大田区民プラザ大ホール
● 7月15日にベルディの「椿姫」を観て,オペラって面白いものだな,と。けれども,お金はそんなに出せないよ,と。
管弦楽も世界の一流楽団の演奏をCDで聴くより,国内のアマチュアオーケストラの演奏であっても,生で聴く方がずっと充実感がある。同様に,DVDで本場のオペラを観るのもいいけれども,やっぱ生で観たいよなぁと思うようになるんですね。
となれば,アマチュアでオペラを上演しているところを探して(こういうとき,ネットって便利ですよね),観に行くってことになるわけですね。
● 荒川区民オペラがある。7月28日,29日にヴェルディの『マクベス』を上演した。ソリストは二期会や藤原歌劇団から招いている。指揮者は小崎雅弘さん。チケットは5,000円。だいぶお得っぽいんだけど,残念ながら他のコンサートとかぶってしまった。
ほかにもあるんだけれども,だいたい東京に一極集中。当然といえば当然。オペラを観たいときには東京まで出ないといけない。電車賃は必要経費。
● で,今回は,エルデ・オペラ管弦楽団の演奏会にお邪魔することに。場所は大田区民プラザ。田舎者は大田区民ホール「アプリコ」と混同しそうになる。両者は別の施設なんですな。ご注意。
蒲田駅から東急多摩川線。乗客の顔かたちや服装,車内の雰囲気が,栃木と同じ。つまり,鄙びた感じ。落ち着くね,ぼくは。
大ホールといっても,収容人員は500人程度の小さなホールだ。演しものはプッチーニの「蝶々夫人」。ただし,ハイライトを演奏会形式で。チケットは1,000円。開演は午後1時。
● 蝶々夫人を演じるのは和泉万里子さん(ソプラノ)。蝶々さんを弄んだピンカートンにファビオ・ブオノコーレ氏(テノール)。シャープレスに渡辺弘樹さん(バリトン)。スズキに河野彩子さん(メゾソプラノ)。ケイトに実川裕紀さん(メゾソプラノ)。
和泉さんとブオノコーレ氏以外の皆さんは,国立音大声楽科を卒業している。それぞれの居場所で活躍中。
指揮は大浦智弘さん。
● 演奏会形式を聴かせてもらって感じたことは,オペラは観るよりもまず聴くものだっていうあたりまえの事実ですね。しいていうと,聴くが8割,観るが2割ってところですか。
黒田恭一『はじめてのクラシック』(講談社現代新書)に出てくる話だけれども,ステージ上の演者は何よりも先に良き歌い手でなければならない。演者が劇中人物のイメージと写実的には似ていなくても,歌を支えきれていれば許される。観客からすれば,若き乙女の役をオバサンが担っていても,彼女が歌を支えきれているのであれば,それを許さなければならない(念のために申しあげますが,今回の「蝶々夫人」のことを言っているんじゃありませんよ)。
ゆえに,演奏会形式は決して邪道ではない。
● けれども,2割の方はどうでもいいかといえば,もちろんそんなことはない。味わいの奥行きが違ってくるだろう。演奏会形式だと同じステージでオーケストラが音を奏でるわけだから,どうしたって管弦楽が勝ちすぎてしまうしね。
ただね,その2割を埋めるためには相当なお金がかかるってことなんですよねぇ。単純に本物指向を良しとするだけでは,局面の打開はできないもんなぁ。
演奏会形式はオペラじゃないってのは確かだとしても,コストのくびきを脱して,観客に低廉な料金でエッセンスを提供する方策としては,演奏会形式って賢いやり方だと認めざるを得ないものなのでしょう。実際,ありがたかったからね。わずか1,000円でこれを聴けたことがね。
● 和泉さんはもとより,シャープレスの渡辺さんもスズキの河野さんもお上手で。なんでああいう声が出るのかね。世の中には異能者っているものなんだねぇ。努力や鍛錬だけでこうはならないよね。という,今さらのことを,思わされましたね。
それと,語り手の森山太さん。本業は俳優とのことなんだけど,よく通る落ち着いた声で,状況説明に登場する。彼だけが日本語を話すわけですね。もちろん演者としての口調で。これがまた達者なんですな。彼の説明がなくても字幕でストーリーはわかるんだけど,これがあると独自の味わいが出る。もちろん,ヘタがやったら邪魔にしかならないはずだけどね。
● 蝶々さんは熱情の人ですね。こんな女性が実際にいたら,たいていの男は裸足で逃げだすに違いない。熱情なんて愚かの別名だよって言いだすリアリストもいるかもしれない。
それとね,ケイトの立場はどうなるんだよって思いますよねぇ。夫に結婚式まで挙げた愛人がいて,しかも子供まで作ってた。それを知らされてもグチひとつこぼさずに,自分が引き取って育てようとする。できすぎた奥さんだぞ。ピンカートンのやつ,うまいことやりやがって・・・・・・。
まぁ,しかし,そんなことを言っていては,オペラの筋立てが成り立たない。ここは蝶々さんは悲劇のヒロインでなきゃね。
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