2018年10月19日金曜日

2018.10.13 第23回コンセール・マロニエ21 本選

栃木県総合文化センター メインホール

● このコンセール・マロニエ21,ここのところ,声楽とピアノが続いたような気がする。数年前に2部門開催から1部門開催になった。そのあたりも関係しているのかもしれない。
 今回は弦楽器部門。ここは異論もあるだろうけど,聴いていて楽しいのは第1に弦,第2に木管。というわけなので,いそいそと出かけていった。

● コンクールが始まる前に,配られたパンフレット冊子に目を通す。審査員長の沼野雄司さんの挨拶文を読む愉しみがある。時候の挨拶ではなく,営業方針が書かれているのだ。
 審査員長の立場でこんなことを言うと妙に思われるかもしれませんが,コンクールの成績など,音楽家にとって本来はどうでもいいことです。
 小気味いいではないか。コンクールでの優勝や入賞は,履歴書に箔を付ける効果はあるのかもしれないけれども,その程度の効果しかないように思われる。

● N響や読響が団員を採用するときに,そうした履歴書だけを見て,採否を決めることはないだろう。実際に演奏を聴いて,面接をするはずだ。一緒に演奏できる人かどうかを判断したいわけだから,当然のことだ(いったん採用すれば首にはできないのだろうから,なおさら)。履歴書(コンクールの受賞歴)などさほどに(あるいは,まったく)問題にはされないだろう。
 ということで,こういうものは素人にしかアピールしないんでしょう。聴衆の多くは素人だから,集客力が多少は違ってくる?

● パンフレット冊子に載っている出場者プロフィールにもこれまでの受賞歴が記載されている。東京音楽コンクール,全日本学生音楽コンクール,チェコ音楽コンクール,KOBE国際音楽コンクール,秋吉台音楽コンクール,岐阜国際音楽コンクールなど。
 それらのコンクールで1位とか最優秀賞を取っている。もうそれで充分じゃないかと思ってしまうのは,事情を知らない素人ゆえなんでしょうね。っていうか,コンセール・マロニエはかなりプレステージの高いコンクールのようだ。

● 審査員は2階席に陣取っている。お辞儀をするときに,その2階席を見る人と聴衆のいる1階席を見る人の,二通りに分かれる。どちらがいいという問題ではない。
 素人意見としては,審査員席を見る見ないにかかわらず,審査員の存在に負けているようでは話にならないと思う。おまえに俺の演奏がわかるのかというくらいの構えが必要ではないか(実際,審査員を超える才能の持ち主がいるはずなのだ)。
 ま,そうは言っても,なかなかに困難なのではあろうけれど。が,それも才能の一部のように思える。

● さて。演奏が始まった。聴くだけの聴衆にとっては好ましい緊張感が,客席にも漂うのだ。
 トップバッターは藤原秀章さん(チェロ)。藝大院(修士)の2年生。エルガーのチェロ協奏曲の第1,4楽章を演奏。ピアノ伴奏は吉武優さん。
 こういう曲を聴けるのが,このコンセール・マロニエの余慶というべきで,この先この曲を生で聴く機会が訪れるかどうか。
 初音を鳴らすときの切っ先の鋭さと角度の的確さ,わずかのズレもないタイミング。そんなのは初歩以前の問題ですよ,と言われるのかもしれないけれど。

● 藤井将矢さん(コントラバス)。新日フィルのコントラバス奏者。すでにプロとして立っている人か。
 演奏したのは,ロータ「ディヴェルティメント・コンチェルタンテ」の第1,3,4楽章。伴奏は秋元孝介さん。
 この曲はさらに聴く機会はないだろう。後にも先にも今日だけではないか。CDも持っていない。聴くだけならYouTubeで聴けるはずだが。
 コントラバスの柔らかさは格別。眠りに誘う効果も高いんだけどね。

● 堀内星良さん(ヴァイオリン)。メンデルスゾーンのホ短調協奏曲の第1,3楽章。伴奏は山崎早登美さん。
 高校生のとき,メンデルスゾーンが一番だと言う友人がいた。メンデルスゾーンのどこがいいのかといった突っこんだ話はしなかったのだが(突っこめるほどぼくは聴いていなかった),たぶん,彼の頭にあったのはこのホ短調協奏曲の第1楽章ではなかったか。
 初めて生で聴いたときのことははっきりと憶えている。那須野が原ハーモニーホールの小ホールで,田口美里さんのヴァイオリンだった。鳥肌が立った。鳥肌が立つという言い方は比喩的なものだと思っていた。そうじゃなくて本当に鳥肌が立つことを,そのときに知った。
 それから幾星霜。あの頃には戻れない。ということを,堀内さんの演奏を聴きながら思っていた。

● 水野優也さん(チェロ)。桐朋の3年生。チャイコフスキー「ロココ風の主題による変奏曲」。伴奏は五十嵐薫子さん。
 で,五十嵐さんのピアノに驚いた。年齢よりも若く見える顔立ちなのだろう,天才少女現るの感があった。天才の発揮を封印して,懸命に伴奏に徹そうとしている気配を感じたのだけど,そこまで言うと少々思い入れがすぎることになるか。
 水野さんの演奏はといえば,コンクールなのに楽しんでいるという印象。曲調の然らしめるところもあるのかもしれない。淡々と,しかし,気持ちをこめてしんでいる。

● 三国レイチェル由依さん(ヴィオラ)。藝大の2年生。今回の出場者の中で最も若い。ウォルトンのヴィオラ協奏曲。第1,2楽章。伴奏は高木美来さん。
 演奏から感じたのは清潔ということ。若さゆえだろうか。透き通っている感じ。
 努力にはすべき時があるのだろう。その時期を外してしまうと,努力が努力にならないという。25歳を過ぎてからいくら練習しても,技術が上向くことはおそらくないだろう。彼女はその“時”をまだ持っている。

●  齋藤碧さん(ヴァイオリン)。藝大の3年生。シベリウスのヴァイオリン協奏曲第1楽章。伴奏は林絵里さん。
 とんてもない才能を与えられた人がいる。これほどの才能を持ってしまうと,“選ばれし者の恍惚と悲惨”を一身に引き受けて生きていくしかない。他の人生はない。それが幸せなのかどうか,答えのない問いを詮索したくなるんだけども,大きなお世話というものだろう。
 齋藤さんの演奏を聴いていて感じたのは,そういうこと。

● 中村元優さん(コントラバス)。藝大院(修士)。トマジのコントラバス協奏曲。伴奏は笹原拓人さん。
 軽妙な演奏だと思った。そういうふうに演奏すべき曲なのだろうか。スイスイスイと進んでいった。

● この本選は,回を追うごとに観客が増えている。今回は弦だったゆえに尚更か。小学生の男の子が一人で聴いていた。ヴァイオリンを習っているんだろうかな。
 これほどの演奏をまとめて聴けることはそうそうない。しかも無料。聴かないと損。観客が増えるのはだから,理にかなっている。

● けれども,数が多くなると,中には変なのが出てくるのもやむを得ない。演奏中に水(かどうかはわからないけど)を飲む人がいた。飲むだけ飲むと,ボトルの蓋をカチッという音を発して締めてくれる。
 年寄りにもいるんだよね。ペットボトルの水を飲んたり,プログラム冊子を隣の椅子に音をたてて置く爺さんとかね。唾棄すべき田舎者がどうしても出てしまう。

● でも,演奏中にケータイの着信音が鳴るという現象はなくなりましたね。さすがにコンセール・マロニエでそれに出くわしたことはないけれども,普通のコンサートではわりかしあった。
 が,これがなくなった。年寄りもケータイやスマホの取扱いに慣れてきたってことですかねぇ。

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