2019年5月5日日曜日

2019.05.03 矢板東高等学校合唱部・吹奏楽部 第16回プロムナードコンサート

矢板市文化会館 大ホール

● 5年連続5回目の拝聴となる。開演は午後1時半だが,吹奏楽部のプレ演奏がある。入場無料。

● まずは合唱部の演奏。曲目は次のとおり。
 丸谷マナブ 世界はあなたに笑いかけている
 唐沢史比古 風と光の中で
 バルトーク・ベーラ 「児童と女声のための合唱曲集」より“春” “ここに置き去りにしないで” “求婚者”
 ドラマヒットソングメドレー
 バルトーク・ベーラ 「児童と女声のための合唱曲集」より“さまよい” “神様がともにおられますように”

● 部員は8名とのことなのだが,ステージに出ていたのは7名。うち,6名が女子。これが逆なら紅一点というわけで,紅一点ならバランスは悪くない。が,女子の中に男がひとりというのは辛くないか。つまり,男子より女子の方が強いからで,この状態というのは猛獣の群れの中に兎が一羽放りこまれたようなものだろうと,ぼくなんぞは思ってしまう。
 しかし,彼を見ているとそういう悲壮感(?)もなく,ごく普通にやっているように見受けられる。自分の常識を若い人たちに適用するのは間違いの元なのかもしれない。

● ドラマヒットソングメドレーにはお約束のMCが入り,お約束の女装男子が登場する。男子が女装すれば,それだけで笑いを取ることができるのだが,今回の女装男子は女子を演じるのがかなり上手かった。珍しい例だ。
 男装の女子もかなり上手。今の子って“あがる”ということとは無縁のようだ。掌に人の字を書いて,それを飲む真似をするなんていうおまじないは,端から不要のようだ。

● 吹奏楽部の曲目は次のとおり。
 星出尚志編 ディズニー・ファンティリュージョン!
 松下倫士 繚乱-能「桜川」の物語によるラプソディ
 山里佐和子編 歌劇「仮面舞踏会」セレクション
 “Back to the HEISEI”
 米津玄師 ピースサイン
 東海林修 ディスコ・キッド

● いずれも相当なもの。のびやかだし,句読点を打つところでは,打つべき場所にキチンと打っている。
 しいてひとつだけあげろと言われれば,「仮面舞踏会」。ヴェルディの「仮面舞踏会」を吹奏楽にアレンジしたもの。華やかな音楽だ。その華やかさがよく出ていたと思う。
 華やかな音楽なんだから華やかな演奏になるのはあたりまえだというほど単純な話ではない。それができなくて,みんな苦労しているのだ。

● しかし,附属中の生徒が演奏した「繚乱」がじつは最も印象に残った。毎回そうなのだが,中学生の演奏に注目してしまうんだな。
 特に,冒頭のフルート。楽譜のとおりに吹いているだけでは,こういう音色にはならない。思いというか解釈を載せている。パーカッションも緻密だ。
 年齢を詐称して高校生の部に登場しても,東関東くらいは狙えるんじゃないかと思った。ま,現実はそんなに甘いものじゃないのかね。

● 東関東といえば,この高校も出場校の常連に名を連ねるだろう。作新高校,石橋高校あたりと鎬を削って行くことになるんだろうか。
 現時点では作新が半馬身ほど先行している。一律的な制限がかかる(たとえば,顧問の教師は数年後には必ず異動になる)県立より,作新の方が練習環境にも恵まれているだろう(たぶん)。が,この中学生の演奏を聴くと,あるいはと思わせるものがある。

● 一方で,小さい声で申しあげるのだが,作新の演奏を聴くと,最も才能に恵まれた集団が他校を圧倒する最も激しい練習を重ねているという印象を受ける。
 時間効果の最大化を狙って練習の仕方を工夫し,それを継続していけるだけの聡明さを,この高校の部員たちは持っていると思うのだけれども,それでも半馬身差を捕えるのは生半なことではない。しかし,それをしないと東関東のその先が見えてこない。

● しかし,とさらに思う。コンクールで金賞を取るとか東関東に出るとか,そんなことよりも,このプロムナードコンサートに注力することの方が,はるかに価値が高く意義があることなのかもしれない。
 人為的に拵えられた鞭入れ機構の中で上位を目指すよりも,ここまで地元あるいは近隣地域に認知されているこのプロムナードコンサートを成功させること。

矢板市文化会館
● というようなことを思ったのは,第3部のミュージカル「塔の上のラプンツェル」を見たからだ。
 この劇で最も美味しい役は,言うまでもなくゴーテル。最初,このゴーテルの演者はヨソ(つまり演劇部)から引っ張ってきたのかと思った。それほど,台詞回しに違和感がない。ゴーテルならこういうふうに喋るだろうという,その喋り方で一貫している。が,演劇部の生徒がここまで歌えるのかとも思ってね。
 合唱部の部長が演じていたんだけども,先ほどの合唱のステージにいた部員の中の誰がこのゴーテルなのか,全然ピンと来ない。でもさ,演じるってのはそういうことなんだよね。

● ラプンツェルを演じた女子生徒もよく健闘。同じ歌でも合唱で歌う歌と,こうした舞台で歌う歌ではだいぶ勝手が違うだろう。途中で息切れしてしまうことは普通にあることで,そうであっても仕方がないと思って,こちらは見ている。
 が,今回のラプンツェルは息切れしなかったとは言わないけれども,ギリギリまで歌を通していた。ここまでできれば充分だ。

● 他に,照明の使い方,ステージ上の導線の作り方など,色々と工夫をしていて,結果,このミュージカルの完成度はかなり高いものになった。聴衆も満足したに違いない。少なくとも,ぼくは満足した。
 吹奏楽や合唱の定期演奏会を開催している高校は県内にも数多いが,これだけの彩りを体現しているのは,ぼくの知る限りではこの高校のこのコンサートだけだ。それゆえ,稀少性がある。すなわち,価値が高い。すべての価値は稀少性に帰するからだ。

0 件のコメント:

コメントを投稿