2018年6月30日土曜日

2018.06.29 国立音楽大学栃木県同調会 くにたちコンサート2018

宇都宮市文化会館 小ホール

● 開演は午後7時。当日券で入場した。
 このコンサートは4年前に一度聴いている。今回から“音楽の歴史シリーズ”と題して催行するようで,まず今回はルネサンス音楽編。次回はバロック編になるようだ。
 構えずに楽しめる。コンサートとしては理想形のひとつかもしれない。

● その所以を述べておく必要がある。そのために,まずプログラムを紹介することから始める。
 モンテヴェルディ オペラ「オルフェオ」より“序曲”“プローロゴ”
 ソプラノ独唱
  本居長世 赤い靴
  團伊玖磨 紫陽花
  ロッシーニ 約束
  ドニゼッティ オペラ「ドン・パスクワーレ」より“あのまなざしに騎士は”
 ボロディン 弦楽四重奏曲第2番 ニ長調(第3楽章のみ)

 以上が第1部。最初の「オルフェオ」以外,ルネサンス音楽とは関係なし。モンテヴェルディは「ルネサンス音楽からバロック音楽への転換点に立つ音楽家」と言われるけれども,モンテヴェルディからバロックの匂いを嗅ぐことは,ぼくの耳では難しい。

● 続いて第2部。
 ダウランド おいで,もう一度。今,甘美な愛が
 レウト 愛の神よ,私に告げてください
 プレトリウス クーラント183 ブランレ・モンティランド ブーレ
 スザート ムール人の踊り ロンドⅠ ロンドⅣ バスダンスⅡ
 前半の2つは声楽,後半の2つが器楽。

● 要するに,室内楽的な器楽と声楽が交替で登場する。その規模といい長さといい,頃合いがいいんですね。そこがまず「構えずに楽しめる」所以。
 それと,ルネッサンス音楽というのは,古典だのロマンだのに比べると,数学的な精緻さを欠き,緩い感じがする。その分,聴き手をして勝手に遊ばせてくれる。

● 音楽界はこのあと,大バッハを生み,ベートーヴェンを登場させ,ついにはシェーンベルクを世に出した。でもって現代に至るわけだけれども,それはつまり,音楽が大衆性を失う過程でもあった。
 いや,この言い方は失当だな。電気と録音技術によって,ぼくらは複製を得たのだ。複製によって音楽は一挙に大衆性を獲得したのだから。
 が,音楽の敷居が高くなったのも事実だろう。

● 今回聴いたルネッサンス音楽とシェーンベルク以後の対比は,フェルマー最終定理とABC予想を対比することに相当するような。どちらも数学上の難問とされ,近年,解決されたもの(らしい)。
 フェルマーの最終定理はそれ自体は小学生でもわかるものだ。3以上の自然数nについて,x^n+y^n=z^n となる自然数の組 (x, y, z) は存在しない,という定理のことだ(n=2なら(3,4,5)が存在する)。そういうことかと誰でも理解できる。だから,これが証明されたときには社会的な話題にもなった。
 が,ABC予想はそれがそもどういうものなのかが素人ではわからない。ので,証明されても(しかも,証明したのが日本人であっても)世間はあまり反応しない。

● もし,ルネッサンス音楽のままでとどまってくれていたら。いや,そんなことになったら現在の隆盛はやはりなかったろう。という,とりとめのないことを思いながら聴いた。
 で,そういうことをチラチラ思いながら聴いても,ルネッサンス音楽って楽しいのだ。構えないで聴けるから,疲れない。呼吸を止めて聴くということにはならないからね。
 
● 司会者の解説も役に立った。この時代は楽器の性能がイマイチだったから,どうしても声楽が中心になり,器楽はそれに添えられるものにとどまっていた,と。
 大方の聴き手にとっては常識になっているだろう。が,中にはぼくのような粗忽者もいるかもしれない。今の楽器で判断しちゃうという。

● ので,これで終わっても,ぼくは満足だった。が,このあと,大学の教員2人による演奏があった。
 ベートーヴェン ピアノソナタ第23番「熱情」
 フランク ヴァイオリンソナタ(フルート版 第1,3,4楽章)
 「熱情」は江澤聖子さん,フルートは大友太郎さん。これらは嫌でも構えて聴くことになるんだけど,この水準の熱情ソナタを生で聴けるのは,かなり美味しい。

● ここでもひとつ発見したよ。演奏中の江澤さんが乙女に見えてきたんですよ。一心に曲に向かっているときの女性は乙女に見える。これ,発見。
 同じことが男性についても言えるといいんだけど,大友さんが少年に見えることはついになかった。自分を顧みて言うと,男はもともと成熟を拒否する性であって,中身と外見が連動しないからね。

● もうひとつ。譜めくり女子に不美人なし,というやつ。砂川しげひささんがどこかで書いていた。譜めくり担当の女性は美人ばかりだ,と。
 今回は大友さんのピアノ伴奏を江澤さんが務めた。そのときに譜めくり女子が登場。なるほどなと思った。
 今回に限らず,たしかに譜めくり女子は美人ばかりだった記憶がある。ごく少ない例外はあったようななかったような,そこらあたりは曖昧だけど。

● というわけで,ごきげんなフライデー・ナイトになった。このコンサートは,たぶん,大学側の出捐行為であろうから,遠慮なくタカらせてもらうのが吉かと存ずる。これで1,500円は本当に安い。

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