2020年9月24日木曜日

2020.09.21 アンサンブル・ジュピター 第16回定期公演

 杉並公会堂 大ホール

● 開演は午後7時30分。入場無料(カンパ制)。
 この時刻の開演だと,終演後すぐに電車に乗っても,自宅には帰りつけない。最終電車に間に合わない。新幹線を使えば間に合うんだけど,そこまでして東京まで聴きに行かんでもとの思いがある。
 が,今夜は東京に宿を取っている。後顧の憂いなく,地下鉄丸の内線で荻窪までやってきた。

● たぶん,今回に限ってはということなのだろうが,座席は指定される。ぼくに与えられたのは4列目だった。といって,1~3列は撤去されているので,最前列ということ。
 曲目は次のとおり。
 モーツァルト セレナード第6番 ニ長調「セレナータ・ノットゥルナ」
 チャイコフスキー 弦楽セレナード ハ長調


● この楽団の演奏を聴くのは初めて。と思っていたのだが,4年前に同じホールで聴いていた。ガッデム!
 「2005年,早稲田大学フィルハーモニー管絃楽団出身のメンバーを中心に結成」された楽団。ということを知って団員を見ると,みな利発そうに見えてくる。早稲田大学フィルハーモニー管絃楽団は早稲田大学の学生だけで構成されているわけではないのだが,それにしたってぼくから見たら。

● 卒業したばかりと思しき可愛らしいお嬢さんもいれば,キリッとした感じの元お嬢さんもいる。年齢幅はけっこうあるが,総じていうと若い印象を受ける。
 ひとつには,圧倒的な存在感を示したコンマスが若い人だったからだが,はるか昔は少年少女だったという団員も気が若いのだろう。


● 指揮は安藤亮さん。「早稲田大学在学中に早稲田大学フィルハーモニー管絃楽団を創立」したというから,一途な変わり者だったんでしょうかねぇ。
 早稲田には泣く子も黙る早稲田大学交響楽団という早稲田純正のオケがある。おそらく(というのは,すべての大学オケを聴いたわけではないからだが)大学オケではトップに位置する。もちろん,藝大や桐朋は除いてということにしておきたいのだが,ひょっとしてひょっとすると,それらを加えても・・・・・・と思わせるほどのものだ。
 安藤さんはそのワセオケと反りが合わなくて,スピンアウトしたんだろうかなぁ。そうして早稲田フィルを創設したとすると,これはもう英雄譚なんだがなぁ。


● モーツァルトはいいものだ。18世紀のウィーンの伯爵か侯爵になったような気分だ。席が最前列で観客が視界に入らなかったせいもある。しかも,当時の彼の地の貴族諸君よりいい演奏で聴いているはずだ。
 楽器も進歩しているだろうし,当時の貴族の館よりも今夜のこのホールの方が音響も優れているだろう。
 しかし,それよりも奏者の技術水準だ。18世紀のヨーローッパの愛好家よりも,現在の日本のアマオケの団員が上のはずだ。

● クラシック音楽もぼくが聴いているくらいだから,極限まで大衆化していると思うのだが,大衆化というのは悪いことばかりじゃない。それあればこそ,音楽の教育体制が整う。“教える”が業として成立する。録音音源の充実にも支えられているでしょうけどね。
 聴く側が当時の欧州貴族を超えたとは思えないが(何せ,彼らは楽譜を読むことによってその楽曲を鑑賞していたわけだから),演奏する側は,当時と比べれば,長足の進歩を遂げているだろう。

● 演奏も素晴らしかった。モーツァルトは,モーツァルトだけは,上手な演奏で聴きたい。天から降ってくるようなモーツァルトの旋律はやはりそれなりの水準の演奏で。
 この楽団は,その“それなり”を優に凌駕していて,モーツァルトを聴いているっていう歓び(というと大げさになるかもしれないけれども)をジンワリと味わうことができた。
 コンマスが全体を掌握していたので,この曲では指揮者は要らなかったかもしれない。が,それは奏者側が決めることで,客席からあれこれ言う話ではない(言ってしまっているのだが)。

● チャイコフスキーの「弦楽セレナード」も聴きごたえがあった。男性奏者が多い1st.Vnの,何と言ったらいいのか,プロ感というか見た目のプロっぽさというか,要するにカッコいいのだ。
 カッコいいのは内的躍動(?)を感じさせるからでもある。地表にいるぼくらには見えないけれども,地球の内部ではマグマが始終蠢いているのだぞ的な。


● 衒いのない,妙に内に籠もらない,フェイントをかけない,直球しか投げない投手のような,ストレートに響いてくる「弦楽セレナード」だった。どうよ,アタイのスッピンは,と言うような,ね。
 といって,バカ正直にスッピンを晒しているはずもないと思うので,スッピンに見える高度な化粧術を施しているのだろう。どのくらい練習したのだろうと思うのだが,そもそも持っている技術が高いのだろうね。

● 当初の予定ではベートーヴェンの第九を演ることになっていたらしい。ベートーヴェンの生誕250年を盛大に祝うつもりだったのに,それが叶わない情勢になった。この楽団に限らない。業界として見たって,逸失利益の大きさは途方もない。
 で,アンコールは,「ベートーヴェンの最も美しい緩徐楽章」である弦楽四重奏曲第13番の “Cavatina”。全5楽章の中の第4楽章,と聞いた気がするんだが,全6楽章の中の第5楽章。細かいことであいすまぬが。

● オーケストラも人間の集団だ。である以上,一枚岩はあり得ない。が,内部の軋轢や衝突や対立もエネルギーを生む母体になるのだろう。それらを孕みながらひとつの有機体として動くところに妙味がある。一枚岩では何の魅力も醸さない。
 中でしかるべき立場にある人は胃が痛くなる思いをすることもあるだろう。そんな思いをするのは仕事だけでたくさんなのに,と言いたくもなるだろう。が,それが魅力の代償であるかもしれない。
 というわけで,アンサンブル・ジュピター,記憶しておくべき楽団かと思う。

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