2013年10月27日日曜日

2013.10.26 第18回コンセール・マロニエ21 本選

栃木県総合文化センター メインホール

● 今年度のコンセール・マロニエはピアノと木管。ピアノは「任意の独奏曲」だけれども,木管は課題曲が指定されている。
 で,木管部門の本選に残ったのは,オーボエ2人とフルート4人。なので,課題曲であるモーツァルトのオーボエ協奏曲を2回,同じくモーツァルトのフルート協奏曲の1番か2番を4回,聴くことになる(4人とも1番を選択したので,1番を4回)。

● 本選の課題曲はモーツァルトになることが多いらしく,第14回のときはクラリネット協奏曲を何回か聴くことになった。それがこの曲に親しむきっかけになった。
 さすがはモーツァルトで,続けて何度か聴いても,飽きない。腹にもたれることがない。いかなぼくでも,オーボエ協奏曲もフルート協奏曲も何度かは聴いているけれど,今回,2回とか4回聴くことになるのは,むしろ望むところ。

● ピアノは様々な演奏されることになるらしい。チラシに曲名が載っていた。聴いたことのない曲もある。っていうか,ベートーヴェンの「6つのバガテル」なんて,曲名じたいを初めて聞いた。
 とはいえ,ピアノ曲をこれだけまとめて聴ける機会もそうそうないわけだから,今回は事前にひと通り聴いておくことにした。ただね,CDをスマホに転送して,イヤホンで聴くという聴き方になるのでね。気を入れて聴くという具合にはいかない。
 デジタル携帯プレーヤーが登場して久しい。これのおかげで,聴く時間は格段に増えたんだけれども,部屋でオーディオから流れてくる曲に耳をすますという聴き方とは違ってくる。それでも享受できるメリットの方がずっと大きいと思うけど。

● でも,半ば予想していたことではあるんだけども,そんなことをしても無意味でしたね。スマホで聴くのとステージから届く演奏は,まったくの別物。前もって聴いておきましたよ程度では何の足しにもならないしね。
 現に目の前にある演奏は,ともかく初めて聴くものなのだから。

● ともあれ。開演は午前11時半。休憩を3回はさんで,終演は午後5時半という長丁場。審査員の先生方も楽ではないでしょうね。

● まず,ピアノ部門。トップバッターは高橋ドレミさん。東京音楽大学を昨年卒業。プログラムに載ってる写真と印象が違ったのは,今日はメガネをかけていたから。まだちょっとあどけなさが残るお嬢さん。弾いたのはシューマンの「フモレスケ」。渾身の演奏だった。
 古典派とかロマン派とかいう時代区分にどれほどの意味があるのかは知らないけれども,この曲はいかにもロマン派のものという感じは,ぼくにも理解できる。
 フモレスケとは「喜び,悲しみ,笑い,涙など,様々な感情が交差したような状態を言」うらしい。聴く人それぞれに,自由な想像が可能だろう。
 たださ,それも生で聴くからなんだよねぇ。CDで聴いてもダメなんですよ。オーケストラに比べれば,ソロの場合は生とCDの差は小さいと思うんだけど,ぼくのオーディオ環境の劣悪さゆえでしょうね。ある程度のボリュームで聴きたいでしょ。それができない環境なんだよねぇ。

● 次は和田萌子さん。芸大院を修了しているから,20代の半ばか。それにしては顔立ちに幼さを残しているように見えたんだけど,たぶん髪型のせいだな。
 グラズノフのピアノ・ソナタ第1番を演奏。体は細いんだけども,演奏はパワフル。ぼく的には今回最も印象に残ったのは,この曲だった。演奏のゆえか,曲そのものに惹かれたのか。

● 田中香織さん。桐朋からウィーン国立音楽大学大学院卒業。演奏したのは,ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第30番の第1,2楽章。ショパンの即興曲第3番。シマノフスキ「メトープ」の第1曲と第3曲。
 たぶん,今回の出場者の中で技術点が最も高かったのは彼女ではあるまいか。安定感も申し分なし。問題は「コンセール・マロニエ」との親和性がどうかってことなんだけど。完成されている印象を受けたんで。

● 菊池広輔さん。東京音楽大学大学院2年。この部門で唯一の地元出身者。ラヴェル「夜のガスパール」を演奏。傍目にも難しそうな曲で,これを緊張感を切らさずに演奏しきるのは大変そうだ。
 第1曲「オンディーヌ」はたしかに水のイメージっていうか,ぼくの脳内に浮かんだのは,夜の中禅寺湖ですね。月明かりを反射してキラキラしている中禅寺湖の湖面。夜の中禅寺湖なんか見たことはないんだけどね。

● 青木ゆりさん。桐朋学園大学4年で,今回の出場者の中では最年少になる。ベートーヴェンの「6つのバガテル」とベルクの「ピアノ・ソナタ ロ短調」。たとえば「6つのバガテル」を弾くときには,演奏者はどんな風景を見ているのだろう。
 自信たっぷりに見えた。ボーイッシュな風貌で,もの怖じせず溌剌と。

● 見崎清水さん。芸大院3年。演奏したのはショパンのピアノ・ソナタ第2番。ていねいに慈しむようにして演奏していた感じ。それがショパンを弾くときの常道なんでしょうけどね。
 4年前のこの「コンセール・マロニエ」で第3位。

● 最後は,松岡優明さん。東京音楽大学大学院を修了。ラヴェルの「プレリュード」と「夜のガスパール」。
 彼もまたたしかな技術の持ち主で,音の粒だちがいいというか,表現技法に秀でているというか。文句のつけようがない。

● というわけだった。ぼく的に予想を書きたいところだけれども,昨年それをやってはずしているので,今回は自重しよう。
 こうしたコンクールの審査というのも,絶対ではないだろうね。審査員の能力にあまるということも,ひょっとしたらあるかもしれないし,典型的な官能検査だから審査じたいにゆらぎがあるはずだ。いくつかのチェックポイントはあるのかもしれないけれども,つまりは総合印象で選ぶしかないだろうから,どうしたって個人差もでる。

● 次は木管部門。
 まずはフルートの満丸彬人さん。芸大院の1年。男のフルートもいいもんだなぁ。柔らかさって男にも合うね。まだまだノビシロを蓄えていると思えた。
 ピアノ伴奏は與口理恵さん。このピアノ伴奏の人たちはプロの方々なんですか。巧すぎる。
 モーツァルトのフルート協奏曲,何だかおざなりに作った感じがするねぇ。最晩年のクラリネット協奏曲に出てくる旋律があったりして,クラリネット協奏曲のための踏み石にも思えてくる。
 それでも聴くに耐えちゃうのは,やっぱりモーツァルトってことなんですけどねぇ。

● オーボエの古山真里江さん。芸大を今年卒業。オーボエを吹くために生まれてきたような人なんですかねぇ。
 オーケストラでオーボエを聴くときは,あたりまえのように音を出していると受けとめていたんだけど,これ,けっこうしんどい楽器だったんですねぇ。って,今さらだけど。
 ピアノ伴奏は宇根美沙恵さん。伴奏の妙にも注目。

● 川口晃さん。フルート。芸大院1年。まだ若いのに大人の風貌。器用な人だなぁと思った。どんな超絶技巧でも苦もなくやってみせてくれる感じ。
 ピアノ伴奏は再び與口理恵さん。

● 岡本裕子さん。フルート。東京音大を一昨年,卒業。ブルーのドレスで,艶やかさが際だっていた。派手ではなく,ね。コンクールではなく,自分のリサイタルのような感じでやってたのも,ぼく的には好印象。
 唯一残念だったのはプログラムに載っている写真で,これは差し替えの要あり。実物の方が美人だから。
 ピアノ伴奏は久下未来さん。

● 山本楓さん。オーボエ。芸大3年。この部門唯一の地元出身者で,栃木にはあるまじき美人。ということになれば,心情的に彼女を応援したくなるのが客席の自然というもので,このときだけは居眠りをしている人はいなかったようだ。
 全出場者の中で,彼女が最も緊張感を漂わせていたかもしれない。終わったときにはホッとした表情を見せた。
 ピアノ伴奏は,じつに羽石道代さん。

● 浅田結希さん。フルート。芸大院修了。ハラハラするところが皆無。抜群の安定感。完成の域に到達しているんじゃなかろうか。「コンセール・マロニエ」の舞台には収まりきらない人かも。
 ピアノ伴奏は小澤佳永さん。

● これもぼく的予想は出ている。んだけど,会場をあとにしたときと,今とでちょっと変わってしまった。
 変わってしまったのは,あれですよ,プログラムに載っているプロフィールをよく見て,年齢やら受賞歴やらを知ると,それに自分の印象が影響されちゃったからですよ。ということはつまり,わかっちゃいないね,ってことなんですよね。

● 来年は弦と声楽。このコンクールのファイナルは,ぼく的にはとても美味しい。聴いたことのない曲を若々しい演奏で聴けて,しかもホールはガラガラだからゆったりできる。
 べつに人に勧めるつもりはないけれど,うーん,美味しいよ。


(追記 2013.10.27)
 今,課題曲を(スマホで)聴いてみると,聴こえ方がだいぶ違う。生で聴いたことの効果ですね。
 っていうか,数日前に聴いたのは,聴いたつもりなだけで,実際は聴いてなかったのかもしれないな。

2 件のコメント:

  1. コンクールでは無いですが、5月の連休に上野の東京文化会館で毎年開催される読売新人演奏会も、同じように将来を期待される各音大のエースが、演奏しますのでとてもフレッシュで面白いですね。

    返信削除
    返信
    1. 読売新人演奏会ですか。羨ましいですね。

      円熟していない良さというのがありますねぇ。
      その人がこの時期にしかできない演奏ですね。

      削除