栃木県総合文化センター メインホール
● 31日も総文センターのメインホールに行った。17時半から山形交響楽団の演奏会があったので。
曲目はモーツァルトの「交響曲第31番 パリ」と「ヴァイオリン協奏曲第5番」。それとベートーベンの「交響曲第7番」である。
「のだめベト7の夕べ」というのがコンサートの冠になっている。
● 指揮は飯森範親さん。映画「のだめカンタービレ」に登場する数々の演奏は,すべて飯森さんが指揮したらしい。
8月に那須野が原ハーモニーホールで東京交響楽団の演奏を聴いたが,そのときも飯森さんの指揮だった。開演前に演奏する曲の解説をするスタイルも8月と同じ。
● 今回はモーツァルトの時代に使われていたのと同じ古楽器を使って演奏するという。トランペットとホルンについては,現物を弾き比べてみせてくれた。弦は弓が短い。それゆえ,テンポは速くなるんだそうだ。
ぼくは聴くばかりで文献を読まないから,作曲家やその作品についての基本的なことを知らないでいる。モーツァルトの交響曲の37番が欠番になっていることを教えられた。少し探したことがあったのだが見つからなかったのだ。もともとないものだったのか。
飯森さんの話は,もちろん短時間で終わるわけだが,観客に合わせて質を落とすってことをしない(と思える)ので,聴き甲斐がある。熱も伝わってくる。
● ヴァイオリン協奏曲のソリストは,芸大3年の鈴木舞さん。若干21歳にしてプロのオーケストラと共演するのだから,才能の固まりのような人なのだろうと思うしかない。
山形交響楽団。プロオーケストラのひとつだってことは知っていた。が,それくらいしか知らない。
女性奏者が多く,ヴァイオリンはほとんど女性。衣装がカラフルなのも良かった。女性奏者が華やかなのはけっこうなことだ。
演奏は堪能できるものだった。圧巻はやはりベト7。音量がなければ話にならないが,かといって度を越してしまうとうるさくなってしまう。各パートが適度な音量を確保したうえでシンフォしなくちゃいけない。山響はさすがにプロの楽団なのだった。
● ぼくの席は2階のB席。料金は3千円。S席やA席は自分には無縁なもの。質より量。
家でCDを聴くためのコストはほとんどゼロですむ。図書館から借りてパソコンに取りこめるのだから。音楽を聴くためだけにパソコンを買う価値があるとぼくは思っている。
CDがタダですむ分,ライブを聴く費用に回すことができる。CDでとまってしまわずにライブにまで行けるのは,CDを聴くコストがゼロになったからだ。
せめてライブにお金を払わなければ,演奏する側の立つ瀬がなくなると思う。CDが売れないなら,自分たちの食い扶持を何で稼げばいい? ライブしかない。鑑賞者がそれへの協力を拒むことは,自分の首を絞めることになるだろう。
といって,ぼくが負担しているチケット代などささやかなものに過ぎないんだけど。
っていうか,CDくらい買えよって自分に突っこみたくもなるんだけどね。目下のところ,タダの魅力に抗しきれないでいる。
約2時間のコンサートが終了した直後の満足感は,他のものでは代替できません。この世に音楽というものが存在すること。演奏の才に恵まれた人たちが,時間と費用を惜しまずに技を磨いていること。その鍛錬の成果をぼくたちの前で惜しみなく披露してくれること。そうしたことが重なって,ぼくの2時間が存在します。ありがたい世の中に生きていると痛感します。 主には,ぼくの地元である栃木県で開催される,クラシック音楽コンサートの記録になります。
2010年10月31日日曜日
2010.10.30 第15回コンセール・マロニエ21 本選
栃木県総合文化センター メインホール
● 30日は去年に続いて,コンセール・マロニエ21のファイナルを聴きに行ってきた。1時から総合文化センターのメインホールで。
主催者は信念を持ってメインホールを会場にしているのだろう。案内も栃木放送かレディオベリーのアナウンサーに来てもらっているようだ。とちぎ生涯学習文化財団の威信をかけた行事のようだ。が,あまりにもガラガラ。
● 今年度は弦と声楽。ファイナルに残ったのは両部門とも6人。弦は学部生が多く,声楽は院修了者が多い。
昨年のコンセール・マロニエでは出場者の緊張感がこちらにも伝染したのか,息をつめて聴いていた記憶があるのだけれども,今回はそういうこともなくリラックスして聴くことができた。っていうか,出場者もさほど緊張はしていないようなのだ。
● まず弦楽器部門から。
トップはチェロの加藤文枝さん。京都府出身で東京芸術大学大学院1年。東京音楽コンクールで2位を取っていたり,別のコンクールでは1位も取っている。
演奏したのはチャイコフスキーの「ロココ風の主題による変奏曲 イ長調」。切なそうに弾くのが印象的だった。
● 次はヴィオラの中村翔太郎さん。兵庫県出身の芸大3年生。高校生の頃から関西の賞をたくさん取っている。天才少年だったわけだ。
演奏したのは,ヨーク・ヴォーウェン作曲「ヴィオラ・ソナタ第1番 ハ短調」から第1&3楽章。こういう作曲家がいたことを初めて知った。
● コントラバスの片岡夢児さん。大阪市出身のやはり芸大3年生。コントラバスがエントリーできるコンクールはあまりないらしく,ファイナル出場者6人のうちコントラバスが2人いる。この人も某オーディションで最優秀賞を取っている。
演奏したのはグリエール「コントラバスとピアノのための4つの小品」。
● ヴァイオリンの和久井映見さん。東京都出身。桐朋女子高校の3年生ながら,ステージでの態度はふてぶてしいほどに堂々としていた。体は呆れるほどに細いんだけど,態度は太い。感心することしきり。
演奏したのは,ショスタコーヴィチの「ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調」の第3&4楽章。
● コントラバスの岡本潤さん。石川県出身の芸大4年生。この人も北陸のコンサートで最優秀賞を取っている。
クーセヴィツキーの「コントラバス協奏曲 嬰ヘ短調」を演奏。これまた,こういう曲があったことはプログラムを見て初めて知った。
● 最後はヴィオラの山田那央さん。芸大を卒業してからドイツに渡り,ケルン音楽大学を卒業している。すでに相当な活動実績もあるようで,今さらマロニエでもあるまいと思った。事情を知らない者の戯れ言かもしれないけれど。
応募要項では35歳までのエントリーを認めているようなのだが,コンセール・マロニエは「若き演奏者を発掘し,支援することを目的と」するコンクールであって,実際は30歳を過ぎた人が1位をさらうことはないのではないかと思う。
バルトークの「ヴィオラ協奏曲」の第1&3楽章を演奏したが,すっかりスタイルができあがっているようだった。
● 昨年はピアノと木管だった。ド素人なりに順位を付けてみたところ,審査員の先生方の評価とさほどずれてはいなかった。
けれども,今回はまったく順位がつかなかったですね。すぐ上に書いたような理由で,山田さんの入賞はないと思うし,和久井さんも若すぎるという理由で見送られるかもしれない。しかし,実力的には6人とも横一線という感じ。
審査員より上手な出場者が,ときに登場するものだろう。そういうとき,審査員は喜ぶものだろうか,悔しがるものだろうか。
● 次は声楽部門。弦と比べると,奏者の年齢が高い。6人のうちソプラノが4人。
トップバッターはソプラノの志水麻依さん。福岡県出身。長崎市にある活水女子大学音楽学部を卒業してウィーンに渡り,グスタフ・マーラー音楽院を首席で卒業したとある。
器楽奏者はスレンダーな人が多いと思うのだが,声楽はたっぷりした人が多いですよね。
東京国際声楽コンクールで1位。マロニエに出場した動機を訊きたくなる。
● テノールの市川浩平さん。静岡県出身。芸大院の2年生。よくこういう声が出るものだ。天賦の才というしかない。そういう喉と気管支を持って生まれてきたんでしょうね。鍛錬や努力でどうにかできるものじゃない。
● ソプラノの谷原めぐみさん。香川県出身。大阪教育大学の音楽コースを経て,芸大の院に進んだ人。この人も数々の受賞歴があり,すでに活動実績も積んでいる。
● 続いてソプラノの石原妙子さん。愛媛県出身。芸大院を修了して,現在はイタリアで勉強中。
● バリトンの菅谷公博さん。千葉県出身。芸大を卒業して桐朋の研究科2年に在籍。
ピアノ伴奏の奏者が格好良かった。矢崎貴子さんと申しあげるのだが,きちんと客席を意識した衣装で,凛とした感じがとてもよかった。たとえコンクールの伴奏といえども,ステージに登る以上は,ステージに登るオーラを纏うという覚悟?のようなものを感じさせた。
● 最後はソプラノの鈴木麻里子さん。群馬県出身。4人のソプラノ歌手の中では最年少。
● ソプラノは少しでお腹がいっぱいになりますね。正直言うと,途中で飽きてしまった。
技の巧拙については,ぼくにはまったく判断がつかない。同じに聴こえる。しかし,聴く人が聴けば,はっきり違いがあるのだろう。才能のきらめきのあるなしが明瞭にあるのだろう。
ここからのわずかな違いが途方もない差となるのだろうね。超一流と並の一流を隔てる壁になってしまうのだろう。厳しい世界だなぁ,と。
● 今回,ステージに立った人たちは,その厳しい世界に自ら踏みこんだ人たちなのだ。自分とは違って「今,ここ」をきちんと生きてきた人たちなのだろう。
と思うと,彼らに対して襟を正したくなる。自分にはそんな勇気も度胸もない。退路を断つなんて思いつきもしなかったから。
2010.10.24 古河フィルハーモニー管弦楽団第4回定期演奏会
コスモスホール(岩舟町文化会館)大ホール
● 24日(日)は古河フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会に行ってきた。前回(4月)は野木町で開催されたが,今回は岩舟のコスモスホール。岩舟特別公演と銘打って,太っ腹なことに入場料を無料にしてくれた。
週8千円でやりくりしなければならない身としては,JR宇都宮駅から東武まで歩いて,東武電車に乗るしかない。東武宇都宮から静和までは片道450円。岩舟に行くのはもちろん初めてではないけれど,岩舟はあらためて遠いところだと思わざるを得なかった。逆にいうと,これだけ乗って450円とは東武は安い。
駅からコスモスホールまでがまた遠いのだった。もちろん歩いた。
● 岩舟コスモスホールといえば音響効果の良さで県内でも著名なホールだ聞いていた。大ホールが704席と小振りなのは場所がら仕方がない。が,中途半端な感は免れない。
この日の演奏会ではこのホールの半分ほどの席が埋まった。無料にしてこれでは,ちょっと寂しいかも。
● 曲目は,ワーグナー「歌劇ローエングリン」より第三幕への前奏曲,ボッテジーニ「ヴァイオリンとコントラバスのための二重協奏曲 グラン・デュオ・コンチェルタンテ」,チャイコフスキー「交響曲第6番 悲愴」。
「ヴァイオリンとコントラバスのための二重協奏曲」のソリストは,ヴァイオリンが中島麻さん,コントラバスは指揮者の高山健児さん(読売日本交響楽団のコントラバス奏者でもある)。
中島さんは新進気鋭のヴァイオリン奏者らしい。
● 結成されてまだ2年目なのだが,真摯に演奏に向き合っている様子が伝わってくる。指揮者の高山さんが真面目な人なのでしょうね。次回はブルックナーの7番をやるのだが,この楽団ならきっちりと仕上げてくるに違いない。楽しみに待ちたいと思う。
ちなみに,次回の演奏会場は小山市。運賃は今回より20円高くなるんだけれども,これは大歓迎。結局この日は,途中で寄り道したせいもあって1日がかりになってしまったからね。これだったらいっそ東京に出てしまった方がスッキリする。
ま,県北に住んでいる者の戯れ言ですけどね。
2010.10.22 仲道郁代ピアノリサイタル
● 22日の夜は仲道郁代さんのピアノリサイタルがあった。場所は高根沢町町民ホール。夜の7時から2時間。
チケットはじつに千円。三井住友海上文化財団派遣コンサートという冠がついたコンサートなので,相当額を同財団が負担してくれているのだろう。
● 高根沢町町民ホールでは2月に自衛隊の音楽隊の定期演奏会があった。このときは無料だったこともあってか,文字通りの満席だったのだが,千円とはいえお金をだしてクラシック音楽のコンサートに来る人が果たしてどれくらいいるものか。
結果は,約8割の入り。これだけ入ってくれれば充分。高根沢町民のみならず近辺の人たちも来ていたようだ。主催者としては成功と考えているだろう。
● このホールのピアノはずっと眠りについていて,調律師が驚いていたと仲道さんが語っていたのだが,田舎町のホールではどこも同じようなものだろう。かつての好況時にハードは造ってみたものの,ほとんど活用されることなく朽ちてきている。
しかし,これではいかんという危機感が高根沢町でも萌してきたのか,町民ホール自主事業運営委員会というのが設置されたらしい。12月には真岡市民交響楽団を招聘して特別演奏会を開催する。ぼくとしてはちょっとワクワクしながら頑張れと応援したい気分。
ただし,このホールには音楽を演奏するにはまったく適していないと思われるところがいくつかある。ハードの限界を乗りこえて自主事業を充実させていくのも,なかなか難儀だろうね。
● 仲道さんのリサイタルはこれが2回目。去年の文化の日に宇都宮の総文センターで,彼女のオールベートーヴェンプログラムのリサイタルを聴いた。B席で2千円だった。だいぶ後ろの方の席だった。
今回は前の方の席,しかも右側の席だったので,演奏中の彼女の表情もよく見えた。当然,印象も今回の方が強い。
今回はショパン。演奏された曲目は次のとおり。ワルツ第2番「華麗なる円舞曲」,バラード第3番,12の練習曲第1番「エオリアンハープ」,スケルツォ第2番,マズルカ第13番,バラード第1番,幻想即興曲,ワルツ第6番,第7番,24の前奏曲第15番「雨だれ」,12の練習曲第12番「革命」,第3番「別れの曲」,ポロネーズ第6番「英雄」。
● 前回もそうだったけれど,演奏の前に仲道さんが曲の解説をする。その喋りが上手だ。声質もいい。サービス精神も旺盛と思えた。腕の確かさは言うまでもないとして,そこに喋りの巧さが加わると,ステージ上にエンタテインメント性が立ってくる。
ステージに立つ者として外見を整えることに抜かりはない。解説を終えて,椅子に座ってから鍵盤に手を下ろすまでの時間がごく短い。呼吸を整える間も取らない。その瞬発力が印象的。
夜の9時まで演奏してから,たぶん東京に帰るのだろう。タフネスも持ち合わせている。あの小柄な体に,良きものがギッシリ詰まっている感じ。
● 彼女はこの3ヶ月,NHK教育テレビの趣味講座の講師も務めていた。ぼくも視聴者だった(トビトビにしか見なかったけれども)。それで彼女とは知り合いのような気分になっていた。
感情移入しやすくなっていたようです。
2010.10.03 ピアノデュオリサイタル 栃木県立図書館ホール
● 3日(日)は県立図書館のミニコンサートがあった。他のコンサートとかち合わなければだいたい聴きに行っている。
特にこの日の演奏会は大岡律子さんのもの。昨年も,年に10回程度開催されるこのミニコンサートの中で(ぼくが聴いたのは半分にも満たなかったけど),最も充実した演奏だったのは,彼女の回だった。
今年も充実の内容。芸大で共に学んだ岡田真実さんとピアノ・デュオ。ピアノの連弾を聴く機会ってあまりない。というより,ぼくは初めてだったのだけど,ピアノの潜在能力をググッと引きだせる奏法なのかもしれない。
● 岡田さんは勝ち気というか,気が強そうな印象。ピアノがとにかく第一で,この軸がぶれることはなさそうだ。自分のやってきたことに確信を持っている。ここを突いてくる人は許さないって感じかなぁ。
栃木県出身の大岡さんは,穏やかな性格。好きになった人に音楽をやめてくれと言われると,ほんとにやめちゃいそうな感じっていうか。ま,外見と声質からの印象ですけどね。
● 曲目は前半が,モーツアルト「4手のためのソナタ 変ロ長調」,シューベルト「ロンド」,ショパン「ムーアの民謡風主題による4手のための変奏曲」。後半は,シャブリエ「狂詩曲スペイン」,フォーレ「組曲ドリー」,ラヴェル「ラ・ヴァルス」。
アンコール曲が2つあって,ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」とモーツアルトの「フィガロの結婚」の前奏曲。
ピアノは比較的短時間でお腹がいっぱいになりやすい楽器だと思うのだが,奏者の腕がいいとずっと食べ続けることができますね。すべて終わったあとも,もっと聴いていたいとの思いが残った。
● 終了後は奏者のふたりが出口に立ってお見送りという,サービス精神たっぷりの演奏会だった。
こうまでのサービス精神を発揮してくれた理由のひとつは,彼女たちがアンケート用紙を配っていたからだ。アンケートに御協力くださいというわけだが,訊いている項目はごく普通のもので,このコンサートを何で知ったか。演奏時間は適当か,長すぎるか,短すぎるか。演奏に満足したか,不満か。聴きたい曲があれば教えて。
ぼくもそうだけれど,客席側はよほどのことがない限りは,適当だった,満足した,と答えるはずだ。つまり,アンケートで本音を吸いあげられるとは限らない。実施する側は,そんなことは百も承知で,それでも使い道があるから実施していると言うのかもしれないんだけど。
ぼくはこの種のアンケートは無駄だと思っている。そもそも,そういうことを客席に訊いているようじゃいかんのじゃないかと思う。
● 彼女たち,来月13日にすみだトリフォニーでコンサートを行う。小ホールでこちらは2千円のチケット制だ。演奏曲目は,今日のとまったく同じ(だから,ぼくらはとてもラッキーだったと言える)。
彼女たちにしても,今日は模擬試験のようなものだったろう。本番に向けて感触を確かめながら演奏したのだろう。アンケートはその結果を知りたいがためだと思う。
● ふたりとも芸大の院を修了した(岡田さんは院に在籍中にポーランドに留学した)。小さい頃からずっとピアノ漬けの生活を続けてきたに違いない。
何とか今度のコンサートを成功させたいと思うだろう。その思いはぼくにも理解できるものだ。
● 音楽家への道は厳しい。お金も時間も投入してこの道を進んできたけれども,その投資を回収するのは難しい。そのお金と時間を,たとえば勉強に振り向けていれば,医師でも弁護士でも学者でも,なりたい者になれていただろう。けれども,音楽家をめざしてしまった。
そうまでして音楽に打ち込みたくなる才能があった。
● そういう人たちがいてくれるお陰で,ぼくらは音楽のライブを楽しむことができるのだ。だから,ぼくらにはそうした人たちを応援する義務がある。でも,ではどうやって応援すればいいのか。コンサートに足を運ぶか,CDを買うか。
● こうした無料のコンサートには,普段は音楽と無縁な生活をしている人たちも入りこんでしまう。ぼくにしたってにわか音楽ファンにすぎない。だから,たとえば寝ている人も出てしまう。
けれど,終演後,見送る奏者に言葉をかけるのは,こういう人たちのようなんだよね。オバチャンたちなんだけどね。愛想がよくて,奏者に言葉をかけていく。
嬉しいよね。お客さんから言葉をかけられると。オバチャンたちは言葉によって,奏者を応援している。ぼくに限らず,たいていの男性はこれができない。
特にこの日の演奏会は大岡律子さんのもの。昨年も,年に10回程度開催されるこのミニコンサートの中で(ぼくが聴いたのは半分にも満たなかったけど),最も充実した演奏だったのは,彼女の回だった。
今年も充実の内容。芸大で共に学んだ岡田真実さんとピアノ・デュオ。ピアノの連弾を聴く機会ってあまりない。というより,ぼくは初めてだったのだけど,ピアノの潜在能力をググッと引きだせる奏法なのかもしれない。
● 岡田さんは勝ち気というか,気が強そうな印象。ピアノがとにかく第一で,この軸がぶれることはなさそうだ。自分のやってきたことに確信を持っている。ここを突いてくる人は許さないって感じかなぁ。
栃木県出身の大岡さんは,穏やかな性格。好きになった人に音楽をやめてくれと言われると,ほんとにやめちゃいそうな感じっていうか。ま,外見と声質からの印象ですけどね。
● 曲目は前半が,モーツアルト「4手のためのソナタ 変ロ長調」,シューベルト「ロンド」,ショパン「ムーアの民謡風主題による4手のための変奏曲」。後半は,シャブリエ「狂詩曲スペイン」,フォーレ「組曲ドリー」,ラヴェル「ラ・ヴァルス」。
アンコール曲が2つあって,ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」とモーツアルトの「フィガロの結婚」の前奏曲。
ピアノは比較的短時間でお腹がいっぱいになりやすい楽器だと思うのだが,奏者の腕がいいとずっと食べ続けることができますね。すべて終わったあとも,もっと聴いていたいとの思いが残った。
● 終了後は奏者のふたりが出口に立ってお見送りという,サービス精神たっぷりの演奏会だった。
こうまでのサービス精神を発揮してくれた理由のひとつは,彼女たちがアンケート用紙を配っていたからだ。アンケートに御協力くださいというわけだが,訊いている項目はごく普通のもので,このコンサートを何で知ったか。演奏時間は適当か,長すぎるか,短すぎるか。演奏に満足したか,不満か。聴きたい曲があれば教えて。
ぼくもそうだけれど,客席側はよほどのことがない限りは,適当だった,満足した,と答えるはずだ。つまり,アンケートで本音を吸いあげられるとは限らない。実施する側は,そんなことは百も承知で,それでも使い道があるから実施していると言うのかもしれないんだけど。
ぼくはこの種のアンケートは無駄だと思っている。そもそも,そういうことを客席に訊いているようじゃいかんのじゃないかと思う。
● 彼女たち,来月13日にすみだトリフォニーでコンサートを行う。小ホールでこちらは2千円のチケット制だ。演奏曲目は,今日のとまったく同じ(だから,ぼくらはとてもラッキーだったと言える)。
彼女たちにしても,今日は模擬試験のようなものだったろう。本番に向けて感触を確かめながら演奏したのだろう。アンケートはその結果を知りたいがためだと思う。
● ふたりとも芸大の院を修了した(岡田さんは院に在籍中にポーランドに留学した)。小さい頃からずっとピアノ漬けの生活を続けてきたに違いない。
何とか今度のコンサートを成功させたいと思うだろう。その思いはぼくにも理解できるものだ。
● 音楽家への道は厳しい。お金も時間も投入してこの道を進んできたけれども,その投資を回収するのは難しい。そのお金と時間を,たとえば勉強に振り向けていれば,医師でも弁護士でも学者でも,なりたい者になれていただろう。けれども,音楽家をめざしてしまった。
そうまでして音楽に打ち込みたくなる才能があった。
● そういう人たちがいてくれるお陰で,ぼくらは音楽のライブを楽しむことができるのだ。だから,ぼくらにはそうした人たちを応援する義務がある。でも,ではどうやって応援すればいいのか。コンサートに足を運ぶか,CDを買うか。
● こうした無料のコンサートには,普段は音楽と無縁な生活をしている人たちも入りこんでしまう。ぼくにしたってにわか音楽ファンにすぎない。だから,たとえば寝ている人も出てしまう。
けれど,終演後,見送る奏者に言葉をかけるのは,こういう人たちのようなんだよね。オバチャンたちなんだけどね。愛想がよくて,奏者に言葉をかけていく。
嬉しいよね。お客さんから言葉をかけられると。オバチャンたちは言葉によって,奏者を応援している。ぼくに限らず,たいていの男性はこれができない。
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