● 昨年6月以来のフォイヤーヴェルク。開演は午後7時。入場無料(カンパ制)。
この楽団の水準はすでに周知のところだろう。だから,事前にチケット(整理券)を申しこんでおくというシステムになっている。楽団側にとってはかなりの手間になるとしても,そうしないとお客さんが押し寄せて,捌きがつかなくなるかもしれない。
有料チケット制にするのも手だと思うけれども,そこは楽団の考え方なり哲学があってのことなのだろうと推測する。
ともあれ,満席の盛況。
● 大学オケにしては,大人の楽団という趣がある。終演後にコンマスが挨拶したんだけど,普通の大学オケより平均年齢が高いと言っていた。
それにしても落ち着いた雰囲気を感じさせる。当然,院生もいるし,トレーナーも加わっていたりするんだけど,それはけっこう普通のことだからね。
この楽団も東大の冠がありながら,約半分は東大以外の学生だ。音大の学生や卒業生がけっこうな数,賛助に入っていた。
● 指揮は原田幸一郎さん。曲目は次のとおり。
ウェーバー 歌劇「オベロン」序曲
ブルッフ クラリネットとヴィオラのための二重協奏曲
ブラームス 交響曲第4番 ホ短調
● 「オベロン」序曲の冒頭のホルンソロで,この楽団の力量はわかる。なんだよ,この巧さは,って。楽器に向き合ってきた時間が長いんでしょうね。才能なんでしょうね。
弦のピッツィカートひとつとっても,よそとは違うような気がして。
たとえば,テニスの上手な人のゲームを見ていると,ラケットが手の一部に見えたりすることがあるんだけど,どうもそういう感じね。楽器はすでに体の一部。
● しかし,なんだね。ここまで音楽に没頭してて,卒業とか就職とかは大丈夫なのか。大きなお世話だと思うんだけど。
っていうか,あれかなぁ,キチッと集中してやってますから,ご心配には及びませんよ,って言われちゃうのかなぁ。
● 女性奏者のカラフルなドレスも健在。これはもう,この楽団の演奏会を特徴づける要素のひとつになっているだろう。これが見たくて来てるお客さんも絶対いると思うぞ。
ちゃんと花になっているんだから,たいしたものだ。
● ブルッフの「クラリネットとヴィオラのための二重協奏曲」は初めて聴く。CDはあるようだけど,ぼくは持っていない。
クラリネットは亀井良信さんで,ヴィオラは須田祥子さん。お二人ともこの楽団のトレーナーを務めている。こういう人たちをトレーナーに呼べるってことじたい,楽団の水準の高さをうかがわせる。
「独奏の技巧的な側面よりは中音域の音色の魅力や旋律の美しさが前面に出されている」ということなんだけど,とはいっても,技巧を堪能させるところもある。こういうところも入れておくのが,作曲家のサービスってもんでしょうか。ソリストに対しても,聴衆に対しても。
● 協奏曲を演奏する場合,その格を決めるのはソリストではなくて管弦楽の方だ。管弦楽が締まっていないとどうにもならない。
その点でいえば,この楽団ならまったく無問題。そうであってこそ,ソリストの技量もはえるというものだ。
● ブラームスの4番は,圧巻と申しあげるほかはない。気持ちの良い起伏感。スムーズきわまる場面転換。
どう表現していくかというおおもとのところで奏者間に乱れがない。個々具体の局面で何をどうするかについては,指揮者がこうしろと指示することがあるだろう。おおもとについてもあるのかもしれないけれども,あったにしても抽象的な表現にならざるを得ない。
それをステージという現場において,乱れなく具現化してみせるってのは,とんでもない力量だと思う。共通了解になっている部分が多いのだとしても。
● というより,その共通了解事項が普通(の楽団)より多いのだろう。いちいち話さなくても通じるようになっているんでしょう。それってかなりすごくないですか。
ま,ひょっとして,まったく的外れのことを言っているのかもしれないんだけどね。
● ヨハン・シュトラウスの「ハンガリー万歳」で軽快に締め。しっとりした充実感に満たされて,はるか彼方のわが陋屋をめざして,錦糸町駅に向かったというわけでした。
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