東京文化会館 大ホール
● この壮大かつ破天荒なイベントを4年連続で聴きに行っている。今年はどうするか。じつのところ,気がすんだ感もある。
同じ日に同じ会場の小ホールではベートーヴェンの弦楽四重奏曲の演奏会が,これまた毎年行われている。さすがに16曲を一気に演奏するわけではないけれども,連続2回ですべてを聴くことはできるはずだ。
● ぼく的には弦楽四重奏曲ってハードルが高い感があって,そろそろそっちに動いて,“ハードル高い感”を払拭しておかないといけないなと思ったりもして。どっしようかなあ,と。
結局,決められないまま12月を迎えた。
● 席はS・A・B・C・Dとあって,S席が2万円。あとは5千円きざみ。C席が5千円となる。D席は2千円。
過去4回のうち,3回はヤフオクでチケットを入手している。今回も否応もなくヤフオクに頼った。C席を1万円でゲット。ヤフオクを通すとだいたい,こんなものになる。
C席は4階の左右両翼席がメインになるようなのだけど,1列目と2列目では天地の差になる。たとえ倍払ってもいいから,1列目に座りたい。ヤフオクにその出物があれば,倍額覚悟で取りにいく。
● えっ,だったら,正規にB席を取った方がいいんじゃないですか,って。そりゃそうだ。「チケットぴあ」でも扱っているんだから,発売開始日にパソコンかスマホにはりついて,正規料金でCの1列目を狙えばもっといいのだと思う。
ま,今回は最後まで迷っちゃったもんだから。
● でね,会場に着いてしまえば,何で迷っていたんだろう,来る一手だったじゃないかと思うんですよね。大晦日の午後から深夜まで,これ以上はないと思える豪華メンバーの演奏で,ベートーヴェンの交響曲を1番から9番まで聴けるのだ。
日本を代表する音楽ホールのひとつであろう東京文化会館にしても,今日ほどの華やぎを見せるのは,年に何度もないのではないかと思われる。その華やぎの中に自分を滑りこませる快感っていうのも,たしかにある。
● ともあれ。結局,5年連続5回目の拝聴とあいなったわけね。開演は午後1時。陣容は,ぼくが聴き始めた2011年からまったく不動。
指揮は小林研一郎さん。管弦楽は「岩城宏之メモリアル・オーケストラ」で,コンマスはN響の篠崎史紀さん。奏者の入替えはあるのだろうけど。
● C席とはいえ,1列目だから視野をさえぎるものがない。邪魔な他人の頭もない。ステージからの距離は少々あるけれども,S席の最もしょぼい席よりはこっちのほうがいいんじゃないかなぁと思う。
たしかなことはわからないけどね。S席なんて座ったことがないんだから。
今まではずっと左翼席だったんですよ。それが今回は初めての右翼席。コンマスの篠崎さんをはじめ,ヴァイオリン奏者が正面に見えることになる。この光景も新鮮だった。
● こんなブログを書いていると,演奏や指揮についてああだったこうだったと,まぁ,あれこれ書かなくちゃと思うものだから,それ前提で聴いてしまうことになる。
で,今回はそんなことを書くのはやめようと思った。これほどの演奏について素人が小賢しいことを書いても仕方がない。
ただ聴こう,心をむなしくしてたんに聴こう。そう思った。
● 1番の第1楽章。ヴァイオリンが正面に見えることの効果。弓を扱う腕の動きのきれいさ,敏捷さがストンと伝わってくる。
さらに,気持ちの乗せ方,あるいは自分の解釈の表現の仕方といったもの。
まぁね,ここまで言ってしまうと,それは君の勘違いか思いこみだよ,と自分で突っこみたくもなるんだけどね。
● 第3楽章に入ったところで,1万円の元は取れた感じがした。このあと,1番の第4楽章から先は,そっくりぼくの利潤になる。
2番の第1楽章を聴いているとき,ぼくの左目からツーッと涙が流れたのがわかった(右目からは流れなかったな)。どう処理していいのか,ぼくの脳が対応できないとき,こういう身体反応が出るんだと思う。
でもね,2番の第1楽章ですよ,どう考えても泣くところじゃないでしょ。自分の身体反応ながら,理解に苦しむところだ。ただし,こういうときって,身体反応が正しくて,理解なんてどうでもいいんだろうなとも思うんですよ。
● コンマスの篠崎さんの貫禄というか,ありゃあ凄いね。指揮者も彼を立てて,彼を通してオーケストラに対峙していこうとしているように見えた。
彼が入ってくるとき,先に待機しているメンバーはゴッドファーザーのテーマを奏でてもいいんじゃないですか。彼の所作とゴッドファーザーのテーマはピッタリはまって,客席は大いに沸くに違いない。
● でも,あれだ,このオケが常設だと仮定して,メンバーが篠崎コンマスの言うことを聞くだろうか。たぶん,聞きやしないね,このメンバーは。
チューニングのときの“音くれ”の合図や,終演後の“全員立て”の合図にはしたがうだろうけど,それを越える指示に対しては,無視をもって応えるんじゃないかな。
無視はしないか。反論するだろうね。言葉をもって言いたいことを言いそうな感じだな。
いやいや,もちろんわかりませんよ。わかりませんけど,そんな感じなんだな。
● 4番が終わったあとに,主催者の三枝さんが登壇。プログラム,2,000円するんだけどさ,面白いこと書いといたよ,役に立つと思うからさ,よかったら買ってよね,という口上。
今までは,この他に,奏者を呼んでインタビューしたりっていうのもあったんだけど,今回はそれだけにとどまった。
● あとは,小休止,中休止,大休止をはさみながら,淡々と進んでいく。1番から4番までが1部,5番と6番が2部,7番から9番までが3部,という感じ。
人によっては,9番を4部とする向きがあるかもしれないけど。
● 自分は今とんでもない演奏を聴いているのだぞ,と言い聞かせてみる。淡々と進むから,あるいはチケット代がかなり抑えられた価格だから,どうもありがた味が上昇してこないきらいがあるけれども,今聴いている演奏は凄いんだぞ,と。
指揮者もオケの演奏に付いていくように棒を振っていると思われるところもあったし。
● 最後は「第九」。「第九」の陣容も昨年と変わらず。合唱は武蔵野合唱団。ソリストは,森麻季(ソプラノ),山下牧子(アルト),錦織健(テノール),福島明也(バリトン)の諸氏。
唯一,バリトンの青戸知さんが体調が悪くなったらしく,福島明也さんがピンチヒッターに立った。
管弦楽も合唱団もソリストも,もう何も言うことがない。素晴らしいとはこういうことだ。
● 今回は年明けに10分ほど残して,年内の終演になった。
このあと,ロビーコンサートがある。ヨハン・シュトラウスのワルツをいくつか。
どんだけサービス精神に富んでいるんだか。っていうか,サービス精神だけではここまでやれないと思うので,やらせるだけのドーパミンが出ているはずだよな。
● じつはロビーコンサートまで聴いたのは,これが初めてだった。2016年の大都会の空気を吸いながら,大晦日の定宿になっているホテル(ただし,カプセルホテル)に向かった。
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