2016年1月31日日曜日

2016.01.30 ワグネル・ソサィエティー・OBオーケストラ 第79回定期演奏会

ミューザ川崎 シンフォニーホール

● この楽団は名前のとおり,慶應義塾ワグネル・ソサィエティー・オーケストラの出身者が中心になって1974年に設立された。
 ワグネル・ソサィエティー・オーケストラといえば,大学オケの頂点に位置する楽団のひとつ(頂点がいくつもあっちゃいけないんだけど)。「1901年に創立した日本最古のアマチュア学生音楽団体であ」るらしい。
 残念ながら,ぼくはまだ聴いたことがないんだけどね。

● そのOBであれば,そりゃ相当なものでしょう。おそらく彼らは慶応を卒業したというより,ワグネルの卒業生だという思いが強いかもしれない。
 勉強などそっちのけで,練習に明け暮れていたのじゃないか。大学生の就職難の時代がしばらく続いたから,そうそうハチャメチャなことはできなかったOBもいるかもしれないけれど。

● ということになると,卒業後も現役時代の腕前を維持するのは困難だろうとも思われる。楽器とたわむれていられる時間は激減するはずだものな。
 卒業して企業や役所に勤めれば,さすがに部室に入りびたっていた学生時代のようなわけにはいかない。一応,仕事もしなくちゃいけない。

● 同じ理屈で,卒業して時間が経てば経つほど腕が落ちる道理だ。実際と道理は食い違うものだけれどもね。
 年をとると,なお巧くなりたいというところから,楽しめればいいやっていうところに行くんだろうかなぁ。楽しむためには最低限度の技術は持っていなければならないだろうけれど,その水準ははるかに超えている団員ばかりだろう。

● というようなつまらんことを考えながら入場。聴衆も多くは慶応の関係者(現役学生,OB・OG)かもしれない。という目で見るせいか,皆さん,セレブっぽく感じられる。
 しかし,日本の場合は,セレブといってもしれているという気はするね。想像を絶するような,目もくらむような,同じ日本語が通じないような,隔絶したセレブはいないっぽいよね。

● ともあれ,開演は午後2時。チケットは2,000円。当日券を購入。曲目は次のとおり。指揮は角田鋼亮さん。
 ワーグナー 舞台神聖祝典劇「パルジファル」より「前奏曲」「聖金曜日の音楽」
 R.シュトラウス 交響詩「ティル=オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」
 ブラームス 交響曲第1番 ハ短調

● 「パルジファル」のCDはひとつだけ持っている。のだが,通して聴いたことは一度もない。歌詞の意味がわからないので最後まで保たない。歌詞カードがあっても,途中からどこなのかわからなくなってしまう。
 しかも,スマートフォンを携帯音楽プレーヤーにして聴くことが多いので(っていうか,それでしか聴かない)歌詞カードなんか持ち歩く気にならないのが本音。

● が,そういうことを別にしても,ワーグナーのオペラは超長編で,音楽もストーリーもずっしりと重い。男と女の恋情や騙しあいがメインテーマになっているなら,エンタテインメントとしてわかりやすいんだけど,ワーグナーに限ってはそうではない。
 ぼくは「ニーベルングの指環」をDVDで一度見ただけなんだけど,ジークフリートとブリュンヒルデの愛憎劇も,それそのものを描くのが目的ではなく,もっと人間の根源的なものを炙りだすための素材に過ぎないように思われた。

● お茶漬けサラサラから自由になれない日本人としては,ワーグナーのような重ったるい長編を自家薬籠中のものとするのは,たぶん無理なんだと思っている。いや,ドイツ人も同じなのかもしれないけどね。
 ワーグナーオペラは(めったに見る機会はないわけだけど)たまに気合いを入れて見るべきもの,異物を自分の中に取りこむ覚悟で接すべきもの,なのだろう。

● R.シュトラウスもどちらかといえば,おどろおどろしい曲を作った人だという印象。数多くある交響詩もそうで,その名も「死と変容」なんてのがあるし。
 その中で,今回の「ティル=オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」は軽く跳ねるように進んでいく。
 もちろん,演奏するのにたやすい曲ではないけれども,奏者側もポンポンと軽くステップを踏むような感じで演奏を進めていく。

● で,最後はブラームスの1番。ブラームスの4つの交響曲の中でも最も持ち重りがするというか,質量の大きさが並みじゃない。
 2番以降はどこかにスッキリと垢抜けたところがあるように思うんだけど,1番は悪くいえば筆離れがよろしくない。しかし,力がこもっている。

● 聴く側としても気を抜けるところがない。演奏する側はさらにそうだろう。
 疲れる曲だろうと思う。注意深く抑制を効かせなければならない。一方で,上下の起伏が激しい曲だから,その起伏も存分に表現しなければならない。
 滑りすぎてはいけないが,滑る勇気は必要だ。

● この楽団の印象は,すこぶる真面目というもの。個々の団員をとってみれば,剽軽もやんちゃも少なくない数いるに違いないのだが,全体としてみると真面目一辺倒な感じ。
 その真面目さに少し重さを感じてしまった。もっと軽い真面目さもあるのだろうな。だからといって,軽くなければいけないとは思わない。相当な年齢差を抱えると,こうなるものかもしれないし。
 そこも含めてこの楽団の個性と見るのが,最も普通な見方だろう。

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