2013年10月15日火曜日

2013.10.14 作新学院吹奏楽部第48回定期演奏会

宇都宮市文化会館 大ホール

● 昨年に続いて,お邪魔した。開演は午後1時半。チケットは800円(当日券は1,000円)。前売券を購入しておいた。
 客席が大入り満員になることは前回知ったので,早めに会場に行って,並ぶことにした。

● この演奏会の醍醐味は,ひっきょう,若い高校生たちの一生懸命さの炸裂といったあたりになる。一途とか一生懸命というのは,それが誰であれ,何に対してであれ,吸引力を持つ。
 若い人たちであればなおさらのことだ。多くの可塑性を残している高校生たちの一生懸命は,しなやかであり,奔放で躍動感があり,次を予感させる説得力がある。これで終わりじゃないぞ,っていう。
 若さそれ自体に魅力があることを認めないわけにはいかない。若い生命力がキラキラしている様を眺めることは,生存期間が限られている生体の一員としては,しかもその終期に近づいている者にとっては,何がなし安心感を覚えるものでもある。

● 前回は開演に先だって学校責任者の挨拶があった。それが,この演奏会が校内行事であるような印象を与えたものだが,今回はそれがなかった。
 ない方がいいものがない,というのは大事なことだ。きちんと片づいた家屋のようなもの。せっかくの演奏会を散らかしちゃいけない。
 今回のようにいきなり演奏が始まってくれると,演奏会はかくあるべしと思いますな。ユニバーサルっていうか,グローバルスタンダートに則っているっていうか。

● プログラムは3部構成。第1部は正統というかフォーマルな吹奏楽の演奏。演奏前に部員が曲の紹介をするスタイルは,前回と同じ。
 まずはリード「アルメニアン・ダンス パート1」。最初から度肝を抜かれた。要するに,巧いんですよね。最前列にいるオーボエとフルートに気がいってしまうわけだけど,クラリネットもサクソフォンもラッパも太鼓も,何事かと言いたくなるほどに巧い。
 同時に,巧いだけじゃない。

● 巧いというのがほめ言葉にならないことがあると思う。で,その「巧いだけじゃない」ってところを意を尽くして説明しなければいけないんだけど,これがね,ぼくの能力では言葉にしずらいっていいますかね,何なんだろ,ここまでになるのは大変だったろうなぁっていう,ここに至る過程に思いを向けさせるっていうか。
 つまりは,うまく言えない。ただ,本質は「巧いだけじゃない」っていう方にある。

● 「もののけ姫セレクション」も,心に沁みてくるっていいますかね。曲もさることながら,演奏の功績だと思う。
 長生淳「紺碧の波濤」では,フルートのソロがこちらの涙腺を刺激してくる。高校生に泣かされたんじゃ洒落にならないから,必死こいてこらえましたけどね。

● 第2部はバラエティ(ポップスステージ)。客席へのサービス。で,昨年もそうだったんだけど,この学校はそのサービスを過剰なほどにやる。演出が細かい。その細かいところまで手を抜かない。
 たとえば,星出尚志「ダンシン・メガヒッツ」にダンサーを登場させる。もちろん難易度の高いダンスはさせない。なんだけど,踊り手が手を抜かないから,ダンスの見映えが崩れない。

● 演奏する側もリラックスして伸び伸びやってる感じ。ノリがいいっていうか。でもね,ノレるのは技術があるからだよね。こういうところでこそ,実力が露わになるわけで。
 森田一浩編曲「サクソフォンとバンドのための青春の輝き」では,サクソフォンのソロがこれまた巧くてねぇ。しかも,見目麗しい。
 それと,女子ドラマーが何気にかっこよかったね。

● 吹奏楽といっても,ハープも登場するし,エレキギターも出てくる。自分のパートだけできればいいってわけではなさそうなんですね。実際,いくつもの楽器を操れるようなんですな。
 第3部はステージドリルってことになるんだろうけど,「ミス・サイゴン」を演奏。主役は太鼓なんだけど,パーカッションの担当奏者だけでやっていたのではないと思う。

● 最後の生徒(部長)の挨拶も立派なものだった。原稿なし。気持ちが見事に載っている。長さもちょうどいい。いわゆる挨拶でここまでのものを耳にする機会はめったにあるものではない。
 下書きを作って,何度も練習したのかねぇ。まったくのアドリブでここまでできたら天才だけど,下書きとはいえ原稿を作ってしまうと,それに縛られてしまいそうだ。イメージトレーニングだけに押さえたのかなぁ。とか,いろいろと想像を逞しくさせる挨拶でしたね。
 気持ちを載せさせるような出来事があったに違いないんだけど(それも挨拶の中で紹介されてた),この数分間の挨拶ができただけで,彼女の高校生活3年間のモトは取れたんじゃないかと思うほど。この挨拶をするために彼女の3年間はあった,みたいな。

● プログラムの冊子も楽しめるもの。ここでの主役は顧問の三橋英之先生。
 副顧問格の若い先生やトレーナーの先生に,「二人とも早く温かい家庭を持ってほしいと願っています」などと,大きなお世話的なことまで書いているんだけど,面倒見のいい先生なんでしょうね。この先生なしには,この吹奏楽部のカラーもないのだろう。

● チケットにもプログラムにも,「超飛躍 己がやらなきゃだれがやる!!」の文字がおどっている。部是というか,スローガンというか。かくあれと先生が考えたのかなぁ。
 世間全体を視野にいれると,自分がやらなくたって必要なことは誰かがやるし,その誰かの方が自分よりずっと巧くやる,ってのがリアルな見方だって気もするんだけど,小集団になるとそんな呑気なことは言ってられなくなるでしょうからねぇ。

● 客席は今回もほぼ満席。開演時には,1階の最前列から数列と3階席に空席があったものの,途中で埋まった。
 これだけの観客を作新学院の関係者だけで埋められるはずはないと思うんだけど,でも大方はその関係者だったようでもある。さすがは作新の動員力というべきだろう。
 3連休の最終日の昼に時間を空けて,会場まで自分を運んで行って,いくばくかの入場料を払って,2時間半ほどジッとして聴くに値する(もしくは,それ以上に価値のある)演奏会だと思った。

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