2014年1月27日月曜日

2014.01.26 オペラ「夕鶴」

栃木県総合文化センター メインホール

● 佐藤しのぶさん主演のオペラ「夕鶴」の全国公演が宇都宮でも。
 指揮は現田茂夫さんで,ピットに入るのは東京フィル。市川右近さんが演出し,美術は千住博,照明が成瀬一裕,衣装が森英恵とビッグネームが並ぶ。このあたりに惹かれて,チケットを購入していた。
 S席で9,000円。プログラムは別売で1,500円。開演は午後3時。

● 1階は両翼席を含めてほぼ満席。2階席に空きがあった。S席から売れていったようだ。A席,B席との料金差が1,500円きざみだから,どうせならS席でとぼくも考えたけどね。
 S席が全席の過半を占めているはずだから,正真正銘のSと,Aに近いSではかなりの違いがある。さっさといい席を確保しておきましたよ,と。

● 出演者は「つう」の佐藤しのぶさんのほか,「与ひょう」に倉石真さん,「運ず」が原田圭さん,「惣ど」が高橋啓三さん。
 児童合唱は地元の宇都宮少年少女合唱団と上三川少年少女合唱団の精鋭たち。

● 9,000円以上のものを返してもらった感じ。佐藤さんの「つう」は何と言いますか,繊細でたおやか。舞台の背景画も細かく作りこまれていて,見応えあり。
 演者を見て,細かく動く背景を見て,ピットも見て,その合間に字幕も見なきゃいけない。けっこう忙しかった。

● ストーリーは大人のママゴトじゃないですか。ストーリーだけを取れば。
 鶴が手弱女に姿を変えてってのは別にしても,一緒に暮らしている男女がいつまでも仲睦まじくなんてあるはずがないじゃないですか。結婚は恋愛の終わりであって倦怠の始まりですよねぇ。
 私だけを可愛がって,私よりお金が大事なの,なんて奥さんが言うわけないもんね。一般論として言えば,男より女の方がお金好きだもんな。ガメツイもん。

● ということを自分に言い聞かせて,これは作り事なんだと思おうとしましたね。そうしないと,舞台で展開されるストーリーを受けとめるのが辛いんですよ。そのくらいのリアリティが客席に届くっていうかね。
 オペラっていう表現方式のすごさでしょうね。微細にリアルに届いて来ちゃうんですよねぇ。

● 物語の持つ普遍性とでもいうべきものの力もありますね。
 「つう」ははっきり女神なわけですよ。現実には存在しない女性性の象徴ですよね。無垢であり,献身であり,愛情であり,一途であり,利他であり,無邪気であって,世俗なるものとは一線も二線も画している。
 したがって,それはとてもはかなくて壊れやすいもので,世俗でまっとうされることはない。
 そういうことが,けっこう切なく迫ってくるんだよなぁ。

● 劇は,身を削って力尽きた「つう」がヨタヨタと飛び去っていくのを,残された「与ひょう」たちが見送るところで感動的に終わる。
 だけど,たぶん,このあと「与ひょう」たちは都に出かけて,「つう」が形見に残した布まで売ってお金に換えるに決まっているわけでね。
 頼むからそれはやってくれるなよ。観客も会場にその思いを残してくるんだと思う。

● これはいうなら,壮大な遊び。これだけの遊びを作るにはべらぼうなお金がかかっているはずだ。「芸術」はすなわち贅沢極まる遊びですな。
 そうして,人が生きていくのに遊びは欠かせないものだから,何が何でも人はこうした遊びの創作に向かっていく。
 「つう」の無垢や献身に心を洗ってもらうのって,快感だからね。洗ってもらえたと思うのも錯覚に違いないんだけど,その錯覚は求めたくなるものだよね。

● このオペラのCDはぼくの手元にもある。上演600回記念公演を録音したもの。鮫島有美子さんが「つう」を演じてるやつね。
 で,それも聴いてみたんだけど,当然ながら,舞台で味わえたリアルさは届いてきませんね。そのリアルさを9,000円で買うのだとすると,9,000円は安かったと思いますねぇ。

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