栃木県総合文化センター メインホール
● 今年,栃木県総合文化センターに来る海外オーケストラ3つの最後が,キエフ国立交響楽団。開演は18時30分。S席チケットを購入していた。5,000円。
● 主催者のホームページには,「大作曲家ショスターコーヴィチを驚嘆せしめたオーケストラの美しい響きをご堪能ください」とある。
S席を取ったくらいだから,当然,こちらの期待は高い。言われるまでもなく,「堪能」したい。しかし,この楽団の演奏はCDでも聴いたことがないし,ぼくにはまったくの未知数。あまり期待が過ぎて,聴いたあとにモヤモヤ感が残るのもイヤだしなと思ったり。
● S席で5,000円だから,国内のプロオケのチケットと金額は違わない。そう考えると,海外オケだからといって構えたり過剰に期待するのも変なものだけれども,どうしても期待しちゃうんですよね。
栃木県に住んでいると,海外オーケストラの演奏を聴ける機会ってそうはないからね(12月に小山市立文化センターでモスク・フィルハーモニー交響楽団の演奏会があるから,今年はぜんぶで4つか)。
● たとえ公営のホールであっても,コンサートに出かけるときは,それなりの格好で行くのが,演奏者に対する礼儀だと思う。思うんだけれども,ぼくはこの辺がまったくダメで,たいていは普段着で行く。
今日は平日だ,昼間は仕事をしてたんだろ,それならネクタイ着用で上着くらいは着てたんだろ,と言われるかもしれないのだが,ネクタイは1本だけ職場に置いて,通勤はノーネクタイで通している。上着もしかり。ブレザーを一着,職場のロッカーに入れてあるが,通勤は今の季節ならユニクロのフリースだ。なぜならその方が楽だから。要するに,お洒落マインドというものがない。ズボラといってもいいし,だらしがないといってもいい。
しかし,この日は頑張った。下はユニクロのチノパンだけれども,ネクタイをして上着を着ていった。ホールの品格を下げては申しわけないからな。
が,普段着で行っても,別段浮くこともなかったようだ。
● 平日の夜の演奏。ビジネスマンなら普通に仕事をしている時間だ。なかなか時間の都合がつかない人も多いと思う。
それだけが理由ではないだろうけれども,空席が目立った。1階の右翼席,左翼席と2階席はガラガラ。ぼくはそのガラガラの1階左翼席を取っていたので,ゆっくり聴くことができたんだけど,もうちょっと埋まって欲しかったかなぁ。
● 指揮者のヴォロディーミル・シレンコがにこやかに登場。さぁ,見せてもらうぞ,スラヴ魂。
曲目は次のとおり。
チャイコフスキー 幻想序曲「ロメオとジュリエット」
ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番 ハ短調
チャイコフスキー 交響曲第5番 ホ短調
● 「ロメオとジュリエット」は縦笛から始まる。
あれっ,普通じゃん。ありていにいえば,凡庸じゃん。
管で唯一の女性奏者だったフルート奏者のブロンドの髪と透きとおるような白い肌,けれども勝ち気そうな顔だちの方が印象に残ってしまった。勝ち気そうな顔って嫌いじゃないもので。
っていうか,そういう問題じゃないね。チケットはたかだか5,000円だ。ひと晩呑んだら,こんな金額じゃすまない。それを思えばこの演奏は金額だけの価値は充分にある。それを何度か自分に言い聞かせなければならなかった。
盛りあげ方は巧い。盛りあがるところはガーッと行く。でも,それだけ。疲れているのか。遊び半分で流しているのか。俺たちが本気だしたらこんなものじゃないんだぜ,というんだったらいいんだけれど。
● ラフマニノフのピアノ協奏曲に移っても印象は同じ。ステージと客席の間に薄い膜がかかっているような感じ。ひょっとすると,ぼくが勝手に作った膜なのかもしれないけど。
ピアノはウラジーミル・ミシュク。ガタイがあるので,彼が座るとピアノが小さく見えた。指も太い。その太い指が繊細に鍵盤上を行き来する。ぼくの席からはそれがよく見えた。
● 15分の休憩の後,チャイコフスキーの5番。この曲も木管から始まる。
あれっ,さっきと違うじゃん。違うぞ,さっきと。何でだ,どうしてだ。
ステージから伝わってくるオーラが違うっていいますか,曲にのめり込んでいる度合いが違うっていいますか,休憩前のと同じオーケストラとは思えなかった。
曲の持つ力がオーケストラをそうさせるのか。それはあるにしても,それだけでは腑に落ちない。この落差は何なのか。ぼくの耳がよほどおかしいのか。
● 終曲まで一気呵成。すごい集中力。息もつかせないほどにピーンと張りつめた演奏。「堪能」した。脱帽。
たぶん,同じように感じたのはぼくだけじゃない。客席の拍手がそれを表していた。前二回の拍手とは拍手の濃度が違っていたような気がする。曲の持つ力はある。拍手を呼びやすい曲って当然あるんだけれども,演奏が素晴らしかったことに客席が素直に反応した結果だと考えた方が得心がいく。
● アンコール曲もまた同じ。チャイコフスキーの「道化師のダンス」とミロスラフ・スコリクの「メロディ」を演奏してくれた。迫力充分。客席をガッと掴んで引きずりこむような感じ。
文句あるかと言われれば,まったく,一切何も,文句のない演奏。
● セカンドヴァイオリンの二列目の女性奏者二人がきれいだったなぁ。ひとりは典型的なスラヴ美人。もうひとりは中南米から来たと思われる精悍な感じの乙女。たぶん,ベネズエラかなぁ。それがウクライナの楽団に入って,日本に演奏に来る。世界をまたにかけて活躍。格好いい。
そんなことにも前半では気づかなかった。いい演奏を聴けて目の保養もできて,いやいや5,000円は安かった。
ただし,ひとつだけコンマスに苦言を呈したい。ステージに立つときは,もっと長いソックスをはきなさい。脛毛は見たくないからね。
● プログラムに今回の来日公演のスケジュールが載っている。10,11日は千葉,13日は仙台,14日が栃木で15日が東京(武蔵野市),16日が再び千葉,17日が東京(オペラシティ),18日が大阪。こんなものなんだろうな,たいてい。でも,時差もあれば長旅の疲れもあるもんな。
もっと大変だと思うのは,プロモーターの光藍社。今回の来日コンサートのチケットは3,000~7,500円。栃木は5,000円だけれど,これだけでやれるはずはないと思うので,おそらく主催者の「とちぎ未来づくり財団」もお金を出しているに違いない。そうであっても,はたしてプロモーターの儲けがどの程度出るものなのか。
ま,事情を知らない素人の推測だ。ひょっとすると,それなりに旨味があるのかもしれないけれど,プロモーターがポシャってしまっては,催行じたいが叶わなくなる。
かといって,そんなにお金は出せないんだけどさ。
同感です。
返信削除前半の演奏を聴いて、どうしちゃったの?と思いました。後半は一転素晴らしい出来。ボクの耳がおかしいのかと思いましたが、そうではなかったのですね。安心しました。
2列目の前の女性奏者カッコ良かったですね。これも同感。
いえいえ,私の方こそ安心しました。同じ意見の人がいてくれて。
削除自分の方がおかしいのじゃないかと思ってしまうんですよねぇ。
スロースターターなんですかね,外国のオケって。あるいは,メインの3曲目が勝負で,それまでは前座だと考えているのかなぁ。そんなこともないだろうと思うんですけどね。