鹿沼市民文化センター 大ホール
● 高校生の演奏は何度か聴いたことがあるけれども,中学生のオーケストラは聴いたことがない。それも道理,吹奏楽ならともかく,管弦楽部を抱える中学校はごく少ない。ぼくの知る限り,栃木県には2校しかない。その2校とも鹿沼にある。
ちなみに,高校でも管弦楽部があるのは10校に満たないが,そのひとつは鹿沼高校だ。鹿沼にはジュニアオケもある。なかなかすごいのだ。
どんなキッカケがあって,鹿沼でこれほど少年少女のオーケストラ活動が盛んになったのか。その辺の事情については,何も知らないんだけど。
● ともあれ,その中学生の演奏を聴いてみたいと思った。ただ,二の足を踏ませるものがひとつだけある。
観客のほぼすべてが生徒の父兄だろうと思われることだ。屋内運動会あるいは村祭り的なムードが会場に充満するだろう。それは覚悟しておかないと。こっちが闖入者なんだしな。
取り得る対応策はひとつ。前の方に座らないこと。後方に席を取ることだ。騒々しいやつほど,前に行くから。これが経験則の教えるところだ。
● と思って出かけてみたんだけど,いや失礼しました,父兄の皆さん。そんなことにはならなかったんでした。
唯一,演奏中にビデオカメラやスマートフォンの液晶画面が,客席のそちこちで,咲きほこる花さながらにキラキラしていたけれども,これは許容されるんでしょうね。動画撮影中に着信音は鳴らなかったしさ。
● 生徒の側の進行管理,ステージ設営はたいしたもの。この生徒たちをこの父兄たちが養育してるんだよなぁ。不思議だよねぇ,考えてみると。かけ算九九もろくにできない者が微積分まで知っている人に数学を教えているようなものじゃないか,と思ったりしたね。
実際はさ,生徒たちは今がオンなわけで,オンとオフの差は相当あるに違いないんだけどさ。対して,父兄の方はオフ状態なわけだからね。
● プログラムに掲載されている校長あいさつによれば,「近年の少子化傾向もあって,部員数の確保も大きな課題」になっているらしい。
オーケストラ部に限らないんでしょうね。総数が減っているんだから,いかんともしがたいですよねぇ。各部が部員を取り合う図式になっているのかもしれないね。
しかし,「重奏部門においては全国1位に相当する文部科学大臣賞を,2年連続で受賞」したとある。とびきり上手な生徒が何人かいるんだろうか。
● 開演は午後2時。入場無料。内容は2部構成で,前半は金管,木管,弦それぞれのアンサンブル。後半がオーケストラ。
で,まず,金管アンサンブル。演奏したのは次の3曲。
宇宙戦艦ヤマト(宮川泰)
世界に一つだけの花(槇原敬之)
文明開化の鐘(高橋宏樹)
● 失礼ながら,ステージ(で演奏する奏者)に対して言いたいことをひとつだけ持っている。
ステージに立ったら,自分の技術の巧拙を忘れること。たとえ拙であっても,巧なんだと思いこむこと。
オドオドしたり球をあてにいったりしないこと。思いきりよく踏みこんで,フルスイングを試みること。野球と違って,来る球はすべてストライクに決まっているんだから。
結果なんか,気にしたってしょうがない。どうせ観客は朴念仁だ。失敗したってわかるものか。っていうか,わかられたって,別にかまわないじゃないか。
● プロなら知らず,ステージに立つアマチュアに要求される能力の筆頭に来るものが,この思いこめる能力だと思う。
本番に勝る練習はないわけで,その本番という練習を実りあるものにするためにも,自分は巧いと思いこんで,巧い自分ならどうするかをイメージし,そのイメージのとおりにやってしまうこと。
● とはいえ,このアンサンブルが拙だったというわけではない。ぜんぜんそうではない。特に「文明開化の鐘」は伸び伸びと演奏してた。ひょっとして吹きやすかったりするんだろうか。
ひっかかったのは客席の方で,「宇宙戦艦ヤマト」が始まってすぐに手拍子を始めたオバサンがいたんですよ。これはどうなのか。OKなのか,NGなのか。
手拍子を入れたくなるリズムではあるよね。ひょっとすると,彼女はこの学校の教師なのかもしれない。応援の気分を込めた手拍子だったのかもしれない(ただ,ぼく一個の感想を述べれば,相当以上に耳障りだった。演奏の邪魔をしているように思われた)。
● 次は木管アンサンブル。
「となりのトトロ」(久石譲)とモーツァルトの木管五重奏曲ハ短調の第1楽章。ぼくの中にある中学生のイメージを壊してくれる。中学生をなめちゃいけないぜ,と,当の中学生に知らされるのはかなりの快感。
● メンバーが交替して,ルパン三世のテーマ(大野雄二),イベール「三つの小品」の第1曲と第3曲,夕焼け小焼け変奏曲(渡辺弘和)を演奏。
驚いたのは「夕焼け小焼け変奏曲」。同じメロディーを和風,タンゴ風,ジャズ風など,いくつものバリエーションで吹きわける。楽譜のとおりに吹けばそうなるんだろうけど,そうだとしてもこの完成度には驚くしかなかった。
フルートもオーボエも乗るところに乗り遅れない。ホルンも難しい楽器だろうに,上手に手なづけている感じがした。クラリネットもファゴットも,ほんとに中学生なの,って思った。
● さらに驚いたのが,弦楽合奏。全国1位を取った重奏ってのは,この弦楽合奏のことなんですかね。
ヴィヴァルディの「四季」から「冬」を演奏。ノイズが少ない。客席に届いてくる音に濁りがない。
ソロを弾く女子生徒の巧さがハンパない。呆れるほど。しかし,スタープレーヤーひとりが巧くて,他がダメならば,こういう合奏にはならないわけで,全体的にレベルが高いんですな。
ひょっとすると,彼女が他メンバーへの刺激になって,全体を引きあげるという好循環が効いているのかもしれない。でも,そうした絵に描いたような理想的な循環って,そうそうは実在しないものでしょ。
● 15分間の休憩の後,今度はオーケストラの演奏。
まずは,ヴェルディの歌劇「運命の力」序曲。結論から先に言ってしまうとですね,ぼくが知る限りでも,ここより下手な大人のアマチュアオーケストラ,・・・・・・あるぞ。
前半のアンサンブルでも聴かせてくれた,フルートとオーボエの健闘が印象的。
● 次は,ホルストの組曲「惑星」から「木星」を演奏。メリハリがあって,平原綾香もまっ青(になるかどうか知らないけど)の表現力。
少なくとも平原綾香の「ジュピター」をCDで聴いてるより,今回のこの演奏の方が,こちらに訴えてくるものがずっと大きい。ま,CDと生とを比較するわけにはいかないんだけれど。
● リムスキー・コルサコフの交響組曲「シェエラザード」第4楽章。コンミスのヴァイオリン・ソロが圧巻。客席も息をつめて,彼女の演奏を見つめていた感じ。有無を言わさぬ説得力とはこういうことだ。
彼女,高校は音楽科に進むのかなぁ。プロへの道はなお峻険だろうけど,プロになるならないにかかわらず,青春をヴァイオリンに賭けてみるのはありだよなぁ,とか思った。
● 最後は,ストラヴィンスキーの組曲「火の鳥」(1919年版)から「魔王カスチェイの凶悪な踊り」と「終曲」。
ステージの奏者たちを見ていると,コンミスが突出しているわけでもないのかなあとも思える。それぞれ,なんだか凄い感じ。
● それより,これだけのバリエーションを展開できる中学オーケストラ部ってのが,なかなか腑に落ちてこなくてね。
ぶっちゃけ,どうせ中学生だもんな,ってあんまり期待しないで行ったわけです。結果,あまりにも想像と違っていたものだから,ぼくの脳が落ち着き先を見つけられないでいる。
あっという間の2時間だった。恐れいりました,っていうのが最終的な感想だ。
● 帰宅後,あらためてプログラムを読み直してみたら,部長あいさつに,「(部員の)ほとんどが中学生になってから楽器を始めた初心者です」とあった。
本当か? 本当にそうなのか? いや,不思議はない。高校や大学で始める人もいる。中学で始めていれば早い方だ。なんだけど,初心者であそこまで行けるものなのか。腑に落ちなさがいっそう強くなった。
どうも、演奏会楽しんで頂けて嬉しかったです。
返信削除明後日7日にまた市役所でコンサートがあるので
見に来て頂けたら嬉しいです
1stクラリネット
長い文章を読んでくださってありがとうございます。
削除感想の詳細は本文に書いたとおりですが,ほんとに驚きました。
曲になっているのに加えて,磨きまでかかっていたので。
受験も大変でしょう。高校でも,クラリネット,続けてください。
ヴァイオリン部員の親です。子供たちに文面見せてあげました。このように応援してくださる方がいることをとても喜んでいました。ありがとうございました。
返信削除こちらこそ,お読みいただいてありがとうございます。
削除とても嬉しいです。
ことさらにほめているつもりはなくて,感想をそのまま書いただけですが,少々以上に驚いたことを懐かしく思いだします。
演奏会に来ていただきありがとうございました。そして、こんなに素敵な長文を書いてくださり、ありがとうございます。
返信削除とても感動しました。
オーケストラ部の、これからの成長を見ていただけると嬉しいです。
また、定期演奏会がありましたら来ていただけると幸いです。
文、少し変ですが…気にしないで下さい。
viola1年
本当に長い文章で申しわけありません。
削除お読みいただいて,ありがとうございました。
練習はきついですか。どうぞ,ご精進ください。
文,べつに変なところはないと思いますが。