2016年1月25日月曜日

2016.01.24 ロシア国立ワガノワ・バレエ・アカデミー 『くるみ割り人形』

栃木県総合文化センター メインホール

● “留学生オーディション第20回記念公演”と銘打たれている。栃木県が全国に先駆けて,ワガノワ・バレエ・アカデミーと留学生を送りこむ協定を取り決めてから20年になる,それを記念しての公演だという意味のアナウンスがあった。

● 開演は午後3時。座席はSS,S,A,Bの4種。料金は,それぞれ,10,000円,8,000円,6,000円,4,000円。
 B席のみ当日券が残っていた。高い席から売れていったようだ。こういう現象が起こるのは,この催しが特別なものだったからだ(と思われる)。
 つまり,普段は来ない人がたくさん来ていたはずだ。自分もバレエ・スクールに通っている子とその母親がその代表だと思うけれど,それだけにはとどまらない。普段はバレエなんか見たことないっていう人も多かったろう。

● 本だって,ベストセラーになるのは,普段は本なんか読まない人が買うからだ。メインホールが満席になるのは,普段は来ない人が来たからに決まっている。
 普段は輪の中にいない人をどうやってつかむか。これが興業側にとっては永遠の課題。

● それができるのは,ひとつには圧倒的な知名度があること。たとえば,パリに行った日本人は,普段は美術館など一度も行ったことがない人でも,ルーヴルやオルセーには行く。
 そういう人に来てもらって,ルーヴルやオルセー(で働くスタッフ)が喜ぶかといえば,それは別の話だけれども,それがルーヴルやオルセーの価値のひとつになっていることは間違いないと思う。
 が,ルーヴルやオルセーをこれから作れるか。

● さて,ぼくの席は一番安いB席。当日券がそれしかなかったわけだから。2階席の奥のほう。実質は4階席といっていいけれど,舞台が遠いという感じはさほど受けなかった。
 このホールの収容人員は1,600人くらいだったと思う。この程度の規模だとだいたいそうかというと,わりとそうでもない。ホールの構造や形,客席の勾配をどの程度とるかなどによって,ステージからの距離はだいぶ変わってくる。
 でも,これならB席で何の不満もない。オペラグラスを使っている人もいたけれど,その必要もほぼ感じなかった。

● このバレエを観にきたのは,美しいものを観たかったからだ。それ以外に理由はない。
 その思いは充分以上に満たされた。圧倒的な才能の持ち主たちが圧倒的な努力を続けるとこうなるのだろうな。
 滞空時間の長いジャンプ,ほとんど直線に見える開脚,どうしてあれで立っていられるのか不思議な片足立ち。観ているこちらが痛いだろうなと顔をしかめてしまいそうな,ポワントの継続と上下の動き。
 一番ありがたかったのは,子役(?)の水準の高さだ。

● コール・ドが織りなす秩序が素晴らしい。その秩序が放つ美の力強さ。
 同時に感じさせる儚さのようなもの。あるいは,危うさのようなもの。ぼくがそれらを観たい,感じたいと思っているから,そう見えてしまうのかもしれないんだけど。

● でも,人間の生身の身体が表現するものは,どうしたってそうした儚さをかもすものじゃなかろうか。彼ら彼女らが,いつまでも若くいられるわけではないっていう前提がある。それが儚さに通じるという,ちょっとお粗末な筋なんだけどね。
 世阿弥『風姿花伝』を読まなきゃなとチラッと思った。

● 技術が高いから,ラインを稠密にしても崩れたり混雑したりしない。だから,ラインも伸縮自在。
 バレエってそういうもんでしょ,と言われれば,そうですかと返すしかないんだけど,実地に見せられると,うぅむと唸ってしまう。

● 美しきものをたっぷりと見せてもらった。で,あたりまえのことを感じた。日本人である必要はないってこと。
 演者が日本人である必要は全然ない。ロシア人でもフランス人でもアメリカ人でも中国人でもベトナム人でも誰でもいい。美を作る者には,人種や国籍は関係ない。そういうあたりまえのことを思った。

● 開演の1時間くらい前だったか,ふたりの白い美人がコンビニのビニール袋を持って楽屋に入っていった。チョコレートでも入っていたんだろうか。
 そうして見てる分には,普通のお嬢さんなんだけどねぇ。イチローだってオフでリラックスしているところを見れば,普通のオッサンにしか見えないんだろうけどさ。

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