那須野が原ハーモニーホール 大ホール
● 昨夜から今日の未明にかけて,関東や東北は大変な目にあった。台風19号が猛威をふるった。
にもかかわらず,今日予定していた演奏会を,何と予定どおり催行する楽団がある。台風上陸の前に催行を決めていたわけだ。「13日(日)は台風一過の晴れ予定のため,予定通り決行致します」ってね。
● 良くいえば蛮勇に満ちている。普通にいえば思慮がない。短くいえばバカである。
それはそうだろう。今回の台風は大雨特別警報が出たほどのとんでもない台風だったのだ。とんでもない台風であることは事前にわかっていたはずなのだ。
13日は晴れたところで,ホールが浸水被害を受けて使えなくなる可能性だってあったはずだ。川が氾濫して道路や鉄道が寸断され,お客さんが来れなくなっていたかもしれない。
なのに,13日は晴れているはずだからやるというのだ。何も考えていないのだ。思考過程に変数を組み込むことを知らないのだ。
● こういうものは事後に言語で説明できないといけない。かくかくしかじか,こういうふうに考えて,催行を決定しました,と。結果オーライだからいいというものではないのだ。
説明できるほどに考えていないことは明らかだ。こういう者に大事な決定は任せられないよね。
● が,結果はオーライだったのだ。電車で出かけたのだけれども,宇都宮~黒磯間はほぼ定時運転を維持していた(烏山線は運休)。
氏家を過ぎて荒川を渡り,片岡を過ぎて内川を渡り,矢板を過ぎて箒川を渡る。水嵩は少し引いているのだろうけれども,怒濤の流れだ。荒川に架かる鉄橋はソロソロと渡った。それでも定時運転を維持。
西那須野駅からホールまでの道路もまったく問題なし。このあたりは無傷で残ったらしい。
● ぼくはといえば,12日は台風対応のため,朝から24時間の勤務についた。こういうときでも2時間程度の仮眠はできるものなのだが(といって,寝るための設備はないので,デスクに突っ伏して寝ることになる),今回ばかりはそんな時間もなかった。次々に情報が入るからだ。
で,今朝は10時前に帰宅して,そのまま布団に入って寝た。目が醒めたら正午だった。
● 今から出れば間に合うというわけで,ハーモニーホールにやって来たのだ。やはりバカの範疇に入るかなぁと思わぬでもない。
催行してくれたから,昼間に寝る時間を2時間に抑えることができた。寝てるだけの1日と演奏会を聴きに行けた1日では,当然にして後者の方が彩りが鮮やかだ。それもこれも,主催者の考えなしの開催断行のおかげであるな。
マロニエ交響楽団の定演は2年に1回なので,中止にはしたくないだろう。そこはよくわかる(つもり)。
● 開演は午後2時。当日券(1,000円)で入場。曲目は次のとおり。指揮は柴田真郁さん。
ガーシュウィン ラプソディ・イン・ブルー
チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番
ドヴォルザーク 交響曲第7番
● が,今回,プレコンサートがあった。ガーシュウィンの「3つのプレリュード」。サクソフォン,バンジョー,パーカッション,ピアノの4人。ピアノは今回のソリストである黒岩航紀さんだったのだが,他の3人はこの楽団のメンバーなのだろうと思って聴いた。
が,どうも違うっぽい。サックスなんか,ちょっと巧すぎる。何者なのかね,この人たちは。
● さて,本番。「ラプソディ・イン・ブルー」は何と言えばいいんだろうかなぁ。これだっていう。これが聴きたかったんだっていう。
アメリカのホールでアメリカ人の演奏を聴いているような気分になったというか(ガーシュウィンはユダヤ系ロシア人で,長じてからアメリカに移住したのだったと思うが)。もちろん,アメリカで「ラプソディ・イン・ブルー」を聴いたことなどないわけだけどね(っていうか,アメリカ本土に行ったことがない)。
● 黒岩さんは存分に暴れて指揮者を慌てさせることもできなくはなかったろうけど,そういう行儀の悪さはなし。
でも,行儀の悪さも見たかったよね。柴田さんは慌てながらも対応するだろうから,その対応ぶりも見てみたかった。一番迷惑を被るのは楽員ということになるか。
● チャイコフスキーも黒岩さんのピアノ。これはもう見事なものだとしか,ぼくには言えないんだけれども,問題は管弦楽だ。
過去に何度か聴いている。化粧品ではないけれど,聴くたびにハリとツヤを感じてはいた。のだが,ここまで巧かったか。
● 黒岩さんのアンコールはラフマニノフ「前奏曲嬰ハ短調」(鐘)。プレコンサートから出ずっぱりで,アンコールまであるとはちょっと驚き。
● さて,このあとはオケだけでドヴォルザークの7番ということになるのだが,水準の高さにいよいよ驚く仕儀となった。
第3楽章。舞曲の旋律を刻む1st,2ndのヴァイオリン。聴覚を閉じて,視覚だけで見ても,鑑賞に耐えるというかな。動きが美しい。“オーケストラ舞踊”と命名したくなった。
チャイコフスキーから感じていたのだが,金管の透明度が高い。スラヴの曲を聴くときに,ここはかなり大きなポイントになるでしょ。
● この楽団の骨格は宇都宮大学管弦楽団のOB・OGだと理解している。今回は,栃響その他から相当に強力な助っ人が入っていたようなのだが,それでもこの楽団の演奏の色合いを決めているのは,創立当初からのメンバーのように思われる。それでよいのだろう。その基調は変えないのが正解のように思われる(たぶん)。
と申しあげたうえで言うのだけれど,今回の演奏に関しては助っ人組の貢献が大きかったかなぁ。
● さて,台風12号の傷跡が生々しく,瘡蓋さえできていないこの日に,演奏会を予定どおり催行するのも蛮勇ならば,聴きに来るお客さんもいかがなものか。
いかがなものかと思わせる人はそんなにはいないはずだと思いたい。良識を備えた人たちばかりだと思いたい。
ゆえに,客席はガラガラだろうなと思っていたのだけども,意外にそうでもないのだった。1階席に限れば席の過半は埋まっていた。
そんなことでいいのか? 君たちには他にやることはないのか? え? ご同輩。
ちなみに,2年前の第4回もハーモニーホールで開催されたのだが,そのときは台風前夜だった。台風を呼ぶ楽団なのだな。
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