すみだトリフォニーホール 大ホール
● 今年もまたこの楽団のサマーコンサートを聴きに来た。田舎から自分の身体を運んでまでも聴くだけの価値があると信じているから,そうするわけね。
チケットはS席で1,500円。といっても,座席はS席とA席の2区分で,両者の差は500円。予約したのが遅かったので,S席が少し残っているだけだった。きわどいタイミングだったかも(が,わずかに当日券もあったようだ)。開演は午後6時半。
● たとえ1,500円でもお金を取ってくれると,こちらの気分はむしろ楽になる。なにせ,団員の真摯さがビンビン伝わってくるし,技量も確かだ。普通にプロオケの演奏を聴いているときより,こちらの背筋が伸びる。これで無料にされたんじゃ,身の置きどころがなくなってしまう。
● 曲目は次の3曲。指揮者は例年のごとく三石精一氏。
チャイコフスキー 幻想序曲「ロメオとジュリエット」
レスピーギ 交響詩「ローマの噴水」
メンデルスゾーン 交響曲第3番 イ短調「スコットランド」
● とにかく,出だしが勝負。どんな2時間を過ごせるかは,最初の10秒で決まる。この10秒でゾクゾクできるかどうか。だから,息をとめて演奏開始の瞬間を待つことになる。
この点に関して,この楽団に裏切られたことはたぶんないはずだ。今回もしかりだった。
何と言うんですかね,要するに穴がないんですね。すべてのパートの粒が揃っているっていうか。どこにゴロやフライが飛んできても,きちんと捕球してアウトにするっていうイメージですね。
● 手堅い守備力だけじゃない。「スコットランド」では表現力の高さも見せてくれちゃった。これも出だしからね。ぼくが聴いているCDはロンドン交響楽団の演奏を収録したものなんだけど,そのCDをそのまま生演奏にしたのかっていう錯覚に一瞬おそわれたくらいで。
表現のキメが細かいんですよ。もちろん,技術の裏打ちがあるわけですね。加えて,若さゆえの清新さ。
● コンマスがコンマス然としているのもいい。毅然とした佇まいがあるんですな。オケを引っぱっているっていう(本当にそうなのかどうか,それは知らないけどさ)。中には,団員の顔色を窺ってそれに合わせようとしてるんじゃないかと思える人もいるからね。
コンマスといえば,オケを代表して指揮者とやり合う局面もあるはずでね。強い人じゃないと困るよね。たんに,技術トップというだけでは足りない。この楽団のコンマスが三石氏とやりあうってのは想定しにくいわけだけど,それはそれとして,ね。
彼,2年前の駒場祭でも,1・2年生だけのオケでコンマスを務めていた。すっかり大人の骨格と顔立ちに変わっていた。ほんとにこの時期の若者の変化って,予測を超えることがあるよねぇ。
● この会場はステージと客席の高さがけっこうある。比較的前の方の席だったこともあって,オケを見あげる形になった。この角度でステージを見るのは初めての体験。
この角度からは,指揮者の動作がよく見える。三石さん,そろそろ80歳になるんじゃなかったか。髪も黒々としているし(染めているとは思えない),贅肉はついてないし,動作は軽やかだし,肉体年齢は相当若い。ひょっとすると,今でも筋トレとかして体を鍛えているんじゃないか。
まぁ,ある種の怪物なんでしょうねぇ。節制とか鍛錬も裏側にあるんだろうけど,基本はDNAだよなぁ,こういうのって。
でも,指揮者って総じて長命ですよね。加えて,生涯現役の人が多い。70歳を過ぎてから円熟期に入ったと言われることもありますもんね。そういう職業って,ほかにはあまりないんじゃないでしょうか。
● すべての演奏が終わったあとに,客席を巻きこんで「歌声ひびく野に山に」を歌うのが,この楽団のサマーコンサートの習わしになっている。
今年のサマーコンサートは今回をかわぎりに,神奈川,富山,京都,高知で開催されるんだけど,開催地出身の団員が,合唱を指揮する。
で,今回の指揮者がまぁ,女優にもなれそうな美人。歌っている場合じゃないよなぁ。ステージ上の彼女に見惚れていたことは言うまでもない。
約2時間のコンサートが終了した直後の満足感は,他のものでは代替できません。この世に音楽というものが存在すること。演奏の才に恵まれた人たちが,時間と費用を惜しまずに技を磨いていること。その鍛錬の成果をぼくたちの前で惜しみなく披露してくれること。そうしたことが重なって,ぼくの2時間が存在します。ありがたい世の中に生きていると痛感します。 主には,ぼくの地元である栃木県で開催される,クラシック音楽コンサートの記録になります。
2012年7月29日日曜日
2012.07.28 東京農業大学OBOG管弦楽団第3回定期演奏会
大田区民ホール・アプリコ 大ホール
● ヨメとムスコは1週間ほど香港に遊びに行く。成田ではJALのラウンジも使えるらしく,楽しみにしているっぽい。ぼくは居残り。
自分だけ楽しんでは申しわけないと思ったのか,ヨメが「青春18きっぷ」を1枚買って,下賜してくださった。ありがたいことだ。
その「青春18きっぷ」を大切にポケットにしまいこんで,東京に出てきた。
● はとバスの隆盛を見れば明らかなとおり,東京は日本随一の観光地でもある。京都や奈良の観光資源は過去の遺産だけれども,東京はそうじゃない。スカイツリーにしても,銀座にしても,ひと昔前のお台場にしても,只今現在の東京がそのまま観光資源になっているのだから,これはとんでもない強みだ。他の観光地が束になってかかっても,とても敵うものじゃない。
ぼくも,遠い昔は神保町の古本屋街を,近い昔は秋葉原の電気街をうろついたことがあった。秋葉原の電気街は今でも立派な観光地だろう。終わった街と言われたこともあったけどね。メイドカフェと中国人の威力,恐るべし。
● でも今や,ぼくにとって,東京はコンサートを聴くためにたまに出かけるところになっている。しかも,行けば疲れるところになってしまったんだよなぁ。人が多すぎる,情報が多すぎる,刺激が多すぎる。女性もきれいな人が多い。ビシッと顔を作っててね。ぼくなんかがうかつに近づいてはいけないような気がするよ。
昔は,雑踏の中に身を置きたくてわざわざ東京に出かけたこともあったのに。生命力の水位が下がってきたのかもしれない。アンチエイジングに最も効果があるのは,東京に住むことかもしれないね。
● この日は2つのコンサートを聴いた。ひとつめは,東京農業大学OBOG管弦楽団。開演は午後2時。入場無料。
● 開演が近づいているのに,客席は1割しか埋まっていない。開演時刻が過ぎても始まらない。まさかお客さんが溜まるのを待っているのじゃあるまいな。
と思ってしまったんだけど,当然にして,これはぼくの勘違い。1時半開演と思ってたんですな。2時になる頃には,だいぶ客席も埋まってきた。
とはいえ,空席も多い。PRをしていないからじゃないですかねぇ。もちろん,楽団のサイトでは告知しているんだけど,この楽団の存在をしらない人もけっこういそうだし。せめて「Freude」には載せるようにした方がいいんじゃないか,と。
それとも,知っている人に来てもらえばいいと割り切っているのか。
● 指揮者は内藤佳有氏。ぼくは存じあげなかったんだけど,この人,経歴がすごい。この楽団のホームページに紹介されているところによると,東大工学部を卒業してから,10年以上経ってから音楽に転身。桐朋のソリスト・ディプロマ・コース(指揮専攻)で学び,前代未聞の成績を収めたとある。ピアノやチェロの腕前も相当なもので,各地で独奏者として招聘された。
この経歴じたいが,少なくとも日本では希有のものでしょう。こういう人って,よほど偏屈か,よほどワガママか,よほど潔いか,よほど度胸があるかだ。
ぼくなんぞは男らしい人だなぁと思ってしまう。それまで積みあげてきたものの相当部分を捨ててでも,自分の欲望に忠実にしたがったってことだからね。まして,30代も半ばになってから,異分野に転身するってのは,言うほど簡単じゃないものなぁ。
でも,自信はあったんでしょうねぇ。
● ところが,以上の先入観から想像していたイメージと実際の内藤氏は符合しなかった。天衣無縫という感じの人じゃなかった。むしろ,真面目の固まり,誠実な人って感じ。
● 6月に聴いたベルリン交響楽団の指揮者リオール・シャンバダールは「音楽への情熱が身体中から迸るマエストロ」と紹介されていたが,内藤さんも同じ。
オケに対して明快に指示を出す。ここは難しいから適当に流させようなどとは,間違っても考えない人でしょうね。
シャンバダールはその思いを裸のままオケにぶつけるという感じだったのだが,内藤さんはオケが受け取りやすいように,着衣させてから投げている。相手が若いアマチュアオーケストラだからそうしているのではなくて,相手が誰であっても同じようにするのだろう。
● 曲目はモーツァルトの交響曲第40番とブラームスの交響曲第2番。
モーツァルトの交響曲の中ではこの40番が一番好きだ。CDで聴いた回数は数知れず。適度にスイーティーなのが,初心者にはいいのかもしれない。参入障壁が低いっていうか。41番「ジュピター」よりこっちの方がファンが多いのではあるまいか。
内藤さんに鍛えられているんでしょうかねぇ。それが音の厚みになって結実していると思われた。しっかりとモーツァルトを聴かせてもらったなとの満足感が残った。
● ブラームスの2番は,モーツァルトに比べるとやや平板だったかなぁ。いや,しっかりした演奏なんですよ。
こちら側の好みによるのかもしれない。ブラームスよりモーツァルトが好きだっていうね。ブラームスってそもそもぼくには難解すぎるのかもしれないんだよね。演奏の問題じゃない。
● 5月のマイクロソフト管弦楽団の演奏会も同じ会場で行われた。その際に学習したことがひとつある。それは何かっていうと,蒲田駅構内に「おむすび権米衛」があるってことなんだけど。
あのさ。「権米衛」のおにぎりって旨いよねぇ。安いし。言っちゃなんだけど,コンビニのおにぎりとは全然違うぞ。ふっくらしててねぇ。
海苔わさび,おかか,紅シャケがぼく的には定番。この3つを食べると,米に換算すれば軽く1合を超えると思うんだけど,でも3つは食べる。あとひとつは食べられるんだけど,3つでやめておく。パンもいいけど,やっぱ,ごはんつぶって美味しいねぇ。
2012年7月22日日曜日
2012.07.22 野木交響楽団第2回定期演奏会
野木町文化会館(エニスホール)大ホール
● 野木町に本拠を置く市民オケがあることを知ったのは,つい最近のこと。隣の古河市に古河フィルハーモニー管弦楽団というしっかりしたオケがあるので,まさか野木町にもあるとは思わなかった。
ので,去年の第1回目の定演は見過ごすことになった。市民オケがたくさんできれば,聴きに行ける機会が増えるわけだから,こちらとしては大歓迎なんだけどね。
● 会場は当然のエニスホール。開演は午後1時半。入場無料。曲目は次の3曲。
ヨハン・シュトラウス 喜歌劇「こうもり」序曲
ビゼー 組曲「アルルの女」
ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」
客席が盛りあがる曲を揃えてきた。プログラムにも「できるだけ親しみやすい曲を取りあげ,演奏会を行っています」とあった。
まずは集客ってことでしょうか。ホールの収容人員は800人。その6割は埋まっていたから,まずまず効果はあったといっていいんでしょうかね。
● この楽団,定期演奏会は昨年からだけれど,結成して5年になるそうだ。指揮者は西谷和巳氏。本業?はサクソフォン奏者であるらしい。
弦の過半が男性。珍しいですよね。団員の年齢にも幅があって,お年を召した方も何人かいる。これも好印象。懸命に弓を操っている。ほほえましい,というより,頭が下がる。
古河フィルとかけ持ちしている人がけっこういるんだろうなと思いきや,そうでもないんですね。
● 「こうもり」序曲で納得。定演を開催する資格ありっていうかね。上から目線的な言い方で申しわけないけれど。
「アルルの女」は第1組曲のみならず,第2組曲も演奏。西谷氏がサクソフォンを抱えて奏者の列に加わり,指揮は副指揮者の田村仁一氏が担当した。
第2組曲の第3曲と第4曲はフルートが支えていると思うんだけど,そのフルートが抜群の安定感。お見事というしかない。それと太鼓ね。パーカッションのレベルもかなりのものと見受けられた。
「運命」ではスタートでやや乱れがあったか。半休止符から始まるのを意識しすぎたきらいがあるのかも。ここでもフルートの安定感が際だっていた感じ。
● アンコールは組曲「カルメン」第1番の第1曲だったかな。もうひとつ,坂本九が歌っていた「上を向いて歩こう」。観客サービスに抜かりはなかったってことですね。
アンコールではトランペットが健闘。
● 音楽(演奏)が好きな人たちが集まって楽団を作り,お客さんを呼んで演奏する。好きだからといっても,楽しいことばかりじゃなくて,いろんな思いを味わうことになるんだろうけど,好きが原点。それってとても健全なことだよね。
今さらプロを目指すわけじゃない。巧くなりたいとは思うけれども,それだけでやっているんじゃない。それでいいのだと思う。
市民オケ,学生オケ,企業オケ。日本にどれほどのアマチュアオーケストラがあるのか知らないけれど,それぞれの顔があるはずだ。多様であることは,それじたいが良いことだ。活動内容,技術,目指す方向など,千差万別であればあるほどいい。
● ということで,楽しみがひとつ増えた。セコいことを言えば,わが家から野木までの電車賃が往復で2千円になるのが唯一の問題かなぁ。
2012年7月21日土曜日
2012.07.20 西尾真実ピアノ・リサイタル
栃木県総合文化センター サブホール
● 宇都宮市在住の若いピアニストの初リサイタルを聴きに行った。開演は午後7時。チケットは千円。当日券を購入。
● プログラムに載っていたプロフィールによると,西尾さん,生まれは大阪。宇都宮短大附属高校音楽科から桐朋学園大学のピアノ科を卒業し,その年の9月にモスクワ音楽院に留学。その音楽院をこのほど修了。プログラムにも「モスクワ音楽院卒業記念」と副題が添えてある。
● バルコニー席?を除いても,お客さんの入りは3割といったところ。まだ無名の新進ピアニストがお客を集めるのは難しい。おそらく高校の同窓生が動いてくれたのだろう。
そもそもがリサイタルで客席をいっぱいにできる人ってそうそうはいないはずで,むしろよくこれだけ集めたなって気もする。
● 金曜日の夜だ。コンサートよりは居酒屋に行きたいよなぁ。ぼくも若かったら絶対そうしていた。
隣のメインホールでは松竹歌舞伎をやってて,しかも演目は「義経千本桜」で,尾上菊五郎が出ている。音楽と歌舞伎のファン層はそうは重ならないんだろうけど,地元じゃなかなか観られないからと,こちらに流れた音楽ファンも,ま,いたでしょう。
● 演奏曲目は次のとおり。
バッハ トッカータ ホ短調
ハイドン ピアノソナタ ロ短調
ショパン 夜想曲(作品62-2) ホ長調
舟歌 嬰ヘ短調
リスト ハンガリー狂詩曲12番 嬰ハ短調
チャイコフスキー ドゥムカ ハ短調
スクリャービン ピアノソナタ3番 嬰ヘ短調
アンコールは2曲。最後はチャイコフスキーの「瞑想曲」で締めて,20分の休憩を含めて1時間50分のコンサートになった。
● 腕前はぼくがどうこういえるレベルじゃないわけで。
彼女が演奏し始めてまもなく,ステージにいる彼女以外はぼくの視界から消えた。それだけの吸引力をたしかに彼女は持っていた。小さいホールだったことや,隣の席に誰もいなかったことも要因ではあるだろうけれど。
後半にロシアの作曲家の作品を持ってきたのは,留学先のロシアに敬意を表してのことか。弾いている彼女がロシア娘に見えてきたのが不思議。
でも,彼女自身は本当はショパンが一番好きなんじゃないのかなぁ。弾きぶりから感じたたわいもない印象ですけどね。
● 西尾さん,あどけなさを残した顔立ち(童顔なんですな)。就職試験の面接に来たのではないかと思えるような固さがあったのが,残念といえば残念。お辞儀ひとつをとってもちょっと固い。
ステージに立つ以上はショーマンなのだから,もっと笑顔を多くしてもよかった。初リサイタルで緊張していたって? そうではない。この水準まで来ている以上,その過程で場数は踏んでいるはずなのだ。
実際,最後の挨拶は和やかにできたのだから,途中の入退場でも同じようにすればいいだけだ。
● プログラムに載っている写真は素人が撮ったものですよね。早い時期にプロのカメラマンに撮ってもらった方がいい。だいぶ損をしている。
あなたはこの写真の人よりはるかに美しいのだから。
● 宇都宮市在住の若いピアニストの初リサイタルを聴きに行った。開演は午後7時。チケットは千円。当日券を購入。
● プログラムに載っていたプロフィールによると,西尾さん,生まれは大阪。宇都宮短大附属高校音楽科から桐朋学園大学のピアノ科を卒業し,その年の9月にモスクワ音楽院に留学。その音楽院をこのほど修了。プログラムにも「モスクワ音楽院卒業記念」と副題が添えてある。
● バルコニー席?を除いても,お客さんの入りは3割といったところ。まだ無名の新進ピアニストがお客を集めるのは難しい。おそらく高校の同窓生が動いてくれたのだろう。
そもそもがリサイタルで客席をいっぱいにできる人ってそうそうはいないはずで,むしろよくこれだけ集めたなって気もする。
● 金曜日の夜だ。コンサートよりは居酒屋に行きたいよなぁ。ぼくも若かったら絶対そうしていた。
隣のメインホールでは松竹歌舞伎をやってて,しかも演目は「義経千本桜」で,尾上菊五郎が出ている。音楽と歌舞伎のファン層はそうは重ならないんだろうけど,地元じゃなかなか観られないからと,こちらに流れた音楽ファンも,ま,いたでしょう。
● 演奏曲目は次のとおり。
バッハ トッカータ ホ短調
ハイドン ピアノソナタ ロ短調
ショパン 夜想曲(作品62-2) ホ長調
舟歌 嬰ヘ短調
リスト ハンガリー狂詩曲12番 嬰ハ短調
チャイコフスキー ドゥムカ ハ短調
スクリャービン ピアノソナタ3番 嬰ヘ短調
アンコールは2曲。最後はチャイコフスキーの「瞑想曲」で締めて,20分の休憩を含めて1時間50分のコンサートになった。
● 腕前はぼくがどうこういえるレベルじゃないわけで。
彼女が演奏し始めてまもなく,ステージにいる彼女以外はぼくの視界から消えた。それだけの吸引力をたしかに彼女は持っていた。小さいホールだったことや,隣の席に誰もいなかったことも要因ではあるだろうけれど。
後半にロシアの作曲家の作品を持ってきたのは,留学先のロシアに敬意を表してのことか。弾いている彼女がロシア娘に見えてきたのが不思議。
でも,彼女自身は本当はショパンが一番好きなんじゃないのかなぁ。弾きぶりから感じたたわいもない印象ですけどね。
● 西尾さん,あどけなさを残した顔立ち(童顔なんですな)。就職試験の面接に来たのではないかと思えるような固さがあったのが,残念といえば残念。お辞儀ひとつをとってもちょっと固い。
ステージに立つ以上はショーマンなのだから,もっと笑顔を多くしてもよかった。初リサイタルで緊張していたって? そうではない。この水準まで来ている以上,その過程で場数は踏んでいるはずなのだ。
実際,最後の挨拶は和やかにできたのだから,途中の入退場でも同じようにすればいいだけだ。
● プログラムに載っている写真は素人が撮ったものですよね。早い時期にプロのカメラマンに撮ってもらった方がいい。だいぶ損をしている。
あなたはこの写真の人よりはるかに美しいのだから。
2012年7月16日月曜日
2012.07.15 栃木県総合文化センター開館20周年記念公演 オペラ「椿姫」
栃木県総合文化センター メインホール
● 15日はオペラを観に行った。ヴェルディの「椿姫」。総合文化センターの開館20周年記念の公演。昨年に予定されていたんだけど,東日本大震災のため中止。今年,あらためて催行されたもの。
特徴は,演出も指揮も歌手も管弦楽も,栃木県の出身者,在住者でまかなわれたこと。
演出は宮本哲朗さん。指揮は佐藤和男さん。管弦楽は栃木県交響楽団。主役ヴィオレッタに菊川敦子さん。アルフレードに菊川祐一さん。ジェルモンに石野健二さん。合唱は栃木県楽友協会合唱団。
歌い手の多くは音大を卒業しているけれども,現在は教職に就いていたり,別に本業を持っている方々だ。
● こうして「オール栃木」で開催してくれた結果どうなったかといえば,チケットが安くなった(総合文化センターの記念行事だから,センターを運営する財団からも助成金が出ているに違いないのだが)。
ぼくはかなり早い時期にS席のチケットを手に入れていた。そのS席が3千円なのだ。ほかにA席とB席があるけど,B席でも2千円なので,S席の方がお得ってことで。
開演は午後1時半。客席は文字どおりの満員御礼。
● いくら安くたって,安かろう悪かろうでは仕方がないじゃないかと言われるか? その通りだ。しかし,2つほど反論が可能だ。
その1。海外オペラの日本公演をサントリーホールや新国立劇場で観たら,料金はいったいいくらになるか。あまり考えたくない金額になるだろう。そうであっても好きならば行くべきだ,お金には換えられない価値があるはずじゃないか。
そうかもしれない。けれども,価値があろうとあるまいと,ない袖は振れないのだ。ぼくは週に8千円のこづかいしかもらっていないのだぞ。威張るようなことじゃないけどね。
● その2はあとで書くことにするが,ともかくぼくにオペラ鑑賞経験はないに等しい。まったくの無知。
そうであれば,こういうことを書いてはいけないのかもしれないのだが,今回の宮本さんの演出はしごくオーソドックスなものだった。公演の性格上,とんがった演出などできるはずもないという事情もあったのだろうけど。
舞台装置も衣装もオーソドックスゆえに,初心者でも抵抗なく受け容れることができた。
● じつは,正直なところ,管弦楽を聴ければいいやくらいの気持ちで出かけていった。舞台にはあまり期待していなかった。ちょっと高級な大人の学芸会だろう,ってね。
だいたい,オペラのストーリーって,ひと言でいえば荒唐無稽だ。あり得ない。子供だましにもならない。
● けれども,その荒唐無稽な物語が,演者の歌と演技,バックの管弦楽によって,生きてしまう。動きだす。あり得るものになってしまう。
こうまで微細に表現できるものなのか。その表現がストーリーのラフさを埋めていく。
実際,最後にヴィオレッタが亡くなるところで,オレ,泣いちまったもん。
そりゃあね,腑に落ちないところもあるんですよ。若きアルフレードの腹がなんで出てるんだよ,とかさ。でも,そういうのって本場のオペラでもありそうなことだ。そこは想像力で補えばいい。
● 歌は原語(イタリア語)で歌われる。その意味がわからないとどうにもならないが,字幕が出るので問題はない。もちろん,逐語訳ではない。逐語訳なんかされた日には,字幕を読むだけで脳がいっぱいいっぱいになってしまって,舞台に注意が届かなくなるだろう。
あ,こんなことを言っているのか,とわかる程度の日本語が表示されるだけだ。つまり,字幕もラフといえばラフなのだ。けれども,それだからこそ,舞台で何が起きているのか了解できるのだ。
もう何度となく上演されている歌劇だから,字幕にも定番があるんだろうね。
● とにかく言葉が多いんですね。そういうことまで言葉にするのかよって思う。日本人なら,そこは省略するだろうなと思える言葉でも,どんどん口から出すんですな,かの国の人たちは。こうした言葉だらけの劇が日本で生まれるはずはないなと思いましたね。
● 15日はオペラを観に行った。ヴェルディの「椿姫」。総合文化センターの開館20周年記念の公演。昨年に予定されていたんだけど,東日本大震災のため中止。今年,あらためて催行されたもの。
特徴は,演出も指揮も歌手も管弦楽も,栃木県の出身者,在住者でまかなわれたこと。
演出は宮本哲朗さん。指揮は佐藤和男さん。管弦楽は栃木県交響楽団。主役ヴィオレッタに菊川敦子さん。アルフレードに菊川祐一さん。ジェルモンに石野健二さん。合唱は栃木県楽友協会合唱団。
歌い手の多くは音大を卒業しているけれども,現在は教職に就いていたり,別に本業を持っている方々だ。
● こうして「オール栃木」で開催してくれた結果どうなったかといえば,チケットが安くなった(総合文化センターの記念行事だから,センターを運営する財団からも助成金が出ているに違いないのだが)。
ぼくはかなり早い時期にS席のチケットを手に入れていた。そのS席が3千円なのだ。ほかにA席とB席があるけど,B席でも2千円なので,S席の方がお得ってことで。
開演は午後1時半。客席は文字どおりの満員御礼。
● いくら安くたって,安かろう悪かろうでは仕方がないじゃないかと言われるか? その通りだ。しかし,2つほど反論が可能だ。
その1。海外オペラの日本公演をサントリーホールや新国立劇場で観たら,料金はいったいいくらになるか。あまり考えたくない金額になるだろう。そうであっても好きならば行くべきだ,お金には換えられない価値があるはずじゃないか。
そうかもしれない。けれども,価値があろうとあるまいと,ない袖は振れないのだ。ぼくは週に8千円のこづかいしかもらっていないのだぞ。威張るようなことじゃないけどね。
● その2はあとで書くことにするが,ともかくぼくにオペラ鑑賞経験はないに等しい。まったくの無知。
そうであれば,こういうことを書いてはいけないのかもしれないのだが,今回の宮本さんの演出はしごくオーソドックスなものだった。公演の性格上,とんがった演出などできるはずもないという事情もあったのだろうけど。
舞台装置も衣装もオーソドックスゆえに,初心者でも抵抗なく受け容れることができた。
● じつは,正直なところ,管弦楽を聴ければいいやくらいの気持ちで出かけていった。舞台にはあまり期待していなかった。ちょっと高級な大人の学芸会だろう,ってね。
だいたい,オペラのストーリーって,ひと言でいえば荒唐無稽だ。あり得ない。子供だましにもならない。
● けれども,その荒唐無稽な物語が,演者の歌と演技,バックの管弦楽によって,生きてしまう。動きだす。あり得るものになってしまう。
こうまで微細に表現できるものなのか。その表現がストーリーのラフさを埋めていく。
実際,最後にヴィオレッタが亡くなるところで,オレ,泣いちまったもん。
そりゃあね,腑に落ちないところもあるんですよ。若きアルフレードの腹がなんで出てるんだよ,とかさ。でも,そういうのって本場のオペラでもありそうなことだ。そこは想像力で補えばいい。
● 歌は原語(イタリア語)で歌われる。その意味がわからないとどうにもならないが,字幕が出るので問題はない。もちろん,逐語訳ではない。逐語訳なんかされた日には,字幕を読むだけで脳がいっぱいいっぱいになってしまって,舞台に注意が届かなくなるだろう。
あ,こんなことを言っているのか,とわかる程度の日本語が表示されるだけだ。つまり,字幕もラフといえばラフなのだ。けれども,それだからこそ,舞台で何が起きているのか了解できるのだ。
もう何度となく上演されている歌劇だから,字幕にも定番があるんだろうね。
● とにかく言葉が多いんですね。そういうことまで言葉にするのかよって思う。日本人なら,そこは省略するだろうなと思える言葉でも,どんどん口から出すんですな,かの国の人たちは。こうした言葉だらけの劇が日本で生まれるはずはないなと思いましたね。
歌劇だからかもしれません。かの国の人たちも普段の生活で,ここまで言葉を吐きだすことはないのかもしれない。歌に託すから,これほどの言葉でも許容されるのかもしれないですね。
というより,その饒舌もオペラの要素なのでしょうね。それがないと劇として成立しないものなのでしょう。
● じつに贅沢なエンタテインメントなのだった。まず,面白い。面白くなければエンタテインメントじゃないものね。現在まで生き残っているオペラは,すべて例外なく面白いに違いない。
オケピットではオーケストラが演奏してて,舞台では演者が歌と演技で楽しませてくれる。その歌の裏にどれほどの鍛錬が籠められていることか。
舞台には場面に応じたしつらえが施される。とんでもなく人手がかかっている(ゆえに,海外オペラの日本公演が考えたくもない料金になるのも致し方がないんでしょうねぇ)。
それを客席で,まぁお気楽に鑑賞できるってのは,途方もない贅沢ですよ。
● というわけで,舞台にはあまり期待しないで出かけたんだけど,このうえなく無礼でした,これ。
宮本哲朗さん,ごめんなさい。菊川敦子さん,ごめんなさい。舞台の設営や衣装の用意に奔走した皆さん,ごめんなさい。
● 終演後のカーテンコールでは,主役の菊川さんが感極まって泣いていた。演じた側にも達成感があったんでしょう。そりゃそうだよなぁ。
● つまり,これが反論その2であって,安かろう悪かろうでは決してなかったってこと。価値ある3千円だったと思いますよ。
可能であれば,定例的な公演にしてほしいものだ。でも,資金その他の問題がありますもんね。なかなかそういうわけにもいかないでしょうねぇ。
● オペラのDVD,買おうかなぁ。今,アマゾンをチェックしたら,意外に安かったしね。
というより,その饒舌もオペラの要素なのでしょうね。それがないと劇として成立しないものなのでしょう。
● じつに贅沢なエンタテインメントなのだった。まず,面白い。面白くなければエンタテインメントじゃないものね。現在まで生き残っているオペラは,すべて例外なく面白いに違いない。
オケピットではオーケストラが演奏してて,舞台では演者が歌と演技で楽しませてくれる。その歌の裏にどれほどの鍛錬が籠められていることか。
舞台には場面に応じたしつらえが施される。とんでもなく人手がかかっている(ゆえに,海外オペラの日本公演が考えたくもない料金になるのも致し方がないんでしょうねぇ)。
それを客席で,まぁお気楽に鑑賞できるってのは,途方もない贅沢ですよ。
● というわけで,舞台にはあまり期待しないで出かけたんだけど,このうえなく無礼でした,これ。
宮本哲朗さん,ごめんなさい。菊川敦子さん,ごめんなさい。舞台の設営や衣装の用意に奔走した皆さん,ごめんなさい。
● 終演後のカーテンコールでは,主役の菊川さんが感極まって泣いていた。演じた側にも達成感があったんでしょう。そりゃそうだよなぁ。
● つまり,これが反論その2であって,安かろう悪かろうでは決してなかったってこと。価値ある3千円だったと思いますよ。
可能であれば,定例的な公演にしてほしいものだ。でも,資金その他の問題がありますもんね。なかなかそういうわけにもいかないでしょうねぇ。
● オペラのDVD,買おうかなぁ。今,アマゾンをチェックしたら,意外に安かったしね。
2012.07.14 「ディーバ・トリオ」国際ジャズ交流コンサート
さくら市氏家公民館
● 午後6時半からはディーバ・トリオのジャズコンサート。入場無料。主催はさくら市国際交流協会。
したがって,開演前に協会理事長のあいさつがあった。でも,おざなりのあいさつじゃなくて,ちゃんと気持ちが入っていた。本人自身,ジャズが好きなのかもしれない。
● ディーバ・トリオのメンバーは,シェリー・マリクル(ドラムス),植田典子(ベース),大野智子(ピアノ)。日米の女性3人で構成。もちろん,3人ともアメリカに住んでいる。
そこにギターの井上智さんが参加。
● 第1部はこのメンバーで,アイムウォーキングなど5曲を演奏。第2部は氏家小学校の吹奏楽部が加わって,ディズニーソングなど2曲を。
小学生の演奏を聴くのは初めてだった。ここまでできるのかと思いましたね。もちろん,たどたどしさはあったりするんだけれども,サマにはなっているっていうね。誰が指導者かってのも大きいんだろうけど。
そのあとはまたトリオ+井上さんで数曲を演奏し,アンコールを含めてたっぷり2時間,サービス満点のコンサートだった。
● お客さんの平均年齢はかなり高い。ぼくも引きあげている側の一人だけれど,老人クラブの催しなのかと思ってしまうほどだ。
ジャズとか音楽ではなくて,まったく別の催しであっても,この人たちはここに来るんだろうなぁ,と。が,これは田舎では普通に見られること。
● 幕間のトークで「石の蔵」が紹介された。隣町(那須烏山市のこと)のジャズ狂の会社社長が作ったスタジオ。その社長氏は,他にも,トラックに楽器やアンプ一式を積みこんで,動く野外ステージに仕立てているそうだ。井上さんもここでギターを教えているとのこと。
そういう粋人というか狂人の存在って大きいよね。やることのイチイチに魂がこもるだろうからね。
田舎にもいるんだね,こういう人。たぶん,よそからやってきた人なんでしょうけどね。ずっと地元にいると,そういうことって発想に引っかかってこないものな。
● 出演者で司会を務めた大野さんが,この催しについて,「すばらしいこと。特に脳が発達していく時期の小学生にとって,演奏したりコンサートを聴く機会があるのは,情操を養うためにも重要なこと。これからもさくら市を見守っていきたい」と言われた。
もちろん,リップサービスなのだと思う。けれど,音楽と情操との間には無関係という関係しかないというのがぼくの意見。
● 音楽を演奏したり聴いたりすることによって,情操が培われるなんてことはないですよ。
早い話が,もしそうなら,ステージで演奏している人たちは例外なく豊かな情操の持ち主ってことになりそうだけど,実態はどうかといえば,他の集団とさほど変わらないんじゃないのかな。
● 人のことを言わずとも,自分を顧みればすぐにわかる。音楽を聴くことが情操に何らかの影響を与えたとは思えない。
好きだから演奏する,好きだから聴く。それでいいのであって,情操に限らず,そこに何らかの実利を入れこむと,たいていはおかしなことになるんじゃないか。
● 午後6時半からはディーバ・トリオのジャズコンサート。入場無料。主催はさくら市国際交流協会。
したがって,開演前に協会理事長のあいさつがあった。でも,おざなりのあいさつじゃなくて,ちゃんと気持ちが入っていた。本人自身,ジャズが好きなのかもしれない。
● ディーバ・トリオのメンバーは,シェリー・マリクル(ドラムス),植田典子(ベース),大野智子(ピアノ)。日米の女性3人で構成。もちろん,3人ともアメリカに住んでいる。
そこにギターの井上智さんが参加。
● 第1部はこのメンバーで,アイムウォーキングなど5曲を演奏。第2部は氏家小学校の吹奏楽部が加わって,ディズニーソングなど2曲を。
小学生の演奏を聴くのは初めてだった。ここまでできるのかと思いましたね。もちろん,たどたどしさはあったりするんだけれども,サマにはなっているっていうね。誰が指導者かってのも大きいんだろうけど。
そのあとはまたトリオ+井上さんで数曲を演奏し,アンコールを含めてたっぷり2時間,サービス満点のコンサートだった。
● お客さんの平均年齢はかなり高い。ぼくも引きあげている側の一人だけれど,老人クラブの催しなのかと思ってしまうほどだ。
ジャズとか音楽ではなくて,まったく別の催しであっても,この人たちはここに来るんだろうなぁ,と。が,これは田舎では普通に見られること。
● 幕間のトークで「石の蔵」が紹介された。隣町(那須烏山市のこと)のジャズ狂の会社社長が作ったスタジオ。その社長氏は,他にも,トラックに楽器やアンプ一式を積みこんで,動く野外ステージに仕立てているそうだ。井上さんもここでギターを教えているとのこと。
そういう粋人というか狂人の存在って大きいよね。やることのイチイチに魂がこもるだろうからね。
田舎にもいるんだね,こういう人。たぶん,よそからやってきた人なんでしょうけどね。ずっと地元にいると,そういうことって発想に引っかかってこないものな。
● 出演者で司会を務めた大野さんが,この催しについて,「すばらしいこと。特に脳が発達していく時期の小学生にとって,演奏したりコンサートを聴く機会があるのは,情操を養うためにも重要なこと。これからもさくら市を見守っていきたい」と言われた。
もちろん,リップサービスなのだと思う。けれど,音楽と情操との間には無関係という関係しかないというのがぼくの意見。
● 音楽を演奏したり聴いたりすることによって,情操が培われるなんてことはないですよ。
早い話が,もしそうなら,ステージで演奏している人たちは例外なく豊かな情操の持ち主ってことになりそうだけど,実態はどうかといえば,他の集団とさほど変わらないんじゃないのかな。
● 人のことを言わずとも,自分を顧みればすぐにわかる。音楽を聴くことが情操に何らかの影響を与えたとは思えない。
好きだから演奏する,好きだから聴く。それでいいのであって,情操に限らず,そこに何らかの実利を入れこむと,たいていはおかしなことになるんじゃないか。
2012年7月15日日曜日
2012.07.14 器楽による歌とオペラのファンタジー
小山市立文化センター大ホール
● ずっとオーケストラばかり聴いていたので,たまには小ぶりなサッパリしたものもいいなと思った。小山市立文化センターで行われた「器楽による歌とオペラのファンタジー」というのに行ってきた。
開演は午後2時。チケットは全席自由で1,000円。当日券を購入。三井住友海上文化財団がパトロンになっている。
● 出演者は「日本音楽コンクール第79回(2010年度)の上位入賞者」で,10代後半から20代半ばまでの若手。
トップバッターは山根一仁さん。桐朋高校に在学する16歳。上のコンクールでヴァイオリン部門第1位を取ったときは中学生だった。
演奏したのはブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番」。ピアノ伴奏は伏木唯さん。
● せっかくの音楽を聴いているのに雑念がわいてくる。これが困る。
日本の市民運動ってそのほとんどが地域エゴ(or団体エゴ)だったよなぁ,市民運動のリーダーなんて立派な人のはずもないよなぁっていう何の脈絡もない妄想から始まって,あれやこれやと。
● 中学生で日本音楽コンクール1位を取ってしまうような人って,ノビシロはどうなんだろうと思うのも雑念のひとつだろう。すでに最終地点まで到達してしまっているってことはないんだろうか。
練習だけしていればもっと上手くなれるんだろうか。それとも恋愛とか遊びとか他の業界人とのつきあいとか,辛酸も含めていろんな人生体験をしないと,伸びが止まってしまうんだろうか。落語では女遊びも芸の肥やしだと言われたりもするようだけど。
将棋の世界を例にとると,史上最年少で名人位に就いた谷川浩司九段が同世代でただひとり,ずっとA級にとどまっている。上達が速く,若いときに頂点に達した人ほど,棋士としての盛りも長い。その谷川九段が芸の肥やしに女遊びをしたとは聞いたこともないし,そういうことをする人だとも思いにくい。
どんな分野でも,これだけは必要だってのは「強気」でいることでしょうかねぇ。
● 雑念はさらにわいてくる。
あまり速く若いときにがコンクールに出てしまうと,コンクールに入賞するための奏法が身についてしまうってことはないのか。たぶん,コンクールごとに傾向と対策があると思うんだけど,それに過剰対応して,コンクールにタガをはめられるなんてことはないのだろうか。
中にはコンクールなど歯牙にもかけないって人もいるのかなぁ。
● このあたりで雑念は出尽くしたようだ。以後はステージに集中することができた。
山根さん,16歳ながら堂々たる役者ぶり。貫禄さえ漂わせている。精悍な若武者の趣がある。本人はそんなことは意識していないのかもしれないが,自分の見せ方も心得ているように思われた。
他者に対してもあまり物怖じしない感じ。自分の力量に信を置いているのだろう。もちろん,それだけの実績をあげているわけだが。
● 次は竹山愛さん。年齢は20代の半ば(と思われる)。フルート部門の第1位。演奏曲はシューベルトの「しぼめる花の主題による序奏と変奏曲」。シューベルトにこういう作品があったことを,プログラムを見て初めて知った。
竹山さん,酸いも甘いもかみ分けた姉御といったイメージだったのが(他の出演者があまりに若かったので,相対的にそう見えたということ),演奏が始まるとどんどん乙女チックに変わっていった。その変化の様が面白かったというと語弊があるけれども,いや,やっぱり面白かったな。
ピアノ伴奏は輿口理恵さん。
● 休憩をはさんで,次なる演奏者は毛利文香さん(ヴァイオリン)。彼女も高校生。プログラムには幼顔で写っているのだけど,ステージに登場した彼女は半ば大人になりかけているスレンダーな美人。プログラムがなければ高校生とは思わなかったろう。
演奏したのは,ヴィエニャフスキの「ファウストの主題による華麗なる幻想曲」。
ケレン味のない演奏で客席を圧倒。普段は普通の女子高校生に違いないと思うのだが,ステージで彼女が発しているオーラは完全に自立した大人のもの。技術においても,表現においても,ここまでの水準に到達していると,この先どうやって伸びていけばいいのか,ぼくには見当もつかない。
ここでもピアノ伴奏は輿口理恵さん。
● ソロの最後は最初に伴奏も務めた伏木唯さん。演奏したのはショパンの「華麗なる大ポロネーズ」。
芸大4年のお嬢さん。個性的な他の出場者の中にあって,彼女だけが普通というか,控えめな印象(あくまで印象)。それぞれ演奏後にトークを披露するのだが,さすがにピアノは体力を要するようで,だいぶ息があがっていた。ピアノに限らないのだろうが,ステージに立つには体作りも大事なのだろうね。
● 最後は4人でサラサーテの「カルメン幻想曲」。このパート構成に合わせて編曲したのは三宅悠太さん。作曲部門で第1位ということだ。日本音楽コンクールには作曲部門があるってのも,今回初めて知ったこと。
ここで圧巻だったのは,山根さんのヴァイオリンのすさまじさだ。あらためて聴くと,それがくっきりとわかった。現時点で世界水準。今後よほど大きなアクシデントでもない限り,世界が彼の名を知ることになるのはもはや時間の問題ではあるまいか。
はじめの雑念につながるんだけど,もって生まれた才能ってことかもしれないね。「才能」を持ちだしてしまうと,何も説明していないのと同じだとも思うんだけれど,彼の演奏を見ていると,神が選んだ人なのだと思えてしまう。
● さすがにオーケストラの演奏会のようにはお客さんは来ない。大ホールだったんだけど,お客さんの数は200人に届かなかったのではないかと思う。その分,いい席でゆったりと聴くことができた。
主催者にとっては残念だったかもしれないけれども,こちらとしてはそれも含めて快適至極なコンサートになった。
● ずっとオーケストラばかり聴いていたので,たまには小ぶりなサッパリしたものもいいなと思った。小山市立文化センターで行われた「器楽による歌とオペラのファンタジー」というのに行ってきた。
開演は午後2時。チケットは全席自由で1,000円。当日券を購入。三井住友海上文化財団がパトロンになっている。
● 出演者は「日本音楽コンクール第79回(2010年度)の上位入賞者」で,10代後半から20代半ばまでの若手。
トップバッターは山根一仁さん。桐朋高校に在学する16歳。上のコンクールでヴァイオリン部門第1位を取ったときは中学生だった。
演奏したのはブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番」。ピアノ伴奏は伏木唯さん。
● せっかくの音楽を聴いているのに雑念がわいてくる。これが困る。
日本の市民運動ってそのほとんどが地域エゴ(or団体エゴ)だったよなぁ,市民運動のリーダーなんて立派な人のはずもないよなぁっていう何の脈絡もない妄想から始まって,あれやこれやと。
● 中学生で日本音楽コンクール1位を取ってしまうような人って,ノビシロはどうなんだろうと思うのも雑念のひとつだろう。すでに最終地点まで到達してしまっているってことはないんだろうか。
練習だけしていればもっと上手くなれるんだろうか。それとも恋愛とか遊びとか他の業界人とのつきあいとか,辛酸も含めていろんな人生体験をしないと,伸びが止まってしまうんだろうか。落語では女遊びも芸の肥やしだと言われたりもするようだけど。
将棋の世界を例にとると,史上最年少で名人位に就いた谷川浩司九段が同世代でただひとり,ずっとA級にとどまっている。上達が速く,若いときに頂点に達した人ほど,棋士としての盛りも長い。その谷川九段が芸の肥やしに女遊びをしたとは聞いたこともないし,そういうことをする人だとも思いにくい。
どんな分野でも,これだけは必要だってのは「強気」でいることでしょうかねぇ。
● 雑念はさらにわいてくる。
あまり速く若いときにがコンクールに出てしまうと,コンクールに入賞するための奏法が身についてしまうってことはないのか。たぶん,コンクールごとに傾向と対策があると思うんだけど,それに過剰対応して,コンクールにタガをはめられるなんてことはないのだろうか。
中にはコンクールなど歯牙にもかけないって人もいるのかなぁ。
● このあたりで雑念は出尽くしたようだ。以後はステージに集中することができた。
山根さん,16歳ながら堂々たる役者ぶり。貫禄さえ漂わせている。精悍な若武者の趣がある。本人はそんなことは意識していないのかもしれないが,自分の見せ方も心得ているように思われた。
他者に対してもあまり物怖じしない感じ。自分の力量に信を置いているのだろう。もちろん,それだけの実績をあげているわけだが。
● 次は竹山愛さん。年齢は20代の半ば(と思われる)。フルート部門の第1位。演奏曲はシューベルトの「しぼめる花の主題による序奏と変奏曲」。シューベルトにこういう作品があったことを,プログラムを見て初めて知った。
竹山さん,酸いも甘いもかみ分けた姉御といったイメージだったのが(他の出演者があまりに若かったので,相対的にそう見えたということ),演奏が始まるとどんどん乙女チックに変わっていった。その変化の様が面白かったというと語弊があるけれども,いや,やっぱり面白かったな。
ピアノ伴奏は輿口理恵さん。
● 休憩をはさんで,次なる演奏者は毛利文香さん(ヴァイオリン)。彼女も高校生。プログラムには幼顔で写っているのだけど,ステージに登場した彼女は半ば大人になりかけているスレンダーな美人。プログラムがなければ高校生とは思わなかったろう。
演奏したのは,ヴィエニャフスキの「ファウストの主題による華麗なる幻想曲」。
ケレン味のない演奏で客席を圧倒。普段は普通の女子高校生に違いないと思うのだが,ステージで彼女が発しているオーラは完全に自立した大人のもの。技術においても,表現においても,ここまでの水準に到達していると,この先どうやって伸びていけばいいのか,ぼくには見当もつかない。
ここでもピアノ伴奏は輿口理恵さん。
● ソロの最後は最初に伴奏も務めた伏木唯さん。演奏したのはショパンの「華麗なる大ポロネーズ」。
芸大4年のお嬢さん。個性的な他の出場者の中にあって,彼女だけが普通というか,控えめな印象(あくまで印象)。それぞれ演奏後にトークを披露するのだが,さすがにピアノは体力を要するようで,だいぶ息があがっていた。ピアノに限らないのだろうが,ステージに立つには体作りも大事なのだろうね。
● 最後は4人でサラサーテの「カルメン幻想曲」。このパート構成に合わせて編曲したのは三宅悠太さん。作曲部門で第1位ということだ。日本音楽コンクールには作曲部門があるってのも,今回初めて知ったこと。
ここで圧巻だったのは,山根さんのヴァイオリンのすさまじさだ。あらためて聴くと,それがくっきりとわかった。現時点で世界水準。今後よほど大きなアクシデントでもない限り,世界が彼の名を知ることになるのはもはや時間の問題ではあるまいか。
はじめの雑念につながるんだけど,もって生まれた才能ってことかもしれないね。「才能」を持ちだしてしまうと,何も説明していないのと同じだとも思うんだけれど,彼の演奏を見ていると,神が選んだ人なのだと思えてしまう。
● さすがにオーケストラの演奏会のようにはお客さんは来ない。大ホールだったんだけど,お客さんの数は200人に届かなかったのではないかと思う。その分,いい席でゆったりと聴くことができた。
主催者にとっては残念だったかもしれないけれども,こちらとしてはそれも含めて快適至極なコンサートになった。
2012年7月7日土曜日
2012.07.07 宇都宮大学管弦楽団第73回定期演奏会
宇都宮市文化会館大ホール
● 7月の初っ端は宇都宮大学管弦楽団。開演は午後6時。
● ロッシーニの「どろぼうかささぎ」序曲で賑やかに始まり,哀感というか,祭りの後の淋しさを内包したシベリウス「カレリア組曲」につないで,メインのシューマン第1番「春」。
アンコール曲はヨハン・シュトラウスのポルカ「雷鳴と雷光」。
● 七夕の日は天気が悪い。今年も雨だった。彦星と織姫もずっと会えないままで,焦れているのではないだろうか。
その天気に加えて,メインがシューマンとあっては,お客さんの入りが心配されるところだ。って,ぼくが心配する話でもないんだけどね。
けれども,ホール1階席の7割は埋まっていた(2階席かなり空いていたけど)。ほぼ,いつもどおりのお客さんが来ていた感じ。
● 弦は皆さん,達者なものですな。ティンパニは目立つ位置にいるから,どうしたって注目されるんだけど,切れの良いバチ捌きを見せてくれた。なにげに目立っていたのがフルートの男の子。
若い人たちの演奏ってのは,若いというそれだけで魅せるところがある。只今現在の若さそのものが持つ魅力。可能性をたくさん保持しているといったことまで含めてどうこうじゃなく。
● 楽しい演奏会だった。後味が良かった。指揮者の井崎正浩さんの人柄のゆえかもしれないし,学生たちの素直さのゆえかもしれない。
● 宇都宮中央女子高校の生徒がグループを作って聴きにきていた。吹奏楽部で自身も楽器を演奏しているのだろうか。先輩が団員の中にいるんだろうかね。
もしそうなら,とてもいいことだよね。他校や他楽団の演奏を実地に聴いてみるって大事なことで,それをしないと自分たちの立ち位置が見えてこないもの。逆に,それをしているのは研究熱心だってことだよね。
こういう生徒がいるのなら,中央女子高吹奏楽部の演奏も聴いてみたいと思いましたね。
● 次回は12月15日。チャイコフスキーの交響曲第2番を演奏するらしい。5番や6番はしばしば聴く機会があるけれども,2番はまだ聴いたことがない。
それと,嬉しかったのが栃響の第九と日程が重ならないこと。昨年は重なったんですよね。重なれば当然,どちらかを捨てなければならなくなる。ラッキーなことに今年の冬は両方聴ける(栃響の第九は16日)。
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