2012年7月16日月曜日

2012.07.15 栃木県総合文化センター開館20周年記念公演 オペラ「椿姫」

栃木県総合文化センター メインホール

● 15日はオペラを観に行った。ヴェルディの「椿姫」。総合文化センターの開館20周年記念の公演。昨年に予定されていたんだけど,東日本大震災のため中止。今年,あらためて催行されたもの。
 特徴は,演出も指揮も歌手も管弦楽も,栃木県の出身者,在住者でまかなわれたこと。
 演出は宮本哲朗さん。指揮は佐藤和男さん。管弦楽は栃木県交響楽団。主役ヴィオレッタに菊川敦子さん。アルフレードに菊川祐一さん。ジェルモンに石野健二さん。合唱は栃木県楽友協会合唱団。
 歌い手の多くは音大を卒業しているけれども,現在は教職に就いていたり,別に本業を持っている方々だ。

● こうして「オール栃木」で開催してくれた結果どうなったかといえば,チケットが安くなった(総合文化センターの記念行事だから,センターを運営する財団からも助成金が出ているに違いないのだが)。
 ぼくはかなり早い時期にS席のチケットを手に入れていた。そのS席が3千円なのだ。ほかにA席とB席があるけど,B席でも2千円なので,S席の方がお得ってことで。
 開演は午後1時半。客席は文字どおりの満員御礼。

● いくら安くたって,安かろう悪かろうでは仕方がないじゃないかと言われるか? その通りだ。しかし,2つほど反論が可能だ。
 その1。海外オペラの日本公演をサントリーホールや新国立劇場で観たら,料金はいったいいくらになるか。あまり考えたくない金額になるだろう。そうであっても好きならば行くべきだ,お金には換えられない価値があるはずじゃないか。
 そうかもしれない。けれども,価値があろうとあるまいと,ない袖は振れないのだ。ぼくは週に8千円のこづかいしかもらっていないのだぞ。威張るようなことじゃないけどね。

● その2はあとで書くことにするが,ともかくぼくにオペラ鑑賞経験はないに等しい。まったくの無知。
 そうであれば,こういうことを書いてはいけないのかもしれないのだが,今回の宮本さんの演出はしごくオーソドックスなものだった。公演の性格上,とんがった演出などできるはずもないという事情もあったのだろうけど。
 舞台装置も衣装もオーソドックスゆえに,初心者でも抵抗なく受け容れることができた。

● じつは,正直なところ,管弦楽を聴ければいいやくらいの気持ちで出かけていった。舞台にはあまり期待していなかった。ちょっと高級な大人の学芸会だろう,ってね。
 だいたい,オペラのストーリーって,ひと言でいえば荒唐無稽だ。あり得ない。子供だましにもならない。

● けれども,その荒唐無稽な物語が,演者の歌と演技,バックの管弦楽によって,生きてしまう。動きだす。あり得るものになってしまう。
 こうまで微細に表現できるものなのか。その表現がストーリーのラフさを埋めていく。
 実際,最後にヴィオレッタが亡くなるところで,オレ,泣いちまったもん。
 そりゃあね,腑に落ちないところもあるんですよ。若きアルフレードの腹がなんで出てるんだよ,とかさ。でも,そういうのって本場のオペラでもありそうなことだ。そこは想像力で補えばいい。

● 歌は原語(イタリア語)で歌われる。その意味がわからないとどうにもならないが,字幕が出るので問題はない。もちろん,逐語訳ではない。逐語訳なんかされた日には,字幕を読むだけで脳がいっぱいいっぱいになってしまって,舞台に注意が届かなくなるだろう。
 あ,こんなことを言っているのか,とわかる程度の日本語が表示されるだけだ。つまり,字幕もラフといえばラフなのである。けれども,それだからこそ,舞台で何が起きているのか了解できるのだ。
 もう何度となく上演されている歌劇だから,字幕にも定番があるんだろうね。

● とにかく言葉が多いんですね。そういうことまで言葉にするのかよって思う。日本人なら,そこは省略するだろうなと思える言葉でも,どんどん口から出すんですな,かの国の人たちは。
 こうした言葉だらけの劇が日本で生まれるはずはないなと思いましたね。歌劇だからかもしれません。かの国の人たちも普段の生活で,ここまで言葉を吐きだすことはないのかもしれない。歌に託すから,これほどの言葉でも許容されるのかもしれないですね。
 というより,その饒舌もオペラの要素なのでしょうね。それがないと劇として成立しないものなのでしょう。

● じつに贅沢なエンタテインメントなのだった。まず,面白い。面白くなければエンタテインメントじゃないものね。現在まで生き残っているオペラは,すべて例外なく面白いに違いない。
 オケピットではオーケストラが演奏してて,舞台では演者が歌と演技で楽しませてくれる。その歌の裏にどれほどの鍛錬が籠められていることか。
 舞台には場面に応じたしつらえが施される。とんでもなく人手がかかっている(ゆえに,海外オペラの日本公演が考えたくもない料金になるのも致し方がないんでしょうねぇ)。
 それを客席で,まぁお気楽に鑑賞できるってのは,途方もない贅沢ですよ。

● というわけで,舞台にはあまり期待しないで出かけたんだけど,このうえなく無礼でした,これ。
 宮本哲朗さん,ごめんなさい。菊川敦子さん,ごめんなさい。舞台の設営や衣装の用意に奔走した皆さん,ごめんなさい。

● 終演後のカーテンコールでは,主役の菊川さんが感極まって泣いていた。演じた側にも達成感があったんでしょう。そりゃそうだよなぁ。

● つまり,これが反論その2であって,安かろう悪かろうでは決してなかったってこと。価値ある3千円だったと思いますよ。
 可能であれば,定例的な公演にしてほしいものだ。でも,資金その他の問題がありますもんね。なかなかそういうわけにもいかないでしょうねぇ。

● オペラのDVD,買おうかなぁ。今,アマゾンをチェックしたら,意外に安かったしね。

4 件のコメント:

  1. 初めまして。
    突然の投稿、大変失礼致します。
    私はこの【椿姫】の出演者の一人です。
    公演に関する記事を検索したところ、
    このブログに辿り着きました。

    周りの方たちからは「良かったよ!」の声、
    「どこが良かった?ダメなところは?」と
    踏み込んで聞く事もなかなか出来ません。

    なので貴方様の率直なご意見、
    本当に嬉しく思いました。

    これからも厳しく温かいご意見を頂ける事を
    心から願っております。

    勝手な事ばかり書き込み、ごめんなさい。
    本当にありがとうございました。

    P・S アルフレードの「ハラ」はご容赦頂けると
        本当にありがたく思います(笑)
        ちなみに【椿姫】初演失敗はヴィオレッタの
        体型だったそうです

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    1. ありがとうございます。出演者の方に読んでいただけたとは光栄です。

      私は良き鑑賞者ではまったくなく,舞台の醍醐味や舞台表現の機微もわかっていないはずです。
      そのうえでの感想ですが,面白かったですよ。いや,本当に。

      詳細は本文に書かせていただきましたが,もうひとつ感じたのは,自分がステージではなく,客席にいる人間でよかったなぁってことですね。
      客席側の幸せといいますか,お気楽さといいますか。あっち側にいたら大変なんてもんじゃないぞ,っていう。

      そのお気楽な立場から,またやってくれないかなぁと思ってます。
      オペラ1本を形に仕上げて客席にさしだすのは,おまえが考えているほど簡単なことじゃないんだぞ,と言われそうなんですけどね。

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  2. 宮本哲朗さんの演出はオーソドックスな演出で、安心して観られましたね。ジェルモンが、やや年齢が高い感じで、通常の椿姫で観られるジェルモン役より、枯れた老人ぽくて興味深かったです。

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    1. 同感です。

      ジェルモンは面子を重んじる古くて頑固な堅物であると同時に,どこかに淋しさのようなものを漂わせているはずだと思っているのですが,石野さんの演じるジェルモンはそれが出ていて良かったと思いました。
      たぶん,意識してそうされていたのではないと思うのですが。

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