那須野が原ハーモニーホール大ホール
● 9日(月)は今年初めてのコンサートに出かけた。那須野が原ハーモニーホールのニューイヤー・コンサート。3時開演だったので,11時半に自転車で自宅を出た。2時に到着。開場は2時15分だったので,ちょうどよい頃合いだった。
● コンサートは3部構成。が,その前にプレイベントとして「与一太鼓」が披露された。藤田正典氏(といっても,ぼくはまったく存じあげないが)が構成した「与一永劫のかなたへ」と「与一の里 祭ばやし」。併せて20分ほどのパフォーマンス。聴きごたえがあった。
● さて,ここで3時になり,第1部は「那須野が原ヴィルトゥオーソ」。ヴィルトゥオーソとは「演奏の格別な技巧や能力によって完成の域に達した,超一流の演奏家を意味する言葉」でありますね。出演者は栃木県の出身者か在住者を集めているようだった。
トップバッターは藤本美玲子,曽我陽子さんのピアノ連弾。ふたりとも那須塩原市に住んでいる。ミヨーの「スクラムーシュ」と三善晃の「雪」「夕焼小焼」。
● 次は吉成律子さん(大田原市出身)のフルート。ドビュッシーの「小舟にて」とプーランクの「フルート・ソナタ」。
ドビュッシーは吉行淳之介氏のエッセイに何度か登場している。それを読んで比較的早い時期に知った作曲家なのだが,ぼくにとっては非常に難解。感性の問題なのだろう。
● 3番はチェロの本橋裕氏。那須塩原市の出身で,セントラル愛知交響楽団のチェロ奏者。彼の演奏は前に同じこのホールで聴いたことがある。那須室内合奏団の演奏会に来ていたのだった。ブロッホの「バール・シェムより“ニグン”」とショパンの「序奏と華麗なポロネーズ ハ長調」を演奏。
● 最後は須藤梨菜さん(ピアノ)。宇都宮市出身。8歳で東京フィルと共演したというから,天才少女で鳴らしたのだろう。
4月12日に総合文化センターでポーランド・シレジア・フィルハーモニー管弦楽団の演奏会があるのだが,そこでショパン「ピアノ協奏曲第2番」のソリストを彼女が務める予定。来年3月には読売日本交響楽団の演奏会がやはり総合文化センターであるのだが,そこでもチャイコフスキー「ピアノ協奏曲第1番」のソリストに予定されている。地元の演奏家にチャンスを与えようということなんだろうけどね。
この日の演奏は,ドビュッシー「月の光」「喜びの島」とクライスラー(ラフマニノフ編)「愛の喜び」。
● こうしたソロ的な演奏は玄人受けするのだろうが,うねるような盛りあがりはないので,ぼくのような初心者には物足りない。音楽はやはり管弦楽だよなぁと思いながら聴いていた。
それと客席の質にどうも問題がある。ぼくの席は1階の最後列の通路側だったんだけども,演奏中にどんどん入ってくる観客がいるわけだよ。靴音がしてしまう。鼾も聞こえてきたり。
● 今回のチケットは昨年11月30日の東京佼成ウインドオーケストラの演奏会に行ったときに購入しているのだが,その時点でだいぶ席が埋まっていて,ぼくは残り少なかった1階席を取れてラッキーだと思ったんだけど,2階席はガラガラ(もともと多くの席があるわけではないけれど)。1階席にもそれなりに空席があった。
まとまって空いていたから,何か特殊事情があるのかもしれない。
● 第2部は「ニューイヤーオペラ」。出演者はやはり栃木県ゆかりの次の5人。大貫裕子(ソプラノ,鹿沼市出身),日原大朗(バリトン,大田原市出身),田中明美(ソプラノ,那須塩原氏在住),髙田正人(テノール,宇都宮出身),寺田功治(バリトン,那須塩原市出身)。
演しものは広く知られているものを選んだようだ。ヴェルディの「椿姫」より「乾杯の歌」とか,ビゼーの「カルメン」より「闘牛士の歌」とか,プッチーニの「蝶々夫人」より「ある晴れた日に」とかね。
大貫さんは第1回コンセールマロニエの声楽部門優勝者。エンタテイナーとしての愛想の良さももっている人。田中さんの声の伸びに感嘆。男声もそれぞれさすがのレベル。うっとりと楽しむことができた。
● ここまで聴いて,このニューイヤー・コンサートは音楽のバラエティ番組のようなものだなと思った。バラエティはバラエティで別に悪くはない。けれども,やっぱり芯が欲しい。その芯になりうるものはやはり管弦楽。
そこは主催者もよくわかっていらっしゃる。第3部は「ウィーンのかおり」と題して弦楽亭室内オーケストラが登場した。
● 弦楽亭は那須町にある民間のホール。オーナーは前嶋靖子,矢野晴子の双子姉妹。核になる活動グループが「ザ・芸者ストリングス」。矢野晴子さんはそのメンバー。
「ザ・芸者ストリングス」とは何かといえば,「女流弦楽奏者で構成される弦楽四重奏ユニット。全員が本格的な技術を持つ東京芸術大学出身。ユニット名は古来から伝わる日本女性の芸の心を表しています」とのこと。
ここからの人脈で弦楽亭室内オーケストラも結成されたのだろう。管や打は新日フィルから助っ人に来ているらしい。ヴァイオリンは執行恒宏さんも加わっていた。つまり,かなり本格的なオケというわけだ。
● まず,プロコフィエフの「交響曲第1番」。指揮は柴田真郁さん。初めて聞く名前だけれども,ぼくにも指揮者の力量というものがおぼろにわかりつつある。彼の指揮ぶりを見て,あ,こいつ,ただ者ではないとわかった。
プログラムに載っているプロフィールによれば,遠回りをしてきた人のようだ。下積みが長いというか。
次はマーラー「さすらう若人の歌」より第2曲「朝の野を歩けば」。第2部に登場した寺田功治さんが共演。次いで,サン・サーンスの交響詩「死と舞踏」。
ここまでで完全に満足した。このコンサートは安すぎる。第3部だけでモトが取れる(ぼくが持っているチケットは2千円)。
● さらに後半はシュトラウス2世の「ウィーン気質」。チャイコフスキーの「くるみ割り人形」から抜粋。「花のワルツ」では大田原在住の斎藤芙三晃・美菜子夫妻(プロの競技ダンサー)のダンスが加わった。「雪片のワルツ」では田中明美・大貫裕子の両ソプラノが共演。
寄席でいえば色物にあたるのかもしれない。しかし,格段に華やぐことは間違いない。
● 音楽はエンタテインメントなのだと実感できた。音楽に限らないだろう。芸術はエンタテインメントたりえていなければ,存立する意味はおそらくない。お笑い芸人とこうしたクラシック音楽とは,機能の究極はたぶん同じだ。
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