2015年2月7日土曜日

2015.02.07 オーケストラであそぼ!! アフタヌーンコンサート

矢板市文化会館 大ホール

● 開演は午後2時。チケットは1,500円。演奏したのは東京ミュージックランドオーケストラで,指揮は一村誠也さん。
 団員は一村音楽企画株式会社の社員でもあるらしい。オーケストラに株式会社の網をかぶせているところがあるのを,今回初めて知った。
 こういうやり方もあるのかと蒙を啓いてもらった感じ。知ってみれば,当然ありだよなぁと思うんだけど。

● 一村音楽企画のホームページには,社是というか基本方針が掲載されている。「クラシックのコンサートなのに「楽しかった!」-もっと身近にクラシック」ということだ。

 クラシック音楽を,周りの人と和気藹々と,息をひそめずに楽しむ――想像したことがありますか? 私たちはそんなコンサートを提案しています。
 赤ちゃん連れからご年配の方々まで,誰だって自分なりに楽しめばいいのです。 音楽というエンタテイメントを限られた人だけのものにしておくテはありません! その感動をすべての人に!
● コンサートの多くは「未就学児お断り」になっている。ファミリーコンサートと銘打って,乳幼児も迎えているのもあるけれども,極めて少数だろう。
 実際,普通のプログラムの演奏会は,乳幼児には負荷が勝ちすぎる。じっと聴いていろというのは無理な相談だ。
 未就学児にベートーヴェンの5番の生演奏を聴かせるのは,ほとんど拷問に近いのではないか。受忍限度をはるかに超える音圧が,容赦なく襲ってくるわけだから。

● さらに,クラシック音楽の場合,「エンタテイメント」よりも「芸術」として祭りあげられる度合いが高い。拝聴するという感じになってしまって,楽しむという地点に立てている聴衆は少ないかもしれない。もちろん,自省をこめている。
 作法もうるさい。昨今では,聴衆の早すぎる拍手をなんとかしようとオーケストラ側が啓蒙に取り組むなんていう動きもあるようだ。要するに,堅苦しい。
 かといって,作法なんか取っ払ってしまえばいいというわけにもいかない。

● 加えて,演奏する側にも聴く側にも,ある種の選民思想のようなものがありそうだ。自分は「芸術」を解する人間だぞ,的な。
 それやこれやで,なかなか厄介なところがある。

● 誰もが自分なりに楽しめる演奏を提供するのは,さほどに簡単なことではないように思われる。
 30分も40分もかかる交響曲を全部聴かせるのは難しいだろう。プログラムを工夫しなければいけない。今回の演奏会でもメドレーが目立ったけれども。

● 当然ながら,演奏水準を下げてもいいという話にはならない。逆だ。初めての人,馴染みのない人にこそ,圧倒的な水準の演奏を聴いてもらいたい。
 ずっとクラシック音楽を聴き続けるためには,初期に圧倒される体験をしておくことが必須ではないかと思っている。初めて聴く人に下手な演奏を聴かせるのは,クラシック音楽嫌いを作っているようなものだ。

● 同時に,すでにクラシック音楽に馴染んでいる人をも楽しませるものでなければならない。ま,そういう人には,普通の演奏会に行ってもらえばいいか。
 とにもかくにも,誰もが自分なりに楽しめる演奏を提供するのは,脳みそがキリキリしだすくらいに難しいことではないかと思う。

● 今回の「オーケストラであそぼ!!」はかなり練られた回答だと思った。長く試行錯誤を重ねて,現在のパターンに辿りついたのだろう。
 演奏水準は,ぼくが言うのもなんだけど,かなりのハイレベル。

● シュトラウスの「春の声」から始まって,弦,木管,金管,打楽器ごとに,楽器紹介をかねた小曲の演奏。エルガーの「威風堂々」で締めて,第1部が終了。
 第2部は,吹奏楽ではよくあるバラエティー番組的というか,聴衆参加のお楽しみタイム的なもの。おおとりは,アンコールのラデツキー行進曲。

● 「花は咲く」に感激した。YouTubeでいくつか聴いたことはあったけれども,生で聴くのは初めてだった。ソプラノの峰岸由佳さんが歌った。それこそ圧倒的な説得力で,参りましたというほかはない状態になった。
 まず,東日本大震災というリアルが背後に控えていること。この曲がどこかに持っている叙情性。そして,歌唱。

● そのリアルに日常的に向き合わなければならなかった人たちではなく,安全地帯にいて,寝るところもあり食事の心配もない部外者に,この曲はより響くのだろうなと思う。部外者が,それでも前を向こうとする人たちに,何かを伝えようというのはおこがましいに決まっているんだけど,この曲を歌うことを贖罪にしているような。いい逃げ場ができた的な。
 ぼくも命はあったし,家族も無事だったから,部外者の一人なんだけど。

● というようなことも思うんだけども,この曲には抗しがたいっていうか。
 しかも,あの声で歌われたのでは。

● 聴衆へのサービスが徹底している。株式会社だからというわけでもあるまい。主催者(矢板市教育委員会)もずいぶん楽だったのではないかと,余計なことを思った。
 曲の合間に入る,一村さんのトークが巧いことにも一驚。反射神経がいいんだろうな,流れが切れない。緩急も自在。
 場数を踏んでいるからだと言ってしまうとそれまでだけど。

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