約2時間のコンサートが終了した直後の満足感は,他のものでは代替できません。この世に音楽というものが存在すること。演奏の才に恵まれた人たちが,時間と費用を惜しまずに技を磨いていること。その鍛錬の成果をぼくたちの前で惜しみなく披露してくれること。そうしたことが重なって,ぼくの2時間が存在します。ありがたい世の中に生きていると痛感します。 主には,ぼくの地元である栃木県で開催される,クラシック音楽コンサートの記録になります。
2013年1月27日日曜日
2013.01.27 フレッシュアーティスト・ガラ・コンサート
栃木県総合文化センター サブホール
● このコンサートは,毎年この時期に「とちぎ未来づくり財団」が主催しているもの。栃木県ジュニアピアノコンクールとコンセール・マロニエ21の優勝者の披露演奏会。
開演は午後2時。入場無料。事前に「とちぎ未来づくり財団」申しこんで,整理券をもらっておく方式。会場はほぼ満席だった。
● トップバッターはジュニアピアノコンクールの大賞受賞者,斉藤花帆さん。小学4年生。ということは,まだ10年しか生きてないってことか。その彼女が中学生,高校生を押さえての大賞受賞。
県のコンクールで優勝するくらいだから,天才少女と呼びたくなるわけだけど,ここで難しいのが,天才少女や天才少年が大人になってからも天才のままでいた例はさほど多くはないということ。
3歳や4歳でピアノを弾きこなす坊やを,テレビが取りあげることがときたまあるけれども,彼らが大成したという話はついぞ聞かない。あまり早すぎてもいけないようだ。途中で飽きちゃったりもするんだろうしね。
● ともあれ,彼女が演奏したのは,グリーグの「抒情小曲集」から「小妖精」「夜想曲」「トロルドハウゲンの婚礼の日」の3つ。
素人感想ながら,栃木から世界にはばたく大物ピアニストが誕生する予感? このコンサートを聴くのは今回が3回目なんだけれども,ジュニアピアノコンクール大賞受賞者の演奏を聴いて,これだけのノビシロを感じさせられたのは初めてだ。
あるいは,今が急激に伸びている時期で,その勢いを感じたのかもしれない。
● 次は,ヴァイオリンの戸原直さん。コンセール・マロニエ21弦楽器部門で第1位。彼も芸大のまだ2年生じゃないかなぁ。ってことは,20年しか生きていないわけだ。
演奏したのは,バルトークの「ルーマニア民俗舞曲」とチャイコフスキーの「なつかしい土地の思い出」「ワルツ・スケルツォ」。ピアノ伴奏は町田美弥子さん。
● 「なつかしい土地の思い出」は3曲で構成されているわけだけど,1曲ごとに拍手が起きてしまう。そのあたりは,戸原さんも町田さんも折りこみ済みだったみたい。実際,拍手したくなりますよね。初めてこの曲を聴く人だったらなおのこと。
戸原さんが奏でるヴァイオリンの音色に身を任せるだけですね。「ルーマニア民俗舞曲」にしても「なつかしい土地の思い出」にしても,CDで聴くことはできても,生で聴くのはできそうで案外できないのでね。
こういうのをタダで聴けるってのはねぇ,何だかしみじみと嬉しくなってきますねぇ。おまえはタダが好きなんだなと言われそうなんですけどね。好きなんですよ,タダ。
● 秋本悠希さん。同じくコンセール・マロニエ21の声楽部門の第1位。「カルメン」から「恋は野の鳥」と「セギディーリャ」。あと,日本の歌曲を5つ。ピアノ伴奏は羽賀美歩さん。
声楽の持つ圧倒的な説得力。彼女が発した空気の震えが客席にビーッと届く。空気の震えなんだから,こちらとしてはそれに包まれるしかないわけでね。
● 3ヵ月前のコンセール・マロニエのときより,気持ち太りましたか。貫禄が付いてきた感じ。どう,私の歌は,っていう押しだしが出てきたような。
彼女は広島県尾道市の出身。先月見た映画「東京物語」に登場する場所なんですよねぇ。だから何ってわけでもないんだけど。
● 15分間の休憩の後,第2部。ゲストの演奏になる。一昨年はヴァイオリンの田口美里さんで,昨年は声楽(ソプラノ)の松岡万希さんだった。今回はトランペットの牛腸和彦さん。彼もまた,過去のコンセール・マロニエ21の金管部門で第1位になった人。ピアノ伴奏は渚智佳さん。彼女もまた同じ。
演奏したのはエネスコ「レジェンド」,ヘーネ「スラブ幻想曲」,ネルーダ「トランペット協奏曲」の3つ。最後の曲だけは手元にCDがある。つまりは,こういう機会がないとまずもって聴く機会を持てないわけですね。
● 牛腸さんのトランペットはとにかくなめらか。レガートという言葉を思いだした。客席も魅了されたのでしょうね,終了後も拍手がやまず。
牛腸さんによれば,アンコールは用意してなかったそうだ。が,急遽,ルロイ・アンダーソン「トランペット吹きの子守唄」をやってくれた。このコンサートでのアンコールは(ぼくの知る限り)初めてのこと。
思いがけないお年玉。演奏後に,伴奏の渚さんが胸をなでおろす仕草をしていたのが,また客席に受けた。
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