2013年7月29日月曜日

2013.07.28 東京大学歌劇団第39回公演 ヴェルディ「イル・トロヴァトーレ」

三鷹市公会堂 光のホール

● 前回行ってみて,東大歌劇団の力量は承知したつもり。今回も楽しみに出かけていった。生のオペラを楽しめる機会なんて,そうそうはないからね。
 何でもかんでも田舎に住んでいるせいにしたくはないんですけどね,この分野においても,東京と非東京ではだいぶ様相が違う。経済に限らず,学術,文化,エンタテインメント,ファッション,美食などなど,あらゆるものが東京に一極集中。
 それが悪いことだなんてぜんぜん思ってない。だって,しようがないもんね。人の集まっているところに,人以外のモノやコトも集まるのは道理というものだ。それじゃ,人為的に人を分散させる? それは悪の最たるもの。

● 開演は午後3時。入場無料(カンパ制)。
 だいぶ前に着いたので,開演前にプログラムを隅から隅まで読んだ。
 前回の「カルメン」で主役を張った女子高生が慶応の学生になってた。頭もいいんだねぇ。勉強する時間もそんなになかったろうに(逆にそれが良かったのかもしれないけど。受験だからといって勉強だけにフォーカスしてしまうと,かえってパフォーマンスが悪くなるのかもしれないものね)。
 彼女に限らず,皆さん,同じ。パンピー(死語?)からすれば,羨ましいぞ,かなり。

● 今回,総監督と指揮を務めたのは,学部の2年生。ぼくから見ると,ものすごい早熟。呆れるほどに。いるんだねぇ,こういう人がねぇ。
 その彼が「半年間,各団員が楽譜や台本を真剣に読み込み,作品の世界が成就するよう創り上げて参りました」と書いている。
 演出担当者も「人生の救いようのなさを直視してペシミズムを徹底的に煮詰めた先に,本当に生き生きとした生があるのではないか,そんなことを考えさせられる作品です」という。
 創る側は,そうですよね。原作も読み,時代背景も調べて,いろんなことを考えて考えて,そしてまた考えて,その結果や経過を形にしていくのだろう。

● では観る側にとってはどうか。自分を観る側の代表にするわけにはいかないから,あくまでもぼく一個のことなんだけど,オペラは憂さを晴らすためのものだ。
 見事なアリアに聴きほれたい。管弦楽の盛りあがりを味わいたい。
 劇中人物に対して,あいつらバカだなぁ,オレはもう少しマシだぞ,とホッとしたい。
 舞台上のレオノーラに,服毒のタイミングが早すぎだろ,マンリーコが助かるのを見届けてからでよかったろ,と突っこんでスッキリしたい。

● オペラから渡世の教訓を得たいとは思わない。人はどこから来てどこへ行くのかを考える糧にしたいとも思わない。
 徹頭徹尾,エンタテインメントであってほしい。浅い解釈でも楽しめるものであってほしい。

● いまどき(昔も同じだったろうけど),レオノーラの純愛にリアリティを感じることは難しい。瞬間風速的には,恋する女性の胸のなかにそうした気持ちがよぎることがあるのかもしれないけどさ。
 オペラのストーリーは作り事であり,フィクションであり,尾ひれどころか背びれも胸びれもつきまくりだ。
 もちろん,それでいいわけで,劇として面白く仕上がってれば,何も文句はない。

● やっぱりさ,オペラって,演出とかによってどうにかできることなんてしれててさ(そんなことはないのか),職人仕事が支えますよね,基本。歌い手の技量,管弦楽の巧みさ,そいういうもので決まるんでしょうねぇ。
 問題は,その技量に歌い手の解釈や自分はこう思うってのを織りこんでくれないと困るってことだ。迷っているなら迷っているように。
 だから創る側は浅い解釈じゃダメだよね。きちんと悩んでもらわないと。

● で,その真摯さがよく出ていたステージだったと思う。設えも少ない予算を効果的に使っていた感じ。
 主役のふたり,レオノーラとマンリーコが引っぱりましたかねぇ。特にレオノーラ役の真野綾子さんは,プロをめざしているセミプロですか。洒落にならない巧さ。
 そこに慶大生のアズチェーナが絡んでいく。こちらもお見事。ふてくされ方が巧いんだな,彼女。顔を伏せて寝ている姿勢で,あそこまでの声がでるのもすごいねぇ。

● 第4幕の展開が白眉なんでしょうね。フィナーレではこちらも心地良い疲れを感じた。
 1回の公演に膨大な手間がかかることは,客席にいても想像できる。衣装も手縫いだったりするらしいし。しかも,年2回の公演。
 次回は12月22日に,オッフェンバックの「ホフマン物語」。さっそく,明日から本読みや譜読みにとりかかるのだろう。頭さがります,ほんとに。

● オペラについては,まだまだ知るところが少ない。でも,無知蒙昧なこの時期こそ,最もオペラを楽しめるゴールデンエイジなのかも。妙に詳しくなったり,頭デッカチになったりしたくない。
 大満足で会場をあとにしながら,そんなことを思ったりした。

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