2016年8月9日火曜日

2016.08.07 栃木県立図書館 第156回県民ライブコンサート-浄められた夜

栃木県立図書館ホール

● 栃木県立図書館が年に数回開催しているミニコンサート。開演は午後2時で入場無料。入場無料だからといって侮ってはいけない。ときに,ほんとに無料でいいのかと思うようなのに遭遇する。
 っていうか,予めそうであろうものを選んで出かけていくってことなんだけどさ。

● 今回は三原明人さんがヴィオラ奏者として登場。何度か栃響を指揮しており,その際に栃響メンバーとプレコンサートをやった。それが機縁で今回の演奏会が実現したらしい。
 したがって,三原さん以外の出演者はいずれも栃響のメンバー。

● プログラムは次のとおり。
 三原明人 弦楽四重奏のためのファンタジー
 モーツァルト 弦楽五重奏曲第4番 ハ短調 K.406
 シェーンベルク 弦楽六重奏曲「淨夜」

● 「弦楽四重奏のためのファンタジー」は三原さん18歳の作品。3楽章の弦楽四重奏曲として構想されたようだけれど,間に藝大受験があり,結局,弦楽四重奏曲としては未完に終わった。
 三原さんは本業はたぶん指揮者なんだと思うんだけど,ヴィオラ奏者のほかに作曲家でもあったのか。

● クラシックの現代楽曲って,毎年,夥しい数,生産されているに違いない。おそらく,大半は初演されて終わり,なのだろう。
 三原さんのこの曲は,今回が3回目の演奏になるらしい。3回演奏されるっていうのはすごいことではないのか。
 残るのは至難だ。ポップスなら次々に入れ替わってくれるけれど,クラシックの場合は,バッハ以来のスタンダード・ナンバーのストックがある。そのストックをひととおり聴くだけでも,どうしてなかなか容易ではない。

● この曲は三原さんのほかに,小川宏子さん,山木一康さん(ヴァイオリン),菅間康夫さん(チェロ)の5人で演奏された。栃響の選りすぐりといっていいだろう(よくないのか)。
 モーツァルトでは木村俊明さん(ヴィオラ)が,シェーンベルクでは萱森康隆さん(チェロ)が加わった。

● 今回の曲目解説は三原さんの筆によるものだろうと思うのだが,その曲目解説によれば,シェーンベルクの「淨夜」は「歌手のいない無声オペラを見ているかのように劇的な音楽」であり,「食べられなくなる一歩手前の洋梨のように甘酸っぱい魅力たっぷりの作品である」。
 “食べられなくなる一歩手前”が一番旨い。洋梨に限るまい。肉なんか典型的にそうだ。新鮮が一番などと言っているのは幼児の味覚である。

● 無声オペラのようだという前提は,デーメルの詩の内容を承知していることが最低限の前提になる。その詩の日本語訳も載せてくれている。演奏前にこれは読んでおかねばなるまい。
 けれども,そのようにしてもなお,ぼくの耳では曲目解説のように捉えることは難しかった。この曲目解説で説かれているのは,いわば定説であって,異議を申したてる部分は皆無だ。にもかかわらず,この解説がピンと来ないというのは,要は聴きこみが足りないのか,ほかのことを考えながらボーッと聴いていたのか。

● また,三原さんによれば,「アマチュアの演奏家がこの作品に取り組むのは滅多にない,おそらく前代未聞の快挙ではないか」とのこと。
 三原さん自身,「淨夜」を演奏することが念願だったのに,今まで実現できずにいたそうだ。高名な楽曲だけれども,生で聴ける機会はそんなに多くはないようだ。

● 県立図書館のホールのいいところは,狭いこととステージとの段差が低いことだ。普通のホールでは,小ホールであっても,ステージと客席との間には壁ができる。見えない壁がどうしてもできてしまう。壁を挟んで,奏者と聴衆が対峙する形になりがちだ。
 が,これくらいのホールだと,それがない。一体感が強まる。物理的な広さや構造が奏者(演者)と聴衆の関係性を決める要因になるのは誰でも了解することだけれども,普通に了解されているよりも,じつは大きい決定力を持っているかもしれない。

● 両側面が大谷石でできている。大谷石は建築資材に向いているとされる。切削技術が今ほどでなかった昔は,大谷石は柔らかいから扱いやすかったのだろうな。
 音楽の演奏に向いているのかどうか,ぼくにはわからない。大谷石ってスカスカだから,音を吸いこむのじゃないかと思うんだけど。
 けれども,たとえそうであっても,音響に関してはまったく気にならない。この広さなら直接音で充分すぎるということか。あるいは,大谷石は音響面でも有効な素材なんだろうか。

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