2016年7月27日水曜日

2016.07.25 真夏の祭典!! スペイン国立管弦楽団

栃木県総合文化センター メインホール

● 開演は午後7時。席は,SS,S,A,Bの4種。SSが1万円で,以下2千円きざみで,Bが4千円。ぼくの席は,最も安いB。プログラム冊子は別売で千円。
 早い時期に買っていたので,ぼくの席の1列前はAになる。その1列前の席には誰もいない。皆さん,よくわかっていらっしゃる。

● というか,空席が目立っていた。2階席で埋まっていたのは半分までなかったのではないか。
 平日(しかも月曜日)の夜となると,宇都宮ではこんなものか。いや,宇都宮に限るまい。地方都市だとたいていこんなものだろうな。
 むしろ,これだけ埋まっていればたいしたものかもしれない。日本なればこそかもなぁ。

● で,空いているものだから,後半は前の席に移動しようと考えた。だけどねぇ,BのチケットでAの席に座ってしまうのはまずいだろうね。
 と思い直して,自分の席に踏みとどまった。律儀なんだな,良くも悪くも。

● プログラムは次のとおり。
 トゥリーナ 交響詩「幻想舞曲集」
 ロドリーゴ アランフェス協奏曲
 ファリャ 「三角帽子」組曲 第1番,第2番
 ラヴェル ボレロ
 「アランフェス」と「ボレロ」が素晴らしかった。絶品といってよかったのではなかろうか。

● 指揮者はアントニオ・メンデス。まだ若い。32歳。この楽団の常任というわけではないようだ。コンマスも若いイケメン。
 男女比でいうと,圧倒的に男性が多い。管は全員が男性だった。

● スペイン国立管弦楽団といっても,グローバルといわれて久しいこの時代に,団員のすべてがスペイン人だなんてことはあり得ないはずだ。
 が,ここは純潔度がけっこう高いようにも思われた。もっとも,彼の地の人たちの顔立ちはぼくにはどれも同じに見えたりするわけだが。

● スペインでは今でもシェスタの習慣があるんだろうか。あるんだろうな。宵っ張りなんだろうな。
 団員たちも,まだまだ宵の口,お楽しみはこれからだぜ,という感じ。エネルギッシュという印象だね。

● アランフェス協奏曲,村治佳織さんのCDは持っている。聴いていると思う。しかし,たったの一度だけ。それも全曲通して聴いたのだったか。つまり,初めて聴くも同然。
 ピアソラの「リベルタンゴ」を思いださせるところもあり,バッハの「シャコンヌ」が浮かんでくるところもあった。
 スペインの庶民層でもなく,むしろ彼らから疎まれたロマというかジプシーというか,流浪の民の哀感のようなものも感じた。スペインからはじき出され,定位置を持たない流浪の民の魂を慰撫するような。
 けれども,そういうアンタッチャブルを含めてスペインなのだろなと思って,聴いていた。

● ところが,プログラムノートによれば,「この協奏曲は特にカルロス4世やフェルナンド7世の時代と憂愁に満ちた画家フランシスコ・ホセ・デ・ゴヤの時代の回想であり,貴族性と民衆性とが融け合っていた18世紀スペイン宮廷を映し出したものである」とロドリーゴ自身が述べているというではないか。
 貴族性と民衆性とが融け合っていたなどというのは,後世が勝手に作った幻想であろうけれども,宮廷を映したものだったのか。何なんだ,オレの感想は。

● 宮廷だろうと庶民だろうと流浪の民だろうと,“憂愁”はどんな世界にもあるはずだ。
 宮廷というところは,暇人が陰謀を楽しむために存在していたようなもの。憂愁のほかに,嫉妬や羨望や得意や悋気など,何でもありの世界だったはず。これは庶民の世界も流浪の民の世界も同じこと。
 大げさに言えば,だからこそ音楽は普遍性を持つのだ。正確に言うと,持ち得る可能性があるのだ。

● ギターはパブロ・ヴィレガス。彼も若い人。イケメンでもある。羨ましいや。
 ギターに関しては神の手でしょうね。よくわからないけどね。「アランフェス」を生で聴けるとは思っていなかった。思っていなかっただけに,ここまでの演奏を聴かせてもらえると,感激ものだ。
 彼のアンコールは,フランシスコ・タレガの「グラン・ホタ」。

● 出番を待つ間,ステージで腕組みをしている奏者がいた。腕組みをしてるのは初めて見るぞ。指揮者は気にならないのかね。最初はひとりだった。クラリネット奏者。
 ところが,「ボレロ」になると,いるわいるわ,トロンボーン奏者など3人。クラリネット君と合わせると4人が腕組み派だ。
 しかし,まぁ,出番が来ると完璧にこなす。やるときゃやるんだぜ,坊や,よく見ときなよ。

● その「ボレロ」。この楽団がなぜフランス人が作曲した曲を演奏するのかといえば,「ボレロとはスペイン舞踏の一種」だから。
 ラヴェルのこの曲は,同じ旋律を延々と繰り返し,それが次第に大きくなっていく。その音的世界の拡張が聴衆をも呑みこむ。そして,この世界にたったひとつある音の世界,つまり世界のすべて,になる。

● それがもたらす陶酔感。自分の身体が元の原子に分解されて,宇宙に溶け込んでいくような感じ。宇宙と自分との一体感。
 いや,自分などというものは存在せず,宇宙の一部になった自分がかすかに自分であることを保っている。そんな感じ。
 ひょっとして,天国ってこんなところなのか。もしそうなら,早く天国に行きたい。天国で,宇宙の一部になったかすかな自分を感じていたい。

● アンコールは「カルメン」からいくつかを抜粋というかアレンジしたもの。「闘牛士」や「アラゴネーズ」が入っていたように思うけど(組曲ではなく,オペラの前奏曲だったか)。
 以上。堪能できた演奏だった。このうえは,スペインの空気の中でこの楽団の演奏を聴いてみたい。どんなふうに自分に届いてくるのか,確かめてみたい。

● スペインといえば,音楽より美術で有名だ。エル・グレコ,ゴヤ,ピカソ‎,サルバドール・ダリ,ジョアン・ミロ。古いのから新しいのまで枚挙に暇がない。
 かつては無敵艦隊を擁して世界に覇を唱えた。
 文化でも政治でも建築でも分厚い歴史の層が幾重にもできているに違いない。誇り高い民族でもあるのだろう。誇り高いというのは,ときに厄介なものでもあるとしても。
 そのスペインにぼくはまだ行ったことがないんですよ。今日の演奏を聴いて,スペインを訪ねる理由がいくつかできたような気もする。

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