2021年4月30日金曜日

2021.04.24 スコペルタフィルハーモニー交響楽団 第1回定期演奏会

江戸川区総合文化センター 大ホール

● 新小岩駅。この駅で降りるのは生涯でたぶん3度目。駅前のカオス状態が気持ちいい。
 駅前に関しては飲食店はチェーン店が席巻している。これはまんま地方都市。が,ルミエール商店街に入っていくと様相が違ってくる。個人商店街だから。
 このアーケードを歩いている途中で,葛飾区から江戸川区に入る。川や峠が境だという思い込みが強すぎるんだろうか,アレッと思ってしまう。区境がたぶんに人工的なものでもあるんだろうけど。

● 新小岩駅から歩いて,着いたところが江戸川区総合文化センター。ここにくるのは,たぶん二度目。
 写真からは閑静なところにあると思われるかもしれないが,基本的に新小岩駅からのカオスが続いている。ぼくの目の前を幼児を乗せた自転車が横切って,ギクリとする。歩行者と自転車が入り混じって通行している生活路を,車がスピードを落とさずに走り抜けていく。
 これで人と自転車と車の3者が共存しているのだから,自ずからなるバランスが存在するのだろう。不思議なところだ,葛飾と江戸川。

江戸川区総合文化センター内部
● ここに来た目的はスコペルタフィルハーモニー交響楽団の立上げ公演を聴くこと。“東京藝大生×若手アマチュア” と前冠(?)が付いているのだが,指揮者と首席奏者を藝大の現役生が務めているらしい。
 彼等がトレーナーをも兼ねていて,練習から本番まですべての過程に参画するという形で運営している。

● 開演は19時。チケットは1,000円。当日券もあったようだけども,原則は事前予約制。事前に申し込んでいた。電子チケットで入場。
 曲目は次のとおり。指揮は村上史昂さん。彼も藝大の学生であるわけだ。「“狂想-共創” 的断章」の作者である天野さんも藝大作曲科の現役生。
 フンパーティンク 歌劇「ヘンゼルとグレーテル」序曲
 天野由唯 “狂想-共創” 的断章
 ベートーヴェン 交響曲第5番

● ベートーヴェンの5番は第4楽章の勝利宣言が白眉なのだろう。遺書まで書いたベートーヴェンが,それでも人生は生きるに値すると全力で謳いあげるところ。
 釈迦が臨終に際して,アーナンダにこの世界は美しいと告げる場面がある(釈迦が本当にそう言ったのではなく,後世の人たちが言わせたのだと思うのだが)。この世は苦だと喝破し,その苦界をどう生きればいいのかを考え抜いた釈迦が,最後にこの世界は美しいと言う。
  アーナンダよベーサーリーは楽しい
  ウデーナ霊樹の地は楽しい
  ゴータマカ霊樹の地は楽しい
  七つのマンゴの霊樹の地は楽しい
  タフブッダ霊樹の地は楽しい
  サーランダ霊樹の地は楽しい
  チャーパーラ霊樹の地は楽しい

● その釈迦の境地にベートーヴェンも至ったものだろうか。釈迦の境地を音楽に翻案すればベートーヴェンの5番になるんだろうか。
 その境地は力に満ちている。もっと言うと娑婆っ気に溢れているようにも思われる。娑婆っ気が艶となり,この楽曲の潤いになっているように感じる。
 逆にいうと,アーナンダにこの世界は美しいと告げたときの釈迦もまた,力に溢れていたのかもしれない。成熟を重ねてきれいに枯れた末の境地なのではなく。

● ベートーヴェンのその心情を思えば,ここで泣かなければ人じゃない(?)。しかし,CDで涙は流れない。カラヤンのベルリンフィルでも,カルロス・クライバーのウィーンフィルでも。
 けれども,生演奏だとそこのところが切々と伝わってくる。今回のスコペルタの演奏は,タメにタメた力を一気に解放したような,思い切りよく弾けたような。若さが持つ力だろう。

● 苦悩を通して歓喜に至るとか,暗から明へといわれるけれども,苦悩や暗にも実が詰まっているところが,ベートーヴェンの魅力。そうしたことをヴィヴィッドに示してくれる演奏だったと思う。
 とりわけコンミス(彼女も藝大の学生さん)のコンミスぶりがお見事。要するに,相当な使い手なんですよね。

● 東京は明日から緊急事態宣言下に置かれる。この演奏会が明日の予定だったら開催できたろうか。際どかったねぇ。
 今日の新小岩駅前のカオスも,明日から百貨店が休業するのを受けて,自衛に走った人たちが作ったものかもしれない。黄金週間を前に,ヤレヤレの週末となってしまった。

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