2019年11月13日水曜日

2019.11.08 ザ・メトロポリタンミュージック 創立六周年記念演奏会

宇都宮市文化会館 小ホール

● “ザ・メトロポリタンミュージック”の演奏会を聴くのはこれが2回目。2年前に一度聴いている。このときは,玉川克(チェロ),佐久間聡一(ヴァイオリン),桑生美千佳(ピアノ)のピアノ・トリオだった。
 そのときも今回も,財団の理事だという人の挨拶があったのだが,可能ならばこういうものはない方がよい。単純に邪魔だからだ。財団の都合もあろうから,あくまで可能ならという留保を付けておくが。

● 3日に同じ宇都宮市文化会館で行われた「ブラームスはお好き?」の演奏会で,このチラシを見て開催を知った。即,チケット(3,000円)を購入した。
 文化会館のサイトに行けば載っているはずなのだが,どうもそうした情報収集に熱心ではなく,見過ごしてしまうことが多い。自戒しておく。たぶん効果はないだろうが。
 開演は18時30分。終演は21時近かった。宇都宮で平日の夜の開催だ。お客さんの入りはこんなものかと思えるもの。

● 今回は2部構成。まずプログラムを書き写しておく。
 渡邊響子(ヴァイオリン)
  モーツァルト ハフナー・セレナードよりロンド
  サラサーテ ツィゴイネルワイゼン
 市橋杏子(ピアノ)
  リスト メフィストワルツ第1番 村の居酒屋での踊り
 相田しずか(チェロ)
  ドヴォルザーク 森の静けさ
  シューマン アダージョとアレグロ
 渡邊響子 市橋杏子 相田しずか
  メンデルスゾーン ピアノ三重奏曲第1番(第1楽章のみ)

 林峰男 宮地晴彦 玉川克 三森未來子
  レモ・ジャゾット(アルビノーニ) アダージョ
  カサド(フレスコバルディ) トッカータ
  パッヘルベル カノン
  ポッパー 演奏会用ポロネーズ
  チャイコフスキー 舟歌
  バッハ シャコンヌ

● 最も印象に残ったのは最後のバッハ「シャコンヌ」。5mくらい後方に吹っ飛ばされた気分。チェロ4本による「シャコンヌ」の破壊力たるや。抑制の効いた破壊力というかな。
 無伴奏ヴァイオリン曲。しかし,この曲の編曲版は数え切れないほどにある。ぼくが最も数多く聴いているのは,齋藤秀雄編の管弦楽版だ。下野竜也&読響のCD。
 何で聴いてもハズレはないと思うんだけど,チェロ4本だとこうなるということだなぁ。曲目解説によれば,ラースロー・ヴァルガによる編曲とのこと。と言われても,まったく知らない人だけどね。

● パッヘルベル「カノン」も。カノンってこういうことかというのがよくわかる。いやいや,それは聴く前からわかってろよ。
 単純に同じ旋律で異時間スタートというわけでもないんだよね。

● 渡邊響子さんの「ツィゴイネルワイゼン」は超絶技巧の嵐で,よくヴァイオリンを取り落とさないものだと思う。何もここまでにせんでもと,サラサーテに言いたい。が,聴いてる分にはすこぶる面白い。
 Wikipediaによれば,ツィゴイネルワイゼンとは「ジプシー(ロマ)の旋律という意味である」らしい。哀愁と言いたくなる色調があるのはそういうことかと安直に納得しておく。
 モンティ「チャルダッシュ」もそうだけれど,ジプシーが伝えてきた旋律というのは,何だか染みてくるよねぇ。日本人と相性がいいような気がする。何の根拠もなく言っているのだが。

● 市橋杏子さんはリスト「メフィストワルツ第1番」を演奏。といって,伴奏も務めていたわけなので,ずっと出ずっぱり。最後は肩で息をする状態だったのではないかと思う。最後のメンデルスゾーン「ピアノ三重奏曲」では客席から気を揉んだほどだが。
 聴いている分にはやはり「ツィゴイネルワイゼン」の伴奏が面白かったんですよね。と言われるのは本人には不本意かもしれないけれども,しようがないですね,ここはね。「ツィゴイネルワイゼン」の魅力なんですよね。

● 相田しずかさん。音大ではない普通の大学を卒業してOLをやっていた,と本人が語ってた。OLを辞めて,桐朋に入学し,今は桐朋の学生。
 音大に進むか一般大学にするか悩みに悩んで,結局,将来の生きやすさを考えて一般大学にしたのだろうと勝手に推測する。しかし,音楽への思い,やみがたく。

● となると,やはりあのとき,音大に進んでいればと思ってしまうのだろうか。ものごとにはそれをやるべき時季がある。その時季を逸してしまったという後悔。
 しかし。人生に無駄なことなどひとつもない,それもこれも必要だったから起きたのだ,という言われ方を信じていたい。なぜなら,根拠なくそれを信じてしまった方が得だからだ。過去は巻き戻せないのだから。

● 医師を辞めて音大に入り直した人もいるもんね。収入は激減することはわかっていたはずだが,それでもそちらに方向を向ける。他の職業を捨てさせてまで,彼女や彼を惹きつける魅力を発するのは芸術と呼ばれる分野に限られる。とりわけ音楽。
 何というのかなぁ,選ばれし者の栄光と悲惨というやつかな。音楽に翻弄される人生。選ばれなければそんな目に遭わないですんだのに。選ばれてしまったんだよなぁ。

● 相田さんの初々しい佇まいがとても新鮮なものに映った。トリオで演奏したときの渡邊さんのヴァイオリンを気にする仕草とか,客席に投げる視線の様とか。
 来年はもうこの初々しさは消えているのだろう。初々しさをいつまでも残しているようでは,ちょっと困る。というわけなので,ぼくらは貴重なものを見れたかもしれないんだよね。

● ところで,3人の演奏を聴きながら(観ながら),ショーガールという言葉が浮かんできた。彼女たちはアーティストに違いないのだ。パフォーマーでもある。
 しかし,ステージで演奏する以上,否応なく“受ける”ことを考えざるを得なくなるだろう。演奏以外の立居振舞の問題。
 その点でいうと,「林峰男と仲間たち」の三森未來子さんが他のメンバーと交わす愛嬌たっぷりのアイコンタクトは,ショーガールの模範と言うべし。

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