約2時間のコンサートが終了した直後の満足感は,他のものでは代替できません。この世に音楽というものが存在すること。演奏の才に恵まれた人たちが,時間と費用を惜しまずに技を磨いていること。その鍛錬の成果をぼくたちの前で惜しみなく披露してくれること。そうしたことが重なって,ぼくの2時間が存在します。ありがたい世の中に生きていると痛感します。 主には,ぼくの地元である栃木県で開催される,クラシック音楽コンサートの記録になります。
2012年1月31日火曜日
2012.01.28 楽器たちの饗宴 一流アーティストによるリレーレクチャーコンサート
栃木県総合文化センター メインホール
● 28日(土)は総合文化センターで「楽器たちの饗宴」なる無料のコンサートがあった。開設20周年記念の催し。出演者は菊池洋子(ピアノ),徳永二男(ヴァイオリン),吉野直子(ハープ),高木綾子(フルート)の4人。全体の司会進行は朝岡聡さん。テレビ朝日のアナウンサーだった人。
いずれも錚々たるメンバーで,これだけのメンツを揃えて,無料で公開するというのは,なかなか凄いことではないか(4人とも,今年の12月から総文センターでリサイタルを行うことになっているそうだ)。総文センターができて,県都の文化事情はたしかに変わった。いや,変化が先で,それが総文センターを造らせたのかもしれないが。
● それぞれの持ち時間が1時間。間に15分間の休憩が入って,トータルで4時間45分の長いコンサートになった。けれども,朝岡さんの座持ちがさすがに旨くて,飽きさせなかった。彼は趣味でリコーダーを吹くらしいのだが,音楽への造詣は相当なもの。
● 菊池さんのピアノ。弾いたのはすべてモーツァルト。朝岡さんによれば,彼女はモーツァルト弾きとして認知されているそうだ。
まず,「幻想曲」をフォルテピアノで弾いた。次にピアノ・ソナタ第8番の第1楽章をフォルテピアノとモダンピアノの両方で。ピアノ・ソナタ第10番をモダンピアノで。
フォルテピアノとモダンピアノの違いを菊池さん自身が説明。実技から遠い場所にいるぼくには,そういうものなのかと聞きおくことしかできないけれど。
でも,基礎的なことがわかって嬉しかった。ピアノは(フォルテピアノも)ハンマーで叩いて音を出すのに対して,チェンバロは引っ掻いて音を出す仕組みになっていることとか,ピアノという名前の由来とか。何せ,こうしたことがらに関して,ぼくはほとんど何も知らないからね。
● 最も盛りあがったのが徳永二男さんのヴァイオリン。ヴァイオリンという楽器の持つ特性なんでしょうね。朝岡さんも細かい感情表現に適した楽器だと評していたが。
演奏曲目は,ヴィターリの「シャコンヌ」,サン・サーンスの「序奏とロンド・カプリチオーソ」,チャイコフスキー「メディテーション」,サラサーテ「ツィゴイネルワイゼン」の4曲。
「ツィゴイネルワイゼン」以外は,初めて聴くもの。「ツィゴイネルワイゼン」は昨年,那須野が原ハーモニーホールで聴いたことがある。超絶技巧のヴァイオリン曲の代名詞?
● 徳永さんは長くN響のコンマスを務めた人だから,知名度も高い。その徳永さんが使う楽器はストラデバリウス。今も昔もヴァイオリンはイタリアが一番とのこと。
音楽史はたまたまドイツで発生したから,ドイツ生まれの作曲家が中心になっているが,たとえばバッハのオルガン曲の相当部分はヴィヴァルディが作曲したものであって,バッハはそれをオルガン用に編曲しただけとも言われるし,もしイタリアで音楽史が生まれていれば,今とはまったく違った風景になったはずだとはしばしば指摘されるところでもある(って,21日の沼野雄司さんの講演で聞いた知識なんですけどね)。
ピアノは時代が降るにつれて次々に改良されたが,ヴァイオリンは古い楽器が今でも使われる。共鳴箱を形造っている木材の経年変化が大きいらしい。古くなると弾き手の要請に応えてくれる度合いが大きくなるという。
けれども,弾いていないといけない。弾かないで金庫に1年もしまっておくと,共鳴してくれなくなるものらしい。木造住宅も人が住んでいないと荒れてしまう。木ってそういうところが面白いと思う。
● 吉野直子さんはロンドン生まれ。フォーレの「塔の中の王妃」など8曲を演奏した。ハープも時代とともに大きくなってきた楽器。マリーアントワネットがハープ好きだったというのを初めて知った。彼女の時代のハープはルイ16世タイプと呼ばれる小ぶりなもの。そのルイ16世タイプのハープでバッハのパルティータ第1番のプレリュードと,モーツァルトのピアノ・ソナタ第15番の第1楽章を披露してくれた。
ハープを弾いている姿は傍目には優雅だけれども,見ると弾くとは大違い。弦の張力が強くて,体力が要るものらしい。指の皮膚が破れたりはしないのだろうか。
● 最後は高木綾子さん。痩身で長髪の美人である。楚々として知性美を湛えているように思われる。深窓がよく似合う感じ。
ところが実物は。美人には違いないとしても,おきゃんな女性なのだった。短くポンポンと喋る(出身は愛知県)。まず喋って,あとから考えるタイプに見えた。
演奏したのは,バートン「フルートとピアノのためのソナチネ」,マレ「ラ・フォリア」,ドビュッシー「シリンクス」,プロコフィエフ「フルート・ソナタ ニ長調」の4曲。最後のプロコフィエフ「フルート・ソナタ」は聴きごたえ充分。初めて聴いた曲だったけれども。
● ちょっとしたパフォーマンスもあった。観客が息をとめていられる時間と,彼女がフルートを引き続ける時間の,どちらが長いか比べてみようというもの。もちろん,彼女がフルートの音を切らさずに出し続けている時間が長いわけで,その秘密は循環呼吸。8月の宇女高OGオーケストラの演奏会で,クラリネットの岡静代さんが同じ技を見せてくれた。
高木さんによれば,足りなくなる前にちょっと足すのだという。といわれても,訳がわからない。口から吐くのと鼻から吸うのを同時にやる。プロでも誰もができるわけではないらしいのだが,人間の体というのは訓練すれば珍妙なことができるようになるのだなと思うしかない。
● というわけで,充分に堪能できた。先週のカルチャーセンターもだけれども,これで無料とはありがたい。税金をダイレクトに取り戻す感じですかね。
客席のマナー違反はあったけれども,奏者は意外に気にしてないようだ。慣れているということもあるだろうし,その程度では集中を乱されることはないのがプロなのだろうかねぇ。
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿