2013年6月30日日曜日

2013.06.30 プラハ放送交響楽団

壬生町中央公民館 大ホール

● わけあって車が使えないので,東武電車で出かけた。壬生駅で下車するのは相当に久しぶり。確実に四半世紀はあいていると思う。要するに,用事がないわけだからね。
 東武の壬生駅は無人駅といわれても納得するくらいの建物。ふた昔ほど前の田舎の駅舎はだいたいこんなもんだったな,っていう。
 迷惑施設ですみません,とでも言いたげにひっそりと佇んでいる。もちろん,迷惑施設のはずなどないわけだが。

● 壬生って,町とはいえ,人口4万を数える。ただし,おもちゃのまちとか獨協医大とか,中心部から遠い北側がどんどん開発されて開けてきて,旧市街?は取り残された感がないでもない。
 お寺が多い印象がある。何といっても,慈覚大師円仁を生んだのは,この壬生の地と伝えられる。円仁の誕生寺というのは相当数あるけれど,彼が壬生の出というのは,学術的にも認められているところらしく,地元の誉れでもあるだろう。
 とはいえ。円仁に関心があるって人は,壬生にもそんなにはいないでしょうねぇ。最澄や鑑真に関心を寄せる人が,京都や奈良でも多くはないってのと同じ。
 昔は城下町でもあり,日光に向かう人たちの宿場町でもあった。その佇まいが比較的保たれているようにも感じられる。

● 城跡は壬生町城址公園として整備されている。中央公民館,歴史民俗資料館,図書館と,町の文化教育施設がここに集中している。
 で,この中央公民館が侮れない。ハード的にもかつての公民館というイメージではない。かなり質の高いコンサートが催行されることがある。

● 何だかんだいっても,栃木の中心は圧倒的に宇都宮であって,音楽の催事についても,県の文化センターと市の文化会館をチェックしておけば,まぁまぁ取りこぼしはない。
 のだが,重大な例外が3つある。那須野が原ハーモニーホールと足利市民会館と壬生町中央公民館だ。足利はちょっと遠いので,わかっていてもなかなか行けないわけだけど,壬生町中央公民館はネットでも情報を見つけることができずに,後で地団駄を踏む結果になったことが何度かある。

● 今回のプラハ放送交響楽団の来日公演も,栃木では宇都宮ではなく壬生町で行われましたよ,と。
 曲目は次のとおり。
  スメタナ 交響詩「我が祖国」より「モルダウ」
  ショパン ピアノ協奏曲第1番
  ドヴォルザーク 交響曲第9番「新世界より」
 よそでは,ピアノはスタニスラフ・ブーニンが演奏したようなんだけど(ピアノ曲ではなくて,ベートーヴェンの5番だったり,ドヴォルザークのチェロ協奏曲の場合もあったようだね),ここでは地元出身の佐藤立樹さんが登場。そのせいかどうか,チケットはS席で4,000円という破格の安さ。開演は午後3時。
 いや,終演後の感想になるんだけど,これで4,000円とは本当に安かった。

● ぼくには4回目の海外オーケストラ。奏者入場。背が高いのに感嘆。燃費,悪いんだろうなぁ。
 アメリカ人に対しては,味オンチの大喰らいっていうイメージを持っている。不味いものを大量に喰う。何が楽しくて生きてんだ,おまえら,って思う。チェコはどうなんだろ。

● しかし,「モルダウ」冒頭のフルートからボヘミアの風を感じた。陳腐な表現ですまない。それから,そもそもチェコには行ったことがないので,ボヘミアの風って体感したことがない。重ねてすまない。
 が,なんとも味がある。テーブルマナーは熟知しているけれども,ここはマナーどおりじゃない方がいいよね,こんな崩し方はどうよ,ってこちらが試されてる感じ。
 弦も,楽器の構え方から,身体の使い方から,奏者ごとにだいぶ違う。こういう演奏は見てて楽しい。もちろん,出てくる音がいいから,楽しいと感じるわけだけど。

● ショパンのピアノ協奏曲。オケとしてはお付き合いのつもりだろう。
 ソリストの佐藤さん,地元に生まれて,高校から慶応。慶応の法学部を卒業してからパリに留学して音楽修行。もっとも,大学でも法律の勉強は放っておいて,音楽に没頭していたに違いない。
 勉強も音楽も傑出していたんだろう。問題は,それが直ちに本人の幸せにつながるとは限らないってこと。
 本人としても,来し方をふり返って,いささか以上の後悔があるかもしれない(いや,ないかもしれないけど)。

● コンマスが交替して,ドヴォルザークの9番。
 何も言うことはない。これほどの演奏をぼくが聴いていいんだろうか。
 指揮はオンドレイ・レナルト。緻密に指揮をする。パフォーマンスじゃなくて。奏者も信頼を置いている。奏者はいずれも一騎当千のつわものたちだろうが,これほど指揮者を見て演奏している楽団はそんなにはないかも。といって,過ぎたるは及ばざるがごとしなんだろうけど,そこはプロで,過ぎてはいない。
 多くはない女性奏者,だいたい美人。ただし,遠目では。こういうものは遠目に限るよね。

● 残念だったのは,前の席に座っていた婆さんたちが(爺さんも),終曲後,直ちに立ちあがって,拍手の中を退出しだしたことだね。これが少なくない数いてね。それも揃って前の方に座っていたものでね。どうして,あと2,3分の我慢ができないかねぇ。それを惜しむほどに忙しくもあるまいに。
 アンコールはドヴォルザークのスラヴ舞曲(op.72)第7番。婆さんたちの退出がなければ,あと1曲くらいやってくれたんじゃないかなぁ。

● ところで,そのアンコール曲がスラヴ舞曲の7番だと気づくのにちょっと時間を要した。開演前にイヤホンを耳に突っこんで聴いたばかりだったにもかかわらず。
 目の前で展開される生演奏の臨場感と音量,迫力は,イヤホンを通して流れてくる曲とはまったく別ものだったので。

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