2014年7月28日月曜日

2014.07.27 弦楽亭室内オーケストラ第2回コンサート

那須野が原ハーモニーホール 大ホール

● ぼくも栃木県に,しかも県北に住んでるんで,弦楽亭の存在は当然知っている。存在を知っているだけにとどまるけれど。玄人向けの渋い活動をしているんだよね,と(たぶん実際とは違っているんだろうな)。
 室内オーケストラの演奏も2012年1月の「那須野が原ハーモニーホール New Year Concert」で一度聴いている。そのときとメンバーは同じではないと思うんだけど,ともかく二度目の機会を得た。

● 開演は午後2時。チケットは1,500円。指揮は柴田真郁さん。曲目は次のとおり。
 シェーンベルク 浄夜(弦楽合奏版)
 プロコフィエフ ピーターと狼
 サン=サーンス 交響曲第2番

● 「普段あまり演奏の機会のない,珠玉の名作ばかり」とあるとおり,いずれも生演奏で聴くのは初めてだ。しかも,CDで聴こうと思えば聴ける状態にあるにもかかわらず,CDでも聴くことなく今日に至っている。
 特に,シェーンベルクは音楽史の画期となった無調音楽だとか現代音楽だとか,あまりわかりたくもない色んなものをまとっている,難解かつ厄介な作曲家っていうイメージ。敬して遠ざけておきたい作曲家だと思っていた。

● けれど,「浄夜」はそうじゃなかった。ぼくでもとっかかりはつけられる曲だった。「深い森」と言われれば,なるほどそうかと思えるっていうか。
 けれど,演奏する側は忙しそうだ。気を抜けない曲なんでしょうね。聴いてる方はけっこう遊べるんだけど。
 デーメルの詩に触発されて作曲したっていうんだけど,その朗読は榊原徹さんが担当。演奏家であり指揮者でもあるんだけど,声もいいんですな。たぶん,こうした朗読も場数を踏んでいるのだろう。達者なものだったから。

● 「ピーターと狼」の語りも榊原さん。いよいよ巧さが際だつ感じ。オーケストラの演奏中にも語りが入るわけで,それでも声が通ってくるんだからね。江守徹を思いだしたんですけど。

● 演奏もあきれるほどの高水準。「プロ・アマ混合」とあったけれども,アマといっても栃響那須フィルの精鋭たちが入っていたようだ。
 姿もいい。耳をふさいで目で見ているだけでも鑑賞に耐えると思った。
 このメンバーでこの曲で1,500円。タダみたいなものだろう。

● ぼく的には,サン=サーンスの2番を聴けたことが最大の収穫。最初から最後まで間然したところがなく,ピンと張りつめているのに多彩な表情を見せる。3番に比べれば小品ってことになるんだろうけど,質量が劣ることはないように思った。
 これを聴かないできたのはバカでした。さっそく,リッピングしてスマホに転送した。こういう聴き方がいいのかどうか,われながら疑問もあるんだけど,こういう聴き方しかしていない。

● ただね,これを聴かなかったとは何と迂闊なという曲は,これ以外にも山ほどあるんだろうな。つまりは,迂闊なままで一生を終えることになるんだろうな。

● アンコールは「おもちゃのシンフォニー」。「お子様からクラシックに少し縁遠い皆様まで幅広いお客様にお楽しみいただけるよう考えました」という,これもその工夫の結果だろう。後味の良さにつながった。

2014年7月21日月曜日

2014.07.20 東京大学歌劇団第41回公演 ヴェルディ「ドン・カルロ」

サンパール荒川 大ホール

● 「青春18きっぷ」が使える時期になった。経済的に東京が近くなる。心理的にも近くなる。
 というのは,「都区内フリーきっぷ」が昨年3月で廃止されているからだ。フリー切符があれば,都内は乗り降り自由だったのに,今はその都度切符を買わなきゃいけない。このメンドクササは何事であるか(「Suica」を使えば解決か)。
 「青春18きっぷ」はその面倒さからも解放してくれる。自動改札は使えないのが難ではあるけれど,その程度は我慢しよう。

● この歌劇団の公演を拝見するのは,これが3回目。予算は(たぶん)僅少。そこを学生たちの情熱と献身が補っている。
 プロをめざしているわけではない(と思う)。したがって,今が目的地への一里塚というのではない。これで完結した世界だ。
 ともあれ。開演は午後3時。入場無料。終演後にカンパを募る。

● 今回の総監督兼指揮者は理Ⅲの2年生。その彼が,この歌劇についてはヴェルディが何度も手を入れ,複数の版が残存している理由について,「多様な内容を含むことにより,膨らみきった台本の世界を音楽が受け止めきれなかった」からだろうと推測している。今どきの若者,畏るべし。いや,たぶん,昔もこうした異才はいたんだろうけど。
 実際に舞台を見,管弦楽を聴き終えた今,音楽に破綻はないように思える。たしかに,台本がいろんな要素を盛り込みすぎている。縦糸が何本もあって,それら縦糸相互の整理が足らない。ストーリーが散らかってしまっている。やや散漫な印象になる。
 登場人物の設定もしかりで,もう少し絞れなかったかと思う。

● では,このオペラが面白くないかといえば,そんなことはない。ストーリーはとりとめがなくても,登場人物がそれぞれ“人間的な,あまりに人間的な”という感じなのがいい。
 王妃の愛が自分に向いてないと悲嘆にくれるような男じゃ王様は務まらないだろうけれども,そういうことを言いだすやつは豚に喰われろ。そうした皮相なリアリズムは劇の敵だ。

● でも,つまるところ,オペラは歌と演技であって,個々の歌,個々のシーンの積み重ねだ。
 主役のカルロ(とっても,この劇ではいったい誰が主役なのだ?)を演じた男性団員が,歌で屋台骨を支えた。屋台骨が支えられていれば,並の地震ならまず揺らぐことはないものだろう。
 それと,エボリ公女。声が通っていたことに加えて,情感の入れ方が巧みだ(つまり,演技が巧い)。動きも切れる。ここでどう動けばいいか,それについて逡巡がない。
 これあってこそ,歌劇の面白さが成立する。

2014年7月13日日曜日

2014.07.12 国立音楽大学栃木県同調会 くにたちコンサート2014

宇都宮市文化会館 小ホール

● 開演は午後2時。終演は4時35分だった。途中の休憩時間は15分だったから,かなりミッシリと中身の詰まった演奏会だった。
 チケットは1,500円。当日券を購入。

● 国立音楽大学というと,声楽を主力にしているというイメージがある。この大学の出身者で活躍中の声楽家は,佐藤しのぶさんや錦織健さんをはじめ,数多いから。
 ジャズの山下洋輔さんを逸するわけにはいかない。声楽だけではもちろんない。
 あと,フジテレビのカトパンこと加藤綾子アナウンサーがこの大学の出身じゃなかったでしたっけ。多士済々。そんなに大きな大学ではないはずだけどね。

● この演奏会でも声楽が多かった。大西千恵子さん,荒井雪乃さん,折原亜矢子さん。いずれもソプラノ。
 そんな中で唯一の男性が永山智宏さん(バリトン)。トスティの「薔薇」とヴェルディ「イル・トロヴァトーレ」から“君が微笑み”。
 真面目というか律儀な感じの歌いっぷり。プログラムの「出演者プロフィール」によれば,現在は地元の役場に勤務しているらしい。なんか(もし,失礼の響きがあったらご容赦願いたいのだけれども)こういう人生っていいなぁと思った。その道のプロになるのだけが,音楽との付き合い方じゃないものな。

● 声楽以外では,新井啓泰さんのピアノ。ショパンのバラード第3番。新井さん,4月に行われた藝大同声会栃木県支部演奏会でもバラキレフの「イスラメイ」を演奏した。学部は藝大,院は国立ということ。
 西園文美さんのフルート。クーラウ「オイリアンテの主題による序奏と変奏曲」。横田郁美さんのマリンバ。一柳慧「源流」。木主里絵さんのクラリネット。ドビュッシー「クラリネットのためのラプソディ第1番」。

● ピアノ以外は,いずれも初めて聴く曲(だと思う)。マリンバなんか何気にやっているけれども,難易度高そう。この程度はできてあたりまえだよってことなんだろうか。何カ所かウルトラCがあったような気がするんだけど,そのへんのところも含めて,ぼくにはよくわからない。
 クラリネットの伴奏ピアノは稲生亜沙子さん。じつはこのピアノが一番印象に残っている。

● 休憩後の第2部は,この大学の先生方の演奏。
 まずはピアノの花岡千春さん。ドビュッシー「子供の領分」。ぼくが言うのも失礼だけれども,まったく危なげがないですよね。
 某ホテルの朝食のオムレツを思いだした。ベテランのシェフが目の前で作ってくれる。風味も食味も絶佳。熟達の調理人が作るシンプルなオムレツ。それを思いだした。

● ヴァイオリンの大関博明さん。花岡さんの伴奏で,モーツァルトのヴァイオリンソナタ(K301)。才能の固まりっていうんですかね。釣りの名人が,仕事を離れて,趣味としてしばしフナ釣りを楽しんでいる風情(いや,必死にやったよ,って言われると思うんだけど)。

● ソプラノの佐藤ひさらさん。これも花岡さんの伴奏で,山田耕筰「AIYANの歌」とプッチーニの「蝶々婦人」から“ある晴れた日に”。
 “ある晴れた日に”は圧巻。陳腐な言い方だけど,トリを飾るに相応しい。瑞々しい。力がこもっているのに力みはない。こういう表現もできるんだなぁ,と。

● 以上。これで1,500円。

2014年7月6日日曜日

2014.07.05 宇都宮大学管弦楽団第77回定期演奏会

宇都宮市文化会館 大ホール

● 開演は午後6時。指揮は清水宏之さん。曲目は次のとおり。
 シベリウス 交響詩「フィンランディア」
 ブルッフ ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調
 ブラームス 交響曲第2番 ニ長調

● 「フィンランディア」を聴くのは,最近の2ヶ月でこれが3回目。続くときは続くものだ。
 2階席でステージを見下ろす位置だった。眼下にオーケストラの演奏を眺めて思うのは,音大ではない一般の大学の学生が繰り広げるパフォーマンスの水準の高さだ。
 まったくの想像で言うんだけど,発足当時の栃響よりも今の宇大管弦楽団の方が,おそらく技術は上だろう。この分野に関する限り,昔はよかったはあり得ない。年々,裾野が切りあがっている。理由はわからない。

● ミスがなかったわけではない。ミスれば,トランペットやホルンに限らず,どんな楽器でも目立つ。目立つから,誰が聴いてもミスはミスとわかる。聴き手の水準が低くても,ミスはわかる。巧いのはなかなかわからないけど。
 ミスはどうしたってある。切り換えてるようでは間を取りすぎる。スッと戻る感じですかね。ミスを意識しないところまで行ければ理想的だろうけど。

● しかし,ミスがない演奏がいい演奏だろうか。いい演奏とはミスのない演奏だろうか。ミスらないように守りに入った内向きの演奏なんて,客席に何も届かないだろう。
 そういうことを考えさせる演奏だった。ミスが致命傷になることはまずないものだと思わせる演奏だったといいますか。

● ブルッフのヴァイオリン協奏曲,ソリストは会田莉凡さん。彼女のヴァイオリンは,昨年,那須野が原ハーモニーホールで聴いている。
 まだ20代の半ば。この国の演奏界を牽引していく一人になるのだろう。っていうか,すでに牽引しているのだろう。

● 協奏曲は,基本,バックの管弦楽で決まる。聴き終えたあとの印象を決めるのは,管弦楽の方だと思っている。これが一定の水準に達していないと,そもそも協奏曲にならないわけで。
 とはいえ,ブルッフのこの曲はソリストの見せ場が多い。ふんだんにある。彼女が創りだす音を聴き,演奏ぶりを見ていればいい。
 まったくの素人感想なんだけど,弦で指を切ったりしないんだろうか。しないんだろうね。するわけないんだけどさ。アクロバティックな動きが頻出するじゃないですか。ヒヤッとするわけですよ。

● ブラームスの2番の印象も「フィンランディア」と同じ。
 要所要所にOB・OGの俊英(と思われる)を配しているのが効いているのかもしれないんだけど,弦の安定感がまず印象的。不安を感じさせない。

● 次回は12月13日。真岡市民交響楽団の「第九」と重なる。時間帯も同じ。これは困る。どちらに行くか,かなり悩ましい。

2014年7月5日土曜日

2014.07.04 横山博チェンバロ・リサイタル 2

宇都宮市立南図書館 サザンクロスホール

● バッハのフランス組曲を2回に分けて演奏。その2回目。開演は午後6時半。
 今回は,2番,4番,6番。それと,クープランのクラヴサン曲集第3巻第14組曲から,第6曲「ジュリエ」を除く7曲を。

● 前回と違ったのは会場の階段席を封鎖していたこと。チェンバロの周りにパイプ椅子を並べて,観客を座らせた。約百人ほど。奏者と観客との間は完全フラット。
 ぼくも前回よりだいぶ近い位置で聴くことになった。

● 前回以降,チェンバロ演奏のCD(すべて曽根麻矢子さんのもの)をけっこう聴いたつもり。でも,「何を聴いても同じように聞こえてしまう」状況を脱することができないまま,今回の演奏会を迎えることになった。
 じつにどうも,冴えない話なんだけど,この点に関してはやや諦めの境地にさしかかっている。
 ゴルトベルク変奏曲にしても,チェンバロよりピアノで聴いた方がしっくり来るっていうか,落ち着きがいいっていうか。

● この程度で聴いているわけだから,申しわけない。ただ,この演奏会に集まった約百人のお客さんも,みんながみんな気を入れて聴く人たちだったかというと,そうでもなくて,近くにいたお婆さんなんか,途中でらくらくホンを取りだしてメールを見始まっちゃった。無理しないで帰ればいいのにと思うんだけどね。
 後半はけっこうダレていた。客席の話ね。チェンバロを2時間聴くのはなかなか骨っぽかったらしい。らしいって他人事のように言ってるけど,ぼくも同じ。

● 今回は演奏の合間の語りがなかった。基本,その方がいいと思う。けれども,空間を狭くして観客と奏者の距離を縮めたのであれば,途中で語りを入れて,空気を入れ換えた方がよかったかもしれない。

● ともかく。チェンバロでお腹がいっぱいになった感じ。

● 以下,余談。
 演奏会終了後はまっすぐ帰宅するのが慣わしだけれども,この日は雀宮駅前にある居酒屋で酒を飲むことにした。名前は前から聞いていたんだけど,入ってみる機会がなかなかなかったので。
 金曜の夜のこととて,店内は満席。カウンターに席を取れたのは幸いだった。

● 昭和が充満している感じ。ぼくなんか,この方が落ち着く。昭和と違うのは,煙草を喫う人がほとんどいないこと。
 喫茶店は空いてる方がありがたいけれど,居酒屋は混んでる方が居心地がいい。これだけ活気があると,それに乗ってグイグイ行けそうな気分になる。

● いくつか注文した肴は,どれも大量。一人だったら二品がいいところ。驚いたのがポテトフライ。輪切りにしたジャガイモがたぶん一個分。並の大きさじゃないジャガイモだな。少々塩をたして喰うと,これが旨いのなんの。
 結局,白ワインをボトル1本空けてしまった。

● 居酒屋グルメを堪能したな。B級グルメってやつだね。気のおけないB級の方が,多少とも緊張しなきゃいけないA級より,ずっといいやね。
 愚かな金持ちはA級に走り,賢い庶民はB級を愛する。そう考えておくと,精神衛生にもいいな。