すみだトリフォニーホール 大ホール
● 開演は19時。終わるのは21時を過ぎるはずだから,この時間帯だとぼくは聴きに来れない。来れなくはないんだけれども,その日のうちに自宅に辿り着けなくなる。東京か宇都宮に1泊しなければならない。
が,この日はたまたま東京に遊びに来てて,今夜は都内のホテルに泊まる。ので,終演時刻を気にすることなく,客席に座っていることができる。
当日券で聴くことにした。その当日券は1,000円(前売券なら500円)。
● 曲目は次のとおり。オール・ロシア。指揮は三河正典さん。
リムスキー=コルサコフ スペイン奇想曲
ストラヴィンスキー バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)
リムスキー=コルサコフ 交響組曲「シェヘラザード」
● この楽団の演奏は何度か聴いている。したがって,腕の程はわかっている。このレベルになると,ぼくの耳ではプロオケとの違いが識別できない,ということも予め承知している。
要するに,水準の高さは折り紙つきだ。多くの人がそう思っている。だから,客席はほぼ満席になる。あんまりガラガラだとかえって落ち着かなくなるけれども,ほどよく空いていてくれた方が,まぁ何というのか,疲れは少なくてすむわけだが。
ここは,しかし,満席を言祝ぐべきだろう。これほどの演奏なのだからね。
● 「スペイン奇想曲」の最初の一音で,マイッタした。あとはお任せします,という気分になる。
いや,煩悩に生きるぼくは,ステージから届く音楽を聴きながらも,俗世のつまらぬことが次から次へと浮かんできて,気がついたら交響曲の第1楽章が終わっていたなんてことがしばしばあるのだ。ずっと演奏に集中していられることは,そんなにあるものではないのだ。
● 「火の鳥」は決して奔放な曲ではないけれど,奔放に流れやすい曲ではあると思う。が,この楽団の演奏は見事に統制がとれているのだった。
しかし,窮屈さは感じない。“統制”に合わせるために汲々としているわけではない。そんな部分は皆無だ。
余裕がある。リラックスを維持している。したがって,演奏全体が柔らかい。
● 「シェヘラザード」に限らず,今回の3曲は3曲とも,コンマスなり各パートの首席のソロが頻繁に登場する。とりわけ,「シェヘラザード」でのコンマスのヴァイオリン独奏は印象的だ。
命がけで王に対する劇中のシェヘラザードを象徴しているわけだろうから,この曲に関してはコンサートマスターは女性であってほしいと,下世話にも思わないわけでもない。
が,コンマスの独奏はあくまでさやかに,凜とした高貴さをたたえたシェヘラザード(彼女は救国のヒロインでもあるわけだ)を連想させた。
● アンコールは次の2曲。
グラズノフ 「四季」から“秋”
グリンカ 「ルスランとリュドミラ」序曲
このアンコールを含めて,聴き応えがないものはない。これほど使いでのある1,000円はそうそうあるものではない。
彼ら彼女らの多くは,小さい頃から楽器の練習が生活のかなりの部分を占めていたに違いない。この演奏を1,000円(前売券なら500円)で聴くのは,何だかその上前をハネているような気分になる。
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