2020年11月16日月曜日

2020.11.13 とちぎの若手アーティスト集まれ! Webコンサート

● 9月12日と13日の2日間,栃木県総合文化センターのメインホールで,「とちぎの若手アーティスト集まれ! Webコンサート」が開催された。
 そのリンク(YouTubeにアップされている)が10月23日に総合文化センターのサイトに掲載された。「新型コロナウイルスの影響で音楽活動の機会が減少する中,若手アーティストの活動を支援するとともに,県民の皆様に心の癒しと元気をお届けすることを目的として実施した」という。

● その総合文化センターのサイトを見て,初めてそういう催事があったことを知ったわけなのだが(11日の夜に知った),リアルタイムでストリーミング配信されたようだ。
 当然,リアルタイム配信には対応できなかったのだが,その動画はライブ終了後も残っている。11日から今日までの3日間ですべての演奏を視聴した。

● いや,大変な質量だ。その全貌は次のとおり。まず9月12日開催分
1 上田純子(ソプラノ) 坪山恵子(ピアノ)
 村松崇継 いのちの歌
 ジョン・ニュートン Amazing Grace
 プッチーニ オペラ「トスカ」より “歌に生き愛に生き”

2 Queue Croche(佐藤友香 クラリネット 髙坂彩乃 ヴァイオリン 八巻聖美 ピアノ)
 バルトーク ルーマニア民族舞曲1,2,5,6
 シューベルト 岩の上の羊飼い

3 下司愉宇起(テノール) 阿部 葵(ピアノ)
 小林秀雄 落葉松
 川島 博 栃木県民の歌
 山田敬三 ミュージカル「砂浜のエレジー」より “林蔵のアリア”

4 Kastanien-Trio(直井紀和 トロンボーン 久保井雅樹 ホルン 人見由以 ピアノ)
 ブラームス 「2つの歌」より “聖なる子守歌”
 ブルッフ 「8つの小品」より “夜の歌”

5 音と言葉の間(荒井雄貴 バリトン 手呂内愛翔 ピアノ)
 シューベルト 魔王
 根本卓也 心に太陽を持て

6 古澤悠子(サクソフォン)
 西村 朗 水の影

7 横山 博(クラヴィコード)
 バッハ 前奏曲とフーガ ハ長調
 モーツァルト きらきら星変奏曲

8 鈴木孝佳(ピアノ)
 ショパン エチュード ハ長調(作品10-1)
 リスト 超絶技巧練習曲 第4番「マゼッタ」

9 Duo Akuzawa(阿久澤政行 ピアノ 打保早紀 ヴァイオリン)
 コダーイ アダージョ
 阿久澤政行 伝えたい音

10 大嶋浩美(ピアノ)
 ショパン アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ

11 髙橋詩織(フルート) 齋藤文香(ピアノ)
 チャイコフスキー バレエ「くるみ割り人形」より ダイジェスト版

12 藤本江理(ソプラノ) 安良岡平(バリトン) 手呂内愛翔(ピアノ)
 ドニゼッティ オペラ「ドン・バスクアーレ」より “用意はいいわ”
 レハール オペレッタ「メリー・ウィドウ」より “唇は語らずとも”
 ヴェルディ オペラ「椿姫」より “乾杯の歌”

● 9月13日開催分
1 西口彰子(ソプラノ) 知久絵里香(ピアノ)
 ヘンデル オペラ「エジプトのジュリアス・シーザー」より “優しい眼差しよ” “つらい運命に涙はあふれ”

2 金田桃子(フルート) 遠藤尚子(ホルン) 高鳥 舞(ピアノ)
 ポニ 「森の情景」より第3曲「祈り」
 ドップラー リギの思い出

3 渡邊弘子(ヴァイオリン) 渡邊洋邦(ギター)
 パガニーニ カンタービレ ニ長調
 サラサーテ ツィゴイネルワイゼン

4 トリオ・ダンシュ(山本 楓 オーボエ 木主里絵 クラリネット 柿沼麻美 ファゴット)
 モーツァルト きらきら星の主題による変奏曲

5 玉川 克(チェロ)
 バッハ 無伴奏チェロ組曲 第1番

6 福田智久山(尺八)
 尺八独奏曲「幻の四季」より “夏”

7 藤舎雪丸(小鼓)
 小鼓独奏曲「重陽」

8 前川智世(箏)
 沢井忠夫 讃歌

9 渡邊響子(ヴァイオリン) 佐藤洋(テノール) 黒岩航紀(ピアノ)
 ジーツィンスキー ウィーンわが夢の街
 信長貴富 ヴィヴァルディが見た日本の四季 より「夏」城ヶ島の雨
 プッチーニ オペラ「トゥーランドット」より “誰も寝てはならぬ”

10 小嶋千尋(ピアノ)
 ショパン 幻想曲 ヘ短調

11 ヴェルデ会(島田瑛子 ソプラノ 橋本由香 ソプラノ 田代直子 メゾソプラノ 加藤紗耶香 ピアノ)
 ヴェルディ オペラ「椿姫」より “乾杯の歌”
 モーツァルト オペラ「魔笛」より “復讐の炎は地獄のようにわが心に燃え”
 プッチーニ オペラ「ラ・ボエーム」より “私が街を歩くと”
 山田耕筰 赤とんぼ
 チマローザ オペラ「秘密の結婚」より “喧嘩の三重唱”

● 音声も画像も解像度が高い。Webなんてと思ってたのだけど,認識を改めます。ただし,この高音質,高画質を享受するには,こちら側の受信設備を整えなければならない。
 音質だけを問題にするのなら,YouTubeから音声をダウンロードして(プレミアムに移行しなくてもダウンロードはできる)ウォークマンに転送して聴けば,ソニーの技術によってかなりの高音質で聴くことができる。
 が,それだと高画質が死んでしまう。視も聴もというなら,スマホで聴くのが最善ですか。が,ぼくのスマホはオーディオはまるでダメ。
 結局,ノートパソコンに外付けスピーカをつなぐという最低限の装置で,自宅の隅っこで聴くことになった。

● まず,「渡邊響子・佐藤洋・黒岩航紀」から視聴。プッチーニ「トゥーランドット」の “誰も寝てはならぬ” にゾクッとする。
 続いて,「渡邊弘子・渡邊洋邦」を。「ツィゴイネルワイゼン」は鳥肌ものでしょう。超絶技巧を目のあたりにすることができるのは,Webだからこそ。リアルではあり得ない特等席で見れるってことだよね。

● このあとは,配信順に視ていった。
 上田純子さんは Amazing Grace も披露した。Amazing Grace で一番いいのは,本田美奈子ってことになってる。おそらく,それを超えるものは出ないのではないか。もうしょうがないんですよ,これは。声量だとか音程だとか,そういう問題じゃないですから。
 ただ,本田美奈子が歌うのは2番以降の歌詞が岩谷時子訳の日本語なんですよねぇ。日本語に訳すとなると,意訳にならざるを得ないのはわかるんだけれども,それにしても岩谷時子訳は日本語としてあまりといえばあまり。

● 以下,いちいち感想を書いていくととんでもない長さになるので,全部省略。
 全体的な印象を述べておく。まず,ここでいう「若手」とはかなり幅のある概念で,老人じゃなければすなわち若手ということになっている。中年は若手に含まれる。

● 演奏後に短いインタビューがある。他県出身者もいるので,全員が全員というわけではないのだけれども,栃木弁のイントネーションを最初から最後まで味わうことができる。いいねぇ,栃木弁。
 ぼくらは,“標準語は話せない星” に住む “標準語は話せない星人” なのだ。これはもう笑ってしまうくらいにそうなのだ。
 大学時代を東京で過ごしたくらいで補正されるものではないらしい。総じて,男性よりも女性に,栃木訛りは深く巣食うようだ。

● 画像の解像度が高いということは,たとえば女性奏者の化粧の具合までわかっちゃうということだ。シワの出方までわかってしまう。
 画像の解像度が高いって,どうなのよ。ここまでの解像度が必要なんだろうか。はるかな昔,テレビがハイビジョンになるときにも同じことが言われたものだが。
 すでにこの解像度があたりまえになっているんだろうけど,ちょっと怖いよね,これ。ステージに立つんだからそれくらい細密に描かれるのはあたりまえじゃないか,という意見もあるかもしれないけれども,ほんとに容赦ないですよ,これは。

● こういう時期だから音楽の力で元気になってもらえれば,と話す奏者の方が何人かいらっしゃったが,この動画の再生回数はそんなに多くはない。
 理由は2つ考えられる。第1に,今困っている人たちは経済的に困っているので,音楽よりもお金が欲しい。残念ながら,音楽が力になれるシチュエイションではない。
 第2に,それ以外の多くの人たちはじつはさほど参っていない。上手く対応できている。3月からなんだから馴れてもきた。
 参っているように見えてしまうのは,マスコミ報道を通してしか社会を見ていないからだ。じかに社会を見る術をぼくらは持っていないからだ。

● この動画と音声はこのあとも残してもらえるんだろうか。ずっとクラウド上にあり続けてくれれば,何度でも聴き,視ることができる。
 栃木県でもやったくらいなんだから,各県でこうした催しが行われたろう。有料チケット制を採用して時間限定で購入者にのみ配信したものも,いずれは一般公開される可能性が高いだろう。それらを全部足し合わせれば,膨大な量になるのではないか。
 こういうものに対してデータベースという言葉を使っていいのかどうかわからないけれども,データベースの蓄積が一気に進んだ感がある。

● ちなみに,演奏家が個人的に行っている配信は,録画や配信に関しては素人ゆえに,データベースになるだけの確度を欠く。
 だから価値がないということではまったくないが,演奏家は演奏だけに特化し,それ以外はその道のプロや専門家が担ったものが,データベースとして保存しておくには適する。今回のWebコンサートも,現在の栃木県の演奏水準を記録するデータベースになる。

● しかも,誰でもデータベースにアクセスできる。アクセスしてデータベースをどう使おうとかまわない。完全なる自由が保証される。
 黒岩航紀さんのピアノや渡邊響子さんのヴァイオリンや山本楓さんのオーボエを動画付きのBGMにしつつ,モツの煮込みを肴にハイボールを飲んでたっていいのだ。ホールでかしこまって聴くのもいいものだが,それだけが聴き方のスタイルではない。

● 要するに,だ。永遠に遊んでいられる玩具を(文字どおりの永遠はあり得ないわけだが),ぼくらはもらったようなものだ。ありがたくいただいておいて,自分の一身をもって遊び倒せばいいのだと思う。
 遊び倒せる対象に冠する日本語はこの2文字しかない。貴重,がそれだ。

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