宇都宮市文化会館 大ホール
入場料は1,500円。しかし,この演奏会から受け取れるものは1,500円どころの騒ぎではない。ひょっとすると,県内で味わえる最上質のエンタメはこの演奏会かもしれない。年2回の安定供給も保証されている(たぶん)。
遠慮なく味わうべし。ぼくは作新学院とは縁もゆかりもない人間だが,何も問題はない。お金を払ってチケットを買っているんだしね。
● あいにくの春の嵐で(気温もだいぶ下がった),これじゃ客足も鈍るのじゃないかと思った。会場に着いたら長い列ができているのが常のところ,そんな列など見当たらなかった。
やっぱりなぁと思いながら会場に入ってみると,ぼくが勝手に定席にしている2階右翼席には空きがなかった。ずいぶんウロウロして,2階のかなり後ろの方に座った。
要するに,天気は関係なかったってことね。ぼくが出遅れただけだった。
● 音楽には力がある,という言い方は正確ではない。力を吹き込む演奏者がいて,初めてそれが現実化される。演奏者に力がなければならない。その力がある奏者たちだ。個々のメンバーの技量が高い。しかも,巧いというにとどまらない。巧さに “+α” が備わっているように見える。
中学生の精鋭が吹奏楽をやりたいからという理由で,作新を選んで入学してくるのだろう。受験界でいう単願,県立高校は受験しないで入学した子が多いんじゃないかと思っている。
● この3年間,コロナ禍でこうした演奏会は多くが中止になった。東京では抵抗する姿勢を見せる楽団がプロアマを問わずあったと思うが,地方ではことごとくコロナの顔を立ててしまった。
そうした中にあって,この学校では2020年秋の定期大会,21年春のフレッシュグリーンコンサートを開催している。両方とも聴きに言っているのだが,コロナ感染に配慮しつつと言いながら,わりと大胆な開催の仕方だったと記憶している。
座席はほぼすべてを使っていたし,規模を縮小するといったことも敢えてしていなかった。入口に消毒液を置くとか分散退場といったところで,配慮しましたよという形を作ってはいたが。
● 大変な決断だったろう(上層部もよく認めたものだ)。それでクラスタが発生したとは聞かないし(発生するはずがないと思ったので,ぼくも出かけて行ったわけだが),今から振り返れば正しい判断だったことになる。が,あの状況でよく開催するという決定ができたものだ。
おかげで,この学校の生徒は機会逸失が最小限度ですんだ。それやこれやがあって,絶対王者が存在する。
● 第4部の野球応援ステージでは「アフリカン・シンフォニー」も「オペラ座の怪人」も登場するのだし,第3部のドリルでは「ムーンライト伝説」や「ジュピター」も演奏された。全部で何曲演奏したのか数えた人はいないだろうが,相当な数になる。
ドリルの絵は誰が作るのだろう。デザイナーは誰だ? 吹奏楽とはこういうものという模範解答を見る思いがする。吹奏楽の可能性を余すところなく披露して見せてくれるというかね。
● 1つ挙げると,第2部で演奏されたチック・コリア「スペイン」だ。CDは Chick Corea Trio のものしか持っていないのだが,昨年,“ジャズ六重奏とオーケストラのための” バージョンを聴く機会があって,聴いたらビックリした。まったく別の曲だった。吹奏楽版もしかり。
逆に,吹奏楽版だけ聴いて,これが「スペイン」だと思っちゃいけない。いけないのだが,吹奏楽版を聴くならこの演奏会に足を運ぶのがいいだろう。定番の曲目になっている。
この先もこの曲を演奏会の定番から外すことはないと思うのでね。っていうか,思いたい。
● ステージ上の生徒さんは濃密な3年間を送ることになる。卒業後も多くの人は,吹奏楽かどうかは別として,楽器を自分の一部にして生きていくのだろうが,これほど濃密な時間を持つことは,おそらくないだろう。
“人生は死ぬときまでの暇つぶし” だとしても,こうした数年間を持っているのといないのとでは,暇のつぶし方の巧拙に大差が生じるかもしれない。
ただし,いかに濃密な3年間を過ごせたとて,まさかという坂がない人生はあり得ない。落とし穴が潜む。心されたし。心したからといって防げるわけではないのが厄介なんだが。
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