2020年2月29日土曜日

2020.02.29 第24回コンセール・マロニエ21 本選

栃木県総合文化センター リハーサル室

● 昨年の10月12日に開催予定が,台風19号によって今日に延期された。ここでまたコロナ・ウィルスで中止なんてことになったら,目もあてられない。
 コンクールなんだから観客を入れないで実施するのはありだと思われるが,予定どおりの開催となった。ありがたい。
 10月12日はぼくも24時間職場に詰めることになったので,延期自体がありがたい。おかげで聴くことができる。

● ぼくはこのコンクールを普通の演奏会として聴いている。ここでしか聴けない曲目ばかりだ。東京に住んでいるなら格別,栃木ではこれを代替できる演奏会はない。かなり貴重な機会なのだ。
 しかも演奏するのはファイナルまで残った人たちなのだから,演奏に文句があろうはずがない。こちらとすればこの催事に便乗して,気持ちよく聴かせてもらうだけだ。

● このコンセール・マロニエにはもうひとつ楽しみがある。それは何かといえば,プログラム冊子に掲載されている審査員長の沼野雄司さんの挨拶文を読むことだ。
 毎回,コンクールの意義についての考察が披露されており,そうだったのかと思うことが多い。今回は,「コンクールは,他者との触れ合いの場であるがゆえに,意義を持つ」とある。「たったひとり,舞台の上で自分の音楽を奏でて,価値観の異なる審査員を説得しなければいけない。いわばコンクールのステージは,徒手空拳で立ち向かう「外国」のようなものです」と。
 この文章を読めただけで,今日ここに来た甲斐があったと,ぼくは思う。コンクールが増えすぎたので,コンクール慣れしてしまって,「外国」にならない場合が増えたかもしれない,というのは,また別の話だ。

● さて,第24回の今回は金管。順に聴いていくことにしよう。
 1人目は田村相円さん。チューバ。国立音大の4年生。ペンデレツキ「無伴奏チューバのためのカプリッチョ」とボザ「コンチェルティーノ」。後者のピアノ伴奏は大川香織さん。
 悠揚迫らざる大人(たいじん)の趣あり。大人の風格にチューバという楽器はまったく違和感がない。

● 2人目は武藤向日葵さん。トランペット。昭和音大の2年生。今回の最年少出場者。アルチェニアン「トランペット協奏曲」。ピアノ伴奏は神永睦子さん。
 小さい頃は名前で苦労したのではないかと,余計なことを思ってしまった。が,おそらく名前のとおり,向日性の性格かと思う。かなり陽性。抑えようとしても,ポロッポロッと陽性が現れでる的な。

● 3人目は芝宏輔さん。チューバ。藝大の卒業生。ペンデレツキ「無伴奏チューバのためのカプリッチョ」とヤコブセン「チューバ・ブッフォ」。ピアノ伴奏は再び大川香織さん。
 チューバにピアノ伴奏の取り合わせは面白い。つまり,ピアノは音の粒がはっきりしていて,粒が粒である時間がけっこう長い(ように感じる)。対して,チューバの音は発せられるとすぐに空気に溶け始める。音の寿命が短いというより,輪郭を保っている時間がピアノに比べればだいぶ短い(ように思われる)。
 芝さんのチューバはクリアでメリハリがあって,その短さに対抗している感があった。が,ぼくは大川さんのピアノに気が行ってしまって。美しくも勝ち気そうな大川さんがピアノから生みだす音の粒たち。見事な伴奏だったと思う。

● 4人目は山川栄太郎さん。トランペット。尚美学園を卒業。タンベルク「トランペット協奏曲」。ピアノ伴奏は下田望さん。なんと,譜めくりを武藤さんが務めた。
 こういうこと,あるんだ。知り合いだったりするんだろうかね。そういう世界なんだろうかな。

● 5人目は岩倉宗二郎さん。今回,唯一のトロンボーン。武蔵野音大を卒業。ヨルゲンセン「組曲」。ピアノ伴奏は城綾乃さん。
 出てきた瞬間にあだ名を付けたよ。ムーミン,だ。たぶん,リアルでもそのあだ名で呼ばれたことがあるに違いない。
 いや,ムーミン,すごいよ。いっぱいいっぱいの表情ながら2割の余力を残していたのではないか。

● 6人目は西本葵さん。これまた,今回唯一のホルン。R.シュトラウス「ホルン協奏曲第2番」。ピアノ伴奏は野代奈緒さん。
 西本さんは東京音大なんだけど,東京音大と武蔵野音大ってのは好一対で,東京音大が山手,武蔵野音大は下町というイメージがある。申しわけない(どちらに対して?)。
 西本さんもそのイメージを裏切らない。お金持ちの家で育ったお嬢様という印象。モデルも務まる。
 演奏も素晴らしい。曲もいいので,曲に引っぱられて感想を作ってしまっているかもしれないのだが,そうだとしても演奏も相当にいい。

● 7人目は石丸菜菜さん。男なのに名前が菜菜とはこれいかに。石丸さんも名前で苦労したかなぁ,幼少時代は。
 チューバ。藝大を卒業。ペンデレツキ「無伴奏チューバのためのカプリッチョ」とヤコブセン「チューバ・ブッフォ」。ピアノ伴奏は城綾乃さん。
 「無伴奏チューバのためのカプリッチョ」は3回聴くことができた。「チューバ・ブッフォ」は2回。この曲を生で聴く機会はおそらくないだろうと思っている。ひょっとすると,このコンセール・マロニエ21の次の金管部門のときに聴けるかもしれないけれど。

● すでに結果は出ているはずだ。総合文化センターのサイトで見ることができる。ぼくはあえて見ないことにしているが。
 にしても。新しい才能が次々に出てくるものだ。その分,古い才能が出ていくかというと,そういうわけにはいかないので,新旧の才能が滞留してしまう。
 厳しい状況でしょう。聴き手にとってはありがたい状況であるのかもしれないのだが。

● リニューアルなった栃木県総合文化センターに入ること自体,今日が初めて。
 ギャラリー棟のロビー。最も大きな変化点は,椅子とテーブルが増えたことだ。快適性が向上した。
 カウンターの長いテーブルと,4人がけ用の四角いテーブル。お喋りする人は四角いテーブルを,何か食べたりちょっとした作業をしたい人は,左側のカウンター席を使えばいい。パソコンや書籍を置いて使うのにちょうどいい高さだ。自販機でコーヒーを買えば,スタバの代わりにもなるかも。

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