2015年1月26日月曜日

2015.01.25 東京大学音楽部管弦楽団第100回記念定期演奏会

サントリーホール 大ホール

● 第100回ということで,プログラム冊子にも指揮やトレーナーを務めている(いた)人たちが手記を寄せている。
 ことがらの性質上,絶賛の嵐になっているわけだけれども,リップサービスだとは思われない。
 いちいちそうだろうなと頷きたくなった。客席に届く演奏と照らし合わせても,たぶんそうなのに違いないと思えるので。

● 以下にいくつかを摘記しておこう。
 早川正昭氏(指揮)
 初心者が約四分の一というオーケストラを,いかに上手く聴かせるかという事に重点を置いた
 「東京に10あるプロオケの中間位。」と,柴田南雄氏が朝日新聞に書かれました。
 田代俊文氏(指揮)
 驚いたのは,休憩になると指揮者の元に行列ができ,団員が質問に来る事です。
 皆さん理解力がとても高く,ヒントを少し与えればすぐに音が変わります。目標を設定すると最短距離でそこに向かっていこうとする力があり,頭がいいですね。
 皆さん音楽が大好きで,楽しんでやろうという気風が増えてきました。昔は,ちゃんとしなくちゃ,精緻にやろうという方向に比重が強くかかっていたように思います。
 青木高志(ヴァイオリン)
 演奏能力の高さと応用力の素晴らしさ
 練習初期はのんびりと・・・本番近くなると俄然まとまってくる気質
 桑田 歩(チェロ)
 常に全力で練習に取り組む姿勢と音楽に対する愛情にはプロの演奏家としても驚嘆さえ感じます。・・・いったい皆さんはいつ勉強しているのでしょう・・・?
 堀 了介(チェロ)
 東大オケと聞いてすぐ思い浮かぶのは,団員の皆さんの集中力,音楽に対するひたむきさです。時には,ここは音楽学校?と錯覚を起こしそうになった事も・・・。
 大森 悠(オーボエ)
 東大オケで学んだことを礎としてプロの世界に飛び込んだ時,プロも結構ユルいことやってんなぁ,と不遜にも思ったものだ。それくらい,東大オケは「厳格・厳密」だった。
 中川鉄也(クラリネット)
 「何よりもまず音楽に」と献身的に情熱を燃やし,その伝統の中で進化しようとする学生諸君の「覚悟」を強く感じます。
 平山 恵(フルート)
 勤勉で,禁欲的である彼らは時に学生としての本分を忘れやしないかと心配になるほど練習に打ち込み・・・・・・
 森田 格(ファゴット)
 皆の理解力の高さには驚きましたが,その場ですぐにできないことでも次の回の分奏では殆どクリアしてきてしまう事にはさらに驚きました。
 和久井 仁(オーボエ)
 驚愕のナンバーは「理解力」。年度が代わってもどんなにメンバーが代わっても楽員達の理解力は何時だって私の想像を超えるもので,上達のスピードが素晴らしい事です。
 通常オーケストラLessonで奏法や音楽的な解釈を説明する時には一つの事を伝える為に何通りかの言い回しで話をします。・・・ですが・・・東大音楽部の楽員たちは,一通りの話し方で殆どを理解してくれるのです。
 須山芳博(ホルン)
 指導を経て行くにつれ,音楽を表現する上でもっと音楽の内容に迫って欲しいと感じる事がありました。それは東大生の教養が邪魔をしている所があるのでは,と感じました。音楽を表現する事は自分の素を出すと云う事でもあります。(中略)楽器を演奏する時は東大生と云うことを忘れ、無の境地で思い切って音楽の懐に飛び込みなさい,と話しています。
 曽我部清典(トランペット)
 頭脳明晰な東大生のレッスンなど務まるのかな?という思いでしたが,こと音楽になると意外と頭使ってないなあという印象でした(笑)。
● 摘記といいながら,少々長すぎた。要するに,集中と長時間を両立した練習と,理解力の高さ。
 以上の評は,ぼくらが抱いている東大生というイメージからあまり離れていないものなので,そのままスッと納得できてしまう
 しかし,それだけだと括られてしまうと,団員からは不満続出かも。

● にしても。トレーナーひとつとっても,とんでもなく恵まれた環境を整えているんだなぁとも思った。これだけの環境はなかなかないものじゃないですか。いくら環境を整えても,ダメなヤツはダメなんだろうけど。
 早川正昭氏の話はだいぶ昔のこと。それ以後,プロアマ含めて,演奏水準はかなり高度化したんでしょうね。特にプロの水準が上がっているわけで,さすがに今は“プロオケの中間位”ということにはならない。

● それでも,技術だけではない何かをこの楽団の演奏会では味わうことができる。聴くたびにそうだ。
 背筋を伸ばしてくれるもの。ひょっとしたらオレも何かできるんじゃないか,と思わせてくれるもの。
 この楽団の第100回の記念演奏会に立ち会えたのは,幸せだった。

● マーラー5番は渾身の熱演。奏者側にも出しきった感があるのではあるまいか。
 臆せず,冷静さを保って,ガンガン行く。じつに小気味がいい。
 マーラーについていくだけでも容易じゃないと思うんだけど,ついていけるようになると,今度は逆に,乗りすぎだとわかっていながらつい乗ってしまうってこともあるんじゃないかと思うんですけどね。
 攻めすぎて駒が足りなくなるなんてことはなかった。きちんとした練習の裏打ちがあるのと,奏者それぞれに,もうひとりの自分がいて,そのもうひとりの自分が自分の演奏を見ているんだろうね。

● 指揮の宜しきを得たのも大きい。田代俊文さんの指揮。神経の行き届いた指揮だったように思われた。
 それから,コンマスがコンマスとして見事だった。この男,ただ者ではない。
 惜しむらくは,ぼくの席が後方すぎた。ちょっと出遅れたために,もうこの席しか残っていない状態だったんだけど,もっと近くでコンマスの仕事ぶりを見たかった。出遅れはいけないねぇ。

● アンコールもマーラーの「花の章」。当然,この楽団に手抜きはない。最後まで完璧に務めて,馥郁たる残り香をおいていってくれた。

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