宇都宮市文化会館 大ホール
● 地元出身の大井剛史さんが東京フィルハーモニー交響楽団を指揮する「ブラームスはお好き?」の3回目。ブラームスの4つの交響曲を1番から順に演奏していく。今日を除けば,残りあと1回になった。
ブラームスの前は,チャイコフスキーの後期交響曲3つについて同様の演奏会があった。ブラームスの後も継続されるのかもしれない。
● その場合は,誰を取りあげるんだろうか。ニールセンなんか面白いのじゃないかと思うんだけども,公立ホールの主催となると,あんまり尖った企画にはできまい。
今さらベートーヴェンでもなかろうしなぁ。ぼくとしてはブルックナーなんかやってもらえると嬉しいんだけども,毎年ひとつの交響曲を取りあげるんじゃ,少し以上に息の長すぎる企画になってしまう。
● 開演は午後4時。ぼくのチケットはB席で2,000円。2回左翼席の前の方で,ここがBとはありがたい。Sでもおかしくないと思う。オーケストラの全体が見える。
このチケット,6月16日に宇都宮駅東のファミリーマートの機会を操作して買っている。いい席をと思うならできるだけ早く買った方がいいということもある。Sでも限りなくAに近いSがあり,Bでも限りなくAに近いBがある。
● もうひとつ,行けるか行けないか予定がハッキリしないからという理由で買わないでいるのは最も良くないと思っているからだ。
行きたいと思ったのなら,予定不明でも買っておいた方がいい。そうしておいた方が行ける確率が高くなるような気がしている。確たる根拠はないのだが。
● 曲目は次のとおり。
悲劇的序曲
ヴァイオリン協奏曲 ニ長調
交響曲第3番 ヘ長調
● ヴァイオリン協奏曲のソリストは神尾真由子さん。チャイコフスキー国際コンクールの覇者。
今回の白眉はこのヴァイオリン協奏曲だった。神尾さんのふてぶてしいほどの迫力というか押し出しに満ちた所作が,ステージと客席をほぼ完全に支配した。自らを矜む気持ちの強さというかな。
彼女にとってはこれが普通なのだろうな。これくらいで驚いてちゃダメよ,と言われるかなぁ。宇都宮でこの演奏を聴くことができた幸せを噛みしめておりますよ。
● ブラームスの3番は比較的,演奏される頻度が低いかに思えるけれども,ブラームスらしい質量に満ちた大曲。
演奏しているのが東京フィルハーモニー交響楽団なんだから,何の文句もあろうはずがない。毎回思うことを今回も思った。団員の平均年齢がだいぶ若い。
● 今どき,プロの奏者になるような人,いや音大に進むような人っていうのは,幼少の頃から楽器に親しんできたに違いない。ぼくはひと筋の道に精進した人,職人というイメージを持ってしまうのだが,実際のところはどうなのだろう。
どうなのだろうというのは,“ひと筋の道”は道として持ちながら,広い世界を確保してきた人も多いのかなという意味なんだけど。
● 彼らの演奏を聴きながら,同じように3歳や5歳で楽器を始めても彼らのようになる人とならない人がいるのは,なぜなんだろうなと思ってみた。
で,次のような問題を自分に出してみたくなった。解答案は今のところない。
超の付く一流と並の一流を分けるものは何だと思うか。各自,思うところを千字以内で記せ。ただし,次の語句を用いてはならない。 1 才能 2 環境 3 英才教育 4 運
● 大井さんの端正な所作も見所でしょ。指揮はたぶん所作だけで行うものではないのだが,客席からは(P席でもない限り)指揮者の表情は見えない。見えるのは所作だけなので,“所作=指揮”になりがちだ。
しかし,まぁ,それで当たらずとも遠からずだろう。所作と表情が乖離するとは考えづらいのでね。
● というわけで。価値ある2千円,価値ある2時間。
ちなみに,神尾さんのアンコールはパガニーニ「24の奇想曲」。オケのアンコールはハンガリー舞曲第4番。
● ところで。終演後,ちょっと近くをウロウロしてから宇都宮駅に向かうバスに乗ったんだけど,そのバスに大井さんも乗ってきてね。あれっと思った。
車で移動しているのかなと思ってたもんで。指揮者のイメージってそうなんですよね。カラヤンにしてもカルロス・クライバーにしてもスピード狂。どこへでも自分で運転して行ってしまうというイメージ。
常に必ず車とは限らないってことですか。にしても,主催者が駅まで公用車で送るってのもなしなのか。大井さんがその申し出を断ったのか。
ともあれ。今日は新幹線で帰京して,明日はまた明日の現場に向かうのだろう。流れ渡世の職人のようだな。
宇都宮市文化会館 大ホール
● 地元出身の大井剛史さんが東京フィルハーモニー交響楽団を指揮して行う,ブラームス・チクルス(ではない)のこれが2回目。全4回の予定。年に1回だから,あと2年。
開演は午後6時。ぼくのチケットはB席で2,000円。このホールでぼくが好んで座る席がこうした指定席のコンサートではB席になることを以前に知って,オッと思った。今回は2階の左翼席なんだけれども,オーケストラの全体が見えて,ぼくはわりと好きなのだ。特に,管楽器の奏者がまるごと見えるのは,何気に嬉しいのだ。
● 曲目は次のとおり。
ハンガリー舞曲第3番
ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調
交響曲第2番 ニ長調
● ピアノ協奏曲のソリストは横山幸雄さん。彼の特徴は,タメを作らないでサッと演奏に入るところ。ピアノの前に着座するやいなや,鍵盤に指をおろす。電光石火。もちろん,独奏曲での話。協奏曲では待ち時間ができるのは当然ね。
舞台袖にいる間にガッとテンションを高めているんでしょうね。着座してから間をおいてしまうと,せっかく高めたテンションが下がってしまうのかもしれない。
だから,彼に付いていくためには,こちらも予めテンションを高めておかなければならない。聴く体勢を整えておくこと。
● オール・ブラームスでオーケストラは東京フィルハーモニー交響楽団なんだから,ぼくに何の文句もあろうはずがない。2,000円でこれが聴けることをしみじみありがたいと思うだけだ。
団員の平均年齢がだいぶ若いように思う。新陳代謝が正常なのだろうか。あるいは,過剰なんだろうか。
● 大井さんの端正な指揮がオーケストラを導いていく。指揮者を大きくカラヤンタイプとバーンスタインタイプに分けるとすれば(無茶な分け方だが),彼は明らかにカラヤンタイプ。
動きに過剰感がないのはとてもいいと思う。指揮者はパフォーマーでもあるとは思うんだけど,パフォーマンスが前面に出てしまうのは,パフォーマーとしてもいかがなものか。指揮者は自らの意図をオーケストラに伝えればいいのだ。伝わればそれでいい。
● ところがね,今日は雑念が尽きることなく湧いてきて。これまでの失敗や,人には言えない恥ずかしすぎる振舞が,次から次へと。
“ギャッと叫んでロクロ首”的な衝動にひたすら耐えていた。ので,終演後はいったい自分は何を聴いたのかという感じで。妙に疲れてしまって。
こんなこともあるんだな。いや,こんなのは初めてなんだけど,いったい何がどうなったんだろうかなぁ。
那須野が原ハーモニーホール 大ホール
● 今年の聴き初め。足利カンマーオーケスターのニューイヤーコンサートで幕開けだ。
● 足利はこと音楽に関しては,相当活発に動いている印象がある。2013年に「足利オペラ・リリカ」が発足した。これがどういうものなのか,イマイチぼくにはわからない。プロ歌手を育成するところなのか,最初からプロを集めてオペラを催行するところなのか。はっきりしているのは,足利市民会館の専属団体だということ。
足利カンマーオーケスターも「足利市民会館の専属プロフェッショナル室内オーケストラとして発足」したらしい。ここまでやっているところは,県内の他市町にはないでしょ。うまくいくとは限らないと言われたろうけれど,もう5年が経過する。
他に,毎年,N響が足利で演奏会を開催している。市からの働きかけがあってのことだろう。
● しかし,問題がひとつある。足利市側の問題ではなく,こちら側の。つまり,19時開演だと最終の黒磯行きに間に合わないのだ。その日のうちに家に帰り着くことができない。
いくら北関東道路ができたとはいえ,ぼく的には車で足利まで行く気にはならない。車で走るのは片道50㎞が限度かなぁと思っている。車を運転してると,時間を捨てているような気がしてね。
というわけだから,なかなか足利まで聴きに行くということにはならない。
● ところが,今回は,向こうから那須に来てくれる。なら,これは行くしかないでしょ,というわけで,出かけてみたわけなんでした。
どんな演奏をするのか興味があったし。どんな人たちなのかも興味があったね。
● 開演は午後2時。チケットは2,000円。当日券を購入。
曲目は次のとおり。指揮は大井剛史さん。
モーツァルト 交響曲第36番「リンツ」
ヴォーン=ウィリアムズ チューバ協奏曲
J.シュトラウス ワルツ「春の声」
J.シュトラウス 喜歌劇「インディゴと40人の盗賊」序曲
J.シュトラウス シャンペン・ポルカ
ヨーゼフ・シュトラウス ワルツ「オーストリアの村つばめ」
J.シュトラウス ポルカ「観光列車」
J.シュトラウス 皇帝円舞曲
ちなみに,ヨーゼフ・シュトラウスとはJ.シュトラウスの弟。こういうふうに書き分ける習わしなんですかね。
● 前半が「リンツ」とチューバ協奏曲。チューバは田村優弥さん。田村さん,作新学院の(英進部というよりは)吹奏楽部を卒業して,藝大に進んだ。2015年のコンセール・マロニエ金管部門で第1位。
その田村さんの軽快な捌きはお見事だと思うんだけど,どうも大井さんの指揮とオケが噛み合っていないように思えたんだが。何とはなしにノリが悪いような。指揮者もオケも。気のせいか。ひょっとして,大井さん,疲れている?
● それが解消されたのは,後半のニューイヤーコンサートに入ってから。こちらは,どの曲も流れるように過ぎていく。演奏する側も気持ちいいに違いない。
Wikipediaによれば,ウィーン・フィルによるニューイヤーコンサートが始まったのは,「ナチス・ドイツのオーストリア併合によるオーストリア人の不満をためないよう」にするためだったらしい。当然,オーストリア人に馴染みがある曲で,コアなクラシック音楽ファンでなくても楽しめるものに仕立てられたわけだろう。
胃もたれのしない,軽快な曲が続く。結果的に,新年早々のコンサートにはピッタリというかね。世界中にテレビ中継されるのも,同じ理由によるだろう。
● 下世話な推測なんだけど,放送料だけでも莫大な金額がウィーン・フィルに転がりこむんだろうな。年間収入の何割かをこれだけで稼ぐんじゃないか。
だからこれはやめられないよね。ずっと続いていくだろうね。
● 昨日は足利で定演だった。ブルッフのヴァイオリン協奏曲があった。これは聴きたかったなと思う。だったら足利まで出て来いや,ってことだよなぁ。
このオケのメンバーの中で一人だけ知っている人がいる。いや,知り合いだという意味ではなくて,演奏を聴いたことがあるという意味ね。コントラバスの廣永瞬さん。2012年のコンセール・マロニエ本選に出ていた。
● アンコールはお約束(?)のラデツキー行進曲。YouTubeでカラヤンが指揮している演奏を見る(聴く)のは,日々の小さな楽しみ。生で聴けるのは大きな楽しみか。
宇都宮市文化会館 大ホール
● 宇都宮市文化会館で東京フィルハーモニー交響楽団の演奏会が開催されるのは,2010年6月から2014年11月までに6回あった(それ以前からあったのかもしれない)。
後半の3回は,地元出身の大井剛史さんの指揮でオール・チャイコフスキーだった。その後,会館の改修工事もあって途絶えていたわけだが,改修後のこけら落としも東京フィルだったのではないか。
その演奏会には行けなかったので,わりと久しぶりな東京フィル。
● この「ブラームスはお好き?」は,オール・ブラームスで全4回になる予定。大井さんが指揮をとる。大井さんのための演奏会という感じだね。地元出身の有力な指揮者を全面的に支持するぞ,というホール側の決意を感じる。
もちろん,異議はない。大井さんならば,それで不自然さを感じさせるところは皆無だから。
● 以前,那須野が原ハーモニーホールが,毎年,東京交響楽団を招聘していたけれど,現在は行っていない。宇都宮市文化会館と東京フィルの関係は,栃木県内でプロオケの演奏を聴ける貴重な機会を提供してくれている。
というわけで,東京フィルの演奏を聴くのは,これで7回目になる。プロのオーケストラの演奏を聴くことはほとんどないんだけど,東京フィルはダントツで多い。
ちなみに,他には,N響を3回,東響,山響,日フィル,読響,兵庫芸術文化センター管弦楽団をそれぞれ1回。国内のプロオケを聴いたのは,これですべてだ。
● 開演は午後3時半。チケットはS・A・B・C。Sが4千円で,以下千円きざみ,C席は千円。ぼくは2千円のB席をかなり早い時期に取っておいた。
で,そのB席というのが,ぼくが好んで座る2階のウィング席なんでした。そっかぁ,自分の好みの席はBだったのか。でも,1階席の真ん中辺よりここの方がずっといい。前席の人の頭が視界を遮ることがない。ステージをバッと見渡せる。
逆に言うと,この席をBにしてるってのは,相当に良心的だとも言える。
● プログラムは次のとおり。
大学祝典序曲
ピアノ協奏曲第1番 ニ短調
交響曲第1番 ハ短調
クラッシックを聴く人で,ブラームスが嫌いという人はあまり(というか,ほとんど)いないと思う。ブラームスに駄作はない。何を聴いても,ブラームスなら安心このうえない。
● ところが,ぼくときたら鈍というか愚というか,ブラームスがわかったと思えたのは,だいぶあとになってからだった。
2013年10月に,兵庫芸術文化センター管弦楽団の演奏を聴いたときだ。指揮は佐渡裕さん。演奏したのは交響曲第4番。このときの憑きものが落ちた感じは,もちろん今も憶えている。
● 大学祝典序曲。東京フィルって,プロオケの中では団員の平均年齢がだいぶ若い方なんだろう。いい意味での若さが充満していて,清新な印象を受ける。
この楽団の持ち味と言っていいんだろか。この曲の曲調に合っている。
● ピアノ協奏曲第1番。ソリストは黒岩航紀さん。この名前は憶えておくべきだ。25歳の天才ピアニスト。彼も栃木(宇都宮)育ち。
技術的にはすでに頂点に達しているのだろう。ここから先は技術以外のところでどこまでノビシロを拡げていけるかだろうけど,このレベルの話はぼくのような素人が口を出していい部分ではない。本人が色々と試行錯誤を重ねているに違いない。
● 交響曲1番は,ブラームスの4つの交響曲の中でも,こめられたエネルギー量が最も大。エネルギーが迸っているのに破綻が一片もないという,大変な作品だと思うんですが。
演奏する方はもちろんだろうけど,聴く方もしっかり疲れる。
● 大井さんの指揮ぶりも魅力。指揮者を見ているだけで飽きることがない。
彼の指揮に初めて接したのは,那須フィルの音楽監督を務めていた頃,7年前か。そのとき,大井さん,36歳。この7年間,着実に月日を充たしてきたんだろう。風格らしきものも漂うようになっていた。
オーケストラとの関係をどう持っていくか,どうやってオーケストラを掌握するのか,あるいは掌握してはかえっていけないのか。書物で得た知識はぼくにもあるんだけど,すべてを文字にすることはできないものだろう。現場に立つ者にしかわからないことが海のようにあって,その多くは言葉に翻訳することができないに違いない。
● B席チケットが2千円。交通費が770円。たったそれだけのコストで,宇都宮でこれほどの演奏が聴けるとは幸せだ。本当にそう思う。
3千円足らずで王侯貴族になった気分を味わえるのだ。いい時代に巡り合わせた。
だいぶ高揚してしまったので,終演後は鶴田駅まで歩いてクールダウンした。東の空にかかっていた満月がきれいだった。予定調和的な終わり方で申しわけないが。