● のっけから何なんだけど,2013年11月に「ほぼ日刊イトイ新聞」に掲載された糸井重里と岸惠子の対談の冒頭に,次のようなやりとりがある。
糸井 ぼくは、スポーツ選手に対して「からだの知性がある」という言い方をすることがあるんです。
岸 あぁ、なるほど。
糸井 いま、頭を使うタイプの人が「言いたい放題」になっていることがよくあるでしょう。
岸 うん。しかもあまり頷けないような「言いたい放題」が横行していますね。
糸井 ですね。それに対して、自分の行為を「解説される」側にばかり立ってる人というのは、結局、もの言えぬ人になっちゃいます。
岸 そうね。
糸井 しかし、「解説する」人に比べて、いまそこで動いている「解説される」人のほうが、何百倍も知的なことをやっているのがほんとうで。「からだの知性」というのは,糸井さんならではの言い方だと思うけれど,当然,この話はスポーツに限らない。立つ場所がグラウンドやピッチであれ,舞台であれ,同じことだ。
こうした演奏会においても舞台で演奏している人たちの方が,こうして「解説する」人よりも何百倍も知的なことをやっている。
● 調布市に来るのは先月8日の調布フィルハーモニー管弦楽団の定演以来二度目。この演奏会を知ったのは,昨年11月30日の音大フェスでチラシが配られたためだ。
惜しむらくは,今日は天気があまりよろしくない。雨模様だ。もちろん,傘などという無粋なものは持っていない。
● 開演は午後2時。チケットは1,500円(あらかじめネットで買っておいた)。曲目は次のとおり。
チャイコフスキー 歌劇「エフゲニー・オネーギン」より“ポロネーズ”
ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番 ハ短調
チャイコフスキー 交響曲第4番 ヘ短調
● 座席は指定されるのだが(すなわち不自由席),どの席にするかもネットに決めてもらった。ら,最前列の中央を取ってくれた。さすがにちょっとね。もう少し後ろがいいねぇ。
ただし,最前列だとヴァイオリン奏者の息づかいまでわかる。息を詰めている時間が長いようだ。でもって,これってウツルからね。こちらも同じように息を詰める。ぐったり疲れる。
● 桐朋の学生さんを見ていて最初に感じるのは育ちの良さだ。坊ちゃん,嬢ちゃん然としている。私立の音大は医学部の次に学費が高い。マン・ツー・マンのレッスンもあるのだから当然なのだけれども,そうはいっても子弟をそこに通わせられる家庭はそんなに多くはないだろう。
小さい頃から楽器をやって学生たちばかりだろう。習い事というレベルではなく,やってきているはずだ。何かとお金がかかるのだ。それに耐えられる財政力が家庭になければならない。
● 指揮は中田延亮さん。筑波大学の医学部(筑波大学の用語でいうと医学専門学群)にいたのに,桐朋に入学した。医者への道を蹴飛ばして音楽の道に進んだわけね。ときどきいるんだよねぇ,こういう人。人が羨む道をあっさり(ではないのかもしれないが)捨てる。
音楽への思いやみがたくってことなのだろうけれど,音楽にはそれだけの誘惑力(?)があるんでしょうねぇ。音楽のみならず,演劇とかもそうかもしれないな。
まったくね,ミューズの女神は才能ある人を妖しく誘うのだろうな。女神の誘いを蹴るなんてことは男にはできないんだよね。
● 最前列に座ったお客さんは,ぼくを含めてほとんどが男性。1人で来ている男性だね。ついこの間までは,コンサートに限らず,何らかの催しに出てくるのは女性ばかりで,男性はどこにいるのだろうと思うことが多かった。
この状況がここ2,3年で様変わりしているように感じる。男が増えた。ただし,1人で来ている男性に若者はいない。オッサンばかりだ。爺さんもいる。そういうのがドッとわいてきた感じ。
ところが,オッサンや爺さんは他人に対する口のきき方を知らないんだよなぁ。スタッフを自分の部下だとでも思っているのか。たとえ部下であったとしても,あんな上司じゃ3日で部下は去るだろうと思えるようなヤツが多いよなぁ。
調布市グリーンホール |
この場所で聴くと,ピアノって鉄製の楽器なんだなということが納得できる。もし,日本語でも名詞に性別があったとしたら,ピアノは男性名詞だな。
● アンコールもあった。ラフマニノフ「6つのロマンス」より“美しい人よ,私のために歌わないで”。
彼のピアノを聴きに来たお客さんもいたようで,前半で帰っちゃう人も散見された。いくら何でも,これは少し以上にもったいないかなぁ。
で,今回は桐朋学園オーケストラ。いや,もうね,素晴らしすぎて言葉もない。音大の最高峰でしょうなぁ。曲もいいんでしょうけどねぇ。
● 栃木の在からでもこのオーケストラを追っかけてみる価値は充分にあると思った。といっても,そこは大学生のことだから,そんなに頻繁に催行しているわけではない。今回のグリーンホール定期のほかは音大フェスくらいのものだ。追っかけようと思えば,追っかけきれるだろう。
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