2012年11月26日月曜日

2012.11.25 東京大学第63回駒場祭-東京大学フィロムジカ交響楽団・東京大学吹奏楽部・東京大学音楽部管弦楽団


東京大学駒場Ⅰキャンパス900番教室(講堂)

● 2年前は東大の五月祭と駒場祭,芸大の藝祭と3つの大学祭に出かけていった。タダで高水準の演奏をたくさん聴ける。こんなお得なことはないっていうケチ根性からだ。
 藝祭にしても東大のふたつの大学祭にしても,プチ「ラ・フォル・ジュルネ」じゃないかと思うほどに舞いあがったものだけれども,やはり場違いなところに来ているという感が強かった。藝祭と駒場祭ではそのことを痛感した。
 学生のお祭りなんですよね。若い世代だけで盛りあがりたいわけだよね。当の学生たちに訊けば,いやそんなことはないですよ,どなたでも来ていただければありがたいですよ,と答えるに違いない。だけれども,場の空気というのは自ずと現れるもので,その空気を乱しては申しわけない。
 ということで,昨年は行かなかった。っていうか,ずっと行かないつもりでいた。

● のだが,今年は駒場祭の最終日にだけ,お邪魔させてもらうことにした。ケチ根性が勝った結果だ。
 それとね,若い学生たちの演奏には,他にはない清々しさっていうか,もっと伸びる芽が見えるっていうか,いわく言いがたい魅力がありますよね。自分が年をとったからいっそうそう思うのかもしれないんだけど。

● 駒場祭の企画の多彩さは目が眩むほどだけれども,ぼくは他のことには興味がない。東大にいくつかある学生オケの演奏を聴きたい。それだけだ。
 ちなみに,東大じゃなくてもいいんじゃないか,複数の学生オケがある大学は東大以外にもあるだろう,と言われるかもしれないんですけどね。なぜ東大か。その理由はひじょうに明解。ホームページなんですよ。
 栃木から行くんでね,事前に予定を立てておきたいわけです,大雑把にでもね。駒場祭のホームページは企画内容とかタイムテーブルをしっかりと出してくれるし,タイミングが早め早めで,その予定を立てやすいんですよ。他大学はこのあたりがわりと不充分なんだなぁ。

● 11:15からフィロムジカ交響楽団(実際には11:30の開演となった)。「今年フィロムジカに入団した初心者の多くがこの曲で初舞台を踏みます」とのこと。駒場祭の性格からして,それはそういうものなのだろうな,と。
 曲目は次の3曲。与えられる時間に限りがあるから,通常のコンサートよりも短めのラインナップになっている。
 グラズノフ 祝典序曲
 チャイコフスキー 幻想序曲「ロミオとジュリエット」
 チャイコフスキー 交響曲第5番(ただし,3楽章と4楽章のみ)

● なるほど幼顔の学生たちだった。けれど演奏も幼いかというと,そんなことはない。
 今年の秋はチャイコフスキーの5番を聴く機会が多い。もちろん,何度聴いてもOKだ。今日,この場所でしか聴けないものだから。それぞれの演奏が一期一会だから。
 14日に聴いたキエフ交響楽団の演奏をどうしても思いだしてしまう。あのとき,キエフ交響楽団の「ロミオとジュリエット」をぼくは凡庸だと感じた。が,盛りあげ方は巧い,と。
 だが,違った。楽譜どおりに弾いただけだったのだ。今回のフィロムジカの演奏も同じだったから,たぶんそうなのだろう。こんな初歩的な勘違いをわざわざ書くのもどうかと思うんだけど,ぼくの耳はどうもいけない。

● この楽団は東大以外の学生も参加しているけれど,多くは東大生。最近になってやっと東大コンプレックスというものから解き放たれたというか,どうでもいいじゃんと思えるようになった。
 ただ,素晴らしい勉強頭のほかに,演奏のたしなみまで持っているってのは,羨ましい。自分との落差を感じてしまう。時代の違いってのもあるんだろうけどね。

 会場である900番教室は2階席もあって,2階席の背後にはパイプオルガンも設置されている。音楽の演奏も考えて作られていると思われるんだけど,さすがに普通のホールと比べてしまえば見劣りがする。っていうか,比べてはいけないものだね。外の「祭」のざわめきも聞こえてくるし。
 が,その分,全体が小さいから,ステージとの距離は近くなる。音響などはさほど気にならない。そもそも大学祭での演奏会だって承知して聴いてるわけだから。

● 次は13:30から吹奏楽部の演奏。この吹奏楽部は多くが東大以外の学生。そのほとんどは女子。ざっくりいうと,非東大の大勢の女子と東大の少数の男子で構成されている。
 何が言いたいのかっていえば,東大男子が羨ましいぞ,と。

● 2年前の五月祭でも聴いたんだけど,巧いのかそうじゃないのかよくわからなかった(つまり,巧いとは思わなかったってことになりますか)。
 が,3曲目の「ジェラード・コン・カフェ」(真島俊夫作曲)を聴くに及んで,認識を新たにした。巧いです。すみませんでした。今まで気づかなくて。
 4曲目の「ヒロイック・サガ」(ジェイガー作曲)でさらにその感を深くした。聴いてよかったと思った。

● 最後は15時から音楽部管弦楽団。こちらも「毎年1,2年生を中心に結成された駒場オーケストラで駒場祭に臨みます。今年はドイツ系作曲家の以下3曲を演奏します。若さあふれるオーケストラの響きをお楽しみください!」とある。うん,まさにそのために来ているわけでね。
 こちらは次の3曲。
 ウェーバー 歌劇「オベロン」序曲
 ニコライ 歌劇「ウィンザーと陽気な女房たち」序曲
 ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」

● たまげましたよ。1,2年生が演奏しても,ここまで完成度が高いってのは何事であるか。入部してくるのはその時点でかなりの腕の持ち主たちなのだろうと思うほかはない。ま,それをいうなら先のフィロムジカも同じだけれど。
 現実に目の前で演奏しているのを聴いているわけだから,それを認めるしかないんだけども,いや,それにしてもね。
 小器用というのでは全然ない。地力がある。本格的に巧い。こなすべきものはこなしている。では,大量に練習しているのかといえば,そうでもないような気がする。そのへんの凄さを感じるというか。

● ステージに段差がないので,1階席に座ると管の奏者は見えない。っていうか,手前のヴァイオリン奏者しか見えないんだけど,ヴァイオリンに関していうと男子がずっと多くて(ただし,コンサートマスターは女子),男っぽい感じの楽団だった。
 その男っぽい楽団が表現は女性的というか,繊細というか,艶っぽいというか,光沢があるというか。変な言い方で申しわけないんだけれども,細い指で背中をなぞられるような感じでゾクッとしたぞ。

● 今回は模擬店を出している学生たちにも声をかけてみた。もちろん,普通に対応してくれる。たいてい混んでいるから,話しこむってところまではいかないけれど,普通に素直ないい子たちだよね。当然っちゃ当然な感想だけど。
 こちらから「若い世代だけで盛りあがりたいわけだよね」と壁を作ってしまってはいけなかったなと反省しました。
 演奏もそうだけれども,結局のところ,若い学生たちにエネルギーを分けてもらったってことになるんですかね。

2012.11.24 宇都宮シンフォニーオーケストラ秋季演奏会

栃木県総合文化センター メインホール

● 一昨年,昨年と,この時期は「ベートーヴェン・チクルス」と銘打ってベートーヴェンの交響曲などを演奏してたんだけど,今年は「秋季演奏会」。別段,文句は何もないんだけどね。
 開演は午後5時。当日券(1,000円)で入場。
 会場前には文字どおりの長蛇の列ができていた。メインホールが8割以上は埋まった。盛況ですな。

● 曲目は次のとおり。
 ワーグナー 歌劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲
 モーツァルト 交響曲第40番 ト短調
 ブラームス 交響曲第4番 ホ短調

● 演奏を聴きながらぼんやりと考えたことふたつ。
 ひとつは,自分でも楽器をやっているのでなければ,演奏を聴いていても気づけないことがたくさんあるだろうってこと。ところが,ぼくは楽器をいじれない。したがって,ぼくの鑑賞眼は盲点だらけのはずだ。その盲点を何とかしなきゃとは全然思わないんだけど,盲点があるってことはわきまえておいた方がいいよね。

● もうひとつは,客席のマナー。いえ,べつに今回のお客さんのマナーが悪かったってことではないんですよ。ぼんやりと考えただけです。
 ケータイの電源を切るとか,ホール内で飲食をしないとか,演奏中に出入りしないとか,フラッシュ撮影をしないってのはマナー以前の問題。ときに,演奏中の写真を掲載している鑑賞者のブログがあったりもするけれど,何を考えているのかと,ま,思うわけで。

● 客席のマナーはふたつしかないと思う。ひとつは拍手を惜しまないこと。上手だったから拍手をする,さほどでもなかったから拍手は控えめにするという小賢しいことをしないで,とにかく拍手を惜しまないこと。アマチュアオーケストラの場合はね。
 観客はステージの出来を判定する者であってもいいと思うけれど(判定する快感ってあるからね),それ以上に応援者であった方がいい。育てるっていうとおこがましいけどさ。けなすんじゃなくて,とにかくステージで演奏するところまで漕ぎつけた努力をねぎらおうじゃないか。
 それを拍手にこめる,と。オーケストラもおだてりゃ木に登る(かもしれない)。登ってくれれば,客席側にとっても利益になる。
 どこまで行っても,鑑賞している人よりも演奏している人の方が偉い。相互作用はもちろんあるにしても,究極は演奏あっての鑑賞だもんな。踊る阿呆と見る阿呆だったら,踊る阿呆が上。

● ふたつめ,小さなミスはおおめに見るってこと。上に書いたこととかぶるんだけどね。
 どの楽器でもミスると目立つ。特に管なんかだと演奏自体を止めちゃうんじゃないかと思わせるようなことになる。目立つから,ミスは鑑賞者が初心者であっても,たいてい気づくものだ。
 奏者はもちろんわかっている。わかっているんだから,いちいち指摘するには及ばない。そんなのはオーケストラの中の問題だ(オケの中でも,ここをあんまりいじってはいけないように思うけどね)。
 今回の演奏で小さなミスが目についたということではないから,念のため。

● ブラームスはぼくにとっては難解な作曲家のひとり。ブラームスが難解って何なんだよって言われるかもしれないんだけど,良さがよくわからないっていいますかね。もっと聴きこまないといけないのかもしれない。ブラームスでいいなと思うのはハンガリー舞曲しかなくて。
 こういう演奏会を機に,もっとCDも聴くように自分を持って行ければと思うんですけどね。

● エキストラの中に,ヴィオラの中川玲美子さんがいた。県北のモーツァルト合奏団を指導している人。
 ということで,入口で渡されたチラシの中にモーツァルト合奏団の演奏会の案内もあった。来年2月。バッハの「シャコンヌ」弦楽合奏版を演奏するらしい。

2012年11月19日月曜日

2012.11.18 宇都宮短期大学第46回彩音祭:東京藝術大学大学院弦楽五重奏団とのジョイントコンサート


宇都宮短期大学 須賀友正記念ホール

● 京都にも同じ名前のイベントがあるらしいけど,こちらは宇都宮短期大学の学園祭。
 宇短大には音楽科がある。たぶん,北関東の大学・短大で唯一の音楽科ではないかと思う(群馬県にもあったけど,解散することになっちゃったからね)。その音楽科が芸大院の学生を呼んでコンサートを開くというので,聴きに行った。

● 宇短大の音楽科,県内でも地味な存在かも。ぼくにしたって,今回が初めてだからね,学生たちの演奏を聴くのは。
 いろいろと活動はしているんだと思うんだけど,学外に公開しているのはこの彩音祭でのコンサートくらいか。他にもあるんだったら,ホームページで情報発信してもらえると嬉しいかなぁ。って,ぼくが見落としているだけかもしれないんだけど。

● 小さい短大だから,学園祭の規模も可愛らしいもの。模擬店で豚汁(200円)とミネストローネ(250円)を買った。これが昼食。昨夜はけっこう呑んでしまって,胃が大弱り。固形物は入りそうにない(朝は何も食べられなかった)。といって,スープを二杯も飲むと腹がガボガボした。
 味? 旨かったですよ。っていうか,こんなものじゃないですか。豚汁はもうちょっと具だくさんで,もうちょっとダシを効かせてもよかったかなぁと思いましたけど。作ってみなきゃわかんないでしょ。こういうのって,ね。

● 開演は12:30。須賀友正記念ホールは立派なホールで,小ぶりながら小規模のオーケストラは載せることができる。客席の勾配もほどよくて,快適に演奏を楽しめそうな感じ。
 まずは芸大側の五人でモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」。ヴァイオリンの澤亜樹さん,どこかで見たことがある。帰宅後に確認したら,2009年9月に那須野が原ハーモニーホールで開催された「ハイドン没後200年記念コンサート」に出演していたのだった。
 あのときはかすかにあどけなさを残していたと記憶しているのだが,今は立派な淑女。この時期の若者の成長の速さってのはなぁ。三日会わざれば刮目して待つべしってのは,男子に限ったことではないな。

● 次は,宇短大の卒業生であるオーボエの原田梨沙さんが加わって,バッハの「オーボエとヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調」。原田さん,若干,緊張があったか。
 今回,最も印象に残ったのがこの曲。こういう演奏を聴くと,バッハも聴かなきゃなぁと思わされる。家でBGM代わりに流しておく曲っていうと,バロックって人がわりと多いのかもしれない。ぼくはベートーヴェンは普通に聴けるんだけど,バロックを聴くときには腹に力を入れないとダメ。

● 3曲目はシューベルトの「ピアノ五重奏曲 イ長調」。ただし,1~4楽章だけで,5楽章はなし。ピアノは宇短大の学生が楽章ごとに交代して担当。
 最後に4楽章を担当した小堺香菜子さんの演奏がよかった。技術云々ではなくて,芸大院生を相手にぜんぜん臆していない感じがね。そうでなきゃいけない。

● 次は宇短大で准教授を務める崎谷直さんがフルートで参加。モーツァルトの「フルート四重奏曲 ニ長調」。
 熟練の技というんでしょうねぇ。安心して聴いていられる。身を任せてボーッと聴いていればいいっていう。

● 最後はピアノに宇短大生の中莖美晴さんが加わって,ピアソラの「リベルタンゴ」で盛りあげた。さらに,出演者全員で盛りあげるというサービスぶり。
 というわけで,休憩を含めて1時間半の充実したコンサート。

● 2日前に宇都宮市文化会館にいた車いすの女の子を思いだした。文化会館ではなく,このコンサートに連れてくればよかったのに。彼女も落ち着いて聴いていられたろうに。言っても詮ないことだけれども。

2012.11.17 栃木フィルハーモニー交響楽団第41回定期演奏会

栃木市栃木文化会館大ホール

● 栃木フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会を聴きに行った。栃木県内のアマチュアオーケストラはこれですべて一度は聴いたことになる。
 県北人にとって県南はなじみが薄い。宇都宮の南は東京っていう感じだからね。県南人にとっては,宇都宮の北は,何もないところにまばらに人が住んでいるっていうイメージかもしれないね。

● ともあれ,栃木フィルハーモニー交響楽団。楽団のホームページには「1971年に栃木南中学校のオーケストラクラブのOB達によって創設され」,「それぞれの生活を乱さない範囲での活動で,週一回(月曜日)の練習と年一回(9月)の合宿,年一回(11月)の演奏会が活動のすべて」だとある。
 週一で練習し,合宿もやって,年に一度,その成果を披露する。たいしたもんですよ。それを40年も継続しているわけだからね。
 他のオケとかけ持ちしている人もいるに違いない。家庭や仕事を持ちながらだからねぇ。時間のやりくりとかどうしてるんだろうか。
 団員によって温度差もマチマチだろうから,軋轢や離合集散もいろいろあって,立場によっては辛い思いをすることもあるのだろうと,部外者は気楽に予想するんだけど,ともあれ,それが40年続いているというところに価値がある。

● 開演は18時30分。チケットは1,200円(前売券は1,000円)。当日券で入場した。
 曲目はブラームスの「大学祝典序曲」と「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調」,ドヴォルザークの「交響曲第9番 ホ短調」。

● 「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲」のソリストは,小山啓久さん(ヴァイオリン)と谷口宏樹さん(チェロ)。ふたりとも東京音大の卒業で,磯部周平室内合奏団のメンバー。
 小山さんの立ち姿がサマになってましたねぇ。格好よかった。

● ドヴォルザークの9番も聴きごたえがあった。フルートもオーボエもクラリネットも,一番奏者の上手さは特筆もの。それから,ティンパニも的確で。
 副指揮者も務める神永さんがオーボエのすみっこにいたけれども,彼はちょっと特別ね。そういう特別な人がほかにもいたかもしれない。

● ちゃんとここまでの演奏をするアマチュアオーケストラがここにもあったんだなぁ,と。
 栃木県内だと,栃響のほかに,那須フィル鹿沼フィル宇都宮シンフォニーオーケストラ真岡市民交響楽団野木交響楽団足利市民交響楽団,そして今回の栃木フィル(あと,古河フィルは本拠地は茨城県だけれども,演奏会はずっと栃木県でやっているので,ぼく的には古河フィルも栃木県のオーケストラだと思っている)。これだけの市民オケがあって,それぞれ活動し,演奏会もやってるっていうのが,不思議に思えてきたりも。
 演奏する側の人がこんなにいるのかっていうね。これって栃木県に限ったことではないわけだから,考えてみたらすごい話ですよ。日本ほどアマオケの活動がさかんな国はないって聞いたことがあるんだけども,なるほどそうかと思いますね。

● 終演後,指揮者の大浦さんと団長たちがお客さんを見送るために会場の出口に整列していた。面映ゆいですな。
 アンコールが終わったあとの,団員総礼?で客席への挨拶は完結していると思うんだけど,サービス精神なんでしょうねぇ。

● たまにしか来ないホールでは,催事告知のチラシを見るのが楽しみのひとつ。ここ栃木文化会館だと,高崎や桐生,館林で開催されるコンサートのチラシが多い。もちろん,宇都宮のもあるけれど。
 そうか,ここではこんなことをやっているのかっていうね。その中で実際に行ってみたものはまだない(と思う)んだけど,そのうち,そんなのに巡り逢うかもしれない。なくても,チラシを見ていくだけでもけっこう楽しいものですよ。

2012.11.16 栃響チェンバーオーケストラ演奏会

宇都宮市文化会館小ホール

● チェンバーオーケストラとは室内管弦楽団のことですね。小編成のオーケストラ。栃木県交響楽団がチェンバーオーケストラを編成して演奏会を催すのって,今回が初めてなのか今までにもあったのか。この情報は栃響のホームページにも出てこない。これからも継続的に演奏会をやっていくのかどうかもわからない。
 ただね,栃響って年2回の定演のほかに,9月の特別演奏会(前年度のコンセール・マロニエの第1位入賞者をソリストに迎えて開催)と年末の「第九」が定番になっている。今年は「椿姫」もあった。
 アマチュアオーケストラとしては限界に近い(ひょっとすると限界を超えている)演奏回数になっているからね,今回の演奏会は単発と考えておくべきでしょうね。

● っていうか,単発ですね。この行事は,宇都宮市文化会館を運営する「うつのみや文化創造財団」の自主事業のひとつである「ムジカストリートシリーズ」の4回目の催事になる。
 「ムジカストリートシリーズ」とは何かといえば,同財団の事業計画書では「学校及び市内に活動拠点を置く文化団体等と連携し,芸術文化の担い手を育成する事業」のひとつとして位置づけられているのだが,つまるところ,よくわからない。
 ただ,「ムジカストリートシリーズ」として栃響チェンバーオーケストラが演奏するのは今回が初めてだ。中身は毎回変わっているらしい。

● 同財団の理事長を務める臼井佳子さんが「総合司会」。観客代表として指揮者の荻町修さんに質問を投げかけるという形で進行したのだけれども,その臼井さんによれば,この催しはクラシック音楽ファンの裾野を広げるためのものとのことだった。

● ま,そういうことはどうであれ,ぼくとしては地元で生の演奏を聴ける機会が増えることは,単純にありがたい。
 開演は19時。チケットは1,000円。当日券もあるに違いないけど,事前に購入しておいた。
 曲目は次のとおり。
 モーツァルト ディヴェルティメント K-136
 モーツァルト フルートとハープのための協奏曲 ハ長調
 ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」

● モーツァルトの2曲は室内管弦楽でいいとして,ベートーヴェンの5番を小編成で演奏するとどんな感じになるのか。それを確かめてみたかった。
 が,これは問題になりませんでした。5番の演奏はチェンバーという枠には収まらない程度の編成になったのでね。普通に交響曲を演奏できるだけの陣容だった。

● 荻町さんによれば,N響が観客の拍手を問題にしているらしい。要するに,拍手が早すぎるということ。曲によっては終曲後もしばらく静かにしていたいときがある。けれども,終わるか終わらないかのうちに拍手が起こる。あるいはブラボーの声が飛ぶ。
 大きな拍手は嬉しいけれども,早い拍手は嬉しくない,指揮者が客席の方を向いてから拍手をしても遅くはない,と。
 同感ですね。これは客席にいてもしばしば感じることで,何とかならないのかと思うことがある。

● フルートとハープのための協奏曲のソリストは,梶彩乃さん(ハープ)と川村尚巳さん(フルート)。梶さんは芸大院の学生で,川村さんは栃響のメンバー。
 プログラムにはそう紹介されているんだけれど,栃響にこんなに上手で美人のフルート吹きがいたっけ。ぜんぜん気づかなかったぞ。
 っていうか,この後,ベートーヴェンの5番では,川村さん,着替えて奏者の列に加わったんだけども,それが彼女だと納得するのにしばらく時間を要した。なぜなら髪型が変わってたから。

● 前の方に車いすの女の子がいた。4,5歳だろうか。彼女は別の障害も持っているようで,ときどき,アーッという声を発する。母親とおぼしき女性ともうひとりが付き添っていた。その様子がとてもほほ笑ましくて,演奏の途中で彼女が声をだしてもOKだなと思った。
 けれども,「運命」になると彼女の様相が変わってきた。彼女には音圧が強すぎるのだろう。音量と音質に耐えられないのだろうと思われた。何度も声を出そうとして,その都度,ハンカチで口を押さえられる。
 障害者だろうと健常者だろうと,4,5歳の子どもに「運命」の生演奏を聴かせるのは過酷だ。まさか音楽療法になると思っていたわけではないと思うのだが,もしそうだとすれば,無知はときに犯罪である。
 っていうほど深刻な状況ではなかったと思うんだけど,彼女の様子は拷問に耐えているがごとくに思われた。「運命」の演奏が早く終わってくれればいいと,ぼくは思った。

2012年11月15日木曜日

2012.11.14 華麗なるロシア音楽-キエフ国立交響楽団

栃木県総合文化センター メインホール

● 今年,栃木県総合文化センターに来る海外オーケストラ3つの最後が,キエフ国立交響楽団。開演は18時30分。S席チケットを購入していた。5,000円。

● 主催者のホームページには,「大作曲家ショスターコーヴィチを驚嘆せしめたオーケストラの美しい響きをご堪能ください」とある。
 S席を取ったくらいだから,当然,こちらの期待は高い。言われるまでもなく,「堪能」したい。しかし,この楽団の演奏はCDでも聴いたことがないし,ぼくにはまったくの未知数。あまり期待が過ぎて,聴いたあとにモヤモヤ感が残るのもイヤだしなと思ったり。

● S席で5,000円だから,国内のプロオケのチケットと金額は違わない。そう考えると,海外オケだからといって構えたり過剰に期待するのも変なものだけれども,どうしても期待しちゃうんですよね。
 栃木県に住んでいると,海外オーケストラの演奏を聴ける機会ってそうはないからね(12月に小山市立文化センターでモスク・フィルハーモニー交響楽団の演奏会があるから,今年はぜんぶで4つか)。

● たとえ公営のホールであっても,コンサートに出かけるときは,それなりの格好で行くのが,演奏者に対する礼儀だと思う。思うんだけれども,ぼくはこの辺がまったくダメで,たいていは普段着で行く。
 今日は平日だ,昼間は仕事をしてたんだろ,それならネクタイ着用で上着くらいは着てたんだろ,と言われるかもしれないのだが,ネクタイは1本だけ職場に置いて,通勤はノーネクタイで通している。上着もしかり。ブレザーを一着,職場のロッカーに入れてあるが,通勤は今の季節ならユニクロのフリースだ。なぜならその方が楽だから。要するに,お洒落マインドというものがない。ズボラといってもいいし,だらしがないといってもいい。
 しかし,この日は頑張った。下はユニクロのチノパンだけれども,ネクタイをして上着を着ていった。ホールの品格を下げては申しわけないからな。
 が,普段着で行っても,別段浮くこともなかったようだ。

● 平日の夜の演奏。ビジネスマンなら普通に仕事をしている時間だ。なかなか時間の都合がつかない人も多いと思う。
 それだけが理由ではないだろうけれども,空席が目立った。1階の右翼席,左翼席と2階席はガラガラ。ぼくはそのガラガラの1階左翼席を取っていたので,ゆっくり聴くことができたんだけど,もうちょっと埋まって欲しかったかなぁ。

● 指揮者のヴォロディーミル・シレンコがにこやかに登場。さぁ,見せてもらうぞ,スラヴ魂。
 曲目は次のとおり。
 チャイコフスキー 幻想序曲「ロメオとジュリエット」
 ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番 ハ短調
 チャイコフスキー 交響曲第5番 ホ短調

● 「ロメオとジュリエット」は縦笛から始まる。
 あれっ,普通じゃん。ありていにいえば,凡庸じゃん。
 管で唯一の女性奏者だったフルート奏者のブロンドの髪と透きとおるような白い肌,けれども勝ち気そうな顔だちの方が印象に残ってしまった。勝ち気そうな顔って嫌いじゃないもので。
 っていうか,そういう問題じゃないね。チケットはたかだか5,000円だ。ひと晩呑んだら,こんな金額じゃすまない。それを思えばこの演奏は金額だけの価値は充分にある。それを何度か自分に言い聞かせなければならなかった。
 盛りあげ方は巧い。盛りあがるところはガーッと行く。でも,それだけ。疲れているのか。遊び半分で流しているのか。俺たちが本気だしたらこんなものじゃないんだぜ,というんだったらいいんだけれど。

● ラフマニノフのピアノ協奏曲に移っても印象は同じ。ステージと客席の間に薄い膜がかかっているような感じ。ひょっとすると,ぼくが勝手に作ったなのかもしれないけど。
 ピアノはウラジーミル・ミシュク。ガタイがあるので,彼が座るとピアノが小さく見えた。指も太い。その太い指が繊細に鍵盤上を行き来する。ぼくの席からはそれがよく見えた。

● 15分の休憩の後,チャイコフスキーの5番。この曲も木管から始まる。
 あれっ,さっきと違うじゃん。違うぞ,さっきと。何でだ,どうしてだ。
 ステージから伝わってくるオーラが違うっていいますか,曲にのめり込んでいる度合いが違うっていいますか,休憩前のと同じオーケストラとは思えなかった。
 曲の持つ力がオーケストラをそうさせるのか。それはあるにしても,それだけでは腑に落ちない。この落差は何なのか。ぼくの耳がよほどおかしいのか。

● 終曲まで一気呵成。すごい集中力。息もつかせないほどにピーンと張りつめた演奏。「堪能」した。脱帽。
 たぶん,同じように感じたのはぼくだけじゃない。客席の拍手がそれを表していた。前二回の拍手とは拍手の濃度が違っていたような気がする。曲の持つ力はある。拍手を呼びやすい曲って当然あるんだけれども,演奏が素晴らしかったことに客席が素直に反応した結果だと考えた方が得心がいく。

● アンコール曲もまた同じ。チャイコフスキーの「道化師のダンス」とミロスラフ・スコリクの「メロディ」を演奏してくれた。迫力充分。客席をガッと掴んで引きずりこむような感じ。
 文句あるかと言われれば,まったく,一切何も,文句のない演奏。

● セカンドヴァイオリンの二列目の女性奏者二人がきれいだったなぁ。ひとりは典型的なスラヴ美人。もうひとりは中南米から来たと思われる精悍な感じの乙女。たぶん,ベネズエラかなぁ。それがウクライナの楽団に入って,日本に演奏に来る。世界をまたにかけて活躍。格好いい。
 そんなことにも前半では気づかなかった。いい演奏を聴けて目の保養もできて,いやいや5,000円は安かった。
 ただし,ひとつだけコンマスに苦言を呈したい。ステージに立つときは,もっと長いソックスをはきなさい。脛毛は見たくないからね。

● プログラムに今回の来日公演のスケジュールが載っている。10,11日は千葉,13日は仙台,14日が栃木で15日が東京(武蔵野市),16日が再び千葉,17日が東京(オペラシティ),18日が大阪。こんなものなんだろうな,たいてい。でも,時差もあれば長旅の疲れもあるもんな。
 もっと大変だと思うのは,プロモーターの光藍社。今回の来日コンサートのチケットは3,000~7,500円。栃木は5,000円だけれど,これだけでやれるはずはないと思うので,おそらく主催者の「とちぎ未来づくり財団」もお金を出しているに違いない。そうであっても,はたしてプロモーターの儲けがどの程度出るものなのか。
 ま,事情を知らない素人の推測だ。ひょっとすると,それなりに旨味があるのかもしれないけれど,プロモーターがポシャってしまっては,催行じたいが叶わなくなる。
 かといって,そんなにお金は出せないんだけどさ。

2012年11月12日月曜日

2012.11.11 第66回栃木県芸術祭 バレエ合同公演


栃木県総合文化センター メインホール

● 県芸術祭のバレエ公演。開演は13時30分。入場無料。
 栃木県洋舞連盟という名前の団体があって,そこが県芸術祭のバレエ部門をいわば請け負っているようだ。洋舞連盟とは何者かといえば,栃木県内にあるバレエ学校の連合体。

● が,そんなことはどうでもいいですよね。ぼくらはバレエを観に来た。バレエを観て,すごいなぁ,きれいだなぁ,と驚きたい。ステージでどんなダンスを見せてくれるのか。それがすべて。

● まずは「ダンスセンターセレニテ」の生徒さんたちのダンス。ソロの「笑う風」から始まって5つのダンスを披露。創作ダンスってことになるんですか。
 いずれも見事な動き。刻々と変わっていくラインも見応えがありましたね。
 ただですね,創作ダンスっていうのは,絵画でいえば抽象画のようなものなのですかねぇ,どこを鑑賞すればいいのかがよくわからないんですよ。身体能力の高さが生みだす動きを,すげえやと思って観てればいいんだろうか。それとも,演出者が何を表現したいのか,そのテーマを感じるという心構えで観た方がいいんでしょうか。
 要するに,難解なんですね。ぼくが勝手に難解にしちゃってるだけなのかもしれないんだけどね。

● 次は「みどりバレエスタジオ」。
 最後のふたつのソロ(「白鳥の湖」より パ・ド・トロワ 第1ヴァリエーション,「眠れる森の美女」より フロリナ王女のヴァリエーション)の印象が強くて,最初の「謝肉祭」の記憶がおぼろになってしまった。
 魅せてくれますよね。当然,相当に鍛錬しているんだろうけど,ステージで表現するときには,その鍛錬の跡を消さなければならない。消せてるもんなぁ。軽々とやってるように見える。

● 着地がぐらついたぞとか,中心がちょっとずれたなとか,そういう審査員(いじわる爺さん)的見方をしてしまうこともあるんだけど,そんな見方をしているのは,見る方が未熟なんでしょうね。
 公園に行ってわざわざ落ちているゴミを探して,それだけを見て帰ってくるようなものだ。阿呆としか言いようがない。そうならないようにしないとね。

● 15分間の休憩の後に,「髙久舞バレエスタジオ」。
 「デフィレ」,見応えあり。ダンサーのレベルが高い。恐れ入りましたって感じ。
 けど,印象に残ったのは「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」の方でした。有名なモーツァルトのセレナード第13番にどんなダンスを合わせてくるのか。この曲に合わせて踊るって,難しくないですか。素人考えですけどね。どこで入るのか,どこで変えるのか,けっこう合わせづらいような気がする(そんなこともない?)。
 それに対するひとつの解答を見せてもらったってことですね。

● 「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」とは小さな夜の音楽,文字どおりの小夜曲ってことだけど,1楽章には弾むような明るさがある。ねぇねぇ,これから楽しくお喋りしましょうよ,っていう。2楽章は落ち着いた幸福感が漂う。しかもかなり上品な。
 ぼくなんぞは,夜はメシ喰って風呂入ってテレビ見て寝るだけなんだけど,モーツァルトが描いた夜は貴族の夜だもんな。働かなくても喰えていた特権階級の人たちの夜。早起きなんかする必要ないから,夜を長く過ごせたんだろうね。
 その曲をダンスと一緒に味わえるのは,当時の貴族以上の贅沢だよねぇ。ま,貴族たちは大きなホールじゃなくて,自分の家でそういうことをしてたんだろうけどさ。

● 最後は「クラシカルバレエアカデミーS.O.U.」。
 演しものは「Bersagliere」「Sing Sing Sing」「ナポリ」の3つ。いずれも8月の発表会で観させてもらっている。が,3ヶ月以上も前のことで,細部は憶えていない。したがって,初めて観るような新鮮さで観れるわけですね。

● 8月のこの団体の発表会がぼくのバレエ開眼になった。バレエを観ることの楽しさ,面白さを教えてもらったと思っている。
 じつはその前に,ロシア国立サンクトペテルブルグ・アカデミー・バレエの「白鳥の湖」公演を観てるんですよ。でも,そのときはあまりピンと来なかったんだよねぇ。
 高級すぎたのかもしれないけれど,それ以前に,こちらの受入れ準備がまったくできていなかったんでしょうね。真珠を与えられた豚のようなものだったってことね。バレエなんて自分には無縁のものだと思っちゃいましたからね。
 それを修正する機会を得たのは,じつにどうもラッキーだった。これほどきれいなものを観ないままで死んでいったかもしれないんだからさ。

● で,あらためて3つのダンスを観て,いいものだなぁ,と。水準高いですよね。これだけの数をこれだけのレベルで揃えられるということが,言うならひとつの驚き。

● 最後のあとに,特別サービスっていうか,「全国バレエコンクール入賞者によるエキシビション」があった。
 4人登場。本橋周子さんの印象が強い。ソロのモダンダンス。高く跳び,ピタッと停まり,不安定な姿勢を維持する。それを支えるものを身体能力と呼ぶとすると,彼女の身体能力は相当なもので,要は選ばれた人にしかできないダンス。しかも,今の彼女にしかできないはずのもの。

● 芸術っていうけれど,すべての芸術の起源はエンタテインメントのはずだ。芸術は娯楽成分を持つ。その成分が皆無のものは消滅するしかない。
 だから,鑑賞者として芸術なるものに向かう場合,「勉強」するという姿勢だけでは辛すぎる。っていうか,それじゃ芸術とはつきあえない。楽しむという下世話な部分がないと。そのためには,芸術なるものに対して,どこかでタカを括っていないといけないような気がする。
 でも,同時に,自分にはとうていできないというものじゃないとね。自分にもできそうなものにかかずらうのは時間の無駄だもん。
 4人のステージを観ながら,そんなことをぼんやり考えていた。終演は16時。幸せな2時間半でしたね。

● 一階席はかなり埋まっていた。子供たちが多数出演するから,親や家族,親戚が集まる。鉄板の客層がいるってことだよね。
 ということはつまり,乳幼児も付いてくるというわけで,泣き声やママ,ママって声が絶えないことをも意味する。さすがに誰かが主催者に苦情を申したてたようだ。後半が始まる前に,「小さなお子さまをお連れの方」に対して,泣いているときはロビーで休ませてくださいとアナウンスしてたから。
 しかし,それで止むほとヤワじゃないわけでね。そういうものだと諦めてしまえば,さほど気にもならなくなる。

2012年11月5日月曜日

2012.11.04 宇都宮バレエスクール第15回発表会


宇都宮市文化会館大ホール

● 今年の夏からいくつかバレエ公演を見る機会があって,バレエの面白さ(観る側にとっての)が少しわかってきたような気がしている。理解するというより感じるものなのでしょうけどね。

● で,たまたま宇都宮バレエスクールの発表会があるのを見つけたので,観に行ってみた。開演は午後6時。入場無料。プログラムは別売で500円。

● 中身は「くるみ割り人形」全幕。
 クララ役の女の子が印象に残った。たぶん小学生だと思う。少女真っ盛り。といっても,大人の芽を内包してて,そこの塩梅が絶妙というか。危ういほどの均衡が醸しだす美というものを感じさせるというか。
 神聖にして犯すべからずという感じだし,一方で得も言われぬセクシーさを漂わせているというね。
 トーマス・マンの『ヴェニスに死す』に出てくる美少年は,ひょっとしたらこんな感じだったのか。違うな。あれとはまた別だ。

● 第2幕では,次々に繰りだされる踊りを彼女が観ているという設定なんだけど,観ている彼女をぼくはずっと観ていたことを,ここに告白します。

2012.11.04 第66回栃木県芸術祭邦楽部 三曲演奏会

栃木県総合文化センター メインホール

● 邦楽に関しては,大げさにいうと,先月7日に宇都宮市文化会館で聴いた「第8回学生邦楽フェスティバル」が画期になった感じ。古くさいとか,後ろ向きとか,地味とか,年寄りっぽいとか,世襲とか,何の根拠もなく持っていたそうした固定観念を払拭できたと思っている。
 考えてみれば(考えるまでもなく),箏や尺八を演奏する人たちは,面白いから,興味深いから,楽しいから,やってきたはず。いやいややっているのであれば,いくらやったところで,すぐに天井にぶつかるだろうし,第一,長く続けることなんてできないだろう。

● というわけで,今回の県芸術祭の邦楽も覗いてみる気になった。開演は午前10時20分。チケットは1,000円。当日券を購入。
 終演は午後3時半になった。その間,休憩なし。もちろん,昼休みもなし。ぼくも昼食抜きでつきあった。一度だけ,トイレに行かせてもらったけど。

● 県内にある演奏団体が総出演したのだろうと思う。それぞれの団体の発表会のようなもの。もちろん,ひとりで複数の団体に所属している場合もあるから,何度も登場する人がいる。尺八に多かったようだ。

● 曲目は全部で18曲。トップバッターは双調会栃木県支部。「八千代獅子」を演奏。箏の奏者の中に若い男性が一人いた。その彼の姿勢がきれいでうっとりした。

● 4番目に登場したのが沢井箏曲院宇都宮研究会。先月の「第8回学生邦楽フェスティバル」のときと同じメンバーが同じ「石橋」(しゃっきょう)を演奏。垢抜けているという言い方は変なんだけど,泥くさくないっていうか,軽いっていうか,不純物がないっていうか,そんな感じね。って,どんな感じなんだ?
 司会者がメンバーの全員が芸大邦楽科の卒業生か現役生だと紹介していた。

● 5番目に登場したのは坂本玉宏会。江戸信吾さんが作曲した「虹の彼方に」を演奏。ひたすら典雅。
 作曲した江戸さんも演奏の列に加わった。その江戸さん,坂本玉宏会の家元に就任し,就任披露の演奏会を東京の日経ホールで開催するそうだ。
 この世界にも家元があることを,恥ずかしながら初めて知った。正確には,家元という言葉がある,あるいは家元という言葉を使っている,ということですかね。

● 8番目に再び,沢井箏曲院宇都宮研究会。沢井忠夫作曲「独奏箏と箏群のための詩」。
 度肝を抜かれるほどにダイナミックな曲。前衛的と言っていいんでしょうか。西洋のクラシック音楽でいう幻想曲のような印象をぼくは受けた。箏の奏法のほぼすべてを見せてくれたのではないかと思えた(いえいえ,ほんの一部ですよ,って言われるのかもしれないけど)。
 司会者が主宰者である和久さんのエピソードを紹介した。沢井さんの内弟子を経験したこと。料理しながらも本を読んで勉強していたこと。そこまでやらなくても,いつ寝るのか,と周囲に言わしめたこと。芸大を受験する弟子を自宅に泊めて指導すること。熱い人なんだね。

● 最後(18番目)は三曲協会の役員が,福田蘭童作曲の「夕暮幻想曲」と「笛吹童子」を演奏。福田蘭童は芳賀町ゆかりの人。名前くらいはぼくも聞いたことがある。が,何をした人なのかってのは,今回初めて知るに及んだ。

● どの団体も礼の仕方が美しいのはさすが。胸をせりだすようにしながら腰を折ると,きれいに見えるのかなぁ。
 箏をやってる人って,茶道とか華道の心得も普通に持っているものなのか。初歩的な質問で申しわけないけれど,機会があったら訊ねてみたい。

2012.11.03 東京フィルハーモニー交響楽団演奏会 vol.3

宇都宮市文化会館大ホール

● 恒例になった感のある宇都宮市文化会館での東京フィルハーモニー交響楽団の演奏会。わざわざ東京に出向かなくてすむだけでもありがたいというものだ。
 開演は午後3時半。財布と相談してB席にした。2千円。B席でも2階席の前の方の中央。まずまず文句はない。

● 今回はオールチャイコフスキー・プログラム。
 イタリア奇想曲
 ヴァイオリン協奏曲 二長調
 交響曲第4番 へ長調

● 指揮は大井剛史さん。地元出身者っていう身びいきもあるのかもしれないんだけど,大井さんの指揮ぶりを見るのも楽しみのひとつ。
 オケにも茶目っ気を振りまいている感あり。オケとの関係も良好なのではあるまいか。大事なことですよね,これ。
 指揮者である以上,言うべきことは言っているはず。言うべきことを言えるためにも,オケとの関係を良好に保っておくことは重要でしょ。もちろん,それだけじゃいけないんだろうけど。

● ヴァイオリン協奏曲は「ノダメ」で認知度があがったのかもしれないけれど,ノダメ効果なんてのは瞬間的なものだろうね。もともと超メジャーな曲だし。
 ソリストは川久保賜紀さん。彼女が出るからこの演奏会を聴きに来たって人も多いかもしれない。
 バーガンディのドレス。長い髪をカチューシャでおさえて登場。遠くからでも美しさがわかる。あまり外見のことを言われるのは,たとえほめられている場合であっても,いい気分はしないものかもしれないけれど。
 ステージに立つ以上,外見を整えることに手を抜くのは論外。そんなことは百も承知,二百も合点のはずで,一切手抜きなしの外見で登場されると,こちらとしてはひれ伏すしかないというありがたい状況になる,と。
 圧倒的な拍手でアンコール。フリッツ・クライスラーの「レチタティーヴォとスケルツォ」から「スケルツォ」を。

● 交響曲第4番にも満足。アンコールも当然ながらチャイコフスキー。「白鳥の湖」の「ワルツ」。
 6月に聴いたベルリン交響楽団の演奏を思いだしていた。あのときのベルリン交響楽団の演奏より,今聴いている東京フィルの方が巧いよなぁと思ってたんですね(曲目は違うんだけどね)。
 技術はともかくとしても,活きがいいというか躍動感があるというか。あのときはこちらの期待が大きすぎたのかもしれないし,団員がたまたま不調だったのかもしれないんだけど(そもそも,ぼくの耳がおかしいということも考えられる)。でも,けっこうな有意差で今回の東京フィルの方がいいな,と。

● クラシック音楽はヨーロッパで生まれているから,舶来信仰から自由になりにくいところがある。向こうが上で,こちらは合わないサイズの洋服を無理に着ているのじゃないか,みたいな。
 しかし,これだけ地球が狭くなって行き来が自由にできるようになり,インターネットまで登場しているのに,舶来などと考えることじたいが時代錯誤なのかもしれないなぁ。
 音楽は世界共通語だから,洋の東西を問わず,また今昔を問わず,普遍的に誰にでも一様に通じるはずだとは,さすがに思わないけれども。

2012年11月4日日曜日

2012.11.02 青森山田中学・高等学校ミュージカル「楢山節考」


栃木県総合文化センター サブホール

● 青森山田中学高等学校演劇部の宇都宮公演。今月23日に「リンクステーションホール青森」で行われる公演の,今回は総合リハーサルも兼ねてのものか。
 開演は午後4時。入場無料。

● 受付で名前と連絡先を書く。結婚披露宴に来たようだ。プログラムも何も渡されなかったので,そういうものかと思って(無料だしな)会場に入って空席を探した。が,空きがない。すべての席に荷物が置かれている。どうしたものかとウロウロした。
 が,その荷物がみな同じもの。どうやらプログラムもその中に入れて,あらかじめ客席に置いておいたようだ。

● 招待者席もあったのだが,サブホールがほぼ埋まっていた。平日の午後4時からの公演でこれだけ入ればたいしたものだ。
 今回の公演にはNPO法人日本ケアフィットサービス協会ってのが噛んでいたようで,公演前にそこが主催したシンポジウムがあった。それに参加した人たちがこちらにも来ていたろう。

● プログラムには「青森山田版ミュージカル」とある。吹奏楽が舞台下にスタンバっていたし,ダンスシーンや歌うシーンも多かったから,ミュージカルと言われればそうかなと思うんだけど,印象としては純粋演劇に近いもの。
 という印象になったのは,主役のおりん婆さんの存在感が圧倒的だったからだ。発声も動作もじつにリアル。役と演技者の間に隙間がない。役に没入する集中力もハンパない。これだけは生徒じゃなく,セミプロを持ってきたのだなと思っていた。
 のだが,彼女も生徒なのだった。嘘だろっと思いましたね。今でも,あのおりん婆さんを高校生が演じていたってことが,なかなか腑に落ちてこない。

● 多くの生徒たちにとっては,やりたいのは演技よりダンスなのかなぁ。ざっくり言うとモダンダンスってことになるんだと思うんだけど,動きに切れがあって,きちんと鑑賞に耐えるダンスになっていた。身体能力の高い子が多い。

● 発声も鍛えられている感じ。冒頭の舞台口上も,山入り前夜に辰平に作法を指南するところも,聴きごたえがあった。お見事。

● それと簡潔極まる舞台デザインも好印象。ひとつの台が家にもなりお山にもなる。日本の演劇はこうじゃないとね,とぼくなどは思ってしまう。
 あと,プログラムの表紙の絵。舞台を観たあとにこの絵をながめていると,しみじみしてくる。ずっとながめていられる。

● 終演後に,生徒たちが整列して観客を見送るのだが,そのときに生徒たちが発散しているエネルギーに圧倒された。ぼくにはそのエネルギーを受けとめることができなくて,そそくさと通過してしまった。申しわけないことだ。
 泣いている子もいた。ここまで投入した時間と労力。それをこの2時間で出しきった。いかばかりの達成感であることか(ただし,ここは泣いていい局面ではないと思うぞ。まだ本番が残っているじゃないか)。
 あとは23日の地元での公演。成功を疑わないね。

● ちなみに,おりん婆さんを演じていたのが生徒だったことに気づいたのは,ここに彼女も並んでいたからだ。そのときの驚きときたら。