宇都宮市文化会館 小ホール
● 「『上野の森』の響きを再び」と副題が付いているので,これが2回目の演奏会なのかと思ったら,そうではなかった。プログラムのあいさつには「昨年3月に栃木県支部が再編成され,本日そのお披露目の演奏会を開催することになりました」とあるから,「再び」というのは奏者にとっての“卒後再び”なのかもしれない。
ともあれ,開演は午後2時。チケットは2,500円。
● 小ホールはほぼ満席の盛況。藝大のネームバリューでしょうね。ぼくもそのバリューに惹かれて出かけたひとりだ。
ネームに内実が備わっているからバリューになる。まず間違いのない演奏を聴かせてもらえるだろうと思うわけですよね。
藝大に入るほどの人ならば,幼少のみぎりは神童とか天才少女と呼ばれたに違いない。その神童や天才少女たちがその道で研鑚を積んできた。たんに音楽が好きで長く続けてきましたというのとは訳が違う。そういうリスペクト。
● ところが。こちらのチョンボで開演時刻に間に合わなかった。最初の馬場千年さんの箏曲(長谷川恭一「はるかなる道」)は聴きそびれてしまった。
遅刻の咎はそれだけではない。演奏会の場に馴染むまでに時間がかかる。落ち着いて聴けるようになったのは休憩後の後半からだった。さっさと会場に到着して,開演を待つ行列の一員になっていた方が,なんぼかお得だ。
記憶にある限りで,これが3回目の遅刻になる。前2回は開演時刻を勘違いしていたのが原因。勘違いなしの遅刻は初めて。いかんなぁ。
● ピアノの小嶋千尋さん。ショパンの「バラード第4番」を演奏。
プロフィールによれば,学部生だったときにコンセール・マロニエ21で最優秀賞を受賞している。実力派なんでしょう。
申しわけないことに,このあたりは遅刻の咎をバッチリ受けていて,演奏を聴くことに集中できなかった。
● ファゴットの柿沼麻美さん。モーツァルトのファゴット協奏曲。柿沼さん,まだ(といっていいのか)院生。管弦楽に代わるピアノ伴奏は宇根美沙惠さん。このピアノがまたお見事で。
今回のプログラムはほぼ聴いたことのないものばかりだけれど,この曲と最後に登場するバラキレフ「イスラメイ」だけはCDで聴きかじったことがある。
っていうか,ファゴット協奏曲って,モーツァルトのこの曲以外に知らない。ウェーバーとかR.シュトラウスのものはCDも持っていない(と思う)。
いや,ウェーバーのファゴット協奏曲は5年前に栃響の定演で聴いていた。ソリストは菅原恵子さんだった。危ういところで思いだした。が,結局は聴きっぱなしになっていたってこと。
● 菊地由記子さんが作曲した「Aria ピアノのために」を広島県出身の多賀谷祐輔さんが演奏。ポロンポロンとこぼれ落ちるように始まり,次第に(というか急激に)音が増えていく。
プログラムの曲目解説によれば「無数に響き合い,空気のようにわたしたちを囲んでいきます」ということ。その響き合いの様をそれと感じればいいんだろうか。
● 前半の最後はソプラノ。中山眞理子さん。モーツァルトのオペラ「羊飼いの王様」より“僕は生涯変わらずあの人を愛し誠実でいよう”。声楽ならではの華やぎってたしかにあって,場のモードがピッと切り替わった感じがした。
ピアノが大場文恵さんで,ヴァイオリンが佐々木美子さん。ヴァイオリンの迫力が何とも。
● 15分間の休憩。これで遅刻の咎から完全に解放された感じ。
後半は箏から。田代恭子さん。吉崎克彦「スペイン風即興曲」。十七絃でスペイン風。といっても,全部を演奏したわけではないようだ。
ぼくの耳では巧いということしかわからない。あと田代さんが美人であること。どうもいけない。曲に入っていけない。
● 次は,中村芳子さん(ソプラノ)。日本の歌曲を3つ。田代さんの箏の伴奏がついた。
たぶんなんだけど,今回のお客さんにアンケートを取って,どれが一番良かったかと訊ねれば,この演奏に票が集まると思う。
年寄りにとっては(あるいは,年寄りじゃなくても)エンタテインメントとして訴求力があるのは,この手の日本歌曲で,これはもう仕方がない。ぼくら,日本人だから。
● チューバの田村優弥さん。田村さんもまだ若く,院に在籍中。マドセンの「チューバとピアノのためのソナタ」。
ぼくが知らないだけで,チューバに焦点を合わせた曲もけっこうな数あるらしい。が,聴ける機会はそんなにない。この曲ももう一度聴く機会がこの先あるかどうか。第3楽章がいい気分にさせてくれた。
ピアノは新居由佳梨さんで,このピアノもまたうっとりするほどで,うーん,さすがだなぁと言うしかないですかねぇ。ちょっとは気の効いたことが書けるといいんだけどね。
● 鶴野紘之さんのヴァイオリン。イザイ「サン=サーンスの“ワルツ形式の練習曲”によるカプリス」を演奏。嬉しいことに,ピアノは再び新居由佳梨さん。
ぼく的にはこの演奏を聴けたことが最も嬉しい。超絶技巧のオンパレードのように思えたんだけど,若い鶴野さんが曲に向かっていく様が,見ていて小気味いい。
● 最後は新井啓泰さんのピアノで,バラキレフ「イスラメイ」。どうだい,おれのピアノは。どうもこうも,評する言葉を持たない。名手のピアノはいくら聴いても腹にたまらないものだ。
● ぼくには少々難易度が高いかもしれないんだけど,そういうことは考えないでおく。
高水準の演奏を楽しみたい向きには,こうした催しはありがたいものだ。栃木にいて,これだけの演奏を聴けるわけだから。
● プログラム冊子の末尾に会員名簿が載っている。藝大の卒業生がすべて入会しているわけでもないようだ。
卒業後の人生は藝大といえども人それぞれだろう。同窓会など眼中に入らないほどに忙しい人もいるだろうし,ひょっとすると藝大を忘れたい人だっているかもしれない。
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