2010年9月30日木曜日

2010.09.03 藝祭2010:東京芸術大学

● 芸大の学園祭,藝祭に行ってきました。9月3日(金)から3日間の日程で開催。去年も行くつもりでいたんだけど,前日になっても公式ホームページに開催内容が表示されなくて,それだけが理由ではなかったのだけれど,結局,行きそびれてしまった。
 今年は,かなり前からホームページに日程が公開されたので,自分なりにこれを聴こうと予定を立てることができた。これ,大事なことだね。予定を立てるところから,ぼくの中でお祭りは始まっているのだから。
 会場は奏楽堂のほか,3つのホールが使用された。同時に複数の催事(演奏)が開催されるので,すべてを聴くことはできない。それゆえ,事前に内容を想像しながら,これを聴いて,次はこれと,スケジュールを考えることになる。これも楽しいわけだ。

● この時期,「青春18きっぷ」が使える。これがありがたい。2,300円で上野まで往復できるんだからねぇ。普通に切符を買うとほぼ倍になる。新幹線で往復すると4倍になる。学生にとっては,夏休みを返上して準備にあたることになるわけで,少しく気の毒ではあるけれど。
 上野駅公園口を出て少し歩くと,さっそく藝祭と出会った。学生たちが作りあげた様々な意匠の御輿が上野の商店街を練り歩くのだ(彼らは「渡御」と呼んでいる)。女性の裸体あり,深海魚あり,孔雀あり,それあり,これあり。男女学生が担いでいるが,けっこうな重量があるようだ。
 それらを見送ってから,いよいよ大学の構内に入った。

● 道路を挟んで,音楽学部と美術学部のキャンパスがある。音楽学部のキャンパスについていえば,建物と通路しかない。樹木は多いのだけど,通路以外の空き地がない。
 東大は部外者に開放されていて,誰でも中を散歩できたけども,芸大はそれを許していないようだ。許されたところで,歩きたくなるような構内ではない。すぐそばに上野公園があるわけだから,わざわざ芸大の構内を歩くこともない。ちょっと以上に手狭な印象だ。

● 東大の五月祭は多くの来場者でごった返していた。ホームレスまで歩いていて,それに何の違和感もなかった。が,藝祭はそうではない。何も用事はないけれど来てみたっていう人は少ないようだ。ぼくもそうだが,芸大ならではの演奏や作品を鑑賞するために来ている人が多いのだろう。
 芸大生だからといって,一見して変わった学生が多いわけじゃない。見た目はごく普通の学生たちだ。その学生たちが若さを発散させて躍動している。模擬店に張りついている学生は,声をからして呼びこみをしているし,来場者に何か訊かれると,じつに丁寧に説明している。

● 5百円で藝祭のパンフレットを買った。公式ホームページをそのまま印刷したようなものだ。ホームページをチェックして予定を立てているので,ないと困るものでもないのだが,ここはカンパするつもりで購入した。

● 奏楽堂。正面にパイプオルガンを設置したコンサートホール。これだけのホールはそんなにあるものじゃない。さすがは芸大。しかし,芸大にはこれくらいのホールはあって欲しいとも思う。
 GEIDAI祝祭管弦楽団なるにわか作りのオーケストラがチャイコフスキーを演奏してくれた。歌劇「エフゲニー・オネーギン」のポロネーズと交響曲第5番。
 芸大の2年生か3年生だろうか。指揮者ももちろん学生(男子)で,演奏終了後にメンバーを観客に紹介するそぶりが初々しくてよかった。あどけなさを残していた。
 演奏はさすが芸大というところか。突出して巧いのかどうかぼくにはわからないけれど,安心して演奏に身を任せることができた。
 問題は客席だ。「芸大ならではの演奏や作品を鑑賞するために来ている人が多いのだ」としても,そこはお祭りの席だし,タダで入れる席だ。演奏の最中に入ってくるやつ,出ていくやつ。フラッシュをたいて写真を撮るやつ。学生の親や親類や友人も多いのだろう。
 通常のコンサートと比べてはいけないのだが,ホールはとても立派だし,演奏も充分な水準に達しているのに,客席がそれに見合っていないのは残念だ。しかぁし,大学祭なんだからこれはこういうものなのでしょう。

● 東大生のオーケストラも充分に上手だ。東大オケのメンバーは授業は二の次三の次で,一番長い時間をオケの部室や練習場で過ごしているに違いない。しかし,そうであっても,彼らにとっては音楽は余技にすぎないはずだ。卒業すれば,官僚になったり,銀行員になったり,医者になったり,エンジニアになったり,設計技師になったりして,それぞれの仕事について収入を得て,生活していく。
 しかし,芸大生は音楽を本業にしている学生たちだ。彼らにとって,卒業後のことは考えたくない問題かもしれない。とにかく今に賭けている。自分の手技を恃んでいる。そこまで思い詰めてもいないだろうけれど,退路を断っているという潔さがある。

● 1時間でこの演奏は終わり,次はクラリネットアンサンブルを聴きに行った。会場は「2ホール」。学生の練習場なのだろう。クラリネット科の学生が学年ごとに演奏し(芸大では1年,2年とは言わないで,C年,D年という言葉を使う。AではなくCから始める。その由来は何なのだろう),最後に全員が勢揃いしての演奏になる。
 テーマは「小動物の謝肉祭」。1年生はネズミを取りあげたらしい。ディズニーメドレーである。2年生以降も動物に因む演奏を披露した。
 最後の全体演奏はさすがに圧巻だった。クラリネットだけでこれほどの人数になるのは藝祭ならではだろう。約90分の演奏。

● 次は15時からなので,ここでしばらく時間が空いた。何か食べておこうと思う。当然,いくつもある模擬店で適当なのを食べればいいわけだ。が。ひとりでそれをすることができない性格だ。
 考え過ぎちゃうんですね。学生にしてみればぼくのような年寄りより若い来場者を相手にしたいだろうとか,自分は場違いなところにいるとか,いろんなことをね。
 で,あろうことか,上野駅の改札を通って,駅構内の蕎麦屋で冷たい蕎麦を食べて,再び,芸大に戻るという情けなさを発揮してしまった。こういうときは,わずかなお金であっても,芸大に落とすべきだよねぇ。

● 15時からは奏楽堂で「邦楽科大演奏会」。時間も2時間半に及んだ。ここでもプログラムは有償だった。5百円で購入。これもカンパのつもり。が,5百円程度じゃカンパにもならないかも。
 まずは日本舞踊。演目は「とっぴんしゃん」。蔭囃子のついた本格的なものだ。続いて,尺八。演目は「竹彩々」。
 演奏の巧拙などぼくにわかるはずもない。日本の楽器の音色が自分に染みこんでくれるかどうかを探るっていうか,こういうものに対して自分がどう反応するのか,それを確かめたいと思っていた。
 邦楽はこれまで二度聴いた。一度は宇大音楽科教員による演奏会で。もうひとつは,今年の2月に総文センター主催の演奏会で。しかし,あれで邦楽に接した気になっていたのは間違いだったか。
 藝祭のこの演奏会は圧巻というか,芸大でしか聴けないというか,とんでもなく贅沢かつ貴重なものを聴かせてもらっているというか,このためだけに藝祭に来る価値があると思った。

● 次は山田流箏曲「萩三番叟」。三味線に囃子が付く。総勢24名。さらに,生田流の箏曲「琉球民謡による組曲」。十七絃と尺八を併せて32名の演奏。
 最後は長唄「俄獅子」。これも三味線と生の囃子が加わった。舞台転換のため休憩も何度かあったのだが,2時間半も本格的な邦楽のシャワーを浴びたのは初めてで,少し酔ってしまったかもしれなかった。
 にしても,芸大は奥が深い。ここまでカバーしているのか。って,こんなことで驚いているぼくが世間知らずってことなんだろうけどね。
 この子たち,何で邦楽に自分の身を投じたのかなぁ。幼い頃に邦楽に接して魅せられたのか。あるいは,親がそうした商売をしていて,他に選択肢が与えられなかったのか。

● 18時からは短い(30分)室内楽を聴いた(6ホール)。木管五重奏+ピアノ。2年生の小グループの演奏。顔のちっちゃい小生意気そうな感じの女の子がいて,なかなか良かった。

● 最後は「ミュージカル・エクスプレス」。同じ時間帯に「仮装的欧米管弦楽曲熱烈大演奏会」というのがあって,予定ではそちらを聴くつもりでいたんだけど,これがディズニーランドのビッグサンダーマウンテン並みの長い行列ができていて,すぐに諦めてしまった。「ミュージカル・エクスプレス」の方がまだ短い行列だったので,こちらに並んだ次第。
 ミュージカルというのを初めて鑑賞する機会を得た。学生の手作りだし,メンバー全員に平等に出番を作るようになっている。そのためか,流れが悪い。言葉も荒削りだ。演技力もまだまだ。
 けど,一生懸命さは伝わってくる。一緒に楽しむように努めるのが観客側のマナーだと思う。

● 19時半にこの日の予定は終了。芸大,すごいです。これが初日の率直な印象。
 「ラ・フォル・ジュルネ」が日本でも開催されるようになっているけど,藝祭は規模は小さいながら,「ラ・フォル・ジュルネ」芸大版だ。いくつもあるコンサートの中から自分の好きなのを選んで,聴きに行けばいい。
 しかも,どのコンサートも無料だ。「ラ・フォル・ジュルネ」はプロの演奏ではあるけれど,すべて有料になる。格安ではあっても,1日楽しめば万札が何枚か出ていくだろう。藝祭は,プロではないけれどその卵たちが演奏する。1日楽しんでもタダだ。これほど社会貢献度が高い大学祭はないんじゃなかろうか。

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