小山市立文化センター大ホール
● ずっとオーケストラばかり聴いていたので,たまには小ぶりなサッパリしたものもいいなと思った。小山市立文化センターで行われた「器楽による歌とオペラのファンタジー」というのに行ってきた。
開演は午後2時。チケットは全席自由で1,000円。当日券を購入。三井住友海上文化財団がパトロンになっている。
● 出演者は「日本音楽コンクール第79回(2010年度)の上位入賞者」で,10代後半から20代半ばまでの若手。
トップバッターは山根一仁さん。桐朋高校に在学する16歳。上のコンクールでヴァイオリン部門第1位を取ったときは中学生だった。
演奏したのはブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番」。ピアノ伴奏は伏木唯さん。
● せっかくの音楽を聴いているのに雑念がわいてくる。これが困る。
日本の市民運動ってそのほとんどが地域エゴ(or団体エゴ)だったよなぁ,市民運動のリーダーなんて立派な人のはずもないよなぁっていう何の脈絡もない妄想から始まって,あれやこれやと。
● 中学生で日本音楽コンクール1位を取ってしまうような人って,ノビシロはどうなんだろうと思うのも雑念のひとつだろう。すでに最終地点まで到達してしまっているってことはないんだろうか。
練習だけしていればもっと上手くなれるんだろうか。それとも恋愛とか遊びとか他の業界人とのつきあいとか,辛酸も含めていろんな人生体験をしないと,伸びが止まってしまうんだろうか。落語では女遊びも芸の肥やしだと言われたりもするようだけど。
将棋の世界を例にとると,史上最年少で名人位に就いた谷川浩司九段が同世代でただひとり,ずっとA級にとどまっている。上達が速く,若いときに頂点に達した人ほど,棋士としての盛りも長い。その谷川九段が芸の肥やしに女遊びをしたとは聞いたこともないし,そういうことをする人だとも思いにくい。
どんな分野でも,これだけは必要だってのは「強気」でいることでしょうかねぇ。
● 雑念はさらにわいてくる。
あまり速く若いときにがコンクールに出てしまうと,コンクールに入賞するための奏法が身についてしまうってことはないのか。たぶん,コンクールごとに傾向と対策があると思うんだけど,それに過剰対応して,コンクールにタガをはめられるなんてことはないのだろうか。
中にはコンクールなど歯牙にもかけないって人もいるのかなぁ。
● このあたりで雑念は出尽くしたようだ。以後はステージに集中することができた。
山根さん,16歳ながら堂々たる役者ぶり。貫禄さえ漂わせている。精悍な若武者の趣がある。本人はそんなことは意識していないのかもしれないが,自分の見せ方も心得ているように思われた。
他者に対してもあまり物怖じしない感じ。自分の力量に信を置いているのだろう。もちろん,それだけの実績をあげているわけだが。
● 次は竹山愛さん。年齢は20代の半ば(と思われる)。フルート部門の第1位。演奏曲はシューベルトの「しぼめる花の主題による序奏と変奏曲」。シューベルトにこういう作品があったことを,プログラムを見て初めて知った。
竹山さん,酸いも甘いもかみ分けた姉御といったイメージだったのが(他の出演者があまりに若かったので,相対的にそう見えたということ),演奏が始まるとどんどん乙女チックに変わっていった。その変化の様が面白かったというと語弊があるけれども,いや,やっぱり面白かったな。
ピアノ伴奏は輿口理恵さん。
● 休憩をはさんで,次なる演奏者は毛利文香さん(ヴァイオリン)。彼女も高校生。プログラムには幼顔で写っているのだけど,ステージに登場した彼女は半ば大人になりかけているスレンダーな美人。プログラムがなければ高校生とは思わなかったろう。
演奏したのは,ヴィエニャフスキの「ファウストの主題による華麗なる幻想曲」。
ケレン味のない演奏で客席を圧倒。普段は普通の女子高校生に違いないと思うのだが,ステージで彼女が発しているオーラは完全に自立した大人のもの。技術においても,表現においても,ここまでの水準に到達していると,この先どうやって伸びていけばいいのか,ぼくには見当もつかない。
ここでもピアノ伴奏は輿口理恵さん。
● ソロの最後は最初に伴奏も務めた伏木唯さん。演奏したのはショパンの「華麗なる大ポロネーズ」。
芸大4年のお嬢さん。個性的な他の出場者の中にあって,彼女だけが普通というか,控えめな印象(あくまで印象)。それぞれ演奏後にトークを披露するのだが,さすがにピアノは体力を要するようで,だいぶ息があがっていた。ピアノに限らないのだろうが,ステージに立つには体作りも大事なのだろうね。
● 最後は4人でサラサーテの「カルメン幻想曲」。このパート構成に合わせて編曲したのは三宅悠太さん。作曲部門で第1位ということだ。日本音楽コンクールには作曲部門があるってのも,今回初めて知ったこと。
ここで圧巻だったのは,山根さんのヴァイオリンのすさまじさだ。あらためて聴くと,それがくっきりとわかった。現時点で世界水準。今後よほど大きなアクシデントでもない限り,世界が彼の名を知ることになるのはもはや時間の問題ではあるまいか。
はじめの雑念につながるんだけど,もって生まれた才能ってことかもしれないね。「才能」を持ちだしてしまうと,何も説明していないのと同じだとも思うんだけれど,彼の演奏を見ていると,神が選んだ人なのだと思えてしまう。
● さすがにオーケストラの演奏会のようにはお客さんは来ない。大ホールだったんだけど,お客さんの数は200人に届かなかったのではないかと思う。その分,いい席でゆったりと聴くことができた。
主催者にとっては残念だったかもしれないけれども,こちらとしてはそれも含めて快適至極なコンサートになった。
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