2019年3月4日月曜日

2019.03.02 洗足学園音楽大学オペラ公演 歌劇「ヘンゼルとグレーテル」

洗足学園 前田ホール

● 洗足学園音楽大学のサイトによると,演じるのは「オーディションで選ばれた学部生,大学院生,既にオペラの世界で活躍中の卒業生」。しかも,「バレエコースの学生による華麗なバレエシーン」まである,と。
 加えて,衣装・小道具は,「多摩美術大学演劇舞踊デザイン学科による」ものらしい。若々しくも豪華絢爛の匂いがする。

● 指揮は時任康文さんの予定だったらしいが,松田義生さんに変更になった。ステージを支えるのは,上記のとおり,洗足学園の学生たち。SENZOKU OPERAアンサンブル,SENZOKU OPERA合唱団。
 「入場無料 全席自由 予約不要」という最もありがたい催行方式。

● 演しものは,フンパーディンクの歌劇「ヘンゼルとグレーテル」。序曲は生で聴く機会がこれまでにもあったし,これからもあると思うし,CDも持っているのだが,全体を聴く(見る)機会はなかなかなさそうだ。
 Wikipediaによると,「ドイツ圏では今なお上演回数上位に位置する人気作であり,英米でも比較的人気が高い」らしいのだが。

● ぼくはCDもDVDも持っていない。オペラはCDに気が行かない。歌詞の意味がわからなければどうにもならないからで,かといってCDに付いてくる対訳冊子を見ながら聴くなんてのは,かったるくてやってられない。
 DVDもあるに違いないのだが(ビデオテープは図書館で見たことがある),あえて探すことはしていなかった。あるいはYouTubeで見ることもできるかもしれない。
 が,生でってことになると,ぼくのアンテナにはあまり引っかかってこない。

● というわけで,ワクワクしながら家を出た。上野東京ラインができて,川崎に出るのが便利になった。乗換え時間や待合わせ時間を考えると,新幹線で行くより,宇都宮から熱海行きや小田原行きに乗ってしまう方が簡便だ。
 川崎で南武線に乗り換えて,武蔵溝ノ口。造作もない(今回に限っては湘南新宿ラインでもよかった。武蔵小杉で同じように南武線に乗り換えればいい)。

● 開演は午後3時。40分前には着いていたと思う。が,すでに長蛇の列。毎年来ているらしい爺さまが今年は多いねぇと言っているのが聞こえてきたんだけど,そうなのか,今年は特別なのか。
 ホールの座席では足りず,スタッフがパイプ椅子を並べていた。満席以上。

● 観客は子連れの家族が多い。「ヘンゼルとグレーテル」ゆえだろう。
 ここからは下司の勘ぐりだが,主催者の狙いもそこにあったろうと思う。未来の受験生になってくれるかもしれない。まもなく死んでいく老人よりは,年端もいかない子供に来てほしい。未来ある若者に来てほしい。健全思考というべきだ。
 とはいえ,(ぼくを含めて)暇な年寄りも多い。というか,全体としては年寄りの方が多い。

● 日本語上演。この歌劇は日本語で上演されることが多いんだろうか。劇中の主役は子供なわけだから,日本語の方が気持ちを籠めやすいという事情があるんだろうか。客席に子供が多いことは想定できるわけだから,だったら日本語でということだろうか。
 日本語でやることには文句はない。が,その場合であっても,字幕は出してほしい。そこはオペラなので,日本語であっても字幕がないと何を言っているのか聞きとれないのだ。子供たちも同様だろう。一番いいのは,原語でやって,ルビ付きの字幕を出すことだと思うのだが。

● 予想どおりだった。ステージのセットや衣装を含めて,何というか本格的。さほどにお金はかけていないと思うのだが,チープ感は皆無。
 バレエは第2幕の終盤で登場。雰囲気がガラッと変わる。神秘感が倍加する。このオペラにバレエが加わるのは普通なのか,今回が特別なのかは知らないけれど,もし後者ならずいぶん得をした気分。
 コール・ドといっていいんでしょうね。ポワントで揺らぐような動作を見せられると,女性美の極致を見ている気分になる。これ以上の視覚美ってこの世にあるんだろうかと思う。いや,大げさでなく。

● ヘンゼルとグレーテルは兄妹。といって,ヘンゼルにはメゾソプラノが充てられているから,女性が演じる。子供なのだからテノールやバリトンはあり得ないのだが,ともかく大人の女性が演じる。
 このあたり,脳内で視覚を補正する必要があるのかと思っていたのだが,わりとそのまま受けとめていいのだった。宝塚を持ちだすのは少し違うと思うけれども,女が男を演じて違和感が出ることは,むしろ少ないのかもしれない。まして子供ということになると,性差は問題にならないか。

● 原作であるグリム童話と大きく違うのは,「母親が実母で善人となっている」ところ。したがって,最後はハッピーエンド。閉じ込められていた他の子供たちも解放されて,歓喜のうちに終わる。ハッピーエンドはいいものだ。
 上演時間も2時間に満たない。これもフンパーディンクが観客の子供が飽きないように配慮した結果だろうか。

● というわけで,軽量級で子供向けってことになるのかもしれないが,子供が本気で楽しめるものなら大人も楽しめるというテーゼは成立するか。対偶をとって,大人が楽しめないようなものは子供だって楽しめないのだと言っていいだろうか。
 そうであるようでもあり,そうではないようでもあり。

● 同じ公演が昨日もあった。つまり,2回公演。おそらく,昨日が学内関係者向け,今日が一般向けという区分けができるだろう。
 入場時に配られたチラシを見ても,洗足学園は地域貢献をかなり意識しているように思える。この公演もだいぶ長く続いているらしい。演じる学生の勉強になるのは言うまでもないとして,それでも主眼は地域との交流にあるように思われる。

● 実際のところ,地域貢献を題目に掲げていない大学はない。が,一般大学の場合は講義の公開だったり,社会人相手の生涯学習講座を開講する程度のことだ。して,その中身はといえば,おざなりであろうと思う。文科省に対するエクスキューズを作っているだけという(推測だけで言っている。違っていたら申しわけない)。
 その点,洗足学園のような音大にはアドバンテージがある。音楽という武器を持っている。刺さる人には刺さる。逆にいえば,刺さらない人にはまったく刺さらないわけだが,そういう人はそもそも市場の人ではないのだから,全然かまわない。
 その武器の使い方が巧みだよね。洗足学園の存在を社会に知らしめる効果(PR効果)は,受験雑誌や音楽雑誌に広告を打つより,こうした催しの方が,一見は地域限定に見えるけれども,かえって遠くまで届くのかもしれない。

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