2017年11月22日水曜日

2017.11.19 宇都宮短期大学管弦楽団 Special Concert-宇都宮短期大学創立50周年記念

宇都宮短期大学 須賀友正記念ホール

● 宇都宮短期大学の学園祭(彩音祭:あやねさい)のメイン行事。開演は午後1時半。チケットは2,000円。

● 曲目は次のとおり。指揮は阿久澤政行さん。
 グリンカ 歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲
 ショパン ピアノ協奏曲第1番
 ドヴォルザーク 交響曲第9番

● 宇都宮短期大学管弦楽団は在校生と卒業生と教員で構成。常設のオーケストラではない。もし,常設で年に2回程度の演奏会を開催してくれれば,栃木県内で開催される演奏の幅が上部に向かって分厚くなる。栃木県の光景が少し違って見えるかもしれない。
 ソリスト(ピアノ)も卒業生の西尾真実さん。さすがに,自前で揃えることができるだけの陣容は整っているということでしょう。

● 西野さんのピアノを聴くのは,これが3度目になる。ぼくの耳では彼女のピアノに対してどうこう言うことはできない。拝聴するだけ。
 ただ,ショパンのこの曲については言いたいことがある。ショパンが作曲した作品のほとんどはピアノ曲で,それらに駄作はないという点で,後世の評価は一致していると思う。
 が,唯一,協奏曲だけはどうもショパンは苦手としたようだ。オケとピアノの接点がない。インターフェイスができていない。ピアノはピアノ,オケはオケ。極端にいうと,これ,協奏曲と言えるんだろうか。

● オケの奏者は演奏していて,ぜんぜん楽しくないだろう。ということは,聴いている側も楽しくないということだ。西尾さんが悪いのではもちろんなく,管弦楽が悪いのでもない。ショパンが悪い。
 それでも,この曲が演奏される機会が多いのは,クラシック演奏界の七不思議の一つと言っていいのじゃないか(あとの六つは何なのだっていう突っ込みはなしに願いたい)。

● メインはドヴォルザークの第9番「新世界より」。ショパン協奏曲の鬱憤をはらすかのように,管弦楽が存分に弾けて,密度の濃い演奏になった。
 要となるオーボエが素晴らしかった。オーボエに限らない。フルート,クラリネット,ファゴットの木管陣はさすが。木管がここまでいいと,管弦楽曲はその容貌をクリアに現してくれる。そうだよ,「新世界より」はこういう曲なんだよ。

● 客席にはやはり学校関係者,父兄とか附属高校の生徒とか,が多かったようだ。
 が,他のホールでちょくちょく見かける顔もあった。彼らにしてみれば,ぼくも同じであるはずだが。
 同好の士ってのはいるもんだな。彼らと言葉を交わすことは絶えてないけれども(これからもないはずだ)。

● 彩音祭について申しあげれば,当局の管理がよく言えば行き届いている。高校の文化祭のような感じがする。お行儀がいい。挨拶もする。細かい規則を守って,その枠から出ることがない。
 反面,学生が存分に暴れているという感じは希薄だ。そうでもないんだろうか。今の学生はこんなものなんだろうか。あるいは,今どきだと学園祭以外に発散する場がいくらでもあるんだろうか。

2017年11月21日火曜日

2017.11.18 第8回音楽大学オーケストラ・フェスティバル 東京藝術大学・桐朋学園大学

東京芸術劇場 コンサートホール

● 「音楽大学オーケストラフェスティバル2017」。今日から計4日間の日程。開演は午後3時。チケットは1,000円。
 今日は藝大と桐朋が登場。初日で両横綱が顔を合わせてしまった。

● 藝大はストラヴィンスキー「ペトルーシュカ」。桐朋はプロコフィエフ「ロミオとジュリエット」(もちろん抜粋)。
 もちろん偶然だろうけれども,バレエ音楽が並ぶことになった。

● 粛然として襟を正さしめる何ものかを,ステージ上の音大生は放っている。四の五の言わせない,強い何ものかを。
 その何ものかを充填しているのが,彼ら彼女らがここまで来るのに払ってきた,膨大な時間であることはハッキリしている。一点に費やしてきた膨大な時間。それはまた,その一点以外の可能性を排斥するものでもあった。
 彼ら彼女らには,今このステージ上に立っているという以外の生活があり得た。客席にいてこの演奏を聴いている人生もあったはずだ。
 が,その一点以外の可能性をすべて捨てて,その結果,今このステージにいるという,圧倒的な事実。

● 息をするのも憚られるような濃密な緊張感が,客席を支配する。その何ものかに圧倒される快感というのがたしかにある。

● まず,藝大。指揮はラースロー・ティハニ氏。ハンガリーの人。
 藝大でも奏者の多くは女子。が,数は少ないながら,男子もしっかりとそこにいる。男子がしっかりとそこにいることの安心感のようなものがある。何だろうね,これ。

● 歌舞音曲は女のものという風潮というか色合いというか,それは今でもあるのか。それとも過去のものになったのか。
 どうも今でもあるのじゃないかと思う。が,楽器を操る男子がひと頃よりは増えているようにも思える。
 それって,男が女に取り込まれている(男女差がなくなってきている。ただし,女寄りの方向に)からで,歌舞音曲は女のものという命題が否定されつつあることの証左にはならないように思う。
 という埒のないことを思ったりしたんだけど。

● 次は桐朋。女子比率は藝大より高い。もちろん,だからダメということではまったくない。何というのかなぁ,東正位の貫禄というのかなぁ,確信のようなものを感じるんですよ。
 これでいいんだ,自分たちのやってきたことは間違っていないんだ,っていう確信。臆せず,グイグイ前に出る迫力。
 この音大フェスは何度か聴いているんだけど,桐朋から感じるのはこのことだ。

● 指揮は中田延亮さん。経歴が面白い。筑波大学の医学部(筑波では学部とは言わないらしいのだが)を途中で飛びだして,音楽の世界に転んだ。医師免許は放棄したのだろう。
 世間一般からすればモッタイナイの典型例。しかし,やむにやまれぬ大和魂。
 ときどき,いるよね。勉強もできちゃったから医学部に行ったけど,やっぱり自分のいるところはここじゃないと気づいて(という言い方でいいんだろうか)音楽の世界に飛びこむ人。

● チケットの1,000円は,このイベントを開催するのに必要な装置と労力を考えれば,ほとんどタダに近いだろう。無料というのも何だから,いくらかいただくことにしましょうか,という感じなんでしょうかね。
 いや,奏者は学生なんだし,指揮者も手弁当なのかもしれない(日本を代表する指揮者が登場するんだけど)。だとすると,チケット収入だけで賄えているはずだ。
 が,その場合は,演奏する側がボランティアということになるわけで,いずれにしても,ぼくらはそのおこぼれに与っている。

● 電車賃が4千円かかるんだけど,これはそれでも聴きに行きたい演奏会。
 来年から東京に出向くのは抑制しようと思っている。最低でも半分にしたいのだけど,どうしても残ってしまうものがあって,これはそのひとつですね。

2017年11月8日水曜日

2017.11.05 東京フィルハーモニー交響楽団演奏会「ブラームスはお好き?」Vol.1

宇都宮市文化会館 大ホール

● 宇都宮市文化会館で東京フィルハーモニー交響楽団の演奏会が開催されるのは,2010年6月から2014年11月までに6回あった(それ以前からあったのかもしれない)。
 後半の3回は,地元出身の大井剛史さんの指揮でオール・チャイコフスキーだった。その後,会館の改修工事もあって途絶えていたわけだが,改修後のこけら落としも東京フィルだったのではないか。
 その演奏会には行けなかったので,わりと久しぶりな東京フィル。

● この「ブラームスはお好き?」は,オール・ブラームスで全4回になる予定。大井さんが指揮をとる。大井さんのための演奏会という感じだね。地元出身の有力な指揮者を全面的に支持するぞ,というホール側の決意を感じる。
 もちろん,異議はない。大井さんならば,それで不自然さを感じさせるところは皆無だから。

● 以前,那須野が原ハーモニーホールが,毎年,東京交響楽団を招聘していたけれど,現在は行っていない。宇都宮市文化会館と東京フィルの関係は,栃木県内でプロオケの演奏を聴ける貴重な機会を提供してくれている。
 というわけで,東京フィルの演奏を聴くのは,これで7回目になる。プロのオーケストラの演奏を聴くことはほとんどないんだけど,東京フィルはダントツで多い。
 ちなみに,他には,N響を3回,東響山響日フィル読響兵庫芸術文化センター管弦楽団をそれぞれ1回。国内のプロオケを聴いたのは,これですべてだ。

● 開演は午後3時半。チケットはS・A・B・C。Sが4千円で,以下千円きざみ,C席は千円。ぼくは2千円のB席をかなり早い時期に取っておいた。
 で,そのB席というのが,ぼくが好んで座る2階のウィング席なんでした。そっかぁ,自分の好みの席はBだったのか。でも,1階席の真ん中辺よりここの方がずっといい。前席の人の頭が視界を遮ることがない。ステージをバッと見渡せる。
 逆に言うと,この席をBにしてるってのは,相当に良心的だとも言える。

● プログラムは次のとおり。
 大学祝典序曲
 ピアノ協奏曲第1番 ニ短調
 交響曲第1番 ハ短調
 クラッシックを聴く人で,ブラームスが嫌いという人はあまり(というか,ほとんど)いないと思う。ブラームスに駄作はない。何を聴いても,ブラームスなら安心このうえない。

● ところが,ぼくときたら鈍というか愚というか,ブラームスがわかったと思えたのは,だいぶあとになってからだった。
 2013年10月に,兵庫芸術文化センター管弦楽団の演奏を聴いたときだ。指揮は佐渡裕さん。演奏したのは交響曲第4番。このときの憑きものが落ちた感じは,もちろん今も憶えている。

● 大学祝典序曲。東京フィルって,プロオケの中では団員の平均年齢がだいぶ若い方なんだろう。いい意味での若さが充満していて,清新な印象を受ける。
 この楽団の持ち味と言っていいんだろか。この曲の曲調に合っている。

● ピアノ協奏曲第1番。ソリストは黒岩航紀さん。この名前は憶えておくべきだ。25歳の天才ピアニスト。彼も栃木(宇都宮)育ち。
 技術的にはすでに頂点に達しているのだろう。ここから先は技術以外のところでどこまでノビシロを拡げていけるかだろうけど,このレベルの話はぼくのような素人が口を出していい部分ではない。本人が色々と試行錯誤を重ねているに違いない。

● 交響曲1番は,ブラームスの4つの交響曲の中でも,こめられたエネルギー量が最も大。エネルギーが迸っているのに破綻が一片もないという,大変な作品だと思うんですが。
 演奏する方はもちろんだろうけど,聴く方もしっかり疲れる。

● 大井さんの指揮ぶりも魅力。指揮者を見ているだけで飽きることがない。
 彼の指揮に初めて接したのは,那須フィルの音楽監督を務めていた頃,7年前か。そのとき,大井さん,36歳。この7年間,着実に月日を充たしてきたんだろう。風格らしきものも漂うようになっていた。
 オーケストラとの関係をどう持っていくか,どうやってオーケストラを掌握するのか,あるいは掌握してはかえっていけないのか。書物で得た知識はぼくにもあるんだけど,すべてを文字にすることはできないものだろう。現場に立つ者にしかわからないことが海のようにあって,その多くは言葉に翻訳することができないに違いない。

● B席チケットが2千円。交通費が770円。たったそれだけのコストで,宇都宮でこれほどの演奏が聴けるとは幸せだ。本当にそう思う。
 3千円足らずで王侯貴族になった気分を味わえるのだ。いい時代に巡り合わせた。
 だいぶ高揚してしまったので,終演後は鶴田駅まで歩いてクールダウンした。東の空にかかっていた満月がきれいだった。予定調和的な終わり方で申しわけないが。

2017年11月7日火曜日

2017.11.03 マーキュリーバンド 25周年記念特別演奏会-ゲーム音楽の夕べ

栃木県総合文化センター メインホール

● 開演は午後7時。入場無料。「ゲーム音楽の夕べ」と題したプログラムは次のとおり。
 第1部 「ドラゴンクエスト」
  序曲
  街でのひととき
  遙かなる旅路~広野を行く~果てしなき世界
  結婚ワルツ
  戦火を交えて~不死身の敵に挑む
  エーゲ海に船出して

 第2部 「ファイナルファンタジー」
  FFメインテーマ
  FFダンジョンメドレー
  Never Look Back~Dead End
  FFバトル2メドレー

● というわけで,ドラクエとFFのゲーム音楽を演奏。吹奏楽を聴くのは久しぶり。
 女性奏者がカラフルなドレスで登場したのもナイス。女性はやっぱり花だから。花は花として艶やかに咲いているべきで,この点については年齢は関係がない。咲いた者勝ち。
 といっても,咲ける機会はそんなにないのが実情だろうから,こういう場では思いっきり派手にやった方がいいのだ。

● ぼく自身はゲームはやらない人間だ。20世紀タイプだ。
 が,バレエ音楽はバレエと一緒じゃないと楽しめないかというと,そんなことはない。音楽だけを切り離して聴いても鑑賞に耐える曲は多い。映画音楽は映画を見ていないと楽しめないかといえば,そんなことはない。映画から切り離して音楽だけ聴いても,鑑賞を妨げるものは何もない。
 ゲーム音楽もしかり。ゲーム体験なしに聴いても,まず支障はあるまいと思われる。

● もちろん,ゲームをやっていれば,そのときの気分,そのゲームをやっていたときの自分の状況を思いだして,あの頃は仕事がけっこうきつかったなとか,自分の来し方(近過去)を思いだして,それぞれなりの楽しみ方ができるだろう。
 しかし,ゲーム体験は必須ではない。一曲の演奏ごとにゲーム絡みの解説があったんだけど,これはあってはいけないものではないけれども,なくても別によかったかもしれない。

● 楽しい演奏会だった。なくてもよかったかもしれない“解説”も与って力あったか。
 日本のゲーム音楽の水準は相当なものだと気づくこともできた。分野々で,どの世界にも端倪すべからざる職人がいる。下手な現代クラシック音楽など吹っ飛ばされるのではないか,と思わせる。

● ただし,困った状況だなと思った。ぼくに残された時間がない。要するに聴ききれない。
 クラシックに限ってみても,一度も聴いたことのないCDがごろごろある。気に入った曲は繰り返して聴くことになる。ベートーヴェンやバッハ,ブラームスには何度聴いたかわからない曲がある。時間には限りがあるから,いきおい,他の多くの曲は聴かないままになる。
 この世の音楽はクラシックだけではない。ジャズ,ロック,レゲエなどなど。邦楽もあれば,映画音楽もあり,ポップスだって膨大にあるのだ。

● 4月から車通勤になったので,往きも復りも,車内ではNHK-FMをつけっぱにしている。「夜のプレイリスト」を聴きながら運転することもある。
 最近,高橋由美子が越路吹雪を紹介していた。一発でノックアウトされたましたね。越路吹雪,素晴らしい。これを聴かないで生きてきてしまったとは,われながら何を考えていたのか。
 次の週にはジョン・ウィリアムズの映画音楽が紹介された。スターウォーズなどたくさんある。これもあらかたは聴いていない。
 こうして聴きたい音楽は増える一方だ。今回,それにゲーム音楽が加わることになった。

● ぼくに20年の寿命を追加配分してくれないか。寿命だけでは困る。音楽だけを聴いて生きていられるように,衣食住の配給もお願いしたい。
 って,その20年の間にも新しい音楽が生まれ,聴きたい音楽が増えるだろうね。つまり,寿命の追加配分は最終解決にならないんだよなぁ。
 困ったものだなぁと思いながら,会場を後にしたことだった。