2015年5月7日木曜日

2015.05.06 宇都宮南高等学校吹奏楽部第7回定期演奏会

宇都宮市文化会館 大ホール

● 一昨年に続いて,二度目の拝聴。開演は午後2時。入場無料。
 一昨年は男子生徒はゼロだったのに対して,今回は36人中2人が男子だった。女子しかいないと何か困ることがあるかといえば,たぶん,それはないんだと思うけれども,たとえ少数とはいえ男子がいると,何がなしホッとするところがある。
 ぼくが男だからか。そういうわけでもないと思うんだけどね。

● 第3部ではラヴェルの「ボレロ」を演奏。こういう曲を演奏してノーミスで通せたら素晴らしい。躓きの元がそちこちにある。
 高校生にとっては挑戦だったと思う。善戦していたと思いました。

● 挑戦だとすれば,ノーミスで通すよりも,もっと大事なことがあるのかもしれない。演奏する側にしかわからないこと。
 ぼくとしては,脳天気に,まず曲に負けないことだね,とか言いたくなる。曲に圧倒されないこと。オズオズと曲に対さないこと。
 といっても,この曲に対するに,そういう姿勢を取れる人なんているのか,っていうことだよね。

● 「オペラ座の怪人」は楽しそうにやっていたように見えた。それが一番だ。これをトリに持ってきたのは正解だったと思う。

● 第1部ではラフマニノフの「交響的舞曲」も演奏した。第3楽章のみだったけれども,「ボレロ」といい「交響的舞曲」といい,クラシックの正統派を揃えてきた感じ。
 こうした選曲って,吹奏楽ではわりと見かけない。とにもかくにも,これらを形にできるっていうのは,基礎体力には問題がないってことですか。

● 吹奏楽に必ずあるのが課題曲の演奏ですね。コンクールの課題曲ね。コンクールがいくつもあるようなんだけど,これ,功罪の両方があるんだろうな。
 高校吹奏楽の指導者層の間にも,コンクールの是非については賛否両論あるのじゃないかと推測する。いや,両論だけじゃなくて,百花繚乱的な意見があるのかもしれない。

● 一部の曲は,顧問の先生ではなく,佐川聖二さん(元東京交響楽団首席クラリネット奏者)が指揮した。佐川さんの指導をどのくらいの頻度で受けているのかわからないけれど,学校側も力を入れているんだろうか。そうそう予算はないと思うんだけどね。
 ただ,佐川さんの背中を見るだけでも上達する年齢なのかもしれない。高校生って。

● 司会者もいて,CRT栃木放送アナウンサーの福嶋真理子さん。ご自身も音大でトロンボーンを専攻していた。さすがに詳しい。
 うるさくならない程度に蘊蓄を披露していた。

● 惜しむらくは,客席がやや閑散としていたこと。ステージでこれだけの演奏をしているのに,客席がこれだけなのはなんでなんだろ。
 部員が36人と少なめであることですか。それもあるにしても,それだけでもなさげだな。ちょっともったいない。

2015年5月6日水曜日

2015.05.04 第20回マーキュリーバンド定期演奏会

宇都宮市文化会館 大ホール

● 3年連続で3回目の拝聴となる。開演は午後2時。入場無料。

● 20回目の今回,持ってきたのはバーンスタインの“シンフォニック・ダンス”。これが聴きたくて出かけていったというわけなんだけど,ではこの曲好きなのかと問われると,どうも回答に窮するところがある。
 今年の2月にオーケストラで聴いている。で,気にはなった。けれども,とっつきにくいとも思った。何これ,雑音じゃない? と思う人もいるかもしれない。

● プログラム・ノートの曲解説によれば,「クラシック,ジャズ,ポピュラー・ミュージック,ラテン音楽などが混合されており,ラテン音楽の打楽器が数多く使用」されている。
 っていうか,指パッチンまで使われているからね。
 同じくプログラム・ノートの団長あいさつによれば,この曲は「とてもリズムが楽し」いということ。

● ジャズとかラテン音楽までカバーしてないと聴いても楽しくないってこと?
 そんなはずないだろ。好き嫌いはあるにしても,事前学習を要求するような音楽だったら,あんなにヒットするはずがない。

● ゴチャゴチャ言ってないで,とにかく聴いてみろってことだね。
 いかにもアメリカだなと思った。そのアメリカ的なるものっていうのは,こっちが勝手に作りあげたイメージでしかないわけだけど。
 あまり小難しく考えないノーテンキさ(のようなもの)も感じるし,空間の広がりも想像しようと思えば想像できるし,ごった煮的に何でもあるという印象も受けるし,細かい木理より展開の起伏を大事にしているようでもあるし。
 要するに,聴く側の勝手な想像を許容する懐の深さがある。

● おそらく,この曲を聴くについては,ミュージカルの舞台を(DVDでいいから)観ておいたほうがいいんだろうな。舞台の設え,俳優の動きやセリフのタイミング,そういったものを踏まえて聴くと,音楽の背景が具体的にわかるだろうから。
 もっといいのは,そこまで脳内で生成できる能力があることだけどさ。

● といっても,この“シンフォニック・ダンス”は,「ウエスト・サイド・ストーリー」の組曲版のようなもので,舞台からいったん切り離して,音楽だけで自立させている。
 舞台を観ておかないとっていうのも,ちょっと筋違いかねぇ。

● ともあれ。“シンフォニック・ダンス”だけで観客を放りだすようなことをマーキュリーバンドはしないわけで,第2部でちゃんと救いの手をさしのべてくれる。
 で,ぼくのような者でも,帰るときにはそれなりに折り合いがついた気分になることができる。

2015年5月4日月曜日

2015.05.03 宇都宮北高等学校吹奏楽部第29回定期演奏会

宇都宮市文化会館 大ホール

● 4年連続で4回目の拝聴。ぼく的には,黄金週間の定例行事になった感がある。
 開演は午後1時半。チケットは800円(前売券の自由席)。

● 生徒さんたちが全力でステージを作っていることは,直截に伝わってくる。これはもう,ビンビンと言っていいほどに。
 ならば。
 こちらも全力で聴き,全力で観なければならない。耳と目をカッと見開いて,入ってくる情報のすべてを受けとめなければならない。
 自分にそれができるかどうかは別問題だ。現に,現時点ではできていない。
 が,心構えはそうありたい。

● 恒例の3部構成。
 まず,第1部。プログラムは次のとおり。
 ショスタコーヴィチ 祝典序曲
 久石譲・木村弓 Spirited Away
 ストラヴィンスキー バレエ組曲「火の鳥」より“序奏”,“王女たちのロンド”,“魔王カスチェイの凶悪な踊り”,“子守唄”,“終曲”。

● 選曲に衒いや小細工はない。演奏もまた同じ。
 直球勝負の「祝典序曲」で客席を掴む。高校生がちょっと背伸びをして(していないのかもしれないけど)大人の演奏をする。自分が聴きたいのはこういう演奏なんだと気づかされる。

● 「火の鳥」ではホルンの1番奏者(という言い方をしていいんですか)が印象的。捌きの見事さ,見た目の美しさ。
 終演後,指揮者もまっ先に彼女を立たせて,客席に紹介した。むべなるかな。

● 「火の鳥」って,相当に難易度が高いと思うんだけど,きっちり形にしてくるのはさすがというべきでしょうね。
 以上を要するに,北高クォリティは健在である,と。

● 第2部はマリンバの安倍圭子さんを招いて,安倍さんが作曲した「The WAVE」(独奏マリンバと吹奏楽の為の小協奏曲)を演奏。
 安倍さんが語ったところによると,この曲を作るにあたって念頭にあったのは,世界で進んでいる自然破壊であったらしい。このままでは地球はダメになる,と。それに心を痛めていた,と。

● ではどうすればいいか。人間の叡智を信頼して,次世代に託す。
 ん? それって,解決を放棄して,問題を先送りしようってこと?
 といっても,市井の人間に具体的に何ができるのかってことになると,祈ることしかできないというのは,しごくまっとうな結論ではある。国内ならともかく,よその国のことであればなおさら。
 ともかく,その祈りを曲にした,ということだった。

● 曲の動機になったのは,そうした思いであったとしても,動機とできあがった作品は別物だ。問題は作品であって,作曲者の動機や思いではない。
 でね,動機はありふれたものであったとしても,そこから素晴らしい作品をものするのが,芸というか才能というか。

● 安倍さん,かなりの御歳と見受けられるんだけど,彼女の演奏が始まったとたん,そこから目を離すことができなくなった。
 というと,不遜な言い方になるかもしれない。目を離すことを許さないという感じね。一流とはこういうものかっていう,オーラというのか気迫というのか,それがドバーッっと放出される。
 ぼくの小賢しい理屈など一発で吹き飛ばされる。

● ところで。安倍さんにインタビューした女子生徒がアナウンサーばりの声の持ち主だった。プログラムノートにも「口を開くと見た目を裏切るアナウンサーのようなvoiceが飛び出します」と紹介されているんだけど,まったくそのとおり。
 声だけじゃなくて,発声の流れも天然なのか研究したのか,アナウンサーのそれ。いろんな生徒がいるんだねぇ。

● 第3部は,今年は「サウンド・オブ・ミュージック」。自分たちも楽しみながら,観客を楽しませようということですか。
 「自分たちも楽し」んでいるように見えたんだけど,そう見せるのも芸のうちなのかなぁ。

● トランプ大佐役の女子生徒がどうしたって人目をひく。男装の麗人的なイメージ。
 宝塚だって,娘役より男役のほうが人気がでるんでしょ。これ,わりとお得な役回りだよね。

● この演奏会の特色のひとつは,他校の生徒がかなりの数,聴きに来ていること。ぼくの後の席にも,宇都宮市内の女子高の生徒が何人か座っていた。
 彼女たちの口は休憩ということを知らないね。それこそ休憩時間はずっと喋りっぱなし。何だかね,恐怖に似たものを感じてしまったんですけどね。絶対,俺,勝てねえぞ,っていうね。

● この学校の演奏会は,いきなり演奏から始まる。演奏で終わる。演奏以外のものはステージに登場しない。
 演奏会には演奏以外のものはあってはならないとぼくは思っているんだけれども,なかなかそうもいかないという事情があるだろう。
 が,ここは演奏以外の雑音(たとえば,校長あいさつ)はステージに乗せない。演奏にすべてを語らせる。その潔さがいい。もって範とすべき例ではないかと思う。

2015.05.02 矢板東高等学校合唱部・吹奏楽部 第12回プロムナードコンサート

矢板市文化会館 大ホール

● この高校がプロムナードコンサートと銘打った定期演奏会を開催していることは,前から知っていた。なかなか行けないでいたんだけど(他のコンサートと重なったりしてね),今回,初めてお邪魔することができた。
 開演は13時30分。入場無料。

● 会場は矢板市民会館の大ホール。言っちゃなんだけど,このホールにこれだけのお客さんが入るのは滅多にないような気がするね。
 過半は学校関係者だったと思う。そうだとしても,相当な賑わいと華やかさがあった。

● 内容は3部構成。第1部は合唱部。コダーイの「Adventi ének」で始まった。
 まず感じたのは駒の少なさ。特に男声はテナーが2人,バスにいたっては1人しかいない。男声が少ないのはどこでも同じだと思うんだけど,さすがにこれは,っていう。
 1学年4クラスと生徒数もさほど多くないらしい。やむを得ないところでしょうかねぇ。

● が,少ないからダメだってことでもなくて,少数精鋭なのだともいえる。少数精鋭にしたければ,精鋭を少数集めるという発想ではダメで,少数にしてしまえば自ずと精鋭になると考えるのが現実的だ。
 とはいうものの,女子10人に対して男子3名では,女圧(?)に抗するのもなかなか難しいだろう。特にソプラノはかなりの水準にあるようだったしね。

● と思うんだけど,見ているとそうでもないようなんだよねぇ。3人ともわりと闊達にやれている感じがした。
 今の高校生のビヘイビアを昔と同じに考えてはいけないのかもしれない。ひょっとして,女子を女子として意識していないのか。高校生の年齢でそれはあり得ないと思うんだけどね。

● 第2部は吹奏楽。客席を楽しませる,盛りあげることに照準を合わせているようだった。その狙いは120パーセント達成されたろう。
 人を楽しませるって,それ自体が楽しいんでしょうね。であれば,こちらも思いっきりはじけてあげるのが礼儀というものだ。なかなか礼儀どおりにはできないんだけどさ。

● ぼく的には,最後にOB・OGも入って演奏した,樽屋雅徳「ノアの方舟」が最も印象に残った。音に厚みがあった。曲調に乗った音のうねりも力がこもったもので,何より聴いていて気持ちが良かった。
 できうれば,こういう曲,もう少し聴かせて欲しかったかな,という。

● それと,忘れてはいけないのが,付属中の生徒が演奏した,福田洋介「The Phoenix Spirit」。
 吹奏楽って,だいたいどこでもフルートは巧いんだよね。フルートが下手なところってそんなにないような気がする。この演奏でもフルートは達者が揃っていた。
 オヤッと思ったのはホルンを吹いていた女子生徒。たぶん経験はそんなに長くはないんじゃないかと思う(中学生だしね)。でも,あの難しい楽器を上手に操っていた。捌きがサマになっているっていうか。

● 彼らがこれから高校生になっていくわけだ。となると,楽しみだね。県北に吹奏楽の名門が誕生するやもしれぬ,と思わせるものがあった。
 付属中の1期生はすでに高1になっていて,その1年生部員が20名を超えているようだから,陣容は整いつつあるのかもね。

● 第3部は,両部合同で「ライオンキング」。吹奏楽部はピットで演奏し,合唱部が舞台で歌う。さすがにダンスはない。
 高校生たちが客席に懸命のサービス。こちらはその一生懸命を受けとめればいいだけだ。
 が,ここでも,中年男にはそれがなかなか難しいんだな。たぶん,劇団四季のミュージカルも女性客が圧倒的に多いのではないかね(ぼくは行っていない)。

● ちなみに,この劇で一番目立っていたのは,スカー役の女子生徒。演技上手。大人びていた。
 ひょっとすると,悪役ってやりやすいんですか。テレビのドラマなんかでも,はすっぱな女性の役って,誰がやってもだいたいはずさないっていう印象があるんだけどね。
 ともかく。こういう場では目立ってなんぼだ。

● 高校生のパワーってかなりすごくてね。受けとめきれないというか,受けとめる術を持ち合わせていないというか。
 1時半に始まって,終演は5時近かった。合唱と吹奏楽の合同演奏とはいえ,これだけの時間をちゃんともたせるんだから,天晴れと言っていいと思う。

2015年4月27日月曜日

2015.04.26 宇都宮ジュニア合奏団第34回定期演奏会

栃木県総合文化センター サブホール

● この合奏団の演奏を聴くのは,今回が3回目。レベルの高い若き職能集団という印象。
 中2から高3のAオケと小5~中1のBオケがあるんですな。女子が多いんだけど,圧倒的多数というわけでもなく,男子もそれなりの数,在籍している。

● まず,Bオケがヴィヴァルディを演奏。「調和の幻想」の第2曲(2つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲)。
 若きコンマスが目を引いた(コンマスは途中で交代した。そういう習わしなんですか)。足の開き方,演奏前に隣の奏者と談笑する様子。そういう様が大人のオーケストラのコンマスとほとんど変わらない。
それがほほ笑ましい。
 いや,ほほ笑ましいと表現すると,彼に失礼だろうな。このステージにおいては,彼は立派に一個の紳士であるのだから。

● 次はA,B合同で「四季のうつろい」(並木厚信・栗原邦子編曲)。日本の唱歌を四季の順に並べて,日本の季節を器楽で表現しようとするもの。
 これだけの大人数で演奏しても,ノイズが混じらないのはたいしたものだと思った。
 けれども,こういったアレンジ曲って,概してつまらない。

● つまらないと感じる所以のひとつは,歌詞が脳内に浮かんでしまうことだ。“こいのぼり”にしても“小さい秋見つけた”にしても,たちどころに歌詞が登場してしまう。
 これが,曲を聴く邪魔をする。曲と詞が勝負すると,たいていは詞が勝つ。詞のほうが脳内でより大きな面積を占めるように思える。

● 休憩をはさんで,3曲目は,Aオケによるチャイコフスキー「弦楽セレナード」。
 プログラムノートの解説によれば,「(チャイコフスキーは)モーツァルトをとりわけ崇拝しており,この曲も,モーツァルトへの敬愛から書いたもの」とのこと。

● が,モーツァルトの軽快かつ洒落たセレナードに比べると,シリアスでズッシリした印象が残る。ロシアの特徴というわけでもないんだろうけど,ここから交響曲にもっていくのは,さほどの距離を要する作業でもないように思える。
 「複楽章による大規模な合奏曲」を特に(セレナーデではなく)セレナードと呼ぶことがあると,Wikipediaが解説している。少なくとも,これに小夜曲という日本語をあてることには抵抗を感じる。

● 演奏する側に言わせれば難しい曲であるに違いない。しかし,この若き職能集団にかかれば,整った形にされて客席に差しだされるわけだ。
 が,優雅な白鳥も水面下では必死に足を動かしているわけで,この合奏団の彼ら彼女らも,スマートに演奏しているように見えたけれども,じつのところはいっぱいいっぱいだったのかもしれない。

● いや,いっぱいいっぱいだったのだと思う。余裕綽々の演奏(そういう演奏を聴いた経験は,たぶんないと思うのだが)より,いっぱいいっぱいでギリギリ水面に顔が出ているくらいのほうが,客席に届くものは多くなるのではないか。豊穣になる。緊張感であったり,懸命さであったり,ある種の危うさ(ハラハラドキドキ)であったり。

2015年4月26日日曜日

2015.04.19 フレッシュアーティスト ガラ・コンサート

栃木県総合文化センター サブホール

● 栃木県ジュニアピアノコンクールとコンセール・マロニエ21の前年度の優勝者を迎えて行われるコンサート。入場無料。開演は午後2時。
 ただし,今回は構成が変わっていた。昨年までは栃木県ジュニアピアノコンクールは大賞受賞者1名だけが登場してた。そのあと,コンセール・マロニエ21の前年度優勝者の演奏があって,さらに過去のコンセール・マロニエ21の優勝者をゲストとして招いていた。
 今回はジュニアピアノコンクールの年齢別優勝者が順番に登場。その代わり,ゲストによる演奏はなし。

● 前半はジュニアピアノコンクールの優勝者が登場。小学生が3人,中学生と高校生が1人ずつ。全員が女性。
 高校生の部の優勝者である吉原麻実さんの演奏が抜きんでていた。次の2曲。
 ラヴェル 「鏡」より“1.蛾”
 リスト ハンガリー狂詩曲第12番 嬰ハ短調

● 彼女のピアノは先月も聴かせてもらっている。大人の演奏という感じ。色香が載っている。色香のないピアノなど誰が聴きたいと思うものか。
 この場合の色香って,壇蜜的なそれじゃなくて(壇蜜的なるものも,大変にけっこうなものだけど),奏者が男性の場合でも同じだ。
 前に,90歳を過ぎているメナヘム・プレスラー氏の演奏を聴いたことがあるけれども,ほのかに伝わってくる色香がたしかにあった。

● 別の言葉に置き換えてみようか。お茶目さ,奔放さ,闊達さ,技術を濾過した透明感。
 いや,やっぱり色香といったほうが一番シックリくるようだ。

● 後半は,コンセール・マロニエ21の優勝者。まずは,弦楽器部門で優勝したコントラバスの白井菜々子さん。次の2曲。
 ポッテジーニ タランテラ
 ポッテジーニ カプリッチオ・ディ・ブラブーラ

● 昨年のコンセール・マロニエ本選も聴いている。そのときとは,白井さんの佇まいが変わってましたね。
 まぁ,コンクールのときと,今回のような凱旋公演で佇まいが違うのはあたりまえではある。ところが,まったく変わらない人も時にいるのでね。前回,ピアノで登場した青木ゆりさんがそうで,彼女はコンクールのときからふてぶてしいほどに落ち着き払っていた(ように思えた)。
 でも,ま,青木さんのような人は少数派でしょ。

● でね,ぼくは昨年の弦楽器部門の審査結果に,若干の違和感を持ってましてね。審査結果を知ったときには,ちょっと驚いたんですよ。
 でも,自分に何がわかるのかって思うし,専門の先生方の判断に異議申し立てをするつもりはまったくないんですけど。

● 今回,白井さんの演奏を聴いて,やっぱり先生方は正しかったのだなと思いましたよ。
 コントラバスだから,右手の弓遣いや左手の弦の押さえ方が正面から見える。どうすればこういうふうにできるようになるんだろ,と思った。
 同時に,ぼくなんかが見ると,同じようにできてる人がたくさんいる。それらの人たちと彼女と,何が違うんだろうなとも思った。
 そこのところをね,きちっと言葉に翻訳できるようになれば,聴き手として上級者ってことになるのかもしれない。ぼくは,聴き手としてまだ初級の域を出ていないんだなとも思わされた。

● ピアノ伴奏は百武恵子さん。このピアノも聴きごたえあり。前半に出場した少女たちに,百武さんのピアノをどう思ったか,訊いてみたい。
 ぼくなどが思いも及ばない方角の感想を聞くことができるのじゃないかなぁ。

● 声楽部門で優勝した高橋洋介さん。プログラムは次のとおり。
 スカルラッティ すでに太陽はガンジス川から
 ジョルダーニ いとしい私の恋人
 モーツァルト 「ドン・ジョヴェンニ」より“シャンパンの歌”“セレナーデ”
 ロッシーニ 「セヴィリアの理髪師」より“私は町の何でも屋”
 プッチーニ 「エドガール」より“この恋を,俺の恥を”
 レハール 「メリーウィドウ」より“おお祖国よ”
 ヴェルディ 「ドン・カルロ」より“おおカルロ,聞いてくれ”

● つまり,大盤振る舞い。高橋さん,試してみたいことがいくつかあったんだろうか。そういう気配は感じなかったんだけど。単純にサービスですか。
 こちらとすれば,もちろん,ありがたい話ではあるんだけどね。

● ピアノ伴奏は篠宮久徳さん。やっぱり,男性が弾いても,ピアノは色香(が大事)なんですよ。そう思った。

2015年4月14日火曜日

2015.04.11 邦楽ゾリスデン コンサート2015

宇都宮市文化会館 小ホール

● 主催者は「音楽の街 宇都宮をつくる会」。地元出身者や地元で活動している演奏家に依頼して,毎年1回,演奏会を開催してきたようだ。
 今回が13回目で,かつ最終回。13年も継続してきたのだから,敬意を払われるべきだろう。資金や手間。なかなか容易ならざるところがあるだろう。

● 2年前は「宇都宮 パーカッション アソシエーション(U.P.A.)」だった。で,ぼくが聴くのは,それに次いで今回が2回目。

● その13回の演奏会で,邦楽ゾリスデンの登場は3回に及ぶとのこと。任せて安心というところがあるんでしょうね。
 ともかく。3月22日に続いて,また邦楽ゾリスデンの演奏を聴く機会を得ましたよ,と。

● スタートは3月にも聴いた「モザイクの鳥」(名倉明子)。
 曲の聴き方は聴き手の数だけあってしかるべきだと思うけど,ぼく程度の聴き手は,音から情景を描きだそうとする。浮かんでくる情景と勝手に遊ぶ。
 純粋に音の変化や重なりを音として楽しむのは,かなり難しい。ぼくの場合は。

● 情景を描きだそうとすることが作曲者の意図を追体験することになるとは,もちろん限らない。作曲者の意図は意図として,聴き手がそれに縛られることはないと思って,そうしているけど。
 プログラムノートに作曲者の意図は明確に述べられている。それを踏まえても,この曲の音から情景を描くのは,ぼくにとっては難解な作業だ。

● 2曲目は箏の独奏で,「翔き」(沢井忠夫)。3曲目は十七絃の二重奏で,「めぐりめぐる」(沢井忠夫)。
 このあたりは,黙って聴きやがれという曲。黙らせるだけの内実があるというか。しみじみと,あるいはしんみりと。

● 休憩をはさんで,「笹の露」(菊岡検校)。古典ということになる。箏,三絃,尺八というオーソドックス(かどうかは,じつはわからないんだけど)な構成。
 長く残ってきたのは,どこかで人の内面の琴線にふれるからに違いない。目を眩ませるとか,パンチを見舞うとか,そういった鋭角的なガツンとしたショックはないけれども,どっしりとした安定感がある。

● 次は,尺八と三味線の「枯山水」(山本邦山)。
 今回の演奏会で最も印象に残ったのがこの曲。ピンと張った一本の糸のような緊張感。緊張感は観客をして曲に集中させる。
 それが長く続くと疲れてしまうんだけど,長い曲ではないからちょうどほどよい疲れを覚えて,いい曲を聴いたという充実感が残る。

● 曲の前の本條さん(三味線)と福田さん(尺八)の掛けあいトークの効果もあったかもしれない。
 ふたりともトークの専門家ではないわけだけど,けっこうこういうステージで場数を踏んでいるんだろう,タイミングといい,切り返しといい,上手なんですな。
 本條さんが,実家は会場から歩いて2,3分のところで,実家から一番近い高校は宇都宮高校なんだけれども,片道1時間,自転車をこいで○○高校に通ったとか,宇都宮エスペール賞をもらえたのは市長が高校の先輩だったからだね,というような話は客席をホッとさせる。
 その直後の「枯山水」だったわけでね。

● 最後はTVテーマ曲メドレー。昨年の定期演奏会でも披露された。これは,客席へのサービス。邦楽を身近に感じてもらおうという趣旨に出るものだろう。
 もちろん,大いに盛りあがって,さらにアンコールは水戸黄門のテーマ。サービスにだめ押しをして幕。