那須野が原ハーモニーホール 大ホール
● 前回の「名曲コンサート」は「那須フィルと一緒に音楽世界紀行!」という企画(?)で,世界各国にゆかりのある曲を次々に演奏した。バラエティー的な色彩。
が,今回のプログラムは次のとおり。正統的なオールロシア・プログラム。
ショスタコーヴィチ 祝典序曲
ハチャトゥリアン バレエ音楽「ガイーヌ」より“老人と絨毯織りの踊り” “ガイーヌのアダージョ” “剣の舞” “火災”
チャイコフスキー 交響曲第5番 ホ短調
● 開演は午後2時。チケットは500円。
今回から指揮者が大井剛史さんから田中祐子さんに交替した。その田中さんの指揮を見るのが,今回の一番の楽しみだった。
身長は平気的な日本人女性のそれ。要するに小柄。その小さい身体を大きく使って指揮をする。大きく使えるだけの柔らかさ,バネをお持ちのようだ。指揮者をパフォーマーとして見るならば,彼女はじつに見がいがある。
こういう指揮をすると,この1日で体重が1㎏や2㎏は減るんでしょうね。
● 客席からは見えないけれども,表情も目一杯に作って,オケに自分がどうしたいのかを伝えているに違いない。
それは的確に伝わっているように思われた。
● オケとの関係も良好。指揮者がだいぶオケに気を遣っているように思えたんだけど,あとで田中さんが話したところによれば,この5年間,このオケの合奏トレーナーを務めていたらしい。
とすれば,気心の知れた間柄ということか。
● 印象的だったのは敏捷さ。指揮者って運動神経,反射神経に優れていなければ務まらないように思うんだけど,加えて,この人,筋力が並みじゃない。
流れを作るのが巧い。流れを変えるのも同様だ。敏捷性ゆえかと思われる。
● が,ときに流れすぎじゃないかと思うこともあった。道路にはグレーチングをはめこんだ側溝がある。ある程度の強さの雨が降って,しかも道路の勾配が一定以上にきついと,流れる雨がグレーチングから側溝に落ちていかないで,そのまま流れ下ってしまう。その場面を思い浮かべることがあった。
だけど,わからない。あれでいいのかもしれない。いや,あれでなければいけないのかもしれない。
● 指揮者にとって本質的に重要だと思えるのが,陽気さだ。陽性じゃない指揮者って世の中にいるのかと思うほどだけど,この点においても彼女には欠けるところがなさそうだ。
● で,田中さんに率いられたオケの演奏なんだけど,素晴らしかったと言っておきたい。
チャイコフスキーの5番,第2楽章冒頭のホルンのソロ。あそこで細く長く引っぱるのは,相当に大変だと思うんだけど,たぶん,さらに改善できる余地がある。けれども,あれではダメかというと,まったくそうではない。全体との調和,次へのつなぎ,そういうところで綻びはなかったと思うので。
● 木管ではクラリネットとファゴットが印象に残っているんだけど,フルートとオーボエもまったく問題なし。弦は言うにや及ぶ。
このオケの演奏を初めて聴いたのは5年前か。この5年間でたしかに技量があがっているようだ。大人でも巧くなれるんだ。これはけっこう励ましになる。
● 繰り返すけれども,素晴らしい演奏だったと思う。チャイコフスキーなんか,聴きながらゾクゾクした。
客席も素直にそう反応していた。観客ってひとりひとりをとると,聴き巧者とはいえない人もたくさんいるのだと思う。ぼくだけじゃないはずだ,聴くことにおいて素人である人は。
ところが,その集合体である全体としての観客は,間違うことがない。これ,とても不思議なんだけど,そうなんだよね。客席の反応は常に正しい。
その客席があれだけ満足感を表明していたのだから,素晴らしい演奏だったに違いないのだ。
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