横浜市神奈川区民文化センター かなっくホール
● サカモトキネンオーケストラ,って。遊んでいるのはわかるんだけど,名前の由来がいまいちわからない。
プログラムに写真が掲載されている「アマオケ界のMr.Children」が坂本君で,彼にちなんでいるんだろうってところまでは想像が及ぶんだけども,彼の名を冠した具体的な理由というか事情がわかると,その遊びをこちらも共有しやすくなるかなぁ。
プログラムにも「サカモトキネンオーケストラとは・・・」なる解説があるんだけど,その辺の事情はやはりわからない仕組みになっていて。
● その解説に「熱い気持ちを一つ,勢いとノリに任せてみよう。どんな日頃のしがらみも忘れて,子どものように無邪気に遊んでみよう。そんな愉快で純粋な楽しみがサカモトキネンの掲げる唯一のコンセプトです」とある。
こういうのを純粋と呼ぶかバカと呼ぶかは,ほとんど言葉の問題だとしても,かなり羨ましいぞ。団員の平均年齢はだいぶ若くて,そんなに若いのにどんなしがらみがあるっていうんだよ,なんて言うつもりも全然ないぞ。
しがらみってやつも,量より質が厄介で,少なくとも当事者の主観においては,若いときほど,しがらみの質が大きく見えるものだろうしね。
● プログラムの団員名簿には,それぞれが属しているオーケストラまで紹介されている。Seven★Star Orchestraやアパッショナート管弦楽団をはじめ,それぞれが別なところで演奏活動をしている(してない人ももちろんいる)。
忙しいでしょ。上の「しがらみ」も,演奏活動絡みのものが多いのかなぁ。
● 開演前に木管のロビーコンサートならぬステージコンサートがあった。
浴衣で登場。これさ,女子の浴衣はいいんだけど,男子のそれにはちょっと目をそむけたくなるところがあってさ。何でだろうねぇ。長身細身だと浴衣って合わないのかもね。あるいは,たんに見慣れていないからってことかもしれないんだけど。
一般に,日本人男子は和服が似合わなくなってると思えますなぁ。これもたんに着慣れていないから?
● とはいえ,今年は浴衣姿のカップルを見かけることが多くなってますな。ユニクロ効果なんだろうか。和服回帰というほど大げさなトレンドではないんだろうね。
でも,海外に向いていた目が国内に向くようになっているのは,ときどき感じること。特に若い人たちにその傾向が顕著なように思う。
こういうのって,いいも悪いもないものだよね。ぼく一個は若者は常に正しいと思っているので,彼らに批判的な気持ちになったときは,自分のスタンスを疑うことにしている。正確にいうと,そうありたいと思っている。ま,なかなかできないでいるんだけど。
● かなっくホール,収容人員300人のこぶりなホールだけど,けっこういいホールっぽい。客席の勾配もちょうどいいし。
開演は午後1時半。入場無料。指揮者は河上隆介さん。
● 曲目はすごい。ベートーヴェンの2番をやったあと,モーツァルトのピアノ協奏曲第20番。締めはベートーヴェンの5番。
本番の演奏も浴衣でやるのかと思ったら,さすがにそうではなかった。女子が浴衣でどうやってチェロを立てるんだよ,ってことだもんな。チェロは全員が男性だったけど。ここ,男性が多い。珍しい。
● ぼくは5番よりも2番の方が印象に残った。なにはともあれ,巧いんですよ。
「子どものように無邪気に遊」ぶにしろ,「勢いとノリに任せ」るにしろ,それができるためには一定の技術の裏打ちがどうしたって必要で,それなしに勢いとノリに任せて遊んだら,ほんとに遊びになっちゃうもんな。演奏会にならない。
若さが放つ清新さと熱っぽさ,その背後の確かな技術。ひとつの理想型だと思う。
● 自らを「エロオケ」と称したりもするんだけど,基本的に行儀がいいんでしょうね。たぶん,頭もいいんだろうな。優等生っぽい。
優等生の世界における勢いであり,ノリであり,子どもであり,無邪気であり,純粋であり,熱であり,仲間であるんだろう。本物の不良が音楽を始めて,ガーッと上達して,ここと同じ水準の演奏会をやれたら,しばらく立てなくなるほどの驚愕すべき音の流れが客席を覆い尽くすんだろうけど,現実にはそういうことは起こらない。
だから優等生ではいけないということはもちろんない。これまたいいも悪いもないもので,優等生とは不良になる才能を欠いた人たちという定義もできるわけだから,その才能がなければ優等生にとどまるしかない道理だ。
● ただし,作曲家はたいてい不良だ。出自のいい不良もいれば,そうでない不良もいる。常人では耐え難いほどの苦痛や挫折を味わったりもしている。
ほかの職業にも就けたけれどもたまたま作曲家になったというんじゃなくて,作曲家しかなかったという人たちが多い(ように思う)。作曲という営為がなかったとしたら,野垂れ死んでいたか刑務所に入ったかっていうような。
その不良が残した楽譜を優等生が再現するという図式。過度に単純化しすぎているけれども,どうもそんなことなのかなぁ。
● モーツァルトのピアノ協奏曲のソリストは,江里俊樹さん。6歳からピアノを始めたそうだ。開成高校から東大医学部という絵に描いたような秀才コースを歩むかたわら,ピアノにも倦むことがなかったのだろう。
おまけに容姿も端正。驚くんだけれど,世の中にはこういう人がいる。天は二物を与えず,っていうのは本当だ。二物しか与えないなんてケチなことを天はしない。見込んだ人には三物も四物も与えるのだ(森博嗣さんの受け売り)。
現在は大学院に在籍。医学の世界の大学院って,授業料を払いながらこきつかわれるっていう,割に合わない身分でしょ。この人こそ忙しいに違いない。そこを縫って,コンサート活動を継続しているっていうのが,すでにして常人離れしている。たいしたものだなぁ。
● 弾き方も端正だと感じられた。女流ピアニストにしばしば見られるような(男性にもいるけれども),切なげな表情で情感たっぷり気に弾くっていうのがぼくは大嫌いで(第一,見た目が途方もなく下品じゃないか),江里さんのような弾き方はとても好ましいものとして,ぼくの目には映る。
● と,勝手なことを書かせていただいちゃいましたが,アマチュアの演奏でここまでのものって,そうそうはないと思った。こういう演奏こそ,聴けるときに聴いておかないと。
突然の書き込み失礼いたします。サカモトキネンオーケストラ事務局です。
返信削除このたびは演奏会へのご来場誠にありがとうございました!
メンバーがたまたまこのブログを見つけまして、読ませていただきました。
なんとも鋭い分析と申しましょうか・・・私たちの目指すところをご理解いただけていると感じました。
また、演奏面を評価いただき、何よりも嬉しく思います。
名前の由来については・・・サカモト氏本人に会っていただくのが早いかもしれませんね。
誰よりも無邪気にこのオケを楽しんでくれている人です。
次回の演奏会はまだ決まっておりませんが、開催できたときにはぜひお越しいただけましたら幸いです。
ありがとうございました!
長々とした文章をお読みいただき,ありがとうございました。
削除奏者の方からコメントをいただけるのは,とても光栄です。
ひとつのオーケストラを維持運営していくには,外野からはうかがうことのできない,いろんな苦労があるものでしょうけれども,そこを圧して「エロオケ」をまっとうされているのは,本当にすごいことだと思いました。
文中,失礼に及ぶ表現が散見されますが,どうぞご容赦ください。