東京文化会館 大ホール
● 4年連続で4回目の拝聴。同じ日に同じ会場の小ホールで,ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲の演奏会もあって,今年はこちらにしようかとも思った。
ベートーヴェンって交響曲だけじゃないし。交響曲はけっこう聴く機会があるし。弦楽四重奏曲を聴いてきたんですよと言う方が通っぽいような気がするし。
● が,やはりこの魅力に抗しきれずという次第。それと,下世話ながら,内容に比してチケットが安い。これも誘因になった。
開演は午後1時。指揮は小林研一郎さん。オーケストラは全国選抜の「岩城宏之メモリアル・オーケストラ」。コンマスはN響の篠崎史紀さんで,指揮者とコンマスはこの4年間は不動(それ以前のことは知らない)。
● 過去3回はいずれもC席で聴いた。昨年は文化会館で購入したので,正規の5,000円。ただし,安いD席(2,000円)とC席はすぐに売れてしまうらしく,このとき買えたのは4階左翼席の2列目だった。これは正直,かなり辛い席で,同じC席でも1列目とは天地の差になる。
一昨年はその1列目をヤフオクで購入していた。落札価格は8,000円とか9,000円とか,場合によっては10,000円になってしまうんだけど,それでも1列目が取れるんだったら,その方がいいかなと思って,今年は最初からヤフオク狙い。
● ところが,その1列目の出品に10,000円で応札しても,落札できなくてね。また出てくるのかもしれないけれども,時間も迫っているしというわけで,もう何でもいいやと思って。
で,オークション終了30分前の時点でA席が11,500円のオファーがあった。これに,正規料金の15,000円で応札。結局,その値段で落札できてね。
S席とA席は,その時点でまだ正規チケットも残っていたけど,まずは良しとしなければならないよね。
● というわけで,今回は初めてA席で鑑賞することになりましたよ,と。1階の左翼席だった。
で,どうだったかというと,4階席とは届く情報量がまるで違うんでした。
まず,小林さんの指揮ぶりが見える。4階席の奥の方から見ると,彼の左手が風に吹かれてブラブラしているように見えた。1階で見ると,意思が通っているという当然のことがわかる。
奏者の表情もわかる。それがどうしたと問われれば,存在が身近に感じられるぞと答えておけばいいだろう。
● 1番からさすがはプロの集中力。といっても,ストイックな集中ではない。たぶん,奏者にとってもこの催しはお祭りなのだと思う。ゆえに,肩の力が抜けているというか,リラックスしているというか。そのうえでの集中。
とはいえ,後半になると指揮者も奏者も入れ込む度合いが高くなる。お祭りじゃなくなる。そうなればなったで,別の凄みが出てくるわけだけれども,そうなる前の3番が今回の白眉だったと言ってみたい。5番でも7番でもなく,3番(あと,4番も)。
● どういう日本語をあてはめればいいか。ケレン味がないというか。起伏の多いこの曲を平明に表現したといいますかね。
力みがない。こちらの感度さえ良ければ,まっすぐに直截に受け取れるはずの演奏だと思えた。
ぼくがそのように受け取れたかとうかは,したがって別の問題。
● しかし,入れ込んだ後も聴きごたえがあったのは言うまでもない。7番の第4楽章の音のうねり,跳躍。呆然としながら聴いていた。
いや,呆然とするしかないでしょ。これ聴いて,呆然としなかった人って,客席の中にいたのか?
● 8番もその勢いで,最後は「第九」。
ソリストは森麻季さん(ソプラノ),山下牧子さん(アルト),錦織健さん(テノール),青戸知さん(バリトン)。合唱は武蔵野合唱団。この布陣も昨年と同じ。
よく鍛えられた合唱団。男声をこれだけ集められるってところに,ぼくなんぞは都会を感じてしまうんだけどね。
ソリストについては名前だけでひれ伏す感じ。
● けれども,肝はやはり管弦楽だ。疲れていないはずはない。疲労困憊だったと思うんだけど,寸毫も集中を切らさない。
っていうか,「第九」が始まる前の休憩時間にも練習している音が聞こえてくるわけですよ(確認作業だったんでしょうね)。なんなんだ,こいつら,っていうね。
じつに使い減りがしないというか。いや,プロとはこういうものかと思いましたよ。
● どのパートがどうのこうのという世界じゃないけれども,ぼくにはオーボエの音色が染みた。
しみじみと染みてきた。あぁ,オーボエっていいなぁ,っていう。
● 指揮者もしかり。70歳をこえてこれだけ身体が動いちゃうんだからね。
しかも,大晦日の午後1時から始まって,終演は年明けという長丁場。途中,休憩はもちろんあるものの,とんでもない運動量だし,それ以上に根をつめなきゃいけない作業なわけで。凡人にとっちゃ,それだけで驚異。
でも,若手の指揮者にしたら困るでしょうね。これだけ頑張られちゃ,自分に席が回ってこないよ,と。サラリーマンなら,60歳になればいやおうなしに退場させられるけれども,この世界にそれはない。
● コンマスの篠崎さんの存在感も印象的。オーケストラを完全掌握。「まろ」というのは,言い得て妙でありますな。
● ステージは素晴らしい。が,客席はどうかというと,ごく普通だ。
下品きわまるブラボー屋がいるし,演奏中にプログラム冊子を読んでいる鶏頭もいる。このあたりは宇都宮で地元のアマオケの演奏会を聴いているのと,雰囲気は何も変わらない。
ただし,子どもはいない。大人だけだ。演奏時間帯からして子どもがいちゃまずいんだけど,子どもがいないってのは,かなりの快感だ。
● 会場はずっと東京文化会館。ここ,席が狭いのが難。左右も前後もかなり手狭。その分,収容人員を多くしていると思われる。約2,300人を容れることができる。
主催者とすれば,それを満席にしないと催行は覚束ないのだろう。席が狭いことくらい,我慢しないとしょうがない。
● 年末の「第九」は日本の風物詩かと思っていたんだけど,最近では外国でも見られるようになりつつあるらしい。
けれども,ベートーヴェンの交響曲の全曲を1日で演奏するなんてのは,たぶん,日本だけでしょ。しかも,この水準ですからね。
したがってこのコンサートはよく知られている(と思われる)。遠くから飛行機や新幹線を使ってわざわざ聴きに来ている人もいるようだ。
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