飛山城史跡公園
● 宇都宮の東部に飛山城史跡公園っていうのがある。かなり地味めな存在で,宇都宮市民でも知らない人がいるんじゃないかと思う。ちょっと不便なところにあるしね。
ここで「邦楽ゾリスデン」のコンサートが行われた。邦楽では栃木県内最高水準。しかも,圧倒的な水準。
これを聴いてダメなら,邦楽は自分には無縁なものと諦めなければならないと思いますね。それはそれで,別に恥ずかしいことでもないわけだし。
● じつはですね,3月24日に宇都宮市文化会館で「邦楽ゾリスデン」のちゃんとした(?)コンサートがあったんですけどね。
でね,行ったんですよ。当日券で聴こうと思って。ところが。入口に「完売」と告知されていて。ガックリして回れ右という仕儀にあいなった。
小ホールではあったんだけど,まさか当日券がなくなるとは思わなかったよなぁ。自由席で完売ってのは,ひょっとすると年末の「第九」なんかにはあるのかもしれないけれども,ぼくは今まで遭遇したことがない。そのときが初めて。
● なめてましたね。知る人ぞ知るっていう域を超えてきたのかなぁ。ぼくが知ってるくらいなんだから,多くの人が知っているはずだと思うべきだった。邦楽って濃いファンもいるんだろうし。
そのときの残念感を少しでも埋めたいなというわけなんでした。
● 野外での演奏だった。白いプラスチック製のビーチチェアというんですか,その椅子が並べられていた。
お客さんは圧倒的に年寄りが多かった。近くの老人ホームの入所者も集団で来ていたっぽい。あとはオバサンのグループ。オバサンに比べれば少ないけれども,オジサンのグループ。小さい子供を連れた夫婦もいるにはいたけれど。
幸い,天気がもったのでよかった。ここには「とびやま歴史体験館」なるミニ博物館もあるから,雨天の場合は,その体験館の研修室かホールを使うつもりだったのだろう。
● 手作り感が濃厚で,こういう演奏会も悪くないと思えた。主催者のNPO法人飛山城跡愛護会の職員が一生懸命にやっていたことも,そう感じさせた一因。
最初のうちは,ちょっとうるさいと思ってたんだけどね。が,よく観客を見て対応してて,途中からこれでいい(っていうか,こうでなければいけない)と納得。
野外だから,マイクで音を拾ってスピーカーにつなぐというやり方だった。開演は午後2時。入場無料。
● 登場したのは,福田智久山(尺八),前川智世(箏,十七絃),津野田智代(箏)のお三方。これほど間近にお三方を見るのは初めてっていうか,こういう形の演奏会じゃないと,こんなに近くで拝謁することはかなわないでしょうね。
福田さんのみ男性。彼の指が細くてきれいなのに一驚。体も華奢ですな。尺八以外に,箸より重いものを持ったことがないんじゃないのか,と。
前川さんは和美人という感じ。当然,演奏中は俯くわけだけど,その俯いている様が様として鑑賞に耐えるということね。要するに,箏の音が聴こえてこなくても,演奏している姿だけ見てても満足できるっていうか。
津野田さんは現代型の美人。チラシに載ってる写真より本物の方が美人。普通は逆でしょ。実物を見るとガッカリするっていうのが約束事だからさ。
● お三方とも輪郭がクッキリしてる。一芸に秀でた人がその一芸を披露しているときに発散する凛々しさっていうんですか,それが客席に伝わってくる。キリッとしたもの。それもライブの恩恵のひとつだと思っている。
自分もこうしちゃいられないと背中を押される感じ。感じるだけで,死ぬまで「こうしたまま」でいるんだろうなってのは,わかってるんですけどね。
● 「邦楽ゾリスデン」のメンバーは5人。ほかに吉澤延隆さん(箏)と鮎沢京吾さん(三味線)がいるわけですな。
津野田さんの説明によると,「ゾリスデン」とはソリストたちという意味だとのこと。矜恃を込めているんでしょうね。それだけの実績と腕前と才能を備えている。
● 「道化師」(沢井忠夫)を皮切りに,「早春賦」とかジブリの「散歩」とか「荒城の月」をはさみながら,「春の海」(宮城道雄),「夏」(山本邦山),「雪ものがたり」(沢井忠夫)を演奏。
休憩のあと,「八重衣」(石川勾当)。ここでは津野田さんが三味線(三絃)を抱えて謡を披露。この曲だけは,マイクを使わず生音で勝負。充分に聴こえてた。たぶん,すべての曲をマイクなしでやっても問題はなかったかも。
最後は,松任谷由実の「春よ,来い」。アンコールは彼ら自身が作曲したという「月花」。
アンコールを含めると,2時間弱のコンサートになった。これだけ聴ければ,満足しないわけにはいかない。
● 彼らの演奏を初めて耳にしたのは,昨年10月の 「学生邦楽フェスティバル」で,さらに翌11月の「栃木県芸術祭 三曲演奏会」が二度目だった。
そのときは,箏を並べてのアクロバティックな迫力に満ちた奏法も見せてもらえたんだけど,今回の演奏にそれを望むのは望む方が間違っている。今年も10月6日に「学生邦楽フェスティバル」が,来年の3月23日に「邦楽ゾリスデン」の演奏会がある。そのときにまた,聴かせてもらえるだろう。
今度は,事前にチケットをゲットして,今年の轍を踏まないようにと,それだけを考えている。
● お三方とも幼い頃に箏や尺八に出会い,それに魅せられてか,やむを得ない事情に縛られてかはわからないけれど,ずっと箏や尺八と生きていくことを選んだのだろう。
が,こうして彼らの演奏を聴き,演奏ぶりを見ていると,箏や尺八の方が,彼女や彼を選んだのだと思えてくる。選ばれた彼女や彼には,ノーという選択肢は最初から与えられていなかったんじゃないか。必然の人生だったんじゃないか。
彼女や彼にとって,それが幸運なことだったのか,そうではなかったのか。神のみぞ知る。
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