2013年3月31日日曜日

2013.03.31 竹中千絵ピアノリサイタル

栃木県総合文化センター サブホール

● 地元出身のピアニストのリサイタル。4歳からピアノを始めたそうだ。まだ20代だと思う。世間的には充分に若い。

● チケットは1,500円。当日券で入場。開演は午後6時半。
 サブホールがほぼ満席。地元ってこともあるかもしれないし,一生懸命に集客に努めた結果なのだとは思うけれども,これだけ入るとはすごい。むしろ不思議。

● 演奏したのはスカルラッティのソナタを3曲(L.352,L.413,L.465)。チャイコフスキーの演奏会用組曲「くるみ割り人形」。ショパンの「24の前奏曲」を全曲。
 さらに,アンコールでスクリャービン「12の練習曲」の第9番とリスト「愛の夢」。相当にサービスしてくれた感じ。

● 腕前に関しては,ぼくの鑑賞能力を超える。ぼくがどうこう言っちゃいけない。
 だいたい,彼女とビッグネームのピアニストと,どこがどう違うのか。まったくわかりません,というのが正直なところだからね。

● 客席からは横顔しか見えないわけだけど,彼女の横顔はお雛様的な感じ。優美さが似合う。
 で,以下は大きなお世話なんだけど,ドレスを着てお辞儀をするときに,あまり深く腰を折るのはどうなんだろう。浅めにして,折っている時間を気持ち長めにした方が,映えるような気がしたんですけどね。

2013.03.31 さくら吹奏楽フェスティバル


さくら市氏家公民館

● さくら市で吹奏楽の活動をしている「喜連川中学校吹奏楽部」「氏家中学校吹奏楽部」「ジュニアウインドハーモニーうじいえ」「さくらウインドアンサンブル」の合同演奏会。
 第1部はそれぞれの団体が単独で(「ジュニアウインドハーモニーうじいえ」と「さくらウインドアンサンブル」は一緒に)。第2部は4団体の合同演奏。
 午後1時半,開演。入場無料。

● 客席はだいたい生徒の保護者と家族。良くも悪くも,身内の集まり的な感じ。そこに部外者がちょこっと混じっているような。
 ゆえに,客席の規律は緩い。ビデオを回したり,写真を撮ったりというのが,あたりまえにあった。このあたりは主催者も同様で,客席に入りこんでバンバン,デジカメのフラッシュを焚く。広報に使う写真を撮っているんだと思うけど,そういうのは最小限度にしろと言うのは,言う方がヤボな雰囲気がある。身内の集まりだからね。

● っていうか,ステージと客席が一体となって,みんなで盛りあがろうよ,っていう指向が強いのが吹奏楽だから,そもそもがそういうものかもしれないよね。黙って俺たちの演奏を聴け,っていうんじゃないもんな。
 ちなみに,この催しを知ったのは29日の「栃木よみうり」に紹介記事が載っていたからだ。

● トップバッターは喜連川中学校吹奏楽部。約20人のこぢんまりとした団体。奏者のうち,男子は2名。田舎になるほど男子比率が下がるってのが経験則。なんだけど,適正な男女比なんてのがあるわけでもあるまいしね。
 で,その少ない男子が健闘していた。トランペットの男子の佇まいが良かった。凜とした感じで。肩肘を張っているわけじゃない。存在を主張しているわけでもない。たんにそこにいるだけなんだけど,そのいる感じがとてもいい。
 クラリネット(こちらは女子),巧かったねぇ。中学校の吹奏楽部なんだから,楽器に触れるようになってそんなに時間はたっていない子が多いと思うんだけど,この時期の生徒たちは短期間でグングン伸びるんだろうなぁ。羨ましい。

● 演奏したのは3曲。ぼく的には最初のオリヴァドーティ「序曲『バラの謝肉祭』」が最も印象に残った。中学生を侮っちゃいけないと思わせてもらえるのは,気持ちがいいものだ。
 いや,実際,侮っちゃいけませんよねぇ。きっちり曲になっているっていう,それだけでもたいしたものだと思うもん。

● 次は氏家中学校吹奏楽部。喜連川中学校の倍以上の人数。個々の技量が同じであれば,やれることの範囲は格段に増えるだろう。いろんなバリエーションを付けられる。というわけで,華やかなステージになった。
 最初にこの演奏を聴いていれば凄えなぁと思ったはずだ。が,すでに中学生を侮っちゃいけないと学習したあとだったので,いくぶんその思いが制限されたきらいがある。こちら側の事情ですけどね。

● 3番目が「ジュニアウインドハーモニーうじいえ」と「さくらウインドアンサンブル」の合同演奏。前者には小学生もいる。その小学生が高校生や大人と一緒に演奏するわけだから,年齢は幅広い。
 ただし,高齢者はいなかった。壮年どまり。高齢者がいるともっといいんだけど,こればっかりは仕様がないよねぇ。
 コーディル「吹奏楽のための民話」はハイレベルの仕上がり。と感じられたんだけど,どうもねぇ,氏家中学校もそうだったんだけど,みんな巧いんだよねぇ。今はこれが標準なのか。ぼくが中学生だった頃(はるかな昔)はもっと下手だったと思うんだよなぁ。

● 15分間の休憩後,第2部。以上の4団体が一緒になって,アルフレッド・リードの「吹奏楽のための第二組曲」の第1曲と第4曲,フレデリック・ロウの「踊り明かそう」を演奏。
 当然ながら,大編隊の吹奏楽になる。ここまで多くなると,別の課題も出てくるものだろう。これだけの大人数でやって,なお揃えなければいけないわけだから。どのくらい練習したんだかね。
 皆さん,ステージで楽しそうだったのが印象的。実際は人間の組織だもの,大小いろんなトラブルや軋轢がないわけはないと思うんだけどさ。

2013.03.30 第2回音楽大学フェスティバル・オーケストラ演奏会

東京芸術劇場 コンサートホール

● 国立音楽大学,昭和音楽大学,洗足学園音楽大学,東京音楽大学,東京藝術大学,東邦音楽大学,桐朋学園大学,武蔵野音楽大学。首都圏の8つの音大がひとつのオーケストラを組んでの演奏会。
 今回はその2回目。開演は午後3時。チケットはS席が2,000円(座席はS席とA席の2種。料金差は500円)。

● 他大学の学生と一緒に同じオケで演奏するというのは,学生たちにとってどんな感じのものなんだろうか。ステージに登場するときの彼ら彼女らの様子は,しごくリラックスしてたようだけど。笑顔で談笑しつつの入場。
 ちょうど,プロ野球のオールスターゲームの選手たちと似た感じ。当の学生たちにとってもフェスティバルっていいますかね。ま,そんな印象でしたね。

● 曲目は次の3曲。
 R.シュトラウス 祝典前奏曲
 レスピーギ 交響詩「ローマの松」
 マーラー 交響曲第5番 嬰ハ短調

● 最初からオルガンとラッパの別働隊(バンダ)が出てくる。ステージのオーケストラも大編隊を組んでいる。
 指揮は秋山和慶さん。コンサートマスターは1曲ごとに交代する。オールスターゲームでもひとりのピッチャーが投げられるのは3回までだからね。
 そのコンサートマスター,いずれも女子。

● ぼくの席は前から4列目の右側。いくら何でも前すぎるんだけど,ネットでチケットを申しこんだ時点で,このあたりしか空いてなかったんですよね。
 で,目の前に2ndヴァイオリンの奏者たちがいるんだけど,背中しか見えないわけですよ。管の奏者はぜんぜん見えない。終曲後に指揮者がパートごとに立たせて客席にお披露目するわけだけど,立ってもらっても見えない。

● その代わり,指揮者はよく見えた。それと1stは正面から見えるわけで,特にコンミスの所作はすんげぇよく見てとれた。
 だもので,ぼくの視線はずっと3人のコンミスに釘付けになってた。なぁに,あのオヤジ,ずっと私ばかり見てて,キモォォイ,とか思われたかもしれないんだけど,そういう状況だったので,事情ご賢察いただければ,幸甚,幸甚。

● でね,それぞれに流儀というか癖のようなものがあるんですね。人間が弾いているんだから当然なんだけどさ。
 それと性格もでるかもね。勝ち気そうとか,協調性第一の人とか。ほらほら,アタイにつきてきな,ついてこれるのかい,あんたたち,っていう姉御肌の感じ,とかね。

● 演奏が始まるとリラックスモードは雲散霧消。緩から急への一瞬の変化が心地よかった。あとは重量級の連続に一瞬たりとも集中を切らすことなく,踏み込みがよく,抑制の効いた演奏を客席に提供し続けた。
 腕前ははっきりプロ級で,素人の小賢しい批判など,はじき飛ばしてしまうだろう。

● マーラーの5番をライヴで聴くのは初めてのこと。長い曲だからCDで聴いてても,途中でこちらの集中がもたなくなる。聴き手として落第。
 けれども,生で聴くと,オオーッという驚きの連続で,気がついたら終わってた,ってことになる。マーラーってさぁ,奏者にいろんなことをさせるんだねぇ,と感心?しているうちに終曲っていう感じだね。
 ともあれ,マーラーはライヴに限る,と。問題は,田舎に住んでいるとマーラーの演奏に接する機会があまりないことなんだけどね。

● 指揮者が秋山さんで,チケットが2,000円。これほどお得感の大きい演奏会は初めてかも。
 これほどのものを2回目からキャッチできたのはラッキーだった。1年後にまたやるから,それまでは生きていないとな。
 
● 若者はいつの時代だって年配者から悪く言われるものだ。今どきの若いやつらは,って。ぼくからすると,年寄りたちが若かった頃と比べると,今の若者は相当すごいぞと言いたいんだけどね。今回のような演奏を聴くと,ほんと,そう思う。
 いつだって,「昔は良かった」んだよな。担任の先生が替わると,親は前の担任は良かったって言うし,人事異動があって新しい課長がくると,前の課長は良かったってなるんだよ(そうはならないこともあるんだけど,その場合は,よっぽどひどい課長だったんだな)。

● 今の若者が気の毒なのは,上が詰まっていることだね。あるいは,前が閊(つか)えていることだ。今回のオケのメンバーの腕前がすでにプロ級だとしても,すんなりプロになれるかどうかはわからない。上が詰まっているから,なかなか空きがでないもん。

2013年3月24日日曜日

2013.03.23 ユーゲント・フィルハーモニカー第7回定期演奏会

すみだトリフォニーホール 大ホール

● 開演は午後2時。チケットは1,000円(前売券なら500円)。指揮は三河正典さん。

● ユーゲント・フィルハーモニカーの定演は,3年前に一度聴いている。ので,この楽団のレベルの高さはすでに体感ずみ。ステージには約80人の奏者が並んでいたけど,その一人ひとりがとんでもない才能をまとっているわけだ。
 3年前のメニューは,ラフマニノフの交響曲2番のほかは,サン=サーンスの交響詩「死の舞踏」とドビュッシーの「小組曲」だった。今回はオール・フランスで,ラヴェルの「ラ・ヴァルス」と「マ・メール・ロワ」(オーケストラ組曲版),サン=サーンスの交響曲第3番。

● すみだトリフォニーの大ホールが,ほぼ空席なし。多くの人が知ってるんでしょうね。お客さんは正直というかゲンキンだから(もちろん,ぼくもそうなんだけど),1,000円でこの楽団の演奏を聴けるのなら,行かない手はないってことなんだよね。
 実際さぁ,映画1本分より安い料金でこれだけの演奏を聴けるってのはさぁ,都内に住んでる人が羨ましいぞ。

● フランス音楽にはあまり馴染みがない。
 ラヴェルの音楽は,情景的というか,即興的というか,物語性を追わないというか,要は小粋な感じ。この小粋さが,ぼくの固くなった脳細胞の皮を破って中に染みこむには,少々時間を要するかも。

● サン=サーンスの交響曲3番。オルガンは野田優子さん。ここにピアノ(連弾)も加わるのだから,ステージは豪華絢爛。主役はしかし管弦楽で,オルガンは控えめに厚みを加えるんですな。
 ベートーヴェンの5番と同じハ短調で,サン=サーンスがベートーヴェンを意識しなかったはずはないと思うんだけど,ベートーヴェンのような物語性はこの曲には窺えない。だからイイとかダメとかではなくて,この曲にはこの曲の楽しみ方,味わい方があるのだろう。
 ぼくにはその楽しみ方がまだよくわかってなくて,難解な曲だなと思ってしまうんですけどね。

● 別の意味で,奏者にとってもこれは難曲でしょうね。この楽団なればこそ,ここまで高い完成度で客席に提供できたのだと思う。
 プログラムの「代表挨拶」に,「演奏という行為が「演奏会を開くため」という外形だけを残して「人に伝える」という本質的な意味を失ってしまわぬよう」「意欲的に活動してまいりたいと思います」とあったけども,それが空疎に聞こえないのは,客席を納得させるだけの技術をすでに持っているからなんだよね。

2013年3月21日木曜日

2013.03.20 東京アマデウス管弦楽団第78回演奏会

新宿文化センター 大ホール

● プログラムに載っている楽団紹介によれば,東京アマデウス管弦楽団は,「1973年,当時の東大オーケストラ卒団者を中心に結成された」。「団員の大半は音楽をこよなく愛するサラリーマンで,年代は20代から60代までと幅広い」とのこと。
 水準の高いアマチュアオーケストラのひとつとして,その評判を耳にすることが何度もあった。今日まで聴く機会を得なかったのは,ひとえにぼくが地方の片隅で息をしているからだ。

● 男性奏者が圧倒的に多い。ゆえに,黒っぽい感じの楽団だ。なるほど年齢にばらつきがある。
 が,女性奏者に限れば若い人が多かった。女性の場合,結婚して子どもができると,オケ活動を継続するのは事実上不可能になるだろうからね。

● 演奏したのは交響曲2つ。シューマンの4番とマーラーの1番。指揮者は石川星太郎さん。開演は午後2時。チケットは2,000円。当日券を購入。

● シューマン4番の演奏が始まってすぐ,居ずまいを正した。端正にして流麗。熟成してるのに鮮度抜群。極めつけに腕のいい職人の集合体だ。それぞれ,一家言を持っていそうだな。
 こういう人たちを統べなければならない立場にある指揮者も,並では務まらないだろうな。石川さん,まだ30代の半ば。今後,彼の名前を目にする機会がしばしばあることになりそうな予感あり。

● マーラーもねぇ,まったく乱れのない収束。曲の中に入りこむのと,曲を外から眺めるのと,同時にやっているんだろうけど,その塩梅が的確というか。お見事としか言いようがない感じ。
 楽々とやっているわけではない。当然だ。精魂を込めている。
 破綻はない。守って破綻を防いでいるんじゃない。守りに入ったら曲が死んじゃうもんね。
 攻めて攻めて,なお攻めて,ギリギリ攻めすぎないっていう,そこから立ちあがってくるオーラの濃度と大きさが客席を圧倒した。おそらく聴き巧者のお客さんも多かったに違いないが,彼ら彼女らからも何の文句もでないだろう。
 
● プロとアマの違いって何だろうと考えさせられた。国内には30前後のプロオケがあるんだろうか。いずれも運営は楽ではないだろう。
 公的援助の拡大を求める声を聞くこともあるけれども,一方でここまでの演奏をやってのけるアマオケがあるとすると,公的援助を求めてはいけないプロオケも数のうちにはあるのじゃないかと思えてくる。

 観客のためにだけオーケストラが存在しているわけではない(と思う)が,観客がオーケストラに対して第一に求めるものは何か。「良い演奏」に決まっている。では「良い演奏」とは何か。これが一筋縄ではいかない。厄介な問題だ。
 けれども,技術がすべてではないというのは絶対で,ここは譲るわけにいかない(技術じたい,その外延を定義することは難しいと思うんだけどね)。気迫とか,若さとか,老練とか,奏者の人生そのものとか,数え切れない多くの要因が絡み合って,個々のステージができあがる。

● 小さい頃から楽器を始め,高校,大学でも音楽を専攻し,プロの演奏家として立っている人の中には,一芸を究めてそこを突き抜けている,とんでもない人がいるのかもしれない。
 一方で,中途半端なプロってのもいたりするのかなぁ。単純に音楽以外は何も知らないっていうやつ。そういう人の演奏よりは,背後にいろんなものを抱えている人の演奏の方が面白いのかも。
 いや,ちょっと言葉が上滑りしてますな。演奏だけしてればすむなんて,プロの世界でもあり得ないだろうからね。世間に普通にあるものは,音楽界にもあるんだろうから。
 ただ,今回のようなアマチュアの演奏を聴いてしまうと,そんなことが頭をよぎるんですよねぇ。

● 少ない数の女性奏者が,それぞれ存在感を放っていた。結婚なんかしないで,ずっと活動を続けてもらえるとありがたいと,こちらとしては思うわけですけどね。
 身勝手すぎるお願いですな。

● ただねぇ,結婚して家庭を持つってそんなに魅力があることかなぁ。特に女性にとっては。現状では,結婚は男に得で,女に損。
 相手の男性の性格とか職業とかを超えて,メカニカルにそうならざるを得ないところがありますね。この点,よくよく熟慮あられたい,と。

● たとえば,夜遅くに帰ったとき,部屋の灯りがついていないって寂しいんだよね。そういう具体的リアルに打ち克つのってけっこう難しいし,友人の結婚式に出ると,虚飾とわかっていても,それに惹かれてしまう気持ちを統御するのもなかなかの難事だ。
 それらは充分に理解できるんだけれども,いっときの気迷いによる軽挙妄動は慎んだ方がよろしいかと。

● そんなことをしてたら少子化に拍車をかけてしまうじゃないか,って? いいじゃないですか。少子化ってそんなに悪いことじゃないと思いますよ。
 少なくとも,少子化が続いている間は,日本国が戦争を起こすことはない。戦闘要員がいないんだから。
 尖閣で何かあったときに,中国海軍を蹴散らすくらいは,海上自衛隊にとっては朝飯前だと思うんだけど,こちらから攻めこむ形の戦争なんてできるはずがない。悪くないじゃないですか。

● ぼくの隣に座ったのは中国語を話す夫婦とその知り合いのグループだった。だから何だってことはないんだけど,隣が外国人ってのは初めての経験だったもんだからね。
 外国人も来てるんですね。これからはこういう人たちとも仲良くしなきゃいけないのかなぁと思ってね。

2013年3月17日日曜日

2013.03.17 那須フィルハーモニー管弦楽団第14回定期演奏会

那須野が原ハーモニーホール 大ホール

● 開演は午後2時。チケットは1,000円。曲目は,ブラームスの「大学祝典序曲」,ドヴォルザークの「ピアノ協奏曲」,シューマンの「交響曲第4番」。
 客席は前方に空席があったものの,大ホールがほぼ埋まった。皆さん,いい席がどこかはご存知だから,いい席からどんどん埋まっていった。

● 今回は大井剛史さんではなく,海老原光さんの指揮。こういうことをやっているのは(できるのは),栃木県内のアマオケでは栃響と宇都宮大学管弦楽団とこの那須フィルだけ。
 ほかは,常任指揮者制。毎回,同じ指揮者が指揮をする。それはそれで多くのメリットがあるに違いないにしても,その都度,違う指揮者とやれるのもまた,団員にとっては大きな刺激だろう。
 アマオケとしてはかなり恵まれた環境にあるといっていいのではあるまいか。他の楽団から見れば,相当に羨ましいのではないか。

● そのことは団員も百も承知。プログラムの「団員あいさつ」にも「私たちは,那須フィルの団員であると同時に,那須野が原ハーモニーホールのオーケストラ養成講座受講生でもあることから,理想的な音響設備を備えるハーモニーホールの大ホールを合奏練習に使わせていただいています。また,音楽監督の大井先生,そして今回指揮者としてお迎えした海老原先生をはじめ,日本音楽界の第一線でご活躍中の先生方から直接ご指導いただけるという大変恵まれた環境にあります」とある。
 それが客席にも明確に伝わってくる。素性のいい練習をしてきたんだろうなと思わせる。

● いいオーケストラとは何か。あるいは,いいオーケストラかどうかを判別するメルクマールは何か。
 それは聴き手の水準によって異なる。しからば,ぼく程度のヘボ聴き手にとって,いいオーケストラとは何か。
 演奏中のオーケストラが絵として成立しているかどうかだというのが,答えのひとつになると思っている。絵として成立せしめる要因は何かってのは,どうもうまく説明できないんですけどね。美男美女が多いか少ないかは関係ないし,スタイルがいいかどうかなんてことでもない。
 絵として見てもちょっと崩れていると感じるオーケストラに遭遇することも,ないわけではないんですよ。で,この那須フィルは絵として成立している,と。

● これねぇ,コンマスの執行さんの存在が大きいと思いますね。絵の構成要素のかなりの部分を彼が占めている。前列中央にいるわけだしね。コンマスの所作ってやっぱり大きいですよ(もちろん,指揮者もなんですけどね)
 中央の空気がピッと奏者全員に伝わる。そうすると,一幅の絵として鑑賞するに足るものとなる。
 彼は決して行儀のいい人ではなさそうだけどね。行儀がいい=絵になる,ではないからね。

● ドヴォルザーク「ピアノ協奏曲」のソリストは佐野良太さん。一昨年のコンセール・マロニエ(ピアノ部門)の優勝者。現在,桐朋学園の3年生。コンセール・マロニエで優勝したのは1年生のときかぁ。
 小柄な人。和製グレン・グールドと呼びたくなったぞ。たまげた腕前の持ち主だ。
 もし,演奏会終了後,打ち上げがあって,その席に彼も参加したのなら,お姉さま団員に愛玩されたことだろう。ご愁傷様といえばいいのか,何といえばいいのか。難しいところだな,これ。

● シューマンの4番は初めて聴く。もし初体験がCDだったら,途中でやめてしまったかもしれない。ライヴだからいやおうなしに最後まで聴ける。
 終曲まで集中を切らさず,エンディングの着地も成功。いったんライヴで聴いておくと,錯覚ながら勝手知ったる曲になる。CDで聴くときにも勝手がわかっていれば聴きやすい。

● この大ホールは4月から使用不可になる。といっても,正面にパイプオルガンを設置する工事が始まるからで,それが終わるまでの間だ。
 パイプオルガンのあるホールは,只今現在,栃木県には皆無。それで何か困ることがあるのかといえば,たぶんないんだろうけど,ともあれ栃木にもパイプオルガンのあるホールができる,と。
 それが宇都宮じゃなくて,那須にできるってのが,なかなかに気分がいい。そうじゃなきゃいけない。
 音楽の殿堂は那須。何でもかんでも宇都宮ってのは,便利っちゃ便利なんだけど,何がなし面白くないからね。

● この日は宇都宮市文化会館で,「宇都宮市民合唱祭」があった。この分野,ぼくはまったく疎い。
 昨年12月に宇高・宇女高合同演奏会で男声の「秋のピエロ」を聴いて,かなりいいじゃんと思った。高田三郎さんの「水のいのち」をつい最近聴いた。へぇぇと思った(ちなみに,YouTubeで聴いたんだけど,複数アップされている中で,岩手大学合唱団のものが秀逸。画像がないのがちと残念だけど)。
 その「水のいのち」全曲を歌うグループが「宇都宮市民合唱祭」に登場するってのを新聞で見た。ので。こちらにもかなり食指が動いた。先決優先の原則にしたがって,那須フィルの定演を聴くことにしたんだけどね。

2013年3月11日月曜日

2013.03.10 読売日本交響楽団特別演奏会-三大協奏曲

栃木県総合文化センター メインホール

● 昨日,今日と,春を跳びこえて初夏を思わせる陽気。一方,北日本では吹雪。先日は死者まで出た。どうなってるんだかなぁ。
 その陽気の中(風は強かったけどね)を午後3時から読響の演奏会。S席で5,000円。当日券もあったようだ。会場の入りは8割程度か。1階席に限れば,ほぼ満席だったけど。

● 曲目は協奏曲ばかり3つ。メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲,ドヴォルザークのチェロ協奏曲,チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番。
 指揮は現田茂夫さん。

 このプログラム,オーケストラにとってはあんまり楽しくないんでしょうねぇ。気合いを入れていけ,流すんじゃない,っていうのは少し以上に酷な注文になりますか。
 手を抜いてやろうと思って手を抜く人なんていない。が,そう思ってなくても結果においてそうなることは,人間だもの,百パーセントは防げないのかなぁ。

● まずはヴァイオリン。ソリストは松山冴花さん。
 オケの方は,お付き合いするかって感じで始まった(ように思われた)。乗りの悪いオケにはわれ関せずと,松山冴花ただ一人,わが道を行く,の図。特に,前半は。
 後半はいくぶん乗ってきましたか。曲自体が最後は盛りあがって終わるから,終わってみれば,形にはなっていたんですけどね。

● 次はチェロ。ソリストは工藤すみれさん。
 この曲は「管弦楽とチェロのための協奏曲」と曲名を変えてもいいくらいのものでしょ。ソリストが本格的に前面に出るのは第3楽章の終盤くらい。管弦楽の見せ場の方が多いでしょ。
 ゆえに(といっていいのかどうか),前曲に比べれば,オーケストラも気が入っていた感じね。工藤さん自身,ニューヨーク・フィルの団員だから,合わせが巧かったってのもあるんだろうか。どうなんだろ。

● 15分間の休憩の後,チャイコフスキーのピアノ協奏曲。ソリストは地元の須藤梨菜さん。
 ピアノ協奏曲では,ソリストは歯がゆい思いをするのじゃないかと思う。どうやったって音ではオケに負けちゃうからね。
 もちろん,ピアノにスポットライトがあたる場面はいくつもあるわけだけど,チャイコフスキーのこの曲の主役は管弦楽(違うだろ,バカ,って言われんだろうなぁ)。
 彼女が地元の人だってのは客席はもちろん知ってるわけで,終演後の拍手は盛大だった。

● 協奏曲といえども,ぼくが聴きたいのは管弦楽なんですよ。管弦楽が大事だと思っていてね。
 だからさ,管弦楽をないがしろにしているような(ないがしろにするつもりはなくても,オーケストレーションがあまり上手じゃない),たとえばショパンのピアノ協奏曲なんかはつまらないんだよねぇ。
 ひじょうに極端に言ってしまうと,ソリストは誰だっていいんですよ。だって,ソリストとして呼ばれるような人に,下手な人なんているはずないもん。巧いに決まってるんだもん。神業の持ち主たちだもん。巧さはそれぞれだとしてもね,そこはもう素人の手(耳)におえるような範疇じゃない。
 目下のところ,ぼくの水準はそんなもの。

● 今回は曲の順番に楽しめたわけですよ。1曲目より2曲目,2曲目より3曲目。だんだんオケの乗りが良くなってきたから。
 でね,「ソリストは誰だっていい」と書いておきながら何なんですけど,最も楽しみにしていたソリストは松山さんなわけですよ。
 このへんがね,ちょっとチグハグっていうかさ。

● だものだからね,今回のプログラムはそもそもどうだったのかなぁ,と。無理すじかなぁ,と。最後にソリスト3人がステージに揃ったのは,まことにどうも華やかで,賑々しくて,けっこうな趣ではあったんだけどね。
 もちろん,プログラムは事前にわかってて,それでもと聴きに行ったわけなんだけどさ。

● 一方で,著名な協奏曲を3つまとめて聴けて(しかも,文句のつけようのないソリストで)ラッキーっていう人もいるでしょう。だから,正解はないわけだよね。
 プログラムをどう組むかは正解のない問題だという前提で,メインディッシュが3つもある,しかもメインディッシュしかない,というのはあまりいいことではないと,とりあえず,ぼく一個の結論としておきたい。
 しかし,繰り返すけれども,中には育ち盛りの人もいる。育ち盛りがいけないという理由は,もちろん,ない。

● 3曲目に,さすがは宇都宮のケータイ着信音が響いてしまった。ま,宇都宮に限らず,全国どこでも起こっている現象なんでしょうけど。
 そんなこともあってか,全体的にやや散漫な印象になった。

2013年3月4日月曜日

2013.03.03 アーリドラーテ歌劇団第2回公演 ヴェルディ「仮面舞踏会」

所沢市民文化センターミューズ マーキーホール

● アーリドラーテ歌劇団は「イタリアオペラの大作曲家G.ヴェルディの作品上演に特化したオペラ団体で」,「日本を代表するプロの歌手や演奏家から,腕利きのアマチュア音楽家まで,幅広い層が集い,2年に一度,G.ヴェルディの歌劇の全幕上演を行っています」とのこと。 
 「演出家・木澤譲の描く光の織り成す舞台,実力派歌手の協演,エネルギッシュな管弦楽,熱気あふれる充実の舞台をお愉しみください」とあっては,そそられるではないか。
 チケットは4,000円。この料金でオペラを観ることができるとはありがたい。

● さらに。3月1日から4月10日まではJRの「青春18きっぷ」が使えるんですよ。1日2,300円でJR線に乗り放題。ありがたや。
 大宮で埼京線(川越線)に乗り換えて,川越で下車。西武線の本川越まで歩いて(迷わなければ徒歩10分),西武線に乗り換え。各停で6駅めの航空公園駅で下車。片道260円。
 埼玉って東西の交流はほとんどないんでしょうね。それぞれがJR,東武,西武で東京につながっているから,南北にしか動かないんだろうな。埼玉県内を東西に動くのはけっこう不便そうだ。

● 航空公園駅前は新興開発地の趣そのまま。歩道が広くて,安心して歩ける。公園や運動場もあって,市民の憩いの場。高層団地が建ち並び,犬を散歩させてる人も多かった。
 加えて,文化施設もある。絵に描いたような都市型住宅地だ。こういうところに住みたいと思うかどうかは,しかし,好みによる。

● 所沢市民文化センターミューズは3つのホールを持ち,マーキーホールは中ホールという位置づけ。すんげぇ立派。斬新。ただ,そのために(観客にとっての)使い勝手が若干犠牲になっているところがあるかもしれない。
 開演は午後3時半。

● プロアマ混合といっても,出演者のほとんどは藤原歌劇団の団員か準団員。オーケストラのコンマスは池澤卓朗さん。
 こちら側としてはお得感が強いんですよね。この歌劇団の公演を2回目から観ることができたのは,気分としてはかなりラッキー。

● リッカルドに小山陽二郎さん,レナートが須藤慎吾さん,アメーリアは廣田美穂さん,ウルリカに牧野真由美さん,なにげに出番の多いオスカルが山崎陶子さん。
 シルヴァーノが和下田大典さん,サムエルが田中大揮さん,トムが小田桐貴樹さん,召使役に中野雄介さん。
 笑っちゃうほど上手なんだよねぇ。ほんと,もう笑うしかないでしょって感じ。異能の持ち主たちですよねぇ。

● そこを強いていうと,廣田さんの表現力っていうんですか,役の作り方に感嘆。歌で作るんだからねぇ。
 アメーリアのイメージは,凜としながらもはかなげで細面,うつむく姿がさまになっていて,でも同性には嫌われそうな,って感じだと勝手に想像してるんだけど,廣田さんご自身は,そういう感じじゃない。でも,そんなものは吹っ飛ばすっていうかね。見事なものですなぁ
 ウルリカとトムの存在感も印象に残った。合唱陣もきっちり鍛えてある感じ。

● オペラのストーリーはたいていが恋愛がらみ。不倫だったり,二股だったり。普通に考えるとさ,いい年こいて何やってんだよ,ってことなんだよねぇ。今回の「仮面舞踏会」でも,そんなのとっくの昔に卒業しとけよ,ってリッカルドに言いたくなったぞ。
 ところが,劇に入って行けちゃうんですよね。不思議な気分なんですよね,こんな馬鹿馬鹿しいストーリーに感情移入できちゃうってのが歌のもつ説得力だと考えるしかないんでしょうか。
 この劇の救いは悪人がいないこと。誰も悪くないんだよね。友人の奥さんに横恋慕するのが悪いったって,これ,しようがないもんなぁ。好きになろうと思って好きになるわけじゃないから。気がついたら好きになってたんだもん。

● 指揮は山島達夫さん。この人も異能者だね。東大の理Ⅰに入学したのに,学部は教養学部の総合社会科学科。在学中に司法試験に合格。現在は独禁法と人事労務に強い辣腕弁護士。東大在学中は東大歌劇団の総監督。
 いるんだよなぁ,こういうやつ。世の中は不公平にできてるってことを,つくづくわからせてくれるやつ。だいたい,本業も激務だろうに,なぜ歌劇団の運営や指揮までできるんだ。

● でね,この歌劇団って,東大歌劇団のOB・OG歌劇団的なものなんですか(→後日,山崎さんのサイトに「この団体は,私が昔に在籍していた東大歌劇団のメンバーが主軸となっています」と書かれているのを知った)。演出や照明や衣装などを含めて,在学中は思うに任せなかったところを思いっきりやってみたい,と。
 で,できちゃってるところがねぇ。団の運営は,基本,素人がやっていると思うんだけど。

● 残念なのは客席にだいぶ空席があったことで,これほどの公演をこれだけの低料金でやっているんだからね,もっとお客さんが入ってしかるべきで,それが入っていないのは現実の方がおかしい。
 まだ,2回目だからね,放っておいても知名度はあがっていくんだろうけどさ。

● ポツポツとオペラのDVDも集めているんだけど,DVDでオペラを観るって,なかなかやらない。っていうか,できない。その程度の興味しかないからだよって言われれば,それはそのとおりなんだけど,自宅で3幕のオペラを観るのって難しくないですか。
 平日はまず無理ですよね。かといって,休日に約3時間,DVDを観続けるのも,できそうでできなくてね。それをやってると,奥さんから苦言が飛んできませんか。
 かといって,今日は第1幕だけ観て,第2幕は次の週末に,ってのもなぁ。観るなら一気に観たい。このあたりをどうするかは今後の課題。
 なんだけど,結局,自宅でないところで観るしかないような気もしてましてね。ライヴの機会を捉えてね。それなら奥さんも見逃してくれるし。

● というわけでした。お得感満載。当然,次回以降もお邪魔しようと思っている。
 川越は通過したことは何度かあるんだけど,下車したのは初めてだし,所沢は足を踏み入れることじたいが初めてだった。ぼく的には小旅行ができた感じ。遠くへ行かなくたって旅感は味わえるものですな。

2013年3月2日土曜日

2013.03.01 フジコ・ヘミング&ヴァスコ・ヴァッシレフ-ピアノとヴァイオリンによる共演

栃木県総合文化センター メインホール

● 開演は午後6時30分。チケットはS席が1万円。そのS席を購入しておいた。
 恥ずかしながら,その金額のために,このコンサートに行くかどうか逡巡した。何日間か迷っちゃいました。しようがないなぁ。
 1万円なんて歯牙にもかけない人って,少なくない数いらっしゃると思うんだけど,目下のぼくにとっては(この先もたぶん同じだろうけど),1万円を一度に遣うのはけっこう踏ん切りを要するんですな。

● 1階はほぼ満席。2階には空席がまとまってあったけれども,トータルでも9割は埋まっていた。
 普段は音楽なんて聴かないんだけど,フジ子・ヘミングのコンサートなら行きたい,っていう人がかなりいたようですね。音楽ファンというよりフジ子ファンって人たち。フジ子ファンのほぼ全員が女性ではあるまいか。ゆえに,今回は観客に占める女性の割合がいっそう高かった。
 これがどういう形で顕現するかといえば,休憩時間に女子トイレに長い行列ができる,ロビーでのCD販売の売上げが増える,自販機で飲み物を買うのに時間がかかる,といったあたりになるわけですね。

● 女の人ってさぁ,なんで並んでいる間に小銭を用意しておかないの? 自分の番が来て自販機にお金を投入する段になってから,バッグから財布をだして,財布から小銭をだしてってやるの? しかもさぁ,なんで自販機の前で悩むの? 自販機で売ってるものなんて決まってるんだから,最初から決めときなよ。
 それからさぁ,なんで自販機の前に立ったままで釣り銭を財布に入れて,財布をバッグにしまうの? それって,横にどいてからやってもよくない?
 もうちょっと背中にも眼を持つように努めてもらえるとありがたいかなぁ。まぁ,そこが可愛いといえば可愛いんだけどさ。

● フジ子・ヘミングって,少なくとも日本の音楽アカデミズムの世界では員数外の扱いっていうか,評価の対象になることはないでしょ。巧いのはアゴーギグだけだなんて言い方もされてたり。
 でも,多くのファンを持つ。純文学に対する大衆文学的な。で,おまえはどうなんだと言われれば,ピアノ曲ってあんまり聴かないんだけど,最も多く聴くのはフジ子・ヘミング。おまえの耳はその程度なのかと言われれば,そうですと答えるしかない。
 御年80歳。さて,どんなピアノを聴かせてくれるのか。

● 前半はフジ子さんのソロ。
 バッハ コラール(BWV147)
 バッハ シチリアーノ 第2楽章(BWV1031)
 ムソルグスキー 展覧会の絵
 リスト ため息
 リスト カンパネラ

● バッハの2曲を終えたあと,マイクを使って客席にあいさつ。ハンガリーで風邪をひいて耳がほとんど聴こえないので補聴器を使っている,耳に手をやる仕草をするけれども気にしないでください,と。
 そのバッハだけど,どうなんだろ,特に何も感じなかったんですが。

● けれども,「展覧会の絵」には吸引力があった。この長い曲を集中を切らさずに聴ききることができた(と思う)。
 「展覧会の絵」といえば,ラヴェル編の管弦楽版の方に馴染みがあるけれども,元祖はピアノ曲だってことは,ぼくだって知っている。辻井伸行さんのCDで一度聴いたことがあるだけなんだけどね。

● リストの2曲。艶っぽい。本当に艶やかで,曲が鍵盤から立ちあがって,麗人となって,こちらに歩いてくるんじゃないかと思った。
 身を乗りだして,鍵盤上の彼女の指の動きを見つめた。80歳でこれか。力強いし,柔らかいし。指じたいがキレイなんですねぇ。
 この2曲は彼女のCDでもう数え切れないほど聴いている。その学習効果もあったかもしれないし,CDで何度も聴いた曲がこういうふうに演奏されているのかってのを目のあたりにした感動?のなせる効果もあったかもしれない。

● 立っている地平が,したがって見えている光景が,他の音楽家とはおそらく違うだろう。
 より高いところからより遠くを見ているっていう意味じゃなくてね。たとえば,東京に住んでいればスカイツリーが見えたり,夜になれば夜景がきれいだったりするんだろう。栃木に住んでると,那須や日光の山なみが見え,夜は真っ暗になるから星がきれいだったりする。そういう違いね。

● 20分間の休憩の後,今度はヴァスコ・ヴァッシレフも登場。
 最初はベートーヴェンのヴァイオリンソナタ第5番「春」。この人も天才でしょうね。ぼくが何か言ってはいけないような気がする。
 楽章ごとに拍手が起こった。それをとがめる雰囲気はステージにも客席にもなかった。この辺がオーケストラとは違うところ。ステージと客席との距離が近い。フレンドリー。ヴァッシレフのキャラクターかもしれない。

● 以後,プログラムは次のように進行。
 マスネ タイスの瞑想曲
 ラヴェル ハバネラ
 ブラームス ハンガリー舞曲第1番
 シューベルト アヴェマリア
 助川俊弥 ラクリモーサ(ちいさき いのちの ために)
 ブラームス ハンガリー舞曲第5番

● シューベルトの「アヴェマリア」では,これは声楽で聴いてみたいなぁと思ってしまうのは仕方がない(森麻季さんのCDで時々聴いている)。もちろん,彼のヴァイオリンも存分に歌っているんですけどね。
 アンコールではブラームス「ハンガリー舞曲第1番」を再度演奏。
 終了は8時55分。1万円,思い切ってよかったですよ。

● しかしね,いくつか残念なことがあった。
 開演直後に入ってくるお客さんがかなりの数,いたこと。6時半開演だからね。なかなか厳しいとは思うんだけど,感興を削ぐことは間違いないわけで。
 演奏中にプログラムを弄んでカサコソという音をたてる人がいたこと。
 最も腹が立ったのが,演奏が終わっていないのに,ブラボーを叫ぶ馬鹿がいたことだ。ディミヌエンドで消えいるように終わるのに,消えていないうちに叫ぶんだから,どうにもならない。こういう野猿をどうにかして外につまみだす方法はないものか。