオリンソナタの3番と2番を演奏。これまた,滅多に聴く機会のない曲を聴けたことになる。
 唐突なんだけど,弦の音は一切受け付けないって人が世の中にはいるはずだ。「はずだ」と言っておきながら何なんですけど,じつはウチのヨメがそうでしてね。ガラスを引っ掻くような音だというわけです。どんな名人名手でも弦を弓で擦るんだから,「ガラスを引っ掻くような音」と言われてしまうと,何とも。

● 続いて,ヴィオラの七澤達哉さん。芸大4年。演奏したのはウォルトンのヴィオラ協奏曲。
 どうしたって松井さんの演奏と比較することになってしまうわけだけど,同じウォルトンでも,こちらは直線的というかダイナミックな感じ。
 理由はふたつあって,ひとつはピアノ伴奏の違い。ピアノは森下唯さんが務めた。女性名だけれどじつは男性。彼のピアノがガンガン行く感じだったんですね。もうひとつは,途中でチューニングの間を入れなかったこと。

● 藤原秀章さん。チェロ。芸大附属高校の3年生。ドヴォルザークのチェロ協奏曲ロ短調の2楽章と3楽章を演奏。ピアノ伴奏は日下知奈さん。
 最年少の出場者。一芸に秀でた人って,高校生でもすでに大人オーラを出しているものですな。いい意味でふてぶてしい。普段は違うんだと思うんだけどね。自分のフィールドに入るとそうなる,と。
 次の休憩のときに,彼がチェロ(もちろんケースにいれて)を提げて会場の外を歩いていくのが見えたんだけど,格好良かったなぁ。若様が通るって感じでね。

● コントラバス。廣永瞬さん。国立音大の4年生。演奏したのはヒンデミットの「コントラバス・ソナタ」。ピアノ伴奏は山崎未貴さん。
 これも聴ける機会はごく限られていると思われる曲で,それを聴けるのがこの「コンセール・マロニエ」のありがたいところ。

● 最後はチェロの山本直輝さん。芸大4年。演奏したのは,ドヴォルザークのチェロ協奏曲ロ短調の1楽章と3楽章。ピアノ伴奏は鳥羽亜矢子さん。
 伸びやかで艶がある。しっとりと聴かせる感じといいますか。文句のつけようがなくて,弦楽器部門の第1位は山本さんで決まりでしょ。ぼくの耳だからあてにはならないんだけどさ。 (→1位はヴァイオリンの戸原さんで,山本さんは3位だった。めったなことは書くものではない)

● 続いて声楽部門。ソプラノが5人でメゾソプラノが1人。男声のファイナリストはなし。エントリーからしてソプラノが圧倒的に多くて,他は少ない。
 こちらは「演奏時間が10分以上20分以内の2曲以上の自由曲」となっている。

● こちらのトップバッターは前川依子さん。武蔵野音楽大学大学院を修了。ドニゼッティ「ランメルモールのルチア」より“あたりは沈黙に閉ざされ”。プーランク「ティレジアスの乳房」より“いいえ旦那様”。ピアノ伴奏は長町順史さん。彼女の先生なんですな。
 4年前のこのコンクールにも出場しているらしい。表情豊かで聴いているとほっこりしてくる感じ。

● 谷垣千沙さん。芸大博士課程1年。ヘンデル「エジプトのジュリアス・シーザー」より“もし私にあわれみを感じでくださらないのなら”とデラックァ「牧歌」。ピアノ伴奏は中桐望さん。
 器楽以上に声楽はわからない。巧いなぁという以上の感想はなかなか持てないんですよね。そこを無理に書くと,谷垣さんの声は柔らかくてふくよかさがある。
 前川さんもそうなんだけど,体型はスレンダーなんですね。声楽家っていうと豊満な体型っていう思いこみがあるんだけど,これは修正しないとね。体型がスレンダーだから声まで痩せているなんてことは全然ないんだ。

● 谷原めぐみさん。芸大院修了。マイアベーア「アフリカの女」より“さらば,故郷の岸辺よ”。ヴェルディ「椿姫」より“ああ,そはかの人か~花から花へ」。ピアノ伴奏は高木由雅さん。
 谷原さん,たしか2年前にも出場していた。実力派。けれども,松井さんと同じで,新進の域は脱しているのじゃないだろうか。すでに活躍している人ですよね。

● 茂木美樹さん。芸大院を修了。唯一の地元出身者。ドニゼッティのオペラから3つ。「シャモニーのリンダ」より“ああ,この心の光”と「ドン・パスクワーレ」から“この眼に騎士は”。それと,「ランメルモールのルチア」より“あたりは沈黙に閉ざされ”。ピアノ伴奏は久住綾子さん。
 茂木さんは「20歳から声楽を始める」と紹介されている。スタートが普通より遅かったってことですね。大学も一流大学の文学部を出てから芸大に入り直している。異色の経歴。

● 秋本悠希さん。ただひとりのメゾソプラノ。芸大院1年。ショーソンの「ナニー」と「蜂雀」。マスネの「ウェルテル」から“手紙の歌”。ピアノ伴奏は羽賀美歩さん。
 彼女もスレンダーで,フルートの高木綾子さんに似た美人。こう書くあたり,鑑賞者として欠陥商品だよな。
 腕前は文句なし。圧倒された。

● 最後は飯塚茉莉子さん。武蔵野音楽大学大学院を修了。リスト「ペトラルカの3つのソネット」より“平和を見いだせず,さりとて戦をすることもわたしはできない”とシャルパンティエ「ルイーズ」より“その日から”。ピアノ伴奏は清水綾さん。
 お隣の群馬県の出。そう思ってみるせいか,なにがなし親近感が湧く。

● 秋本-谷垣-前川と予想しておくが,まったく自信がない。さてさて,結果は? (→3位は飯塚さんだった。予想屋の真似事はやめよう)
 一芸に賭けている人たちの存在感ってやっぱりすごくて(あるいは,すごいと思いたくて),それがために出かけているのかもしれない。今回もその欲求は満たされて,満足してわが陋屋に帰還した。

2010年10月31日日曜日

2010.10.30 第15回コンセール・マロニエ21 本選


栃木県総合文化センター メインホール

● 30日は去年に続いて,コンセール・マロニエ21のファイナルを聴きに行ってきた。1時から総合文化センターのメインホールで。
 主催者は信念を持ってメインホールを会場にしているのだろう。案内も栃木放送かレディオベリーのアナウンサーに来てもらっているようだ。とちぎ生涯学習文化財団の威信をかけた行事のようだ。が,あまりにもガラガラ。

● 今年度は弦と声楽。ファイナルに残ったのは両部門とも6人。弦は学部生が多く,声楽は院修了者が多い。
 昨年のコンセール・マロニエでは出場者の緊張感がこちらにも伝染したのか,息をつめて聴いていた記憶があるのだけれども,今回はそういうこともなくリラックスして聴くことができた。っていうか,出場者もさほど緊張はしていないようなのだ。

● まず弦楽器部門から。
 トップはチェロの加藤文枝さん。京都府出身で東京芸術大学大学院1年。東京音楽コンクールで2位を取っていたり,別のコンクールでは1位も取っている。
 演奏したのはチャイコフスキーの「ロココ風の主題による変奏曲 イ長調」。切なそうに弾くのが印象的だった。

● 次はヴィオラの中村翔太郎さん。兵庫県出身の芸大3年生。高校生の頃から関西の賞をたくさん取っている。天才少年だったわけだ。
 演奏したのは,ヨーク・ヴォーウェン作曲「ヴィオラ・ソナタ第1番 ハ短調」から第1&3楽章。こういう作曲家がいたことを初めて知った。

● コントラバスの片岡夢児さん。大阪市出身のやはり芸大3年生。コントラバスがエントリーできるコンクールはあまりないらしく,ファイナル出場者6人のうちコントラバスが2人いる。この人も某オーディションで最優秀賞を取っている。
 演奏したのはグリエール「コントラバスとピアノのための4つの小品」。

● ヴァイオリンの和久井映見さん。東京都出身。桐朋女子高校の3年生ながら,ステージでの態度はふてぶてしいほどに堂々としていた。体は呆れるほどに細いんだけど,態度は太い。感心することしきり。
 演奏したのは,ショスタコーヴィチの「ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調」の第3&4楽章。

● コントラバスの岡本潤さん。石川県出身の芸大4年生。この人も北陸のコンサートで最優秀賞を取っている。
 クーセヴィツキーの「コントラバス協奏曲 嬰ヘ短調」を演奏。これまた,こういう曲があったことはプログラムを見て初めて知った。

● 最後はヴィオラの山田那央さん。芸大を卒業してからドイツに渡り,ケルン音楽大学を卒業している。すでに相当な活動実績もあるようで,今さらマロニエでもあるまいと思った。事情を知らない者の戯れ言かもしれないけれど。
 応募要項では35歳までのエントリーを認めているようなのだが,コンセール・マロニエは「若き演奏者を発掘し,支援することを目的と」するコンクールであって,実際は30歳を過ぎた人が1位をさらうことはないのではないかと思う。
 バルトークの「ヴィオラ協奏曲」の第1&3楽章を演奏したが,すっかりスタイルができあがっているようだった。

● 昨年はピアノと木管だった。ド素人なりに順位を付けてみたところ,審査員の先生方の評価とさほどずれてはいなかった。
 けれども,今回はまったく順位がつかなかったですね。すぐ上に書いたような理由で,山田さんの入賞はないと思うし,和久井さんも若すぎるという理由で見送られるかもしれない。しかし,実力的には6人とも横一線という感じ。
 審査員より上手な出場者が,ときに登場するものだろう。そういうとき,審査員は喜ぶものだろうか,悔しがるものだろうか。

● 次は声楽部門。弦と比べると,奏者の年齢が高い。6人のうちソプラノが4人。
 トップバッターはソプラノの志水麻依さん。福岡県出身。長崎市にある活水女子大学音楽学部を卒業してウィーンに渡り,グスタフ・マーラー音楽院を首席で卒業したとある。
 器楽奏者はスレンダーな人が多いと思うのだが,声楽はたっぷりした人が多いですよね。
 東京国際声楽コンクールで1位。マロニエに出場した動機を訊きたくなる。

● テノールの市川浩平さん。静岡県出身。芸大院の2年生。よくこういう声が出るものだ。天賦の才というしかない。そういう喉と気管支を持って生まれてきたんでしょうね。鍛錬や努力でどうにかできるものじゃない。

● ソプラノの谷原めぐみさん。香川県出身。大阪教育大学の音楽コースを経て,芸大の院に進んだ人。この人も数々の受賞歴があり,すでに活動実績も積んでいる。

● 続いてソプラノの石原妙子さん。愛媛県出身。芸大院を修了して,現在はイタリアで勉強中。

● バリトンの菅谷公博さん。千葉県出身。芸大を卒業して桐朋の研究科2年に在籍。
 ピアノ伴奏の奏者が格好良かった。矢崎貴子さんと申しあげるのだが,きちんと客席を意識した衣装で,凛とした感じがとてもよかった。たとえコンクールの伴奏といえども,ステージに登る以上は,ステージに登るオーラを纏うという覚悟?のようなものを感じさせた。

● 最後はソプラノの鈴木麻里子さん。群馬県出身。4人のソプラノ歌手の中では最年少。

● ソプラノは少しでお腹がいっぱいになりますね。正直言うと,途中で飽きてしまった。
 技の巧拙については,ぼくにはまったく判断がつかない。同じに聴こえる。しかし,聴く人が聴けば,はっきり違いがあるのだろう。才能のきらめきのあるなしが明瞭にあるのだろう。
 ここからのわずかな違いが途方もない差となるのだろうね。超一流と並の一流を隔てる壁になってしまうのだろう。厳しい世界だなぁ,と。

● 今回,ステージに立った人たちは,その厳しい世界に自ら踏みこんだ人たちなのだ。自分とは違って「今,ここ」をきちんと生きてきた人たちなのだろう。
 と思うと,彼らに対して襟を正したくなる。自分にはそんな勇気も度胸もない。退路を断つなんて思いつきもしなかったから。

2009年10月31日土曜日

2009.10.25 第14回コンセール・マロニエ21 本選

栃木県総合文化センター メインホール

● 総文センターで開催された「第14回コンセール・マロニエ21 本選」を聴いてきました。約6時間に及ぶ長丁場。今回はピアノと木管。来年は弦と声楽。毎年,全部門について実施するんじゃないんですね。
 ここのところ,宇大教員による演奏会と「響」の定期演奏会で,ピアノに食傷気味だった。
 ピアノは飽きる。途中でお腹がいっぱいになってしまう。で,今回も覚悟はしていたんですよ。自分的に聴きたいのは木管で,ピアノは忍耐で乗り切ろうと。

● ところが。そんなことにはならなかった。ピアノ部門が6人。木管も6人で,そのすべてにピアノの伴奏がつく。6時間もの間(途中,3回の休憩はあったけれど),ずっとピアノを聴き続けたわけだけれども(しかも,木管は曲目が指定されていたので,同じ曲を二度聴くことも),飽きはこなかった。
 これはどういうわけか。このコンクールにかける奏者たちの緊張感と真剣さが伝わってくるからか。

● ともあれ,聴くに値する内容だったと思う。もちろん無料だ。メインホールを使わせているのは,主催者の出演者に対する敬意かもしれないが,客席ははまばらだった。2階席は進入禁止になっており,1階のいい席で聴くことになる(2階席には審査員が陣取っていたようだ)。
 ぼくが言うのも変なものだが,もっと多くの人が聴きに来てくれればと思いますね。しかし,6時間はさすがに長いね。普通のコンサートって2時間だものね。

● ピアノ部門。トップは榊原涼子さん。芸大院の2年。ピアノ部門は何を演奏するかはきめられていない。自分で選べる。彼女が演奏したのはシューマンの「謝肉祭」。
 次は石井絵里奈さん。同じく芸大院2年。プロコフィエフの「ロメオとジュリエット」からいくつかを抜粋して演奏。
 棟方真央さん。芸大4年。ベートーヴェンの「ピアノソナタ第31番」とラモーの「アルマンド(新クラウザン曲集より)」。彼女の演奏がラモーの聴き初めとなった。

● 片野和紀さん。東京音大を卒業してハンガリー国立リスト音楽院で修行した。リストの「婚礼(巡礼の年第2年より)」とヴァインの「ピアノソナタ第1番」を演奏。
 ヴァインの曲は1990年に作られた。もちろん,ぼくは聴いたことはないし,ヴァインという名前も初めて聞いた。ピアノの端から端まで使って演奏する。いろんな弾き方があるものなんだな。
 ぼくはこの人が1位を取るのではないかと思ったのだが,結果は2位なしの3位だった。

● 小瀧俊治さん。東京音大の院生。ラフマニノフの「前奏曲」と「ピアノソナタ第2番」。ラフマニノフはピアノ協奏曲第2番が突出して有名で,それ以外はあまり聴く機会がない(ぼくだけか)。おとなしい弾き方だと思って聴いていたんだけど,彼が第1位を取った。

● 見崎清水さん。桐朋学園大学3年。ラヴェルの「夜のガスパール」を演奏。
 音楽では芸大が図抜けて実績をあげているって感じでもないですね。他学部における東大ほどには突出していない印象がある。私立の音楽大学が健闘しているともいえるわけで,その代表が桐朋。
 私立の音大は医学部に次いで学費が高い。マンツーマンのレッスンがあるのだから当然だけど,いいところのお坊ちゃんやお嬢ちゃんじゃないと入学できない。本格的に音楽をやれるのはもともとそうした階層の子弟だけ?

● さて,木管。ピアノに飽きなかったとはいえ,6人のピアノが終わって木管に移ったときには,なにやらホッとした気分にはなりましたね。
 本選に残ったのはクラリネットが2人,フルートが3人,ファゴットが1人。
 堀菜々子さん。クラリネット。今回唯一の地元出身者。現在は芸大の3年。木管部門は曲目が指定されており,クラリネットはモーツァルト「クラリネット協奏曲 イ長調 K.622」。管弦楽の代わりをピアノが務める。

● 続いて,同じクラリネットの椏木亜裕美さん。桐朋学園大学4年。今年の東京音楽コンクールで第1位を取っている。曲目は堀さんと同じなわけで,こちらとしては同じ曲を二回続けて聴くことになるわけだ。ま,ぼくらはいいけれど,本選に至るまで審査を続けてきた先生方は大変だったろうねぇ。
 ところで,椏木さんのバック演奏を務めたの方は松山玲奈さんと申しあげる。彼女のピアノに感動。ひょっとして,今回のすべての演奏の中で最も良かったのは,松山さんのピアノではあるまいか。もちろん,彼女は出場者ではないんだけど。

● 濱﨑麻里子さん。フルート。芸大院の1年。曲目はモーツァルトの「フルート協奏曲第2番 ニ長調 K.314」が指定されている。東京音楽コンクールでは椏木さんの後塵を拝して3位だった。
 ぼくだったら彼女を1位に推すなと思った。で,結果も彼女が1位。自分の予想が当たるって嬉しいね。って,たんなる偶然にすぎないことはわかっているよ。

● 寺本純子さん。フルート。京都市立芸大から東京芸大に転じて,ヨーロッパで修行。たぶん,今回の出場者の中では最年長だと思う。その美貌と相まって大人の女性の色気を発散していた(そんなことを感じていたのはぼくだけかも)。曲目は濱崎さんと同じ。ここでも二度続けて同じ曲を聴くことになった。

● 蛯澤亮さん。木管部門で唯一の男性出場者。国立音大を卒業。ウィーン音楽院修士課程2年。曲目はモーツァルト「ファゴット協奏曲 変ロ長調 K.191」。

● 井坂実樹さん。フルート。芸大2年。曲目はモーツァルト「フルート協奏曲第1番 ト長調 K.313」。第2番と比べて,フルートの独奏時間が長い。彼女はよく弾きこなしていて,これも上位入賞だと思われた。結果,彼女が2位。

● これほどモーツァルトを続けて聴いたことはない。飽きなかった。どころか,帰宅後,CDで聴き直したくらい。
 コンクールとはいえ,これだけのレベルの演奏をこれだけまとめて聴けるのは,そうそうあることじゃありません。来年は声楽と弦。行きますよ。これ,行かなきゃ損。