2013年10月29日火曜日

2013.10.28 佐渡裕指揮 兵庫芸術文化センター管弦楽団 SPCIAL CONCERT 2013

栃木県総合文化センター メインホール

● 国内においても客を呼べる指揮者って何人かいるんだと思うんだけど,佐渡さんはその一人。というか,その代表格。
 客を呼べるってことは,チケットがすぐに完売するということでもあって,ここ数年でも,シエナ・ウィンドオーケストラを率いて,何度か宇都宮に来ているんだけど,チケットを買えたためしがない。気がついたら完売御礼が出ていた,っていう。
 で,今回こそはと思って,早めに入手。したら。当日券もあったようだ。ふぅーん。

● 月曜日の午後6時半ですからね。この曜日,この時間帯にホールに自分を運んでいける人って,限られますよね。年金生活者か,有閑マダムか,窓際族か,学生か。ぼくは3番目の人。
 ま,好きな人は何とか時間の都合をつけますよね。年金生活者でも有閑マダムでも窓際族でも学生でもなさそうな人が多かったし。県内で行われるアマチュアオーケストラの演奏会に比べると,年寄り比率が低かったような印象がある。
 けっこう,ハレの場的な雰囲気もあった。すべて佐渡効果といっていいのだろう。

● ともあれ。開演は午後6時半。チケットはS席で5,000円。ゲネプロも公開されたので,これもぜひ見学したいと思ってたんだけど,4時からとあってはさすがにちょっと無理だった。
 当日券があったとはいえ,場内はほぼ満席。

● まず,佐渡さんが登場してごあいさつ。この楽団ができた経緯や,楽団の特徴,今回の演奏の聴きどころなど。政治家や役人のあいさつを聞くのは苦痛だけれども,こうした人はきちんと自分の言葉で話すし,言葉と心情の乖離が少ないから,素直に入っていける。共感的に聞くことができるといいますかね。
 ところで,佐渡さん,思っていたより細い人だった(実際,ひと頃より痩せられたと思えるんだけど)。思っていたよりというのは,テレビで見た印象よりというほどの意味。テレビって太って映ると聞いたことがある。本当だね。とすると,女優さんやモデルさんって,ほんとにガリガリなんだろうな。過酷な職業だな。

● 彼ほどになれば,どうしたって毀誉褒貶相半ばすることになる。指揮のパフォーマンスしかり,指揮を離れた場所での発言もしかり。
 彼のテンションの高さとか勢いが「毀」や「貶」の対象になることが多いと思うんだけども,自分をテンション高く持っていくことができれば,人生のたいていの問題は乗り越えられる。これができないから右往左往しているわけで。
 プロ野球で下位のチームが連勝すると,勢いだけだと言われるけれども,その勢いをつけることがどれほどの難事か。
 テンションと勢い。このふたつは,東大に合格できる程度の頭脳や冷静沈着,果断といった精神態度よりも大事だし,得るのが難しいものだと思っている。

● 曲目は次のとおり。
 ワーグナー 歌劇「タンホイザー」序曲
 ピアソラ バンドネオン協奏曲
 ブラームス 交響曲第4番 ホ短調

● 35歳定年制で在籍期間は3年間。メンバーの半分は外国人。これほど多国籍な国内オーケストラは他にないだろうし,安逸を貪っている団員もいないことになる。しかも若い。
 となれば,生まれてくる演奏もピンと張られた弦のような緊張感を醸すことになる。鮮度が高い。

● 特に,ブラームスの4番は圧巻だった。少なくともぼくにとっては。
 ブラームスって,ぼくには難解だった。それが,第1楽章の途中,あ,わかったぞ,って思えた。
 一点突破,全面展開。ブラームスの曲すべてを自分なりに楽しめる地点まで一気に上昇できたっていう手応えがある。ブラームスとの距離がぐっと詰まった感じがする。彼の輪郭がなんか見えてきた感じ。この年になってこういう体験ができるとは。
 ま,徐々にぼくの水位が上がってきてて,このコンサートでポコッと頭が水面に出たってことかもしれないんだけど。

● その日のうちに,ピアノ協奏曲1番を聴いてみた。聴ける。2番を聴いた。聴ける,聴ける。やったぞ,オレ。ブラームスのCDを聴く時間が格段に増える予感。
 これってかなり嬉しい。兵庫芸術文化センター管弦楽団はぼくにとっての恩人だ。

● それにしても。ブラームスが難解,って。どんだけアホなんだ。やっと人並みの水準に一歩近づいたってことですよね。それもかなりの時間をかけて。
 うーん。鈍いというか,感度が悪いというか。

● ピアソラのバンドネオン協奏曲。初めて聴いた。曲もさることながら,御喜美江さんのアコーディオンが驚愕ものだった。
 正確にいうと,アコーディオンについて知るところが極めて乏しかったのが修正されたってことかもしれない。だってね,アコーディオンって小学生の頃に触っただけですよ。ブーッと音が延びる楽器っていうイメージしかなかったんですよ。
 とんでもない。御喜さんのアコーディオンは切れが身上。小気味よく切れていく。何だこれ,って感じですよ。

● 演奏中の厳しい表情と,演奏が終わったあとの穏やかな表情との落差も印象的。楽器や音楽を離れたところにいる彼女も,かなりチャーミングな人なのだろうなと思わせた。
 アンコールはアスティエ「ミス・カーティング」。客席もかなり以上に好意的で,盛大な拍手。

● 兵庫芸術文化センター管弦楽団は,ここで3年間みっちり研鑽を積んで次の扉を開けっていう性格の,半分は勉強の楽団ですよね。団員は切磋琢磨しているのだと思う。切磋琢磨が足の引っぱり合いになることはないとしても,人間関係で厄介な諍いを産むことはあるかもしれない。半数が外国人となれば,細かいトラブルが発生するのは日常茶飯事だろうとも思う。
 そこをまとめているのが佐渡さんの求心力ってことになるんだろうけど,ひょっとすると,この楽団のいろんなアレやコレ,華々しい成果をひっくるめて,外国人との協働のモデルケースを作りつつあるのかもしれないなと,思ってみたりする。
 しかし,どうたって佐渡さんがいればこそ,なんでしょうね。

● アンコールのヨハン・シュトラウス「ハンガリー万歳」のあとの,割れんばかりの拍手。観客のほとんどは佐渡さんに負けているよね。負けを自覚しているから,演奏会に足を運んでいるわけなんだけど。
 こういう負けって気持ちのいいもんだな。使いでのある5,000円を使えたなっていう満足感がある。うん,価値ある5,000円だった。こうなってみると,ゲネプロを見学しそこねたことが,だんだん悔しくなってきた。

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